世界に目を向けた原子力技術の研究開発を~小型モジュール炉(SMR)の可能性~

2015年5月14日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 服部 拓也

わが国の原子力発電は、東京電力㈱福島第一原子力発電所事故を踏まえた新規制基準への対応が進められているものの、全プラントが停止しているという状況が続いている。一方、世界に眼を向けると、エネルギーの安定供給と地球温暖化対策および経済性の観点から、建設中のプラントが76基、計画中が107基(2015年1月1日時点)と中国を中心に42ヶ国で原子力利用は拡大基調が続いている。また、福島第一事故以前から、より安全で、核拡散抵抗性が高く、廃棄物の処分が容易で、建設コストが安いなどの特徴を有する第4世代原子炉と呼ばれる原子炉の研究開発も国際協力の下で進められてきている。

(世界におけるSMRの推進)
そのような中、世界的にはSMR(Small Modular Reactor)と呼ばれる出力30万キロワット以下の小型原子炉の開発が注目を集めている。
米国では、エネルギー省(DOE)が官民折半によるSMR開発支援計画を2012年からスタートしており、今年3月に公表された低炭素技術開発の推進を求める大統領令において、原子力発電分野では唯一SMRの開発を推進する記述がある。また中国は、独自に開発した小型モジュール式PWRの安全性をIAEAの一般原子炉安全レビュー(GRSR)にかけると発表しており、韓国では自主開発のSMRであるSMART(System-integrated Modular Advanced Reactor)2基の建設・試運用と第3国への共同輸出を推進する覚書を本年3月にサウジアラビアと締結した。SMARTは、発電・海水淡水化装置の一体型PWRであり、発電と同時に4万トンの海水を淡水化でき、1基で10万人の都市に「電力と水」を供給できるとされる。またロシアでも原子力砕氷船に搭載された小型炉を転用し、僻地向けに中・小型の浮揚式熱電併給プラントの開発を積極的に進めている。

(SMRの特徴)
SMRは、そのほとんどを工場で組み上げることにより品質の向上と工期の短縮ができ、低コスト化が図れるとされている。また、最も重要な安全性の面でも、原子炉出力が小さいことから冷却機能喪失時に自然冷却による炉心冷却が可能なことに加え、重力による冷却水の注水など受動的機器の採用により安全性が強化されている。更に、いくつかのSMRにおいては燃料交換無しに数十年運転可能としており、核物質の取扱い・輸送を最小限にすることができることから、核セキュリティ・核不拡散の観点からも優れているという。
その他、出力が小さいことから大規模なインフラ整備が不要であり、需要規模の小さい地域や未開発地、寒冷地、僻地、離島などでの利用に適しており、エネルギー需要の増加に合わせてモジュールを追加することも可能とされている。更には高温の排熱を利用し水素製造も可能な設計を目指しているプラントもある。
また、SMRは出力が小さいことから初期投資額は小さいものの、スケールメリットの観点から発電コストは大型原子炉に比べると高くなるため、経済性においては不利な点は否めない。しかしながら、天然ガスや石油火力と比較すると十分競争力があるとされており、将来的に標準化・量産化により発電コストの低減も可能と期待されている。

(わが国の研究開発の方向性)
世界の原子力活用・研究開発は国際社会からの要請にも呼応しながら進められている状況であり、近年は軽水炉プラントの大規模化と並行してSMR開発が着実に進み、新規導入が始まろうとしているのが現実だ。SMRはエネファームや燃料電池自動車など水素社会の実現といった、他のエネルギー政策との共生・共存も考慮すると、世界的に更に需要のニーズが高まる可能性があるだろう。
わが国では第四次エネルギー基本計画において、SMRの一つと言える高温ガス炉が戦略的に取組むべき原子力関連の技術課題の一つとして挙げられており、既に産官学が連携した研究開発体制が整えられつつある。また日本原子力研究開発機構(JAEA)が独自に開発した高温工学試験研究炉(HTTR)の運転実績もある。
これまでは主に効率化の観点から軽水炉プラントの大規模化を志向し建設・運転、そして研究開発に力を入れてきたが、世界各国から高く評価される原子力技術を持つわが国には、国際貢献の観点から国際的な研究開発プロジェクトにも積極的に参加していく責務がある。国内だけでなく海外展開も視野に入れて「原子力発電の形態」についてフレキシブルに考え、幅広い技術の研究開発への取り組みが求められる。

(夢のあるチャレンジングな取組を)
わが国の原子力は欧米からの技術の導入に始まったが、建設・運転を通して技術を蓄積しながら産官学の協力により国産化を成し遂げ、世界トップレベルの技術力を築いてきた。しかし福島第一の事故以降、原子力を志す学生が減っている。学生たちに原子力が先行きの見えない産業だと映れば技術の発展はおろか既設炉の安全運転や廃炉、高レベル放射性廃棄物の処分問題といった課題の解決も困難となろう。高温ガス炉をはじめSMRという最先端の技術開発に、世界の研究者とともに取り組むという夢と希望のある研究開発プロジェクトを立ち上げることが若者を惹きつける魅力となる。原子力の将来を自分たちが切り拓いていくのだという強い意志を持つ彼らの力こそが日本のみならず世界の原子力の課題解決を実現すると考える。世界のニーズや趨勢を見失わず、人材育成という視点をも常に意識しながら、柔軟な姿勢で研究開発に取り組んでいくことを期待したい。

以上

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