40年運転制限問題にどのように向き合うか~事業者は国民に説明を尽くすべき~

2015年6月17日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 服部 拓也

はじめに
新規制基準では原子力発電所の運転期間を原則40年とし、40年以上の運転を計画しているプラントについて必要な審査を受けた上で、1回に限り最長20年の延長が認められている。しかし運転期間の延長は、極めて限られた期間内での申請・許可手続きとなるなど、現実的には非常に厳しいものとなっている。
原子力発電所の寿命とされる40年を超えて運転しても問題がないのか、また技術革新が目まぐるしく進む中、40年も前の設計思想の設備を使っていても安全を確保できるのかと、国民の多くが疑念を抱くのもやむを得ない。
ここでは、そもそも運転期間はどのように決まってきたのか、運転期間が長期に亘る場合に安全確保の観点から何に留意すれば良いのかなど、設備の保守管理の実態をふまえて考えてみたい。
 
○そもそも運転期間はどのように決まってきたのか
わが国の原子力発電の開発は海外からの技術導入により始まったが、1960年代半ばに米国から輸入された軽水炉技術は当時まだ十分な運転実績が蓄積されていなかった。そこで、契約上取り決められた技術仕様書に基づき、設置許可申請書に「この発電所は30~40年間運転する」と記載して申請した。
わが国では当時は運転期間についての規制はなく、記載された運転期間について直接的に審査されたことはないが、原子炉圧力容器の中性子照射脆化の程度を評価する際に、運転中に鋼材が受ける高速中性子の累積照射量を運転期間40年をベースに算定したことなどが審査の過程で引用された経緯がある。このように、当初は火力発電の運転経験などをベースに、適切に保守管理すれば30~40年は安全に運転できるとの工学的判断に立って決定されたものである。

○「運転期間」は寿命ではない
米国でも技術的には同じような考えであったと推察されるが、経済性と独占禁止の観点から40年という運転期間が設定され、当初から運転許可を得た時点から40年間を限度として運転できるとの規制制度があり、後に20年間の延長を認める基準が追加された。
なお、わが国では米国に倣い自主的に運転期間を40年としてきたが、フランスでは40年、韓国、ロシアでは30年と国によって考え方が異なっており、また運転期間について米国のように明確な規制基準もなかった。
ところで、運転期間について、しばしば「寿命」と言われ、あたかも運転期間を満了した時点で、プラントに突然、不安全な事象が発生するような印象を与えることがあるが、運転期間が決まった経緯を考えると、これは適切な表現ではない。実際、前述のように建設時の設計上の運転年数に違いはあるが、適切な保守管理を行うことで、運転年数を延長することが可能であるということは各国で共通の認識であり、既設炉を最大限有効活用することが現実的であるとの考えから、運転期間の延長が行われている。たとえば、米国では7割を超えるプラントが既に20年間(即ち、60年まで)の運転期間の延長の許可を取得し、更に20年間の延長する(即ち、80年まで)ことを検討している。

○運転中になされる健全性の確認
わが国では運転期間についての規制はないが、法律に基づく「定期検査」において、次の定期検査までの間(最長13ヶ月間)、安全に運転できることを確認してきた。ほぼ1年毎にプラントを停止し、設備の分解点検、消耗品の取り換えや経年劣化の度合いに応じて機器の交換を行っている。このような事業者が行う保安活動の適切さを定期的にチェックする仕組みとして、1992年より運転開始後10年毎に、内外の運転経験や安全に係る最新の知見を反映し、次の10年間安全に運転継続できることを確認する定期安全レビュー(PSR)を実施してきた。
加えて、PSRの一層の充実のため、1999年より運転開始後30年を超える前に、経年変化事象に係る分析評価(高経年化に関する技術評価(PLM))を行うとともに、10年程度の長期保全計画を策定し、評価を受けてきている。これは機器や構造物について運転・保守の実績データや国内外のトラブル情報、経年劣化に関する研究成果等を踏まえ技術的に長期健全性の評価を行い、更に今後10年間に実施すべき追加的な保全策を抽出するなど、長期の保全計画を策定するというものである。

○事故やトラブルの教訓を反映
これまで、世界の原子力発電所で経験した事故やトラブルから様々なことを学んだ。代表的な例として、1975年の米国ブラウンズフェリー1号の事故では火災対策、とりわけケーブル火災への対応を、1979年の米国スリーマイルアイランド2号機の事故では中央制御室での運転員の振る舞いと運転情報の表示の重要性を、1986年の旧ソ連チェルノブイリ事故では安全文化の大切さを、そして2011年の福島第一原子力発電所事故ではシビアアクシデント対策の必要性を学んだ。
これらに加え国内外の大小様々な事故・トラブル情報はデータベースで共有され、その都度、規制基準の改定や事業者による自主的な改良・改善がなされてきており、安全性の強化が図られてきている。この際、安全確保上不可欠な事項については、既設プラントへの反映が義務付けられ(いわゆるバックフィット)、必要な対策が講じられてきた。
またそれらの反映により、各プラントの現状がどの程度の安全レベルにあるかを比較評価する手段としては、確率論的リスク評価(PRA)があり、現在、事業者がその手法の確立に努めている過程にある。わが国におけるPRAの早期定着が待たれる。

○設備は適宜更新されている
定期検査時には通常の保守・点検に加え、国内外での事故・トラブル事象を反映した改良・改善工事が行われてきた。中でも、低圧蒸気タービンロータのの取替え、蒸気発生器や復水器、原子炉容器の上蓋、炉内シュラウドといった大型機器も、経年劣化の状況をふまえて計画的に取り換えが行われるなど、継続利用に必要なメンテナンスが行われている。また、機器の使用条件から劣化事象を分析評価し、劣化状況の監視とそのデータに基づいた点検周期や取り換え周期が長期保全計画として策定されている。
更に、情報処理技術の進歩を反映し、計測制御装置のディジタル化による信頼性の向上や監視の最適化も積極的に行われている。このように、最新の技術や知見が適宜反映されており、初期に建設されたプラントにおいては、建屋や原子炉容器、原子炉格納容器など取替えが困難な設備を除いてほとんどの機器が更新されており、プラントは建設当時の過去の技術のままではなく、時代の変化にあわせて進化していると言ってよい。これらの集大成が、国の積極的な支援の下、安全性や保守性・信頼性の向上、作業員の被ばくの低減、定期検査期間の短縮などを目的に、数次に亘り官民一体で取り組んだ「改良標準化プログラム」と言える。

○事業者は国民としっかり向き合うべき
事業者は40年を超えて運転延長の申請をするにあたり、単に規制側の方だけを向いて説明するのでなく、過去の事故・トラブルの反映状況、部品や機器の交換、新技術の導入などプラントの安全性向上のためこれまで取り組んできたことを国民にしっかりと説明することが安心につながるのではなかろうか。また、発電コストの比較や電力需給の観点など、どういった考えで運転延長を判断したのか、その根拠についても説明し、理解を求めるべきであろう。
法に則り粛々と手続きを済ますというのでなく、事業者が自ら積極的に情報を発信し、どのように40年問題と向き合っているのか、その姿勢を国民に見てもらい、評価してもらうことで理解が得られるのではないか。きちんと国民に対して、事業者としての責任を果たすことが求められている。

以上

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