グローバルに活躍できる原子力若手技術者・研究者の育成に向けて

2016年5月16日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 高橋 明男

 近年、世界では地球温暖化問題への対応とエネルギーの安定供給の観点から原子力発電を積極的に導入しようとする国々が増加している。原子力先進国として高い技術を有する日本には福島第一原子力発電所の事故後も変わらずに原子力新規導入国からの技術協力、またそれに伴う原子力人材育成の協力に関して大きな期待が寄せられている。
 わが国はこれらの期待に応えるとともに、国内の原子力産業の維持・発展のためにも国際的な視野を持ち国内外の原子力プロジェクトを牽引できる若手リーダーの育成に計画的に取り組む必要がある。当協会が共同事務局を務める「原子力人材育成ネットワーク」では産官学の関係機関が相互に協力し、一体となって国内外の原子力人材育成活動・事業等を進めているところである。
 ここでは、当協会が上記ネットワークとともに取り組んでいるグローバルな人材の育成に向けた2つの活動を紹介する。

① Japan-IAEA Joint 原子力エネルギーマネジメントスクールの日本開催
東京大学原子力専攻、日本原子力研究開発機構(JAEA)、原子力国際協力センター(JICC)とともに、将来原子力エネルギー計画を策定・管理するリーダーとなる国内外の若手人材育成を目的とした原子力エネルギーマネジメントスクールを日本で開催している。
国際原子力機関(IAEA)との共催による本スクールの日本開催は今年度で5回目を迎え、今年は若狭湾エネルギー研究センターの協力を得て東京と福井で実施する。原子力人材育成ネットワークに参加する関係機関からの講師派遣や施設見学などの協力により充実した3週間のプログラムが構築されており、国際的な人的ネットワーク構築の場としても有効に活用されている。

② 世界原子力大学・夏季研修(WNU-SI)への日本人参加支援
グローバル化する21世紀の原子力をリードする次世代の指導者育成を目指して、「世界原子力大学(*1)・夏季研修(WNU-SI)(*2)」が毎年開催されている。WNU-SIでは英語による6週間の研修により、原子力に関連する幅広い課題を認識し世界各国の受講者との議論を通じて課題解決に取り組むことでグローバルな視野を得ることができる。当協会では国内外で活躍できる若手リーダーの育成を目指した「向坊隆(*3)記念国際人育成事業」にて原子力に携わる日本の若手技術者、研究者および大学関係者のWNU-SIへの参加支援を2008年度より実施しており、これまでに27名の派遣を支援してきている。
先月開催したこれまでのWNU-SI参加者の会合では研修後に海外の規制・基準の対応業務や海外駐在に当たる機会を与えられ、リーダシップを発揮しグローバル化する業務の中で中核的な存在として活躍しているという報告があった。

 こうした国際的な研修を積極的に活用することがグローバル化を見据えた人材育成の一助になることは言うまでもなく、原子力に関わる多くの若手技術者や研究者にはこれらの研修へ意欲的に参加して欲しい。また、研修は長期間にわたることになるが関係機関にはこれら国際研修の意義についてご理解頂き、若手の積極的な派遣をお願いしたい。

 当協会は関係機関の理解が得られるよう、これらの研修の意義や成果を周知するとともに、幅広く参加を呼びかけ引き続き世界のリーダーとして活躍できる人材の育成に貢献して参りたい。

*1 世界原子力大学:世界原子力協会(WNA)、世界原子力発電事業者協会(WANO)、IAEAなどが中核になり、2003年に設立された原子力の平和利用のための国際的な教育枠組。

*2 夏季研修:原子力未導入国を含む30数カ国から約70名の30歳前後の実務経験者(行政官、技術者、研究者等)が集まり、原子力に関連する国際機関や各国の現役リーダーから直接課題を聞き、少人数での議論を経て、自らの結論を皆の前でプレゼンテーションする合宿形式の約6週間の有料研修である。知識修得の場ではなく、課題解決能力と、同世代間のネットワーク構築が目的。各国行政官、各企業の次期リーダーの育成として有効な研修である。全て英語で2005年度より実施されている。

*3 向坊隆:初代の在米科学担当書記官として、日米原子力協力協定のまとめ役となった他、第21代の東大総長、原子力委員会委員長代理、日本原子力産業会議(現:日本原子力産業協会)会長を歴任し、わが国の原子力における指導的役割を果たすとともに、国内外の若者の育成に尽力した。

以 上

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