原子炉を使った教育・研究の安定的な運用に向けて

2017年4月10日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 高橋 明男

(経験を活かして審査の効率化を)
 4月12日に近畿大学原子炉において、運転再開後初となる学生を対象とした原子炉運転実習が再開される。同炉は、新規制基準への適合性審査等のため2014年2月から約3年間停止し、3月17日の使用前検査合格をもってようやく運転可能になった。報道等によれば安全対策のための費用は約1億円にも上ったとのことだ。わが国において大学が所有する試験研究炉は、廃止措置中のものを除けば京都大学の2基(研究炉及び臨界実験装置)と近畿大学の1基のみとなっており、貴重な存在である近畿大学原子炉の利用再開は大変喜ばしい。
 試験研究炉の運転再開は今回の近畿大学炉が初めてだが、現在停止中のものも早期に利用できるよう、関係機関は審査プロセスを振り返り、今後の効率的な審査対応に向けて備えていただきたい。

(試験研究炉は人材育成に不可欠)
 原子力発電には発電所の運転だけでなく、安全性向上のための技術開発、運転を終えた原子炉や福島第一原子力発電所の廃止措置、放射性廃棄物の処理・処分など様々な分野において原子力の専門知識を持った人材が必要とされる。そのような人材の育成には、放射線を扱う緊張感や原子力法規制の適用などを、実際に試験研究炉を使いながら臨場感を持って体験できる実学教育が欠かせない。
 試験研究炉はその他にも、海外技術者等の原子炉実習や、原子力以外の分野における放射線を利用した研究等に加え、一般の方々の原子力に対する理解促進のためにも使われている。例えば近畿大学では全国の小・中・高等学校教員の原子炉研修会や、高校生の見学会等も実施されており、特に教員を対象とした研修は、教員の実体験を通して大勢の児童・生徒に原子力への理解が広がることも期待できる。

(安定的な運用に向けた対策を)
 このように試験研究炉はわが国にとって欠かせない存在であるが、多くの炉は設置から長い年月が経過しているため、年々高まる原子力施設への安全面やセキュリティ面の要求に対処するためには多大な労力や費用が必要となる。運営者には限られた資源の中で長期にわたり安定的に施設を利用できるよう適切な維持管理をお願いしたい。
 しかし、費用負担が運営者にとって過度なものとなるようであれば、安定的な運営に向けて何らかの措置を講じていく必要があるだろう。当協会が共同事務局を務める産学官連携のための「原子力人材育成ネットワーク」では、原子力人材育成ロードマップの中で戦略的に取組むべき重要事項として「研究炉等の大型教育・研究施設の維持」を提言している。また、こうした提言等を受けて文部科学省の原子力人材育成作業部会では「中長期的に必要とされる研究・教育基盤に関する戦略」が議論されている。産学官が協力し、国を挙げてこのような課題に取り組みながら実際の施策に移していくことが重要だ。
 当協会は試験研究炉を使った教育・研究が今後も安定的に実施できるような環境の整備に向けて、引き続き試験研究炉の重要性について関係者を始め広く国民の理解を求めて参る所存である。

以 上

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