パンデミックとエネルギー安全保障

2020年7月28日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 高橋 明男

 新型コロナウイルスの感染拡大は予断を許さない状況が続いています。亡くなられた方々にお悔やみを申し上げるとともに、罹患された方々の一刻も早い回復をお祈りいたします。また、厳しい医療現場において命を守る仕事に従事されている方々、並びに行政当局、ライフライン・物流・ネットワーク等々の維持にご尽力されている皆様方に心より感謝を申し上げます。

 感染が拡大する中、病院では医療器具の不足が生じ、市場からもマスクをはじめ生活関連品の一部が姿を消した。このような世界的なパンデミックから見えてきたことは我が国の海外依存の大きさであり、国の安全保障への不安である。生活の基盤を支える食料自給率はカロリーベースで37%、一次エネルギー自給率に至っては11.8%(いずれも2018年度)と極めて低い状態にあり、危機感を持たずにはいられない。

 我が国の一次エネルギー自給率の低さは石油、石炭、液化天然ガス(LNG)といった化石燃料をほぼ全て海外からの輸入に依存していることに起因する。さらに、石炭火力は一週間程度、LNG火力に至っては2週間程度の発電に供給する量しか備蓄できない。これに対し、準国産エネルギーである原子力発電は原子燃料を一度原子炉の中に入れると1年以上は燃料を補給することなく発電することが可能であり、備蓄も容易である。例えば、100万kW(キロワット)のLNG火力発電所を一年間運転するために必要な燃料は95万トンとなる。これは7万トンのLNG運搬船で14回の受け入れを必要とするが、原子炉であればわずか1回21トンの原子燃料を入れ替えれば同量の発電が可能である。これらの特長が示すように原子力発電は我が国のエネルギー安全保障を支える上で、重要な役割を果たすものである。

 しかし、東日本震災以降、再稼働した原子力発電プラントは9基に留まっている。また、2020年代中頃から2030年代中頃にかけて多くのプラントが新規制基準で定められた運転期間の40年を迎えることになる。エネルギー安全保障面だけでなく経済性や環境対策の観点からも、再稼働および新規制基準に基づく20年の運転期間延長を進める必要がある。国際エネルギー機関(IEA)も昨年5月に発表した「クリーンエネルギーシステムにおける原子力発電」の中で、「既存原子力プラントの運転期間の延長は新規建設よりかなり安く一般的に新規の風力や太陽光プロジェクトを含むその他の発電技術と比べてもコスト競争力がある」と述べている。

 今年も集中豪雨が各地を襲い、甚大な被害をもたらした。こうした大雨は地球温暖化が影響していると言われている。この温暖化を抑制するために世界各国は二酸化炭素の排出削減に取り組んでいるが、原子力発電は再生可能エネルギーと同様に二酸化炭素を排出しない。

 原子力発電は大量の電気を安定的に長期間継続して供給することが可能で、燃料の備蓄性にも優れていることから、我が国の強靭なエネルギーシステムの構築には欠かせない発電方式であり、二酸化炭素を排出しないため地球温暖化の抑制にも貢献する。原子力発電所の再稼働はもとより、原子炉の運転期間の延長、さらには将来を見据えた新増設やリプレースを着実に進めていかなければならない。当協会は関係機関と連携・協力して、国民の皆様方に原子力発電の価値についてご理解を深めていただけるよう努めて参りたい。

以 上

印刷ページはこちら。

お問い合わせ先:企画部 TEL:03-6256-9316(直通)