NEA・EPRI「2025年版 発電コスト」発刊
原子力新設費用 NOAK段階で大幅低減
経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)と米国電力研究所(EPRI)は9月17日、21か国・23技術の発電コストについて、均等化発電コスト(LCOE: levelised cost of electricity)という共通の指標を用いて比較・分析した「2025年版 発電コスト」(The Costs of Generating Electricity 2025)を共同で刊行しました。 データセンターの拡大や輸送・産業分野の電化による電力需要の増加、地政学的な影響による化石燃料価格の変動、各国の炭素排出削減の目標を背景に、新規電源の低炭素化と多様化が進んでいます。 一方で、多くの国で、特に脱炭素電源のLCOEは1MWh当たり100ドル(1kWh当たり10セント)以上の水準にあり、これを下回る電源は限られます。
報告書は原子力について、当面の建設案件と、設計の標準化やシリーズ建設による習熟効果が十分に進んだ段階(NOAK)の案件に分けて費用を示し、NOAK段階では100ドルを下回り得るとしています。 ただし、LCOEは発電所単位の費用であり、送電網への接続費用など、電源を電力システムに組み込むために生じるシステム・コストは含みません。
EPRIのデータを基に21か国・23技術を比較
報告書は、NEAが1983年から刊行してきた発電費用シリーズの10冊目で、今回はEPRIとの共同刊行です。 従来は各国が白紙の調査票に自国の数値を記入していましたが、今回はEPRIの費用データベースに国別の調整係数を掛けた数値をあらかじめ記入した調査票を配り、各国がそれを確認・修正する形に調査方法を改めました。 これにより、21か国・309データ点という、本シリーズでこれまでにない規模のデータが収録されました。
比較可能性を確保するため、割引率などの計算条件を共通化する一方、国・地域ごとの違いも一部反映しています。実質割引率は5%とし、前回の2020年版で採用した3%、7%、10%の3通りから変更されました。CO₂価格は1トン当たり50ドルという想定です。原子力、石炭火力、ガス複合サイクル(CCGT: combined cycle gas turbine)、地熱の設備利用率はベースロード運転を想定し85%に統一し、風力・太陽光と貯水式水力の設備利用率、化石燃料の燃料費は国・地域別の値を用いています。想定運転年数は、大型原子力発電所と水力が60年、小型モジュール炉(SMR: small modular reactor)と石炭火力が40年、ガス火力、風力、太陽光が30年と設定されています。
技術別にみた発電コストの比較 既設炉の長期運転が最も低コスト
かつて特殊な選択肢とみられていた蓄電池、地熱、バイオマス、CO₂の回収・利用・貯留(CCUS: carbon capture, utilisation and storage)を備えた火力、水素を燃料とするガスタービンが、多くの国で関心を集めるようになりました。
技術別のLCOEの中央値をみると、最も低コストなのは既設の原子力発電所の長期運転(1MWh当たり44ドル)で、陸上風力(59ドル)、太陽光(67ドル)、揚水式水力(77ドル)、NOAK段階の大型炉(81ドル)、貯水式水力(84ドル)が続きます。100ドル前後の費用水準には、太陽光と蓄電池の組み合わせ(94ドル)、CCGT(98ドル)、地熱(105ドル)、洋上風力(115ドル)が並びます。当面の建設案件の大型炉(141ドル)とSMR(146ドル)は、石炭火力(130ドル)やバイオマス(135ドル)と同じ水準で、その上にCCUS付きの石炭火力(171ドル)が続きます。高コストなのは、需要ピーク時などに稼働する調整用の電源です。なかでも水素を燃料とする単純サイクルガスタービンは406ドルに達します。
出典:OECD/NEA・EPRI『The Costs of Generating Electricity 2025』図1.1
報告書によれば、多くの国で、低炭素電源の費用は100ドル/MWh以上となっています。これを下回るのは、初期投資費用の償却を終えた既設炉の長期運転、水力、陸上風力、太陽光に限られます。ただし、水力は発電に適した場所を確保できることが前提です。陸上風力と太陽光の値には、出力変動に対応するための費用を含めていません。CO₂の回収・利用・貯留(CCUS)を備えない火力の費用は、CO₂価格によって変動します。
陸上風力と太陽光は、発電所単位では引き続き魅力的な水準にあります。ただし、これまでの報告書と比べて、さらなる費用の低下は確認されませんでした。また、風力や太陽光の発電が限られた時間帯に集中するため、発電事業者が受け取る価格は下がります。電力システム全体では、出力を調整できる設備を多く確保しておく必要があります。稼働時間の短い設備も維持する必要があり、これが電力供給全体の費用を押し上げます。
洋上風力は、設備利用率が高い一方で建設費が下がりにくく、費用の高い選択肢のままです。地熱は、立地が限られるとしても、必要なときに出力を出せる再生可能エネルギーとして競争力を持ち得ると評価されました。火力は、CCUS付きの設備や水素を燃料とする設備のデータを出した国が多く、低炭素電源への移行が進む中でも、ガスタービン、さらにはCCUS付きの石炭火力が役割を持つ余地が見え始めている、と報告書はみています。
しかし、先に挙げた蓄電池や地熱、CCUS付きの火力など、低炭素で出力を調整できる電源も、いまだその多くは100ドル以上の費用水準にあります。
大型原子力のLCOEはNOAK段階で100ドル/MWh未満の水準に
原子力発電については15か国がデータを提出し、大型炉の新設、SMRの新設、既設炉の長期運転の費用データが集められました。
既設炉の長期運転のLCOEは1MWh当たり39~64ドルで、中央値は44ドルと、報告書が集計した全技術の中で最も低い水準となっています。 これは、当初の建設投資がすでに償却されていることが大きく影響しています。新規建設については、報告書は二つの段階に分けて費用を示しています。一つは当面の建設案件、もう一つは建設が1970~80年代に匹敵する成熟度まで回復し、習熟効果の恩恵を受けている段階の案件です。後者を報告書は「n番目の同型機(Nth-of-a-kind, NOAK)」と呼んでいます。一部の国では新規建設が長い中断を経ての再開となり、資金調達、サプライチェーン、規制、人材といった基盤を立て直す必要があるため、この二つで費用が大きく異なります。
| 区分 | 提出国数 | 建設単価(ドル/kW) | LCOE(ドル/MWh) |
|---|---|---|---|
| 大型炉(当面の建設案件) | 15 | 8,760~1万4,940(中央値1万1,188) | 95~168(中央値141) |
| 大型炉(NOAK段階) | 10 | 2,487~6,791(中央値5,502) | 56~87(中央値81) |
| SMR(当面の建設案件) | 11 | 5,682~1万8,737(中央値1万3,021) | 94~191(中央値146) |
| SMR(NOAK段階) | 9 | 4,830~1万707(中央値7,092) | 64~121(中央値84) |
| 既設炉の長期運転 | 6 | 171~2,028(中央値946) | 39~64(中央値44) |
出典:OECD/NEA・EPRI『The Costs of Generating Electricity 2025』表ES.2
報告書は、当面の建設案件はNOAK段階と比べ、大型炉で約2倍、SMRで約5割高いと整理しています。LCOEの中央値は、大型炉が141ドルから81ドルへ、SMRが146ドルから84ドルへ下がります。そのうえで、NOAK段階で想定されるコスト低減が実現すれば、原子力は100ドル未満で24時間カーボンフリー電力を供給できるようになるとしています。
鍵は標準化とシリーズ建設
本報告書は、NOAK段階に到達するには、設計の標準化と同型機のシリーズ建設によって習熟効果を取り込み、サプライチェーンが安心して投資できる状態を作る必要があるとしています。 さらに、安定した政策の枠組み、効率的で予見可能な規制、競争力のある資金調達へのアクセス、案件を工期どおりに、かつ必要な規模で実行できる技能人材の育成も条件に挙げています。
同じ炉型でも国によって見積りが異なる理由の一部について、本報告書は原子力政策の方向と産業基盤の連続性から加盟国を四つに分けて説明しています。
| 類型 | 例 | 費用面の特徴 |
|---|---|---|
| 建設と標準化が途切れていない国 | 韓国、カナダ | 国内外の案件を中断なく進め、長年の経験とサプライチェーンに基づく習熟効果で費用と建設リスクを下げられる |
| 運転基盤が強く、新設を再開する国 | フランス、スロバキア、米国 | 既設炉の運転・保守の能力は高いが、1990年代以降の新設は断続的。サプライチェーンを再構築中で、当面の建設案件では費用が当初の見積りを上回る可能性がある |
| 初号機として新設に取り組む国 | スウェーデン、ポーランド、チェコ | 初めての導入、または長い中断後の拡大。許認可の枠組みや基盤の整備を伴うため、初期のLCOEの見積りは高くなり得る |
| 新設を具体的に検討していない国 | デンマーク、ドイツ | 原子力のLCOEの見積りを提出していない |
設備利用率が落ちると、最も響くのは原子力
これらのLCOEは、ベースロード電源の設備利用率を85%と置いた値です。報告書は、設備利用率の変化がLCOEに与える影響についても分析しています。原子力・石炭火力・CCGTの3技術を比較すると、固定費の比率が高い原子力発電所が、設備利用率の変化によって最も大きな影響を受けます。CCGTは影響が最も小さく、投資費用が相対的に低いことから、幅広い用途で競争力を持ち得るとされています。報告書は、風力・太陽光と原子力・石炭・ガスとの相互作用が、後者の設備利用率、ひいてはLCOEを大きく左右すると指摘しています。
出典:OECD/NEA・EPRI『The Costs of Generating Electricity 2025』図ES.2
資本集約的な技術ほど割引率の変化にも敏感で、ここでも原子力が最も大きな影響を受けます。割引率が低ければ石炭火力やガス火力に対して費用面で優位に立ちますが、割引率が高い局面では相対的に高くなります。
報告書は結論として、技術の選択をLCOEの順位だけで決めることはできず、電力システム全体の費用、信頼性、脱炭素の目標への貢献とあわせて評価する必要があるとしています。報告書によれば、CO₂の制約が厳しい電力システムでは、これまで化石燃料が担ってきたベースロードと柔軟性の二つの役割を、別の技術で満たさなければなりません。最適な構成は電力システムごとに異なりますが、原子力と再生可能エネルギーの組み合わせを、蓄電池、水力、低炭素燃料、デマンドレスポンス、国際連系などの柔軟性で支える構成のほうが、単一の技術に大きく頼る構成より低い費用になり得ると評価しました。
関連情報
- The Costs of Generating Electricity 2025(OECD/NEA、2026年9月17日)
お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)