IAEA:低濃縮ウラン備蓄バンク設立に向け、カザフとの協定締結を承認

2015年6月16日

低濃縮ウラン用のシリンダー©D.Calma/IAEA

 低濃縮ウラン用のシリンダー©D.Calma/IAEA

 国際原子力機関(IAEA)の理事会は6月11日、加盟国に対する低濃縮ウラン(LEU)供給保証メカニズムとなるLEU備蓄バンクの設立に向けて、備蓄施設を立地・運営予定のカザフスタンとIAEAが協定を結ぶことを承認した。不測の事態により世界のLEU市場や国同士の契約、その他の方法によるLEU調達が困難になった場合に備えて、一定量のLEUを備蓄し加盟国に供給するのが目的。2010年12月の理事会で設立・運営計画が承認されて以降、2011年のカザフによる施設の受け入れ提案や技術的項目の詳細に関する両者の作業と交渉を経て、ようやく本格的な実施に向けたホスト国協定の締結にこぎ着けた。同バンクからLEUを輸送する際、ロシア領を通過することになるため、理事会はロシアとIAEAによる通過協定締結も承認している。

 IAEAの計画によると、同バンクはIAEAが所有・管理するものの、運営はカザフに一任。カザフの法制・規制上の要件に則って安全セキュリティを統制すると同時に、IAEAの安全基準とセキュリティ・ガイダンスの関連条項を満たすことになる。備蓄量は100万kW級軽水炉が3年間運転するのに十分な最大90トンで、立地点はカザフ北東部、かつてウスチ・カメノゴルスクと呼ばれていたオスケメン市のウルバ冶金工場内を予定。同工場ではLEUを含む核物質を60年以上にわたって安全に管理・貯蔵してきた実績がある点を指摘した。また、経費はすべて任意拠出金で賄う計画で、IAEAの通常予算には何の影響も及ばないと強調。拠出金額はすでに約1億5,000万ドルに達しており、内訳は米国の4,900万ドルと同国の民間団体「核脅威イニシアチブ(NTI)」の5,000万ドル、欧州連合の2,500万ドル、クウェートとアラブ首長国連邦(UAE)が1,000万ドルずつ、ノルウェーが500万ドル、カザフが40万ドルに加えてLEUを現物出資。これにより、同バンクの設置と少なくとも10年間の運営が可能だとしている。

 同バンクを通じて、IAEAは既存ルートからの核燃料供給が途絶する事態にも、確実かつ予測可能な方法で核燃料が得られるという保証を加盟国に提供。既存の商業市場を歪めないことと、加盟国が自前の核燃料サイクル施設を開発する権利を侵さないことが基本原則となる。ただし、同バンクからLEUを購入するにはIAEAの包括的保障措置協定の締結とその遵守が義務付けられており、イランなどのように核兵器開発が疑われる国がウラン濃縮を開始し、関連技術が拡散されるのを防ぐのに一定の効果があると見られている。

 核燃料の供給を保証しつつ核不拡散上の目的達成を目指した多国間管理システム構築の議論は、2003年に当時のM.エルバラダイIAEA事務局長が行った提唱が発端。同事務局長が任命した専門家グループが2005年に報告書を提出した後、2007年までに日本を含む様々な国やNTI、世界原子力協会(WNA)などが、濃縮技術を持たないと決定した国に対する様々な供給保証メカニズムを提案した。核兵器製造につながる技術の拡散の可能性に危機感を募らせていたNTIは、当時の提案の中で「他の加盟国から1億ドルの拠出があること」などを条件にIAEAの備蓄バンクに5,000万ドルの拠出を約束。これを受けたノルウェー政府は2008年、米国関係以外では初めて500万ドルの拠出を公約していた。IAEAの承認の下で、これまでに設置されたメカニズムとしては、ロシアのアンガルスクにある国際ウラン濃縮センター(IUEC)や英国の低濃縮ウラン・サービス供給保証などが存在する。