オーストリア:ECによるヒンクリーポイント建設計画承認を欧州裁判所に提訴

2015年7月8日

 オーストリアの連邦首相府憲法部は7月6日、英国政府によるヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC)建設計画への財政支援はEU競争法の国家補助規則に抵触しないと欧州委員会(EC)が昨年10月に裁定したことを不服とし、欧州司法裁判所に提訴した。1960年代末から反原子力運動が展開されていた同国では、1978年の国民投票と連邦法で原子力発電所の建設・稼働の一切禁止を決定するなど、伝統的に反原子力の立場を取る国柄。今回の提訴も議会の承認と全政党の支持を得ており、6月22日に内閣が決定していた。

©オーストリア政府

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 W.ファイマン首相(=写真)は声明文の中で、「原子力発電は革新的技術ではないので補助金交付に値しない」と断言。補助金はすべてのEU加盟国において総合的な利益となる近代的な最新技術を支援するためにあるとし、原子力は全くこれに当てはまらないと訴えた。同首相はまた、HPCに差金決済取引(CfD)による固定買取(行使)価格が35年間適用されることや英国政府の信用保証制度から最大170億ポンドが保証されることなどを挙げ、これらは国家補助を認める要件とは矛盾するとの考えを示した。ファイマン首相はさらに、「例え原子力が温室効果ガスの排出削減に貢献するとしても、原子力発電所が環境全般に負の影響を与えることに議論の余地は無い」と言明。再生可能エネルギーとは対照的に、原子力はこれまでECの環境・エネルギー支援ガイドラインの対象になっていなかったと強調している。

 これについて世界原子力協会(WNA)のA.リーシング事務局長は同日、「自分の意見を持つことと、それを他人に押しつけようとすることは全く別のことだ」と反論。英国民には英国のエネルギー需要を満たし、温暖化防止への取り組みを支援するために原子力を選択する権利があるとし、オーストリア政府がその権利を尊重しない判断を下したことは残念なことだと述べた。また、今回の措置がオーストリア自らの反原子力的思想ゆえに取られたのは明らかで、多大な誤解に基づいた行動であるだけでなく温暖化防止に対する世界全体の取り組みを損なうものだと批判した。同事務局長によれば、すべての国がオーストリアのように数十年前の水力発電設備で65%の電力を供給できるような恵まれた立場にはなく、その多くは現実的な選択をせざるを得ない。原子力発電は毎日24時間、低炭素エネルギーの生産が可能な一握りの技術の1つであり、運良く原子力発電所を持てた国においては健全かつ近代的な発電システムの基盤になっていると明言した。