中国の海塩県政府:原子力城プロジェクトで日本企業の誘致セミナー開催

2015年8月11日

日本の原子力産業関係者約60名が参加した中国海塩県の原子力セミナー

日本の原子力産業関係者約60名が参加したセミナー

 中国浙江省海塩県人民政府が主催する「原子力城から見る中国の新シルクロード戦略と原子力セミナー」が8月7日、日本テピア、日本技術者連盟・国際原子力発電技術移転機構の共催により都内で開催された。中国初の原子力発電所となった秦山I発電所が1991年12月から稼働する海塩県は、同国の原子力発電開発の発祥地であるだけでなく、すでに9基・約660万kWが稼働するなど、今やその中心地に成長しつつある。浙江省政府と中国核工業集団公司(CNNC)の合意の下で海塩県政府は、習近平主席が周辺国家との経済・貿易関係の拡大・強化を狙った新しいシルクロード戦略を打ち出したのに合わせ、海上シルクロード戦略として中国最大の原子力産業パーク「原子力城プロジェクト」を展開中。その推進にあたって日本の原子力発電機器・部品企業の誘致を促進するのが今回のセミナーの目的だ。

 技術移転機構の佐々木宣彦委員長がまず冒頭挨拶で、世界の原子力市場からみてもここ何十年かで中国市場が非常に大きな存在となってきた事実に言及。海塩県政府による原子力城プロジェクトの現状や今後の展開を知ることによって、日本の原子力産業の優秀な機器メーカーが中国企業と協力、あるいは単独でも中国に進出していくことを将来の課題として検討する機会にしてほしいとの趣旨説明を行った。これを受けてまず、海塩県政治協議会議の肖鈺鑫・副主席(=写真左下)が中国の原子力開発の現状と日本企業への期待を次のように表明した。

最初の人 2000年に中国中央政府が示した「適切なスピードで原子力開発を行う」という方針の下、後続の秦山Ⅱ期やその他の発電所開発を通じて国産原子炉の設計・開発・運転管理面の能力向上が図られた。第12次5か年計画では、原子力を効率的かつ安全に発展させることが明記され、現時点で中国の原子力発電設備は27基・約2,600万kWに到達。2020年までに設備容量は5,800万kWに到達すると予測している。
 福島第一事故の影響として、内陸部で予定されていた計画はすべて停止したほか、臨海部の建設計画も一時的に止まったが、習近平主席が就任して以来、原子力にもっと力を入れる方針に転換。臨海部の発電所の審査と建設が再開された。今後5年間に原子力開発に投入される資金は5,000億元(約10兆円)と言われており、年間の投資金1,000億元中500億元は設備の更新と開発に使われる。海塩県では原子力産業のさらなる発展に力を入れることになり、すでにフランスのアレバ社をはじめ、英国、ドイツ企業など70社以上の企業が駐在。ロシア、韓国、日本の企業とも積極的に交流を展開中だ。
 シルクロード戦略に合わせて海外進出の動きも活発で、パキスタンとは5基の原子炉建設契約を締結。ルーマニア、アルゼンチンとは原子力技術供与と原子炉建設で交流しているほか、英国、南ア、サウジアラビアとも原子力建設などについて商談を進めている。原子炉の自主開発にも力を入れており、技術の先進性と経済性両方のメリットを有する第3世代設計「華龍一号」の開発に成功。同程度の外国原子炉と比べ、コストを60%以下に抑えることができた。
 原子炉の輸出に際しては、稼働期間中の40~60年にわたってサービスを提供し続ける方針だが、出力100万kWの華龍一号を1基輸出できれば雇用の創出など160億ドルの経済貢献が可能と考えている。シルクロード戦略は今後10数年続く見通しで、海外進出にともなう資金はある程度確保。人材育成にも力を入れており、あとは技術の先進性や経験ノウハウの蓄積が課題だ。日本企業にはそれがあるので、海塩県における原子力投資を通じて、両国がWIN-WINの関係を構築していきたい。是非一度、海塩県に来て現地の人々と交流し、原子力の発展に貢献する枠組み作りに参加してくれるよう願っている。

2番目の人  次に、海塩県の趙建峰・商務局長(=写真右)から、日本企業が原子力城プロジェクトに進出するための具体的な支援策について説明した。
 日本は原子力技術が発達しているだけでなく、資金や人材的にも強みがあることから、海塩県というプラットフォームを利用して中国の原子力産業に参入することを検討してほしい。具体的な進出方法としては次の5つが考えられる。
(1)製品を中国の原子力産業に納入する前提として、核安全局に登録する。これにより製品を中国原子力産業の調達リストに載せることになるが、行政改革により手続は簡素化しつつある。
(2)海塩県で土地の所有権と建物を購入し、現地生産を開始する。原子力産業関連の投資には政府が税の優遇政策を取っている。
(3)土地や建物を所有しなくても、これらをレンタルすることで製品を生産してもよい。海塩県には手頃な建物が多数あり、事務所や工場に利用できるほか、期間限定で無料使用することも可能。
(4)資金がない場合でも、日本企業の技術を海塩県の専門家委員会が審査し先進性があると判断されれば、これを資金に換算し中国企業と合弁することができる。日本の技術を使った製品を中国の営業力と資本力を利用して中国で販売してほしい。
(5)日本企業の製品に関する専門家の技術を、中国企業へのコンサルティング・サービスという形で取引することが可能。この場合は土地や建物の必要がなく、最も効率的でお勧めのパターンである。
 現在、海塩県は原子力プラットフォームとしての開発に力を入れており、10月に開催する原子力発展国際フォーラムでも、海塩県でどのように原子力産業を発展させるか議論する。海塩県は上海南部の沿岸部に位置しており、日本からでも3~4時間という近さ。今の発展の様子を実際に目にし、近い将来に日本企業がこれら5つの方法で中国の原子力産業にうまく参入してくれると有り難い。