IAEA:今後数十年間に世界の原子力発電設備は「緩やかだが増加し続ける」と予測

2015年9月9日

 国際原子力機関(IAEA)は9月8日、世界の原子力発電設備容量に関する長期的な見通しを分析した報告書「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電予測」の2015年版を公表した。化石燃料の価格低下や世界経済の停滞、および福島第一原子力発電所事故以降の傾向を反映して、開発ペースは緩やかであるものの、中国などを中心に今後数十年間は継続して拡大が見込まれるとの分析結果を提示している。

 今年で35版目を数える同年次報告書は今年4月までの開発状況を考慮した内容となっており、「世界のエネルギーミックスにおいて原子力が長期的に重要な役割を果たすことは複数のファクターで示されている」と指摘。それらは、化石燃料価格の不安定さや原子力が温室効果ガス排出抑制に果たす役割、あるいはエネルギーの供給保証、開発途上国における人口と電力需要の増加であったりするとした。同報告書は2030年までの世界の原子力設備容量について、昨年版で7.7%~88%と予測していた増加率が2.4%~68%に留まると予測。具体的には、保守的だが信憑性のある低ケース予測で、2014年実績の設備容量3億7,620万kWが3億8,530万kWに増加する一方、現在の経済・電力需要の伸び率、特にアジア地域のものが続くことを前提とした高ケースでは6億3,180万kWに拡大するとした。数値に幅があるのは、各国のエネルギー政策や運転認可の更新、閉鎖、将来的な新設といった不確定要素によるものだと説明している。同報告書の詳細は以下のとおり。

原子力設備の拡大を抑えるファクター
 短期的には、天然ガスの低価格化や補助を受けた再生可能エネルギー源、世界的な財政危機が資本集約型プロジェクトである原子力発電の設備拡大を圧迫するファクターとなり、一部の原子力プラントの開発を一時的に遅らせることになる。また、福島第一事故を契機に実施されたストレス・テストの結果、安全要件が強化されたことや先進的な技術の開発も、そうした遅れの原因になるだろう。さらに、世界で現在運転中の原子炉438基のうち半数以上が30年以上稼働しており、将来的に多くの原子炉が閉鎖される可能性を考慮した。しかし、原子力には世界の低炭素エネルギーミックスにおける役割維持、あるいはその役割拡大の可能性があり、閉鎖した原子炉毎にリプレースする必要がある。低ケース予測では閉鎖される原子炉の容量分が2030年までに世界のどこかで新たに建設されると見込まれるが、高ケースでは、閉鎖分の約1.7倍の容量が新設されると予測した。

地域毎の予測内訳
 さほど大きな影響力はないものの、原子力の導入を検討している30以上の国々における政策や開発状況もまた、将来予測に一定の役割を果たす。IAEAでは先頃、こうした国々に対する国家的原子力インフラ開発の支援基盤となる主要ガイダンス文書の1つを改定。対象国には中東と南アジアの諸国が含まれるが、これらの地域ではすでに、アラブ首長国連邦(UAE)が最初の原子炉を建設中のほか、原子力拡大基調にあるインドでは、現在6基の建設を進めている。2030年までにこれらの地域での原子力設備は低ケースで2014年現在の690万kWが2,590万kWに、高ケースでは4,380万kWに増加すると予測される。

 容量の増加は東欧でも見込まれており、現在ロシアで9基を建設中のほか、ベラルーシでは同国初の原子炉2基を建設中。低ケース予測で同地域の設備容量は2014年の4,970万kWが2030年までに6,410万kW、高ケースで9,350万kWに拡大する。最大の伸び率が予想されるのは極東地域で、特に24基を建設中の中国と4基建設中の韓国が顕著。低ケースでも現在の8,710万kWは2030年までに1億3,180万kWに拡大するほか、高ケースでは2億1,900万kWまで増加する可能性がある。

 これらの地域とは対象的に西欧は下げ幅が最も大きく、同地域最大の経済国であるドイツが福島第一事故を契機に原子力からの段階的撤退を表明したことが影響。同地域の現在の原子力設備1億1,370万kWは低ケースで2030年までに6,270万kWに下がるほか、高ケースでも1億1,200万kWに低下すると予測した。北米でも1億1,210万kWだった設備容量が低ケースで9,200万kWに下がる見通しだが、高ケースの場合は1億3,970万kWに増加することが見込まれる。