中国:緊急時対策に関する原子力白書を初めて発表、「原子力強国」目指し安全確保を強調

2016年1月28日

 中国の内閣にあたる国務院は1月27日、原子力発電所における緊急時対策と安全セキュリティの推進・強化に焦点を当てた白書を初めて発表した。1985年に初の商業炉となる秦山Ⅰ原子力発電所(PWR、31万kW)に着工して以来、2015年10月までに同国では27基、2,550万kWの原子炉が稼働中となり、建設中原子炉は25基、2,751万kWに到達。これを2020年までに5,800万kWまで拡大し、2030年には中国を「原子力強国」とする目標を掲げるなど、飛び抜けて急速な開発ペースゆえに国際社会からはその安全性を危ぶむ声も上がっている。今回、国内の原子力発電所で取られている安全確保関連の対策やその基本理念を公開することで、そうした懸念を払拭し、同国が国家戦略の1つと位置付けた原子力による海外展開を促進する狙いがあると見られている。

 緊急時対策に関する原子力白書は8章立てになっており、(1)原子力開発と緊急時関連の基本的状況、(2)緊急時の政策方針、(3)緊急時に対応する「1計画3システム」の構築、(4)緊急時対応能力の増強と維持、(5)事故時の主な対策、(6)緊急時演習と訓練および国民とのコミュニケーション、(7)緊急時対応技術の開発、(8)関連の国際協力と情報交換--を取り上げた。前文の中ではまず、中国の原子力産業が一貫して安全性の確保を最優先としてきたことを強調。安全性こそ健全かつ持続可能な原子力発電開発を支えるものとの認識を示した。また、TMIやチェルノブイリおよび福島第一など、過去に起こった原子力発電所事故の教訓から、中国は原子力事故の影響に国境がなく、緊急時対策がどれほど重要であるか深く理解しているとし、関連する法や規制・基準の整備や組織的メカニズムとインフラの構築などを通じて安全レベルの向上と緊急時対応の強化に継続して努めていくと明言している。

 (1)章では、1950年代半ばに始まった同国原子力産業の過去60年間の実績を振り返り、秦山Ⅰ発電所以降、中国が大型の先進的PWRや高温ガス炉、輸出用主力設計として知的財産権を有する「華龍一号」を開発したことに言及。高速炉開発においても、実験炉がフル出力で72時間の連続運転に成功したことを強調した。また、中国では国際原子力事象評価尺度(INES)でレベル2を超える事象が未だ発生していないとしており、ガス状および液体の廃棄物の放出が国の規定値をはるかに下回る程度に抑えられるなどの健全な実績は、安全技術の改良努力や厳しい安全監視体制、緊急時管理を強化した賜だと説明した。

 また(4)章の中で、中国の緊急時対応ネットワークが適切な規模を有するとともに、十分調整された合理的な配置となっており、様々な事故や緊急時のレスキュー活動専門の国家的プロ対応チームが30以上存在することを明示。ここでは軍隊が地元での緊急事態を支援する責務を負っているとした。政府としてはさらに、原子力発電所における過酷事故時の複雑な状況に対応し、国際的な原子力緊急時のレスキュー活動にも参加可能な、300人体制の強力な国家原子力レスキュー・チームを編成する方針である。

 さらに(5)章として、中国が多重防護の概念に基づき、事故対応で5つの影響緩和・制御対策を設定したと強調。具体的には、原子力施設の設計・製造・建設・運転における品質保証の徹底、施設を安全規定の範囲内で仕様通りに運転させる厳格な手順、プラントの安全性を自動で制御・防護するシステム、事故時の制御が難しくなった場合に放射性物質の放出を抑える手順、深刻な状況下で住民と環境への影響を最小限に抑えるオフ・サイト緊急時活動--を挙げている。