IAEA理事会:放射線リスクに関わる組織上層部の指導力強化で安全要件改定

2016年6月9日

IAEAの安全基準カテゴリー©IAEA

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 国際原子力機関(IAEA)は6月8日、原子力施設と放射線リスクに対する安全確保を促進するため、規制当局を含む関係組織や施設における上級幹部の指導力と管理能力強化を目的とした一般安全要件(GSR)の改定を、前日の理事会で採択したと発表した。福島第一原子力発電所事故の教訓から、組織の上級幹部は安全確保の管理システムを設置、適用、維持、継続的に改善する責任を負わねばならないとし、そのために必要な資源を特定・準備しなければならないとする内容。IAEA安全基準の1つとして採択されたもので、他のすべての安全基準と同様、加盟国に対して法的拘束力を持たないが、高いレベルの原子力・放射線安全を目指す加盟国の合意を反映して策定されることから、各国の国内法規や規制枠組に盛りこまれて、国際条約のように法的拘束力のある枠組での義務事項の履行に役立てられることになる。

 IAEAは2008年からGSR全7巻の改定作業を始めていた模様で、今回改定した一巻が最後の作業。これらの安全要件は、安全原則や安全指針などとともにIAEAが設定した100以上もの安全基準全体の重要部分を構成しているが、その多くは技術分野のものだった。2006年に「施設と活動の管理システム」について定めていた要件を、今回の作業で「安全のための指導力と管理」に関するものに改定。有害な放射線から人々の生活や健康、および環境を防護する際の上級管理者の役割を新たに重要視するとし、安全性と防護の問題を最優先とするリーダーシップの発揮を各組織の上級管理者に要求している。また、対象とする組織や施設の規模も、複数の原子炉が立地する原子力発電所から小規模の医療施設、規制機関にまで拡大。これらに対して、事故の発生を防止する安全対策と悪意のある活動を防止するセキュリティ対策が干渉し合わないよう保証することも求めている。

 GSRの改定についてIAEAのJ.C.レンティッホ原子力安全・セキュリティ担当次長は、「安全基準は原子力・放射線安全の基盤であるので、状況の進展を反映した改定が必要だ」と指摘。今回の重要な改定によって、安全確保を優先することは中央制御室のスタッフのみならず、組織のCEOを含む職員全員の責任でもあるとするなど、根本的な変更が行われたと強調した。このような要件の履行を通じて、好ましい安全文化が醸成されるとの見解を示した。