欧州監査院:「東欧3か国の廃止措置と廃棄物最終処分に114億ユーロ必要」

2016年9月21日

 欧州連合(EU)の歳入と歳出および財務管理の監査を担当する欧州会計監査院(ECA)は9月20日、リトアニアとブルガリアおよびスロバキアで閉鎖した原子炉8基の廃止措置を完了するには少なくとも57億ユーロ(約6,500億円)が必要であり、高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分費用も含めると2倍の114億ユーロ(約1兆3,000億円)かかるとのコスト見積報告書を公表した。必要経費と調達資金の差が広がるのに対して、EU加盟国間の協調融資プログラムには限りがあることから、2020年までの期間に各国が協調融資額を増額することなど、EUの実施機関である欧州委員会(EC)とこれら3か国に対する複数の勧告事項を明らかにしている。

 東欧に位置するこれら3か国がEUへの加盟候補国であった2000年代初頭、リトアニアのイグナリナ原子力発電所(150万kWのLWGR×2基)とブルガリアのコズロドイ原子力発電所(44万kWのPWR×4基)、およびスロバキアのボフニチェ原子力発電所(44万kWのPWR×2基)では、チェルノブイリと同じ黒鉛チャンネル型炉(LWGR)あるいは格納容器のない第1世代のロシア型PWR(VVER)が稼働していた。安全上の観点から、これら8基はEUへの加盟条件として2009年までにすべて早期閉鎖され、廃止措置活動が始まったが、これにともなう財政的負担を考慮したEUは3か国に支援を提供。2013年までの期間に、国家的なエネルギー生産設備の喪失に対する影響緩和プロジェクトで8億9,000万ユーロ(約1,000億円)が支出されたのに加え、2020年までにEUが3か国の廃止措置支援に提供する金額は合計29億5,500万ユーロ(約3,374億円)に達する見通しである。

資金の不足額拡大と作業の遅れ
 ECAの監査員は3か国における廃止措置の2011年以降の進展状況を審査するため、3つの原子力発電所をすべて視察したほか、主要な関係当局者にはインタビューを実施。さらに、フィンランドで建設されている世界初の使用済燃料深地層処分場なども訪問した結果、2011年に最後に監査を行って以降、リトアニアでは廃止措置費用の不足額が15億6,000万ユーロ(約1,781億円)に増大したほか、ブルガリアでは2,800万ユーロ(約32億円)、スロバキアでは9,200万ユーロ(約105億円)が不足しているとした。廃止措置に特化したEUの資金調達プログラムでは、タイムリーかつコスト効果の高い廃止措置活動を行おうとする適正なインセンティブ(動機付け)が創出されず、関連する主要インフラ・プロジェクトのほとんどすべてに遅れが生じている。実際、3つの発電所ではタービン・ホールなど放射線レベルの低い機器の解体作業が進展し、敷地内には廃棄物の一時管理インフラがいくつか整備される一方、原子炉建屋といった高放射線エリアでは未だに重要課題が山積。リトアニアでは特に作業の完了日程が9年先延ばしされ、2038年になる予定であることを明らかにした。

ECと対象3か国への勧告事項
 このような状況から、ECA監査員はECに対し、(1)2014年~2020年までの資金調達期間に加盟国による協調融資額を拡大する、(2)3か国に対する廃止措置財政支援プログラムを2020年で打ち切るべき--と勧告した。それ以降は、これら3か国のうち1か国でもEU基金を使用する明確な必要性が生じた場合、EUが今後実施するどのような資金調達においても、時間的な制限や適切な協調融資レベルに基づいて廃止措置を進める適正なインセンティブが含まれるべきだと指摘。1つの方法として、中小企業インフラ整備や農業など地域開発のための資金供給枠組である「欧州構造投資基金(ESIF)」を原子力発電所の廃止措置活動に利用可能とすることを勧告している。

 また、3か国に対しては以下の点を勧告した。すなわち、
・廃止措置のプロジェクト管理を一層改善して、計画した通りの時期に放射性廃棄物と使用済燃料の管理インフラを設置するほか、自国の技術的能力を高める、
・3か国同士、あるいはEU内外の廃止措置コミュニティで技術的知見や良慣行の共有を進める、
・放射性廃棄物と使用済燃料の処分で完璧なコスト見積と資金調達プランを作成する、
・経費負担における発生者責任の原則を尊重するとともに、廃止措置と廃棄物最終処分の経費を国内基金でカバーする準備を進めるなど、各国が自国の役割を認識する、--などとなっている。