NEAとIAEA:世界のウラン資源関係報告書の2016年版 刊行

2016年12月8日

 経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)と国際原子力機関(IAEA)は11月30日、世界37か国から提供された公式データと12の国別調査報告に基づき、2015年1月1日現在の世界のウラン資源量、探査状況、生産量および需要量などについて情報分析結果をとりまとめた報告書「2016年版ウラン資源、生産と需要」(通称「レッド・ブック」)を刊行した。原子力が将来の電力需要を満たす上で果たす役割とは無関係に世界のウラン資源基盤は近い将来に予測される所要量を満たして余りあるとした一方、今後数年間の課題として浮上する可能性があるのは、資源量が適切かということよりも、ウラン市場での価格低迷により生産設備の整備が滞ることだと指摘している。

 レッド・ブック最新版によると、いくつかの先進国では近年、電力需要が低下しているが、発展途上国における人口増加にともない、今後数十年間は世界全体の需要は拡大し続ける見通しである。原子力は無炭素なベースロード電力を競争力のある価格で提供できるため、原子力発電所を開発することでエネルギーの供給セキュリティが加速。原子力はエネルギー供給において今後も重要要素であり続けるとした。しかし、福島第一原子力発電所事故によりいくつかの国では原子力に対する国民の信頼が損なわれており、設備容量の増加する見通しが減少するとともに、不確定要素も通常レベルより増大する。これに加えて、北米で低価格な天然ガスが豊富に存在することやリスク回避型の投資傾向が、自由化された電力市場における原子力発電所の競争力を低下させている。こうした背景からレッド・ブックは、原子力が提供する無炭素電力とエネルギーの供給セキュリティという恩恵が政府や市場の政策に反映されれば、そうした競争上のプレッシャーを和らげる一助になると指摘。電力需要の増加およびクリーン電力に対するニーズの高まりとともに、原子力は規制された電力市場においては相当拡大することが予想されると結論付けた。

 最新版が取りまとめた世界全体のウラン資源量、生産量と需要量等に関する2015年時点のデータは以下のとおり。

 1kgUあたり130ドル未満で回収可能なカテゴリーの発見資源量は、確認済みのものと推定されるものの合計で571万8,400トンUとなり、前回の報告書をとりまとめた2013年実績から3.1%の減少となった。回収コストが最も高い260ドル/kgUのカテゴリーでは764万1,600トンUで、わずかに前回実績より0.1%上昇。近年のウラン市場における景気低迷を反映し、ウラン探査や投資が低いレベルにあることが原因と考えられる。
 ウラン探査と鉱山開発に費やされた2015年の総支出額は29億ドル。2013年実績から10%増加する結果になったが、これは調査期間中に大規模なウラン資源が新たに追加されたからではなく、カナダのシガーレイク鉱山とナミビアのフサブ鉱山における開発活動が数値を押し上げたのが主な理由。総支出額の38%以上が国外の探査活動に充てられており、その大半は中国によるものである。
 ウラン生産量は5万5,975トンUで2012年実績の5万8,411トンから4.1%減少した。これはオーストラリアの生産量が低下したのと、ブラジルやチェコ、マラウイ、ナミビアおよびニジェールにおけるウラン探鉱の減少が原因。カザフスタンの生産量は引き続き世界第1位であったものの増加率は鈍化しており、2015年の生産量は2014年から約1,000トンU増の2万3,800トンUだった。それでも2014年実績では、第2位のカナダおよび3位のオーストラリアを合算したよりも高い数値となっていた。
 ウラン需要量は予見し得る近い将来、増加し続けることが予想されるが、これは電力需要の拡大とクリーン電力へのニーズの高まりにより、規制された電力市場で原子力が大きく成長するとの予測に基づく。2015年1月1日現在、世界では437基、ネット出力で3億7,700万kWの商業炉が送電網に接続されており、これらによるウランの所要量は年間に5万6,600トンUほど。いくつかの国で公表された政策変更と原子力開発利用計画の改定を考慮すると、世界の原子力発電設備は2035年までに低需要ケースで4億1,800万kW、高需要ケースでは6億8,300万kWに増加する。伸び率はそれぞれ11%と81%で、これに対応するウラン所要量(MOX燃料を除く)は、2035年までに年間6万6,995トンU~10万4,740トンUに達すると予想している。
 需給バランスという点では、現在の発見資源量は2035年までに必要となる高ケースのウラン需要量でさえ満たすことが可能。しかし、これはウラン資源を原子燃料生産用に精製する投資がタイムリーに行われるかによって決まる。世界のウラン市場は依然として、供給過剰および在庫が多量に存在する状態にあり、価格の低下圧力が続いていく見通し。これ以外にも、鉱山開発に関する懸念事項として地政学的ファクターや技術的課題、ウラン資源国に対する期待の増大などが挙げられる。