ロシア国営原子力総合企業の総裁、「2040年代初頭までに世界の3大技術企業の1つに」

2017年3月9日

 昨年10月にロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社の総裁に就任したA.リハチョフ氏(=写真)はこのほど、同社の週刊メディアである「ストラナ・ロスアトム」のインタビューに応え、さらなる競争の激化が予想される世界の原子力産業市場において、一層多くの原子力発電所建設プロジェクトの受注を目指すとともに、新たな製品を提供していく道を模索するなど、同社としての生き残りをかけた新しい方向性と戦略を明らかにした。2040年代初頭までに世界で最も成功した3大技術企業の1つになるとの抱負を述べるとともに、「誰が何と言おうと、そうなる可能性を確信する」との断固たる決意を語っている。リハチョフ総裁の発言概要は以下の通り。

 まず、2016年の実績を振り返ると、80万kWの高速炉である「BN-800」がベロヤルスク原子力発電所で営業運転を開始したほか、第三世代プラス設計の初号機であるノボボロネジ6号機も送電を開始した。国外プロジェクトの受注高は1,300億ドルに達しており、インドで建設を請け負ったクダンクラム発電所では2号機が完成。国内外のすべての原子力発電所で建設作業が順調に進展している。このように過去10年間でロシアの原子力産業が復活したのは、ひとえに前任者であるS.キリエンコ総裁が果たした役割の賜物である。彼が就任した当時、ロシア政府には原子力産業を発展させるための十分な投資準備ができておらず、同総裁は原子力産業の発展プランをV.プーチン大統領に提示し、支援を求めた。これにより、国内で原子力発電所を建設する連邦政府のプログラムが採択され、バラバラだった関連企業も1つに垂直統合。ロスアトム社はロシア経済や世界市場においてリーダー的存在の1つになっている。

 しかし、原子力産業を支援する政府の能力は無限ではなく、特に近年のような経済状況ではなおさらだ。2020年までに政府による原子力発電所の建設支援は完了する予定であり、我々は自らの手で収入を得る方法や、世界市場で利益を得る方法を学ばねばならなくなった。2014年にロスアトム社は2030年までの長期的な戦略目標を掲げたが、これらはともすれば、人々の日常生活に直接影響しない単なるスローガンと受け取られ、このままではロシアの原子力産業は15~20年前の不安定な状態に逆戻りする可能性がある。

 近年、国外の主要市場で原子力発電所の建設プロジェクトを獲得する競争はますます厳さを増し、韓国や中国のように、十分な資金力や国レベルの支援を有する新しい組織が急速に台頭しつつある。ロスアトム社がこのような競争に打ち勝ち、継続的なプロジェクトの受注により利益を得ていくには、すべての生産プロセスを効率化し、生産コストを削減し、生産期間を短縮する--などの方向に向かっていく必要がある。かつて世界の原子力産業界のリーダーだった仏アレバ社が、今や原子炉建設事業の75%を売却せざるを得なくなった例に見るように、世界市場では誰であっても永遠に陽の当たる場所に居られるという保証はない。当社もまた例外ではなく、例えて言うなら、これまで居た穏やかな港湾内から嵐が吹き荒れる外海に出て行くような状況だ。

 今日、答えを出さねばならない問題があるとしたら、それは今後20~30年のあいだにどのような技術が我々の競争力の基盤になるかということである。原子力産業界では技術革新の開発や実行に長期間を要するため、これまで蓄積してきたものを維持・拡大したいと望むのなら直ちに「今日」から、理想を言えば「昨日」からでも、将来の構築に向けた努力を始める必要がある。原子力発電には燃料を再生産する能力があり、それは核燃料サイクルによるエネルギー・システムの構築と熱中性子炉や高速炉による発電で達成することが可能。こうしたシステムであれば、天然ウラン資源を複数回利用することができ、放射性廃棄物の処分問題も解決できるため、我々は「ブレークスルー(PRORYV)」プロジェクトと呼称する高速炉技術の開発計画を進めている。この分野における研究で現在ロシアは主導的立場にあるものの、2040年~2050年までを見据えた場合はこれで十分とは言えない。

 原子力発電所の建設事業においては、作業の効率化による工期の短縮などを促進しているが、従来製品の生産を専門としてしまうことは、ロスアトム社を戦略的に不安定にし、市場条件の変化にも対応し難くなる。10年前は誰もが原子力ルネッサンスを口にし、原子力の発展を楽観的に見ていたが、福島第一事故後にそうした楽観論は鳴りを潜め、今後数十年の間は世界的に見ても原子力は現状レベルに留まると見ている。市場そのものの規模拡大が望めない以上、ロスアトム社としては国内外の市場で新たな製品と事業を創出しなければならず、新たな方向性を定める上で3つの基準を設定した。それらは(1)我々に十分な能力があること、(2)我々が生産する新製品に市場があること、(3)収益性があること--であり、収益が得られる見込みは、これらの中でも最も重要。収益が低い、あるいはゼロのプロジェクトには経済的な意味がなく、我々にとって必要ではないと言える。