ロシアで建設中の多目的高速中性子研究炉(MBIR)の圧力容器製造開始

2017年4月3日

 ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は3月27日、同社傘下の発電機器製造企業であるアトムエネルゴマッシ(AEM)社が、ウリヤノフスク州ディミトロフグラードの国立原子炉科学研究所(RIAR)内で建設中の多目的高速中性子研究炉(MBIR)用に原子炉圧力容器(RPV)の製造を開始したと発表した。2015年9月に本格着工した同炉は、鉛や鉛ビスマス、ナトリウムなど複数の重金属による冷却が可能で熱出力は15万kW。2020年までに完成すれば、核燃料サイクルの確立に不可欠な高速炉の開発を含め、一層競争力のある安全な原子力発電所を新たに創出する幅広い研究や実験が可能になるとしている。

 RIARではすでに、1969年から熱出力5.5万kW、電気出力1.2万kWの高速実験炉「BOR-60」が稼働中で、MBIRはその後継炉と位置付けられている。中性子束が「BOR-60」の約2倍に改良されたMBIRの総工費は10億ドルと言われており、これを賄う目的でロスアトム社のS.キリエンコ総裁(当時)は2010年、革新的原子炉や燃料サイクルの導入環境整備を支援するために国際原子力機関(IAEA)が創設した国際フォーラム「INPRO」の枠組内で開発することをIAEA加盟国に提案。同枠内の高速炉研究開発に関する多国間協力プログラムとして、RIARがMBIRの設計・建設を受け持つ一方、MBIRで実施する実験作業や追加機器などの経費は「MBIR国際研究センター」の参加国が投資することになった。具体的には、MBIR炉心内の中性子束/燃料チャンネルの40%をロスアトム社が所有。残り60%を投資参加国で分け合い、使用料および原子炉の運転コストを年間参加費としてRIARに支払うとしている。これまでに、米国とフランスが「国際研究センター」の設立に署名したことが伝えられる一方、日本は今のところ参加表明をしていない。

RPVの上部パーツ©AEMテクノロジー社

 RPVの製造はロシア南部ボルゴドンスクにあるAEM社のボルゴドンスク支部「AEMテクノロジー社」で行われており、完成品の直径は4m、高さ12m、重さは83トンになる予定。現時点では、RPVの下部パーツになる円錐形の大型鋼片で機械的処理を施しているところで、旋盤加工やくり抜き作業と並行して上部パーツの溶接も開始した(=写真)。同支部では合計14パーツの機器をMBIR用として製造する計画で、支持構造物などを含めるとそれらの総重量は360トンを超える見通しだ。

 ロシアではこのほか、ウラル地方のベロヤルスク原子力発電所で電気出力60万kWの原型炉「BN-600」が1981年から、80万kWの実証炉「BN-800」が昨年から営業運転中。シベリアのトムスク州で鉛冷却・高速炉のパイロット実証炉「BREST-300」(電気出力30万kW)を建設する計画や、RIARの隣接区域で鉛ビスマス冷却高速炉の実験炉となる「SVBR-100」(電気出力10万kW)を建設する計画も進められている。