英機械学会が政策声明:「EU離脱後の原子力部門ではSMR開発が重要」

2017年5月9日

 英国で機械工学関係の技術者を代表する英国機械学会(IMechE)は5月5日、欧州連合(EU)離脱後の英国が民生用原子力部門を将来的に維持していく上で重要と考える提言を政策声明報告書にとりまとめて公表した。その内容は、EUからの離脱にともない欧州原子力共同体(ユーラトム)からも離脱することになった英国の原子力産業界を憂慮し、「保障措置の枠組」、「サプライ・チェーン確保のための原子力協力協定」、「研究開発と商業化」、「規制体制」などの項目について、これまでと同等の体制や利益を確保できる枠組の開発で可能性のある道筋を示唆したもの。その中でも特に、集中的な小型モジュール炉(SMR)開発を含めた長期的な研究開発プログラムを原子力部門の戦略に含めるべきだと強調しており、ウェールズ地方北部で閉鎖されたトロースフィニッド原子力発電所をSMRの実証サイトとするための支援を具体的に政府に勧告した。こうした方策によって、英国には国際的な原子炉供給の舞台に再び返り咲く機会が与えられ、今後成長していくSMR市場から原子力部門が恩恵を得るとともに、広範な商業輸出を開始するチャンスが得られるとしている。

 今回の政策声明は、IMechEが今年2月に発表した「EUからの離脱:ユーラトム協定」に関する政策声明のパート2にあたるもので、パート1でIMechEは、英国内にある核物質の計量管理システム(SSAC)に代わる適切な移行枠組をEUとユーラトムから離脱する前に開発するよう政府に勧告した。パート2の政策声明では、新たなSSACへ移行する道筋の詳細を示すとともに、そのために必要となるアクションを解説。ユーラトムのように全体的なシステムを開発する必要はないが、ユーラトムからの離脱で失われるメカニズムを代替するため、項目毎に既存のシステムを有効活用した枠組の開発アプローチを原子力産業界のために取るべきだと勧告。原子力安全や核不拡散に関する国際規則を遵守していくためには、保障措置局の設置などを通じて新たな保障措置体制を開発するとしたほか、原子力部門で個々の研究開発活動が行えるようユーラトムの準加盟国となるべきだとしている。

 IMechEの説明によると、2016年に英国政府は新たな原子力発電所新設計画としてヒンクリーポイントC計画の実施を承認し、これに続くウィルヴァ・ニューウィッド計画やムーアサイド計画も進展。このため、原子力産業界にとって信頼性のある資機材・サービス供給チェーンの重要度はかつてないほど拡大している。また、低炭素な電源への投資オプションとして、政府は原子力発電所新設計画に対して安定した投資の枠組を提供しなければならなくなった。EU離脱の是非を問う国民投票が行われる以前の2016年3月、政府はSMRの開発と商業化および資金調達に対する市場の関心を把握するためにSMRコンペの第1段階に着手。政府は2015年、英国が世界のリーダー的立場を確保できるような意欲的な原子力研究開発プログラムのために2億5,000万ポンド(約365億円)を確保したが、同コンペもその投資対象に含まれている。

 IMechEはすでに2014年、SMRの開発機会を創出するとともに、その実証サイトを開拓すべきとの考えをSMR開発声明として公表しており、今回はこれを原子力部門の戦略に含めるよう政府に提言した。開発の道筋としては、SMRコンペを通じて実証、商業化を達成すべきだという認識で、ウェールズ政府との協働により、原子力発電所としての認可を有するトロースフィニッド発電所をSMRの建設や実証試験に利用可能とする支援の実施を提案。その際は、英国原子力産業界がモジュールを設計、製造し、建設を行うべきだとした。主な懸念事項は、長期的に一貫した政策が民生用原子力部門で必要になるという点で、これまで2大政党による政権が長く続いたため、投資や技能増強、技術革新につながる首尾一貫した政策を創出できなかったとIMechEは指摘。SMR開発における信頼性のある統合プログラムの理想的な条件として、エネルギー技術研究所が以下の点を特定した。すなわち、経済的側面を支援できる政策枠組、段階毎の投資が可能であるなど投資家に確実性を与えられること、高い能力と信頼性を有する設計業者と製造業者、許認可手続として包括的設計評価(GDA)を経ること、初号機用に信頼出来るサイトを確保すること--である。