スイス、国民投票で段階的な脱原子力政策含む改正エネルギー法 承認

2017年5月23日

 スイス連邦政府は5月21日、改正エネルギー法に相当する「2050年までのエネルギー戦略」に関する国民投票を実施し、過半数の58.2%が賛成票を投じたと発表した。同戦略を反映した改正法案は、原子力発電所の新設禁止やエネルギー消費量の削減、エネルギーの効率的利用改善、再生可能エネルギーによる発電量の拡大など、同戦略を段階的に実行に移す最初の政策を網羅。2016年9月に連邦議会の上下両院が同法案を承認したものの、右派政党が「コストがかかりすぎる」との異議を唱えたことから国民投票が行われた。今回の結果を受けて最終決定した同法案は2018年初頭に発効する見通しになり、スイスの既存原子炉5基は約50年間の平均的運転期間を終えたものから順次閉鎖されるほか、化石燃料の輸入量削減や国産再生可能エネルギー開発の推進といった具体策が実行されることになった。緑の党は2016年11月、既存原子炉の運転期間を45年に制限し、脱原子力を5年前倒しで達成するイニシアチブを国民投票にかけたが、急激な電力不足に陥ることへの懸念からスイス国民の54.2%がこれに反対していた。なお、国内でミューレベルク原子力発電所を所有するBKW社は2016年3月、同発電所の運転にともなう規制面や技術面、政治経済面での影響を考慮し、2022年まで運転可能だった同発電所を47年目の2019年12月で閉鎖する方針を発表。脱原子力に向けた1基目になる予定である。

 2011年の福島第一原子力発電所事故を契機に、スイスの連邦参事会(内閣)は2034年までに国内原子炉すべてを段階的に閉鎖する方針を固めており、「2050年までのエネルギー戦略」を策定。これにともなう一連の政策を2013年9月に改正法案として決定した。スイスにおいて包括的なエネルギーの転換を図るというのが趣旨で、近年のエネルギーの低価格化や世界的なエネルギー市場の変化、新技術の急速な発達、気候変動が環境や経済社会に与える影響などに対応しつつ、国内のエネルギー供給を保証する狙いがあると説明している。

 原子力部分について同法はまず、規制当局が安全性を保証する限りスイスでは原子炉の運転継続が可能であるものの、大型機器の経年化により経済性も低下し、原子力発電所は閉鎖や廃止措置に至ると指摘。既存原子炉が閉鎖された場合、これをリプレースする新設原子炉建設の承認発給を禁止するが、原子力技術そのものを否定するわけではないので、同分野の研究については継続的な実施を許すとした。同法は次に、原子力発電所からの使用済燃料を再処理しないことを規定している。2005年の原子力法で議会は、再処理目的の使用済燃料輸出を10年間凍結すると決定。その後、この規定は2020年まで延長されていたが、今回の改正により再処理は完全に禁止し、廃棄物として処分することになった。英仏への委託再処理にともなう廃棄物の返還が2016年12月で終了したことから、今後新たに廃棄物が返還されることはない見通しだ。また、原子力発電所を代替する電源について、改正法はエネルギーの効率的利用と再生可能エネルギーの開発を促進すると明記。脱原子力が完了する前にこれらを進めてエネルギー・システムの移行を図る一方、冬季の電力輸入は継続する方針を示している。

 再生可能エネルギーの開発規模について、同法は2020年までに少なくとも44億kWh、2035年までに少なくとも114億kWhを風力、太陽光、バイオマスなどの国産再生可能エネルギーで賄うとしている。現在、総発電量の6割を賄っている水力については、2035年までに少なくとも374億kWh発電できるよう拡大する方針。水力と風力で大型設備を開発したり、エネルギーの効率的な利用を図る上で必要な資金のうち、年間4億8,000万スイス・フラン(約547億円)を電気代として追加徴収するが、4人家族の平均世帯における増加分は年間40フラン(約4,562円)程度だとした。また、石油や天然ガスなどの化石燃料に対する税制等を通じて、4億5,000万フラン(約513億円)を追加で確保。これにより、ビルなどの建物におけるエネルギー消費量削減プログラムを実施するとしている。