米議会上院議員が使用済燃料の乾式貯蔵促進法案 提出

2017年5月30日

 米国議会上院の民主党議員2名と中立派議員1名は5月26日、原子力発電所敷地内で湿式貯蔵されている使用済燃料を迅速に乾式貯蔵に移行させることを目的とする法案を提出したと発表した。福島第一原子力発電所事故後の2012年、米原子力規制委員会(NRC)は使用済燃料貯蔵プールに水位計の設置を義務付ける指令を出したが、貯蔵方法としては湿式と乾式、どちらも住民の健康と安全および環境を防護する上では適切であり、乾式貯蔵キャスクへの移送を早めるよう要求する安全・セキュリティ上の懸念はないと認識している。しかし、法案提出を主導したE.マーキー議員は、プリンストン大学が最近「サイエンス誌」に公表した分析調査の結果に言及。全米に立地する原子力発電所のどこかで使用済燃料貯蔵プール火災が発生すれば放射性物質が大量に放出され、広域汚染によって数百万人の国民が避難生活を余儀なくされるなど、損害は2兆ドル規模におよぶと主張。このため、議会の前会期で委員会表決や本会議表決に至らなかった「乾式キャスクによる貯蔵法案」をB.サンダース、K.ギリブランド両議員との連名で改めて議会に提案したもので、使用済燃料の安全な取り出しと乾式貯蔵キャスクへの移送をすべての事業者に義務付けたいとしている。

 NRCが2015年に実施した計算によると、2009年末現在の使用済燃料貯蔵量は約63,000トンで、このうち78%が発電所サイト内で湿式貯蔵されている。2001年の9.11同時多発テロを受けてNRCは、貯蔵プールに被害を及ぼす可能性のある大規模火災や爆発、事故などの影響を緩和する様々な対策を事業者に指示したが、これらはテロ攻撃や航空機衝突などの影響緩和に加えて、竜巻や地震、津波といった自然災害の対応にも効果があるとしている。これに対してマーキー議員らは、NRCが不完全な分析結果に依存しており、それによって放射性廃棄物火災から国民を守る重要な対策の採用を拒んでいると指摘。プリンストン大学・調査チームの1人は、北東部のピルグリム原子力発電所で使用済燃料火災が発生したことを想定した分析も行っており、使用済燃料を乾式貯蔵キャスクに移すことで火災の発生リスクが大幅に下がり、放射性物質が放出される可能性も99%削減できるとの分析結果が出たと述べた。

 マーキー議員は、上院でNRCを管轄する環境・公共事業委員会のメンバーであることから、過密状態にある同発電所の貯蔵プールではいつ災害が発生してもおかしくないとした上で、NRCには危険を周知する標識をプール外に設置させる必要があると明言。原子力災害が発生する前に、危険な廃棄物を安全な貯蔵キャスクに移さねばならないと訴えた。「乾式キャスクによる貯蔵法案」ではまず、使用済燃料を貯蔵プールから安全に取り出して乾式キャスクに移すプランを事業者がNRCに提出。NRCの承認後は、同プランの遵守を事業者に義務付けるとしており、プラン提出後から7年以内に使用済燃料を乾式キャスクに移動することになる。同法案ではまた、事業者が同プランを実行に移すための財政支援を提供する一方、プランの承認から2年後の審査で同プランを遵守していない事業者に対しては、緊急時計画区域を発電所の半径10マイル(約16km)圏内から50マイル(約80km)圏内に拡大すると説明している。

現地の報道によると、こうした動きについてNRCの報道官は「十分な根拠のある分析結果は歓迎する」とコメントした模様。プリンストン大学の新しい分析調査についても、審査した上で追加の措置が必要か検討したいと述べたことが伝えられている。