韓国の新大統領:脱原子力政策への転換を宣言

2017年6月20日

©韓国大統領府

 6月19日付の本紙で既報のとおり、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は同日に釜山市の古里原子力発電所で開催された1号機の永久停止宣言式で演説を行い、韓国初となる同炉の閉鎖は脱原子力に向かう出発点であり、同国のエネルギー政策における大転換になると宣言した(=写真)。新規建設計画の白紙化などにより、原子力発電所を徐々に削減していくための「脱原子力ロードマップ」を、脱石炭ロードマップとともに早急に準備すると表明。目標とする達成時期などは示していないが、朴槿恵前政権を始めとする歴代政府の原子力推進政策から大きく変化させていくことを誓約した。その一方、古里1号機の永久閉鎖は韓国で原子力廃止措置産業を育成する機会になると指摘しており、廃止措置産業で韓国を世界的な先進国とする上で、新政府は努力と支援を惜しまないとの考えを明らかにしている。

 演説の中で大統領はまず、古里1号機を始めとする国内の商業用原子力発電所によって、韓国は経済成長の過程で大幅に増加した電力需要に対応することが出来たと認めた。しかしその際、安い発電単価や効率性を追求したがために、国民の安全や持続可能な環境への配慮は軽視されたとの認識を明示。韓国が発展途上国であった時期にはエネルギーの大部分を輸入しなければならず、原子力発電もそのために選択された政策だったと説明した。大統領によると、国の経済水準が向上し環境保全に対する認識が高まるにつれ、国民の安全を最優先することは今や確実に社会的合意を形成。また、昨年9月に南東部の慶州北道で発生した地震により、月城原子力発電所を点検停止した事例に触れ、韓国はもはや地震から安全な国ではないとしたほか、「福島第一原子力発電所事故で2016年3月までに1,368人が亡くなった()」と述べ、原子力発電所は安全でないとの考えを強調した。

 その上で大統領は、新政府が原子力発電所における安全確保を国の存亡がかかった国家安全保障問題として対処すること、原子力安全委員会を大統領直属に昇格させて自らが直接統括すること、および原子力政策も全面的に見直すことなどを明言。原子力中心の発展政策を破棄して韓国は脱原子力時代に向かうとして、具体的には、準備中の新規建設計画を全面白紙化するほか、既存炉の運転期間も延長しない。国内で2番目に古く、期間延長して運転継続中の月城原子力発電所1号機は、電力受給状況を考慮しつつ出来るだけ早期に閉鎖するとした。昨年6月に建設許可が下りた新古里5、6号機の先行きについても、準備作業の進捗率や投入コスト、安全性、補償費、電力設備予備率などを総合的に考慮して、早期に社会的な合意に基づく結論を出すとしている。また、自身の脱原子力政策では原子力発電所を長期間かけて徐々に減らしていくため、韓国社会には十分な時間的余裕があると保証。国民が安心できる「脱原子力ロードマップ」を早急に用意すると約束しており、今後は原子力と石炭火力に代わって、再生可能エネルギーとLNGといった安全かつクリーンなエネルギー産業を積極的に育成し、パリ協定などの国際的な環境変化に能動的に対処する必要があると語った。

 大統領は一方、古里1号機の永久停止は韓国が原子力発電所の廃止措置でノウハウを蓄積し、廃止措置産業を育成していく契機になると指摘。廃止措置には長い時間と多額の費用、および先端科学技術が必要であるため、世界各国で原子力発電所の解体需要が非常に高まっているものの、現時点で廃止措置経験を有する国は米国、ドイツ、日本に留まっている。韓国の技術力はすでに、米国などの先進国の80%レベルにあり、廃止措置の商業化に必要な技術も58件中41件を確保済みだと強調。技術力の確保をさらに促進するため、東南部に関連の研究所を設置するなど、政府としても積極的な支援を行う考えを表明している。

【編集部注】:死亡者数については確認されていない。