米エネ省、電力市場と電力の安定供給に関する評価報告書 公表

2017年8月25日

 米エネルギー省(DOE)のスタッフは8月23日、改革された電力卸売市場の全体像および送電網の信頼性と回復力に関する評価報告書をR.ペリー長官に提出した。これは同長官が4月14日付けのメモにより実施を指示していた60日間の調査で、米国の電力産業が直面する課題について、政策立案者や規制当局、および一般国民が今後議論していく際に必要となる包括的な情報分析結果や一連の勧告をとりまとめたもの。低コストで豊富なLNGや市場で拡大する再生可能エネルギーによって、石炭火力や原子力といったベースロード電源が早期閉鎖に追い込まれている事実を指摘した上で、そうしたことにより、国内送電網が一時的な機能停止から回復する力がリスクにさらされていることなどを警告した。原子力に関しては、既存炉および新設する原子力発電所の安全確保において、不必要な運転コストや経済的な不確定要素が生じないよう原子力規制委員会(NRC)に要請。リスクに基づいた安全規則を検討するよう勧告している。

 同報告書は「電力市場と電力の供給信頼性に関する長官宛てのスタッフ報告書」と題されており、ペリー長官が重点的に取り組むよう指示した3つの項目に対応する内容。すなわち、(1)連邦政府による政策的な介入の度合いや、それによる発電ミックスの変化が電力卸売市場の形成において当初の政策想定からどの程度相反する課題を引き起こしているか--などを含めた卸電力市場の進展状況、(2)サイト内で燃料供給が可能という電源の特質や、送電網の回復力強化につながるなどのファクターに対して、エネルギー卸売市場と容量市場は適切な補償を与えているか、(3)ベースロード電源が早期閉鎖を強いられる点について、規制上の要件や指令、税金、補助金政策にどの程度の責任があるか、--である。

 (1)に関する現状としてDOEスタッフは、送電設備の運用を独立系統運用者(ISO)等が組織的に制御する電力卸売市場においては信頼性のある電力供給が短期的にもたらされ、経済効率も上がっているとした。一方、様々な状況変化により、このような市場のみならず、程度こそ少ないが発送電一貫運営型の垂直統合形態の市場においても問題が生じていると報告。太陽光や風力など自然変動電源(VRE)の必要性や市場条件が変化したことで、発電所では一層柔軟な運転が行われるようになったが、ベースロード電源として設計された発電技術の中でも、原子力の場合は規制上このような運転が許されない点を指摘している。
 (2)については、発電システムの信頼性が適切に保たれていることを市場は良く認識しているとしたものの、従来型の発電所が早期閉鎖されていくなか、信頼性に対する補償が今後も適切に付与されるよう、市場はさらに進化していかねばならないと強調した。燃料を発電所内に確保する問題も一層の配慮を要するとしており、多くの発電技術が過去に燃料供給上の課題に直面したという事実に触れた。
 (3)の問題では、LNGが近年に発電用資源として第一位となり、VREの市場占有率が拡大、電力需要量が低下したことに加えて、規制要件および州政府と連邦政府の補助金レベルといった数多くの政策的課題が、石炭と原子力という2つの従来型ベースロード電源の早期閉鎖を促したとスタッフは指摘。規制要件を満たすための投資は、これらの経済性に悪影響を及ぼしたと説明した。

 こうした分析結果に基づきスタッフは、自由化された卸売市場におけるエネルギー価格の設定方法を改善するため、連邦エネルギー規制委員会(FERC)に対して州政府やISO等およびステークホルダーとの連携を促進するよう勧告。DOEに対しても、大容量の送電システムで回復力が強化されるよう、電力事業者や送電事業者および顧客を支援していくべきだと強調している。

 原子力発電所の早期閉鎖に関する章では、スタッフは稼働可能な99基の商業炉のうち、51基が垂直統合型・電気事業者の所有であるとした。発電所で合理的かつ堅実な運転管理が行われることを想定して電気料金が設定されるため、安定したコスト回収が可能であり、運転を継続するか否かの判断は州の規制当局や州政府が下すことが多い。一方、長期契約に基づかない自由化された市場環境下にある商業炉(マーチャント・プラント)は28基あり、ISOや広域系統運用機関が制御する市場で電力が取引きされている。2013年以降に早期閉鎖された、あるいは早期閉鎖日程が発表された16の原子力発電所を市場タイプ別に分類した結果、スタッフは12の発電所が閉鎖理由として「好ましくない市場条件」を挙げていた点に言及。このうち11の発電所がマーチャント・プラントであることを示唆した。また、2013年以降に閉鎖された5つの発電所(原子炉6基)のうち4つが単機の原子力発電所であり、複数ユニットの発電所よりコスト高になることが明確になったとした。一方、閉鎖日程が発表された11発電所(原子炉15基)のうち、ニューヨーク州とイリノイ州にある5発電所(7基)については、州政府がCO2を排出しない発電設備への財政支援プログラムを適用したため、早期閉鎖が回避されたという事実を強調した。運転期間の延長問題も原子力の将来に影響するファクターだと述べており、99基中84基までが当初の運転期間40年に加えて20年の期間延長を許可されたとした。しかし、さらにもう1回、期間延長を申請して合計80年の運転認可が承認されない限り、このなかで2050年以降も稼働する原子炉は3基のみになると明言。これまでに、2つの電気事業者が2回目の延長申請を行う意向を表明したことを明らかにしている。