英国の企業連合、SMR開発への支援を政府に要請

2017年9月13日

 英国で小型モジュール炉(SMR)の開発企業連合を主導するロールス・ロイス社は9月12日、「将来的に1MWhあたり60ポンド(約8,800円)で電力供給が可能なSMRの開発は、英国産業界にとって千載一遇の事業チャンス」との分析報告書を公表し、英国がSMRを通じて世界の原子力産業で主導的地位を取り戻すとともに、国家経済を活性化するためにも政府の支援が今、必要であると訴えた。英国政府は2016年3月、SMRの開発と商業化および資金調達に関する市場の関心把握を目的に、英国にとって最適な価値を有するSMR設計の特定コンペに着手。SMR技術の開発業者や電気事業者、潜在的投資家などから関心表明を募るとともに、SMRの開発ロードマップを作成する考えも明らかにしていた。しかしその後、政府による動きが見えてこないことから、ロールス・ロイス社らが英国政府としての方針を明確に示すよう求めたもの。ロールス・ロイス社は、英国政府が原子力サプライ・チェーンの再開発・強化を目的に2012年に産官学の連携で設立した技術開発支援組織「先進原子力機器製造研究センター(N-AMRC)」で産業界の取りまとめ役を担っており、今回のSMR開発企業連合では、国内の大手エンジニアリング企業や建設企業であるAMECフォスター・ウィーラー社、アラップ社、レイン・オルーク社、ヌビア社と連携している。

 英国原子力産業協会(NIA)の会長を務めるJ.ハットン卿は、「英国のSMR:国家としての試み」と題する同報告書の序文で背景事情を紹介した。英国の将来的なエネルギー・ミックスの中でSMRが果たす役割を認識する第一歩として、政府が最適設計の特定コンペに乗り出して以降、ロールス・ロイス社の企業連合もSMRの発電所設計や技術コストの試算、確実な建設に向けた経済分析といった作業を大きく進展させたと指摘。SMR開発プログラムは英国政府が産業戦略を実行に移す上で役立つだけでなく、その設計・製造・建設・運転を通じて、原子力技術の最先端に立つ千載一遇のチャンスを英国企業にもたらす重要要素になることは間違いないとした。そうしたチャンスを捉えるには今、決断することが非常に大切であり、だからこそ、今後60年以上にわたり信頼性のある適正価格の電力を供給する解決策を打ち出せるよう、政府がその意志を明らかにすべきなのだと強調した。ハットン卿はまた、英国のSMR開発プログラムは、2030年までに英国の原子力部門を再活性化し、主要な原子力開発国となるための「国家的試み」であると説明。行く手に待ち受ける課題に取り組み、チャンスを有効に活かしていく上で、このプログラムは政府と産業界のみならず、研究機関や学界、規制当局、技術者ネットワークを団結させることになるとの認識を示した。

 ロールス・ロイス社のW.イーストCEOも、英国のエネルギー・インフラが経年化していくなかで、英国民は過度に化石燃料発電に依存していると指摘。電気自動車の普及など技術革新にともなう電力需要の増加や、EUからの離脱といった政治的環境の変化により、英国が自前のエネルギー供給手段を維持することは益々重要になっていると述べた。同CEOによると、英国政府はエネルギー政策の中で原子力が果たさねばならない役割の重要性を認識した上で、外国政府や企業から数十億ポンドの投資を受けて新たな原子力発電所開発を2007年から進めているが、大型原子炉の新規建設では資金調達や建設リスクなど、乗り越えねばならないハードルが複数ある。外国の技術や投資に依存した結果、英国の原子力産業界は崩壊することになり、英国が独自の知的財産権を創出する機会も狭まることになるが、原子力で考えられるもう一つの道がSMRだとイーストCEOは指摘。これによって大型炉建設にともなう不確定要素を、説得力のある補完選択肢として払拭することができると述べた。具体的には、投資額を比較的小規模に抑えられることや、SMRの設計・開発・製造で4万人分の雇用が原子力サプライ・チェーンで創出されるとの分析結果を挙げた。また、SMRの国内製造により英国経済に1,000億ポンド(約14兆6,400億円)以上の付加価値がもたらされるほか、4,000億ポンド(約58兆5,600億円)規模と言われる世界のSMR市場に輸出する可能性が拓けると指摘している。