米環境保護庁長官、オバマ政権のクリーン・パワー・プラン撤廃を提案

2017年10月12日

 米環境保護庁(EPA)のS.プルイット長官は10月10日、国内電力部門からの温室効果ガス排出量削減を目指してオバマ前政権が導入した「クリーン・パワー・プラン(CPP)」政策の撤廃を提案すると発表した。撤廃に向けた手順として立法案公告(NPRM)に署名したもので、NPRMは近いうちに連邦官報に掲載され、パブコメに付されることになる。
 D.トランプ大統領は就任前の選挙戦当時から「地球温暖化は科学的に立証されていない」との持論を展開しており、2020年以降の新たな温暖化対策の国際的枠組である「パリ協定」についても離脱する方針を6月に公言。CPPの撤廃は環境規制面におけるトランプ政権としての新しい方向性に沿った政策変更であり、「アメリカ第1主義政策」を一層前進させることになるとEPAは強調した。手始めとしてCPPの撤廃理由などを記した「事前NPRM」をまず連邦官報に公表し、続いて、撤廃提案の法的解釈と政策的な位置付け、およびCPPの費用対効果分析結果を付記したNPRMを公表して内容を詳細に明示。60日間にわたって国民や関係者の意見を聴取したいとしている。

 前政権時代のEPAが2015年8月に公表したCPP最終版は、石炭火力を中心とする電力部門が排出するCO2を2030年までに2005年水準から32%削減することを目標としており、既存発電技術の効率改善、省エネ技術の導入に加えて、再生可能エネルギーや原子力など低炭素電源の開発促進を明記。各州政府には、それぞれの状況に合わせた目標達成プランの策定と実施を義務付ける内容で、具体的なやり方としてCO2の排出基準を電源毎に設定する方式などを示した。これに基づき、ニューヨーク州では原子力発電所の維持プログラムを含めた新しいクリーン電源ミックス基準を策定したが、石炭や石油の生産が盛んな27州と複数の企業は、経済的な影響が大きいとしてCPPの実施に反対。これらから提訴を受けた連邦最高裁判所は2016年2月、CPPを一時的に差し止める判決を下していた。

 新政権のEPAがCPPの見直しを行った結果、EPAの法的権限を越えていることが判明したとしており、これを撤廃することで国内エネルギー源の開発を促進するとともに、トランプ大統領が3月に署名した「エネルギー自立と経済成長に関する大統領令」の原則に則して、資源開発上、不必要な環境規制を削減できると述べた。具体的な説明としては、CPPが大気汚染防止法(CAA)第111条におけるEPAの権限を新たに拡大解釈して打ち出されたと指摘。第111条・規則は従来、特定施設に適用される方策を示唆するものだが、CPPは規則の枠外に出る行動を規制対象者に要求しており、これはEPAの伝統的な権限枠から逸脱しているとした。
 EPAはまた、前政権によるCPPの費用対効果分析結果を精査するとともに、CPPを廃止した場合の経済面、環境面、健康影響面での効果についても改めて分析。CPPの廃止により、2030年までに回避できるコストは最大で330億ドルにのぼるとの試算結果を明らかにした。EPAによると、前政権が実施した試算・分析結果は、複数の分野で非常に不明確かつ物議を醸す内容になっている。一例としてCPPでは、発電所が排出する温室効果ガス以外の汚染物質の削減効果を過大に評価しており、実際の目標と何の関係もない汚染物質の削減効果を強調することで、CPPの正味費用を実質的に隠蔽していると指摘した。

 EPAはこのほか、今回のCPP撤廃提案および付属の技術分析文書の中で、トランプ政権は透明性の高い確固たる手法で、幅広い分析シナリオを国民に提示したと述べた。必要とあればEPAは今後もこの分析作業を継続し、様々な情報を国民に伝えていきたいと表明。撤廃提案における最終アクションとしては、このような作業の結果に取り組んでいくことになるとしている。