IEA、WEO最新版で世界のエネルギー・システムは再生エネ中心に移行と予測

2017年11月16日

 国際エネルギー機関(IEA)は11月14日、世界のエネルギー部門が2040年まで長期的に辿っていく様々な道筋を見通した「世界エネルギー予測(WEO)」の2017年版を公表した。
 2040年までに、エネルギー需要を満たす主な役割が石炭から再生可能エネルギーに一変し、総発電量に占める再生エネの割合は40%に到達すると予測。その背景として、(1)クリーン・エネルギー技術の急速な普及とコストの低下、(2)エネルギーの電化が進展、(3)中国がサービス志向型経済とクリーンなエネルギー構成に移行、(4)米国でシェールガスとタイトオイル生産が急増--という4つの大規模な変化が、世界のエネルギー・システムを再構築しつつあると指摘した。IEAはまた、新たな主要シナリオとして「持続可能な開発シナリオ」をWEOに導入。持続可能な経済発展に不可欠な、様々なエネルギー関連目標を達成する上で必要な、総合的アプローチの一部分として、2016年実績で約11%だった世界の総発電量に占める原子力シェアを、少なくとも15%にする必要があると明言している。

 WEO最新版によると、各国で実行される可能性の高いエネルギー政策を前提とした「新政策シナリオ」では、世界のエネルギー需要はこれまでより鈍いペースで伸びると予想されるものの、現在から2040年までに30%増加する見通し。これは世界全体の需要に対して、中国とインド両国の需要に相当する需要量がさらに加わることを意味している。
 過去25年間との比較で、世界ではそうした需要増を満たす方法として、天然ガスやインドと中国を中心に急成長する再生エネ、エネルギー効率化が主流になる。2040年までに総発電量に占める再生エネのシェアが40%に達するなど、電力部門における再生エネ利用が爆発的に拡大し、石炭火力が全盛だった時期が終了。石油の需要は2040年まで伸び続けるが、そのペースは着実に低下する。天然ガスの消費量は2040年までに45%増加する一方、電力部門では拡大の余地が限られ、産業部門での需要量増加が最大になる。原子力の見通しは前回のWEO以降、不透明な状況にあるが、中国で発電量が増加すると予測され、原子力による発電量では2030年までに米国を抜き、世界最大になる見通しである。

 WEOはまた、世界全体の最終エネルギー消費の中で電力消費量の占める割合が増えるとしており、2040年までに増加する分の40%を電力が占めるようになると予測。これは、過去25年間に石油が占めていた増加割合と同じだと指摘した。新政策シナリオによると、電力は従来の領域で利用が拡大するだけでなく、熱と移動手段の供給領域にも進出。電力需要の増加分の3分の1が産業用モーターシステムによるもので、世界の電気自動車(EV)台数は、現在の200万台から2040年には2億8,000万台に到達する。冷房設備向けの電力需要も増えており、中国では2040年までに冷房用電力需要が、現在の日本の総電力需要を超えることになるだろう。

 EVの普及が急速に進む一方、WEOは「石油が過去の物になった」と言い切るのは時期尚早だと強調している。新政策シナリオによると、堅調だった需要の伸びが2020年代半ば以降に鈍化するのは、エネルギー効率化の進展と燃料の転換により、乗用車向け石油消費量が減少するため。しかし、石油化学製品の生産用など他部門からの需要は多く、2040年までに1日の生産量が1億500万バレルに伸びるなど、増加傾向を維持すると予想される。また、米国でタイトオイルの生産がさらに増加し、かつEVへの切り替えが加速した場合、石油価格は長期にわたって低迷する見通しで、WEOではそうした可能性を「低油価ケース」として考察。消費者には石油の利用をやめる、または効率的に利用するという経済的インセンティブがほとんど働かないと説明している。

 今回のWEOではこのほか、温暖化防止や大気汚染の大幅な改善、近代的なエネルギー・システムへのアクセスなど、経済開発を持続させるために重要な、国際的に合意された目標を達成するための総合的アプローチを描いた「持続可能な開発シナリオ」を収録した。一連の望ましい結果を起点に、その実現に必要な対策を考察したもので、中心となる「望ましい結果」はCO2排出量が早期にピークに到達し、その後に急速に減少することだと認識。そのため同シナリオでは、低炭素なエネルギー源がエネルギー構成に占める比率が2040年には40%に達し、エネルギー効率化を実現するあらゆる方策が取り入れられること、石炭需要が直ちに低下し、その直後に石油消費量がピークを迎えることを想定した。また、発電はほぼ完全に脱炭素化され、2040年までに再生エネで60%以上、原子力で15%を発電するほか、CO2の回収貯留(CCS)で6%分寄与させると指摘。主な結論の1つとしてWEOは、CO2排出量の削減取り組みを困難にすることなく、電力とクリーンな調理設備を誰でも使えるようにすることは可能であると強調している。