仏大統領、原子力発電シェア50%への引き下げを10年先送り

2018年11月28日

©仏大統領府

 仏国のE.マクロン大統領は11月27日、エネルギー政策に関する演説の中でエネルギーの移行戦略について触れ、現在70%を超える原子力発電シェアを2035年までに50%まで引き下げる方針を表明した。
 「2025年までに引き下げる」としていたF.オランド前大統領の方針を、現実的で制御可能、経済的かつ社会的にも実行可能な条件下で達成するため、日程の10年先送りを決めたもの。経済の持続的発展が阻害されないよう社会的影響を考慮しつつ、最も古いフェッセンハイム原子力発電所の2基を含め、国内の58基中、合計14基の90万kW級原子炉を2035年までに永久閉鎖する考えを明らかにしている。

 仏国では8か月間に及んだ全国的な討論の結果、「緑の成長に向けたエネルギー移行法」が2015年に成立。これにより、オランド前大統領が約束していた原子力発電シェア削減のほかに、原子力発電設備を現状レベルの6,320万kWに制限することが決定した。昨年5月に発足したマクロン政権は、このような前政権のエネルギー政策を踏襲すると公言。昨年7月に環境連帯移行省のN.ユロ大臣(当時)は、「2025年までに50%まで削減するには、最大で17基の商業炉を永久閉鎖する可能性がある」との認識を表明していた。

  今回の発表の中でマクロン大統領は、「自分は脱原子力を進める約束で大統領に選ばれたのではなく、原子力シェアを50%に削減するためだ」と明言。シェアを引き下げたからといって原子力発電を諦めるわけではないし、原子力は現状では、信頼性の高い低炭素・低コストなエネルギー源であり続けるとした。
 しかし、専門家から実利的な助言を受けた後は、移行法に示された「2025年までに削減」が実質的に達成不可能であることが判明。そこで50%という上限は維持した上で、達成期日を先送りする判断を下したと説明している。
 その実行にあたっては準備作業が必要になることから、政府は国内の原子力発電所すべてを所有するフランス電力(EDF)との対話を維持し、準備計画の作成や閉鎖炉の特定も任せる方針。環境連帯移行省は、閉鎖の可能性のある90万kW級原子力発電所として、トリカスタン(4基)、ビュジェイ(4基)、グラブリーヌ(6基)、ダンピエール(4基)、ルブレイエ(4基)、クリュアス(4基)、シノン(4基)、サンローラン・デゾー(2基)を挙げている。
 その上で大統領は、基本原則としてフェッセンハイムの2基を2020年春に永久閉鎖するとした。後続の2基は、国内の電力供給にリスクが及ばないと判断されれば、2025年から2026年の間に閉鎖の可能性がある。さらに2基を2027年から2028年の間に閉鎖、残りは2035年までに閉鎖していくことになる。閉鎖の最終確認は、予定日の少なくとも3年前に行われるとしている。

 なお、環境連帯移行省は、2035年頃までは新規原子力発電設備の必要性が感じられないとの認識を明示。その後は、供給バランスに配慮しつつ、低炭素な電力を生産する新たな方法が課題になるとした。しかし、仏国としては2035年以降も、新たな原子力発電所の建設能力を産業として維持する必要がある。このため、政府は原子力産業界の能力問題や欧州加圧水型炉(EPR)の経済性向上、廃棄物の貯蔵問題、資金調達モデルなどの点でEDFと作業プログラムを実施する方針。新規原子力発電所の建設に乗り出すかについては、2021年の半ばに判断が下されるとしている。
 
  (参照資料:仏大統領府と環境連帯移行省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)