米エネ省、新型炉技術開発で多目的試験炉プロジェクトに着手

2019年3月6日

 米エネルギー省(DOE)のR.ペリー長官は2月28日、新型炉技術の研究開発で重要な役割を担う高速中性子の照射施設として、多目的試験炉(VTR)の開発プロジェクトに着手したと発表した。翌3月1日には、VTR開発の必要性をDOE原子力局のウェブサイトで説明しており、2026年初頭にVTRを完成させるべく、概念設計に入るとの方針を明らかにしている。

 VTRの開発は、昨年9月に成立した「2017年原子力技術革新対応法(NEICA2017)」において、必要性が強調されていたもの。同法の条項に従いペリー長官は、米国民が使用する原子炉タイプの高速中性子源施設の必要性をDOEの任務として定めるとともに、2025年12月までにVTRの建設を傘下のアイダホ国立研究所で完了し、最大限に実用可能な施設として運転開始することになる。

©GEH社

 DOEはすでに昨年11月、VTRプロジェクトの支援企業として、GE日立ニュークリア・エナジー(GEH)社を選定。同社が開発したモジュール式のナトリウム冷却高速炉「PRISM」(=)の設計に基づき、原子炉タイプの高速スペクトル中性子照射能力を米国内で確立し、新型炉で使用される革新的な原子燃料や資機材、計測機器、センサー等の試験を進めるとしている。

 米国内では高速中性子の照射試験を行える施設が20年以上存在しておらず、非軽水炉型の新型炉開発に必要な照射試験の実施能力は失われている。DOEが提案するVTRでは、既存の軽水冷却試験炉と比べて、20倍の中性子損傷を加えることが可能であり、このような能力は、米国内で革新的な新型炉を開発中の科学者や事業者が必要としているもの。
 DOEはVTRプロジェクトにより、中性子照射試験を加速する最先端の技術がもたらされると指摘。DOEにとって不可欠の原子力インフラで近代化が図られるだけでなく、重要な先進技術や資機材の試験を米国内で安全かつ効率的、タイムリーに行う事が可能になるとした。
 ペリー長官は、VTRはトランプ大統領が指示した国内原子力産業の再活性化と拡大を実行に移す重要な一歩になると明言。「最先端技術を駆使したVTRは、米国企業が失った能力を提供することになり、ロシアや中国などの競合国に出向かなくても、米国内で革新的な技術や燃料の試験が行えるようになる」と述べた。
 DOE原子力局のE.マクギニス首席次官補代理も、米国では40社以上の民間企業が10億ドル以上の資金を投入して、固有の安全性を有する経済的にも競争力の高い次世代原子炉技術を開発中だと説明。「国内企業のこうした能力は、米国の国家安全保障、および米国が新型炉技術で再び世界のリーダーとなる上で重要だ」と指摘している。

 (参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)