フォーラトムが提言、欧州の原子力研究・技術革新に一層の財政支援を

2019年9月4日

 欧州15か国の原子力産業協会を代表するフォーラトム(欧州原子力産業会議)は9月3日、新しいポジション・ペーパーを公表し、欧州連合(EU)域内における原子力関係の研究・技術革新(R&I)プロジェクトには、EUから一層手厚い財政支援が必要だと提言した。
 このような支援を通じて、EUは地球温暖化防止とエネルギー問題の両方の目標を達成することが可能になると指摘。EU資金を提供すべき分野としては特に、最も付加価値の高いものやEU経済の脱炭素化に資する分野を挙げたほか、「ホライズン・ヨーロッパ」や「欧州原子力共同体(ユーラトム)研究訓練プログラム2021年-2025年」など、EUにおける様々なR&Iプログラム間の相乗効果により、分野横断的な技術革新協力を確実にすべきだと強調している。

 同ペーパーによると、近年は多数の国際組織が地球温暖化防止で原子力が果たさねばならない役割を強調しており、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は「世界全体の平均気温上昇を1.5度C以内に抑える上で原子力は重要だ」との認識を表明した。国際エネルギー機関(IEA)も、「原子力発電の急激な縮小はエネルギー供給保証と温暖化防止、両方の目標達成を危うくする」とした。
 欧州委員会(EC)が昨年公表した「2050年の戦略的長期ビジョン――万人のためのクリーン・プラネット」では、原子力は再生可能エネルギーとともに、欧州が2050年までに無炭素経済を達成する上でバックボーンになると明言。EUの「エネルギー同盟」も、その戦略として「原子力の技術分野でEUはリーダーシップを確実に維持すべきである」と指摘した。
 EUは現在、原子力R&Iへの投資レベルで中国やロシア、米国などに後れをとっていることから、同ペーパーは、これは欧州にとって大きな課題になるとしている。

 EUは昨年9月、全欧州規模の研究・技術革新促進に向けた第9次フレームワーク・プログラム(FP9)として「ホライズン・ヨーロッパ」を設定しており、これを実行に移すために現在、複数の機関が戦略計画を策定中である。その中の個別プログラムと、将来的な複数年作業プログラム(2021年~2024年)を結びつけることが目的で、この戦略計画によりR&I支援を実施する主要な分野を特定。フォーラトムとしてもこの機会に、EUが現在の課題に取り組む一助となるよう、以下のような政策項目を勧告している。

(1)「ユーラトム研究訓練(R&T)プログラム2021年-2025年」の中で核分裂R&Dに対する財政支援の枠組を拡充し、EU域内全体で国際レベルと同等以上の原子力技術革新の促進を可能にする。

(2)「R&Tプログラム」と「ホライズン・ヨーロッパ」で互いに補完的役割を持たせ、共通のテーマや分野横断的側面を結びつける。

(3)EUにおけるエネルギー技術政策の中核的計画「戦略的エネルギー技術(SET)プラン」の「アクション10(原子力)」で設定されたR&Iを統合し、R&Iプログラム全体で恩恵を共有できるよう支援する。

(4)「R&Tプログラム」のカバー範囲を変更し、EU加盟各国や産業界、学界で実施中の活動を反映したものにする――である。

 フォーラトムのY.デバゼイユ事務局長は、「EUが2050年までに域内経済の脱炭素化に向けて本腰を入れるのなら、低炭素電源である原子力のR&Iに一層の財政支援を行うべきだ」と断言。「ホライズン・ヨーロッパ」等で原子力R&Iに一層の支援が行われれば、EU発電部門の脱炭素化が進むだけでなく、エネルギー輸入への依存が軽減され、域内のエネルギー供給保証も高まるとの認識を示している。

 (参照資料:フォーラトムの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月3日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)