vol07.再生可能エネルギー拡大の影響は一国にとどまらない

脱原子力 ドイツの実像

 ドイツと国外の卸電力市場の価格差について、ドイツからの輸入が拡大しているオランダを例に挙げると、オランダの卸電力市場のスポット価格は、2013年の前日市場価格の平均が50ユーロ/MWh程度であったのに対して、ドイツの卸電力市場のスポット価格は平均で40ユーロ/MWh程度であった。これに対して、2010年は両市場の価格は45-50ユーロ/MWh程度で、価格差は殆ど無かった。近年、ドイツと国外市場との価格差が顕著になっており、オランダの例ではオランダ国内の卸電力市場で電力を調達するよりも、ドイツから輸入した方が割安な電力を調達できるため、両国の市場環境の変化がドイツの輸出を後押しすることとなっている(ECOFYS, “Necessity of Capacity Mechanisms”, 2012年9月)。

 ドイツの輸出拡大の要因として、市場の価格差と需給面の要因に加えて、系統運用上の手段として輸出入を活用している点も挙げられる。ドイツ国内の発電に占める再生可能エネルギーのシェアは年々高まっており、2014年には23%を占めている。再生可能エネルギーの中でも風力と太陽光の設備容量が大きく拡大しており、電力需要が低い時期に風力と太陽光の出力が増加する気象条件が重なると、これらだけで国内需要の大半を賄える状況が発生している。一方で、迅速な出力変更が難しくベース電源として運転する原子力や石炭火力は再生可能エネルギーの出力が増加し、需給が緩和している状況でも出力を落とすことが難しい。更に、これらの発電所は一旦運転を停止すれば、再起動にかかる費用がかかることもあり、供給過剰時より売電価格が低下しても運転を継続することがある。結果として電力が大きく余る状態となっており、ドイツでは卸電力価格が低迷してマイナスになる状況も発生している。また、電力の大幅な余剰は瞬時瞬時で需給を合わせる必要がある電力系統の運用上、大きなリスクとなっている。この時に系統安定化の手段として、ドイツで発電した電力を国外に輸出する対応が取られている。この例として、2015年6月第一週の電源構成の推移を示す。
 2015年6月第一週では、風力および太陽光の出力変動に対して、比較的容易なガス火力及び無煙炭火力の出力を抑えて運転を行う時間帯が多くなっている。再生可能エネルギーが更に高出力となる時間帯では、ガス火力の稼働調整に加えて揚水動力と輸出の活用によって、純負荷(需要+輸出+揚水動力-再エネ出力)をフラットにし、系統の安定化を図っている。このような輸出を活用した系統運用について、BDEWは、風力及び太陽光等の出力が不安定な発電設備容量の急速な拡大によって発電設備の出力変動幅が拡大する一方で、ガス火力等これに対応するための国内の調整用電源の整備が充分でないため、結果として輸出を活用することで需給を安定化させ、出力変動に対応している系統運用の実態を明らかにしている(BDEW, “Auswirkungen des Moratoriums auf die Stromwirtschaft”, 2011 年5 月)。

 このようにドイツでは再生可能エネルギーの導入拡大と省エネ等による国内需要の低下によって需給が緩和しており、国内外の市場価格差の拡大と系統安定対策の必要性から、電力の輸出量が拡大していることが明らかになってきている。更に、電力の物理的な潮流がドイツ国外に拡大することで、ドイツを含めた各国の電力系統に及ぼす影響も拡大している。ドイツ北部に多く設置されている風力発電の電力を需要地であるドイツ南部に送るためには、ドイツ南北を通る送電系統を経由することになるが、この送電系統は系統規模が十分でないため、結果としてドイツ北部の風力の電力が国外のチェコやポーランドを迂回して流れる事例(ループフロー問題)が顕在化してきている。これに対して、チェコの送電運用会社(CSPS)は、不安定な風力発電の出力の影響を受けて、国内に送電設備容量を大きく超える計画外潮流が流れており、同国の系統の安定性が脅かされていると指摘している。この問題について欧州委員会もループフロー問題としてドイツから他国へ輸出されている計画外潮流の実態を明らかにした上で対応を求めている。
 ドイツの意欲的な再生可能エネルギーの導入促進政策は、国内の卸電力市場価格の低下と電力系統に影響を及ぼすにとどまらず、国外にその影響が広がっている。ドイツの事例は、再生可能エネルギーの拡大の影響は一国にとどまらず、系統がつながっている大陸欧州において欧州全体で一致した対応が必要となることを明らかにしている。

 

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