COP27にて「現在の地政学的状況における原子力発電の重要な役割に関する共同声明」を公表

日本原子力産業協会は、COP27開催期間中の2022年11月16日、「現在の地政学的状況おける原子力発電の重要な役割に関する原子力産業界の共同声明」を、カナダ原子力協会、欧州原子力産業協会、米原子力エネルギー協会、ルーマニア原子力産業協会、英国原子力産業協会、世界原子力協会とともに発表しました。

原子力発電はパリ協定で定められた気候変動に関する目標を達成するために不可欠です。各原子力産業協会は、エネルギー安全保障を改善し、化石燃料の輸入への依存を減らすため、ゼロ炭素経済への公正で低廉な移行を確保し、雇用と経済成長を守るため、世界中で原子力発電の割合を増やす必要性を、政策決定者に認識し支援するよう強く求めます。

【共同声明本文】

Joint statement of the global nuclear industry regarding the critical role of nuclear energywithin the current geopolitical context


【共同声明仮訳】

現在の地政学的状況における原子力発電の重要な役割に関する世界の原子力産業界の共同声明

2022年11月16日

現在の世界的な地政学的状況は、弾力性があり、脱炭素で自立したエネルギーシステムの重要性をこれまで以上に強調している。エネルギー供給の安全性及び国民・産業界にとって低廉な価格は、世界中の意思決定者にとっての喫緊の課題である。パリ協定で定められた気候変動に関する目標を達成し、天然資源をより効率的に利用し、エネルギー革新に投資することは、依然として最重要課題である。

国連が最近発表した2022年の排出量ギャップに関する報告書は、現在の政策ではパリ協定の目標達成には不十分であることを示している。排出量を効果的かつ持続的に削減するためには、システム全体の変革が必要である。

COP27の枠組みにおいて、我々世界の原子力産業界の代表は、今後のエネルギーパラダイムと政策の再構築において、原子力発電が果たすべき重要な役割を支持し、この共同声明を発表する。

エネルギー安全保障を改善し、化石燃料の輸入への依存を減らすため、ゼロ炭素経済への公正で低廉な移行を確保し、雇用と経済成長を守るため、我々は意思決定者に世界中で原子力発電の割合を増やす必要性を認識し支援するよう強く求める。将来への備えとして、我々は、国民の幸福と産業の競争力を維持しつつ、外的ショックに耐えうる安全な低炭素エネルギー源を中心とした、弾力的なエネルギー戦略を設計することの重要性を強調する。エネルギー政策の再構築の原動力となるのは、戦争の武器としてのエネルギーの使用を止め、気候変動に関する目標を達成するという共通のコミットメントであるべきだ。

原子力は安全で低廉なクリーンエネルギーであり、24時間365日利用可能で、豊富な運転経験を持ち、半世紀以上にわたって経済の脱炭素化に貢献し、現在では世界の電力消費量の10%以上を供給している。

原子力は、1kWhあたりのライフサイクルにおけるCO2排出量が全てのエネルギー源の中で最も少なく(6gr/kWh)、ウランは豊富にあり、世界中に分布している。燃料費は発電コストのごく一部でしかなく、国民、行政、産業、農業など、電力に依存するあらゆる人間活動に対して、原子力は安定した電力コストを維持することができる。さらに、使用済み燃料を再利用およびリサイクルできることも、原子力ならではのメリットである。また、原子力は、気候変動に関する国際パネル(IPCC)が評価したすべてのネットゼロシナリオに含まれ、安定供給と脱炭素化に貢献する技術として位置づけられている。原子力発電は、過去50年間に約74GtのCO2排出を回避しており、これは世界のエネルギー関連総排出量のほぼ2年分に相当する。

現在のエネルギー危機の下でも、また世界的なパンデミックの際にも原子力は信頼性の高い電力を24時間体制で発電できることを示した。重要なサービスを継続的かつ弾力的に提供し、社会の安定を維持し、家庭、オフィス、学校、病院、インターネットプロバイダーに電力を供給した。既存の原子力発電所から発電する電気は非常に競争力があり、低炭素電源だけでなく、全てのエネルギー源の中で最も低廉で平準化した電気料金の選択肢であり続けている。原子力の新規建設もまたコスト競争力があり、現在開発中の小型モジュール炉(SMR)は、初期費用(投資)の低減と建設期間の短縮という付加的な利益をもたらす。さらに、大型原子炉、SMRおよび先進モジュール炉は、クリーンな水素製造、地域暖房、海水淡水化、工業用熱利用など、電気以外の幅広い用途を提供できるほか、再生可能エネルギー技術の変動性を補完できる。

将来に向けて、すべての人にクリーンで低廉なエネルギーを提供し、エネルギー貧困を撲滅し、世界のあらゆる地域で持続可能な経済発展を実現するという新しいパラダイムにおいて、我々は原子力発電を経済再出発戦略の中心に据える必要がある。原子力の技術、研究開発、教育インフラは、その社会的・経済的利益を考慮すると、資源の使用量が少なく信頼性の高い豊富なクリーンエネルギーを提供し、国連の持続可能な開発目標の17項目すべてを満たしている。

再生可能エネルギーによるエネルギー生産を増やすという我々の世界的なコミットメントは、電力網のバランスを取るために必要な追加の出力調整可能な低炭素能力を必要としている。現在および将来のエネルギー需要を確保するために、原子力分野における世界的な専門性と革新性が十分に活用されるべきである。エネルギー転換は、原子力発電の役割を維持・拡大することなしには不可能である。

以上のことを踏まえ、我々は、脱炭素で安全なエネルギーの未来を実現するため次のことを求める。

・2030年までに電力網における原子力の貢献度を高め、その結果、CO2排出量の削減に即時かつ長期的に大きな影響を与えるために、原子力の新規建設に対する投資を強化・加速すべきである。世界中で利用可能な(民間および公的セクター)さまざまな資金的枠組みは、原子力プロジェクトおよび関連する応用をより多くカバーできるように再び焦点を合わせる必要がある。原子力の役割は、再生可能エネルギーのような他の低炭素技術と密接に協力しながら、エネルギー供給の安定性、低廉で安定したエネルギー価格、脱炭素化への貢献を果たせることを十分に認識した上で、戦略的な観点から検討されなければならない。

・あらゆる原子炉の技術革新及び研究は世界規模での迅速な展開に向けて加速されるべきである。それにより、クリーンな水素製造、産業用熱、地域暖房、淡水化などの電力以外に十分な利用が可能である。エネルギー需要の多様化に伴い、コストと資源の効率的な方法で、地域の特殊性を反映し対応するために、異なる資源を包含する将来のエネルギー生態系が構築されるべきである。原子力は、クリーンなベースロード電源であり、間欠性の再生可能エネルギーの開発を支援することができる。第四世代原子炉のような新しい原子力の概念の市場投入を加速するため及び次世代の原子力オペレーターを育成するために、原子力の研究開発と教育に対して追加的支援を提供すべきである。

・クリーンな水素が将来、エネルギーキャリア(媒体)として重要な役割を果たすためには、低廉なコストで、消費地の近くで、低炭素で大量に生産する必要がある。原子力発電は、出力調整可能な発電のため、クリーンな水素のコストを最も低く抑えることができる(2ユーロ/kgと低い)。世界中のクリーン水素戦略には、再生可能エネルギーだけでなく、全ての低炭素技術も含めるべきである。

・原子力プロジェクトには、戦略的な計画と長期的なビジョンが必要である。政策立案者、金融界、産業界およびその他の利害関係者間の良好な協力は、サプライチェーンの各段階において原子力の利点が最大化されることを保証するために必要である。将来のエネルギー戦略を策定する際には、意思決定者は原子力の環境面、社会的および経済的利益を十分に認識する必要がある。

以上の点は、我々の将来の持続可能で強靭なエネルギー戦略である。 我々は、政策立案者、金融業界、その他すべての関係者とともに、我々のビジョンを実現し、クリーンエネルギーへの移行、安定供給、全ての人にとって低廉なエネルギーという共通の目標をさらに発展させていく用意がある。

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