ウクライナの原子力発電所の状況 #138


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第222号(現地時間2024年4月11日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は本日、一連のドローン攻撃により、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の原子力事故のリスクが「大きく」高まるなか、最大限の軍事的抑制とZNPPを保護するための5つの具体的原則の完全なる遵守を勧告した。

グロッシー事務局長は、IAEA理事国の緊急会合で演説し、「このような無謀な攻撃が、戦争の新たな重大で危険な前線の始まりとならないようにすることが最も重要である」と述べた。

グロッシー事務局長は月曜日(4/15)、ニューヨークの国連安全保障理事会で演説する。

本日の35か国による理事会開催は、ロシア、ウクライナ双方の要請により議長が召集したもの。

グロッシー事務局長は冒頭の声明で、「軍の決定、指揮を執る関係者に対して、原子力事故を防ぎ、プラントの健全性を確保するためのIAEAの5つの具体的原則に反するいかなる行動も慎むよう、断固として要請する。そして、国際社会に対して深刻な状況にある事態の鎮静化に向けて、積極的に取り組むよう求める」と述べた。

理事会は、3度のドローン攻撃がZNPPサイトを襲い、原子力安全およびセキュリティが危険に晒され、軍事紛争の最前線に位置する欧州最大の原子力発電所(ZNPP)が、既に非常に不安定な状況にあることに対しての懸念が深まるなか、1週間も経たないうちに開催された。

ZNPPが軍事行動の直接的な標的となったのは、2022年11月以来。これはまた、昨年5月に国連安全保障理事会でグロッシー事務局長が設定した原子力施設を守る5つの具体的原則に対する明白な違反でもある。グロッシー事務局長は理事会に対して、「我々は、この戦争の重大な岐路に立っている」と述べた。

グロッシー事務局長は、今回のドローン攻撃により、日曜日の事象前後にプラントが他に報告したものも含め、ZNPPの原子力安全およびセキュリティを損なう被害はなかったが、これらは危険性を「大きく拡大」させるもの、と指摘した。

事務局長はまた、「原子力発電所の攻撃により、いかなる軍事的、政治的利益を得る者はいない」と強調した。

「この壊滅的な戦争が、ザポリージャ原子力発電所や他の原子力発電所へのさらなる攻撃によって、不条理なほど危険なものになることを阻止するために全力を尽くすよう、私とIAEAを支援することを強く求める」

ウクライナ南部の同サイトでは、駐在するIAEA専門家チームが、施設付近から多くの砲撃など、軍事行動の音を頻繁に耳にするとの報告が続いている。

ここ数日、軍事情勢が悪化するなか、IAEA専門家チームはこの1週間、6基の原子炉の中央制御室、オフサイトの放射線モニタリング研究室、サイトの放射性廃棄物貯蔵施設など、サイトの巡回を行った。

しかし、2号機を訪問した際、2号機のタービン建屋の一部や廃棄物施設の一部への立ち入りが認められず、現状を確認することができなかった。以前にも報告したとおり、ZNPPは、原子力安全およびセキュリティにとって重要なあらゆる区域へのタイムリーかつ適切な立ち入りをIAEAチームに許可していない。

グロッシー事務局長は、「極めて困難な状況にあるなか、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームの存在は、これまで以上に重要である。彼らの公平で技術的な仕事により、我々は独立した、タイムリーな方法で現地の出来事を世界に伝えることができる。これらの重要なタスクを遂行するためには、原子力安全およびセキュリティにとって重要なあらゆる区域への迅速かつ制限のない立ち入りが必要である」と述べた。

これとは別に、ZNPPはIAEA専門家チームに対して、多くのプラントスタッフが住む近隣の町・エネルホダルの冬季暖房シーズンが正式に終了したことを受け、4号機を明朝から冷温停止状態に移行させる意向を報告した。

ZNPPは2022年9月に送電系統から切り離されているが、地域暖房やサイトの液体廃棄物処理のプロセス蒸気を供給するため、少なくとも6基中1基が温態停止状態を維持している。

IAEAの勧告により、プラントは今年初め、そのような廃棄物を扱うため、新たに設置された4台のディーゼルボイラーの運用を開始したが、4号機は温態停止状態を維持し、主にエネルホダルに熱を供給していた。その他の5基は、冷温停止状態にある。

冷温停止状態では、熱除去が中断された場合、原子炉内の核燃料の冷却が困難になるまでに数日の追加対応のマージンがある。原子炉に必要な冷却水も、温態停止時よりも少なくて済む。

グロッシー事務局長は、「冷温停止状態に移行することは、原子力安全およびセキュリティにとって前向きなステップであるが、プラントが現在直面している深刻な軍事的な危険性が影を落としている」と述べた。

ZNPPはまた別に、IAEA専門家チームに対して、4月初旬に喪失した唯一の予備送電線への接続が復旧したことを報告した。プラントは現在、750kVの主送電線4系統のうち1系統と、数日間切断されていた330kVの予備送電線6系統のうち、最後の1系統を利用することができる。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、この1週間何度も空襲警報が発せられたにもかかわらず、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告している。リウネ1号機および4号機は計画停止中である。フメルニツキー・サイトのIAEA専門家チームは、4月8日に交代した。 

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-222-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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