ウクライナの原子力発電所の状況 #140


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第224号(現地時間2024年4月18日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の訓練センターで再び、ドローンによる攻撃未遂があったことを明らかにした。被害はなく、死傷者は出ていない。

先週の2件のドローン攻撃に続き、訓練センターを標的にした攻撃はここ最近で3回目。ZNPPは、サイトに駐在するIAEAチームに対して、本日のドローンは「無力化」されたと報告したが、それ以上の詳細は明らかにされていない。

IAEAチームは、ZNPPが後に未遂のドローン攻撃があったと報告した、同じ時刻に爆発音を耳にしている。

IAEAチームはこの事象を評価しようとしているが、ZNPP側から潜在的なセキュリティ上のリスクを理由に、ZNPPのサイト境界のすぐ外側にある訓練センターへのアクセスを拒否された。

一連のドローン攻撃によって、紛争の最前線に位置する欧州最大の原子力発電所ZNPPで既に不安定な原子力安全とセキュリティの状況に対する懸念が大きく深まってから、2週間も経っていない。

グロッシー事務局長は、「今回の事象が確認されれば、極めて憂慮すべき事態である。この事象の背後に誰がいるにせよ、健康や環境に重大な影響を及ぼし、決して誰の得にもならない深刻な原子力事故の現実の脅威を回避するために、最大限の軍事的自制を求める国際社会の再三の要請を無視しているように見える」と述べた。

続けて、「これまでのところ、ドローン攻撃はサイトの原子力安全を毀損していない。しかし、数日前に国連安全保障理事会で述べたように、これら無謀な攻撃は直ちにやめなければならない」と述べた。

今週初め、過去数週間にわたってZNPPを監視していたIAEA専門家チームと交代するため、火曜日(4/16)に紛争の最前線をわたり、新たなチームがZNPPに到着した。

グロッシー事務局長が、軍事紛争中の原子力事故を防止するため、2022年9月にZNPPでの駐在体制を確立して以来、18番目のIAEA専門家チームとなる。

グロッシー事務局長は、「ZNPPにおける我々の存在は、これまで以上に必要とされている。安全保障理事会でも報告したように、我々は原子力事故に危険なほど近づいている。今月のドローン攻撃は、私が約1年前に安全保障理事会で定めたサイト保護の5つの具体的原則に初めて明らかに違反するものである」と述べた。

「これらの極めて困難かつチャレンジングな時期を迎え、安全保障理事会のメンバーからIAEAの重要な任務に対する強い支援と満場一致の評価が表明され、大変勇気づけられた。プラントの安全・安心を維持するために全力を尽くすなか、IAEAの役割が不可欠であることは誰もが認めている」と続けた。

本日のドローン攻撃未遂の報告に加え、IAEA専門家チームは、ここ数週間から数か月の間、ほぼ毎日のように起こっているように、週の初めに数発の砲撃音を耳にした。また、以前にもあったが、サイト付近での砲撃により、ZNPPの管理棟付近に駐車していた車の警報機が作動したこともあった。

グロッシー事務局長は、「私は、IAEA理事会と国連安全保障理事会の両方において、手遅れになる前に、最大限の軍事的自制を求める我々の要請が聞き入れられることを切に願う。本日報告されたドローンの爆発が示すように、プラントが直面している危険性は消えていない。4月7日に我々が見たように、状況はいつでも突然、劇的に悪化する可能性がある」と述べた。

全原子炉は現在、冷温停止状態にあるものの、原子力安全およびセキュリティは依然として脆弱なままである。新たなIAEAチームは、原子力安全およびセキュリティの7つの不可欠な柱と原子力事故を防ぐための5つの具体的原則に照らして、プラントの状況の監視を継続していく。

とりわけ、2年以上前に紛争が始まって以来、サイトのメンテナンスレベルが低下していることを鑑み、継続的なメンテナンス作業の程度と効果に着目していくことが最も重要である。

1号機の変圧器のメンテナンス作業は、2号機の安全システムの一部と同様に進行中であり、4月末までに完了する予定。

またZNPPがIAEAチームに報告したところによると、放射線防護プログラムが見直され、現在はロシアの規制枠組みに沿ったものになっている。

ZNPPによれば、サイトが停止状態にあり、原子炉6基で大規模なメンテナンスが行われていないことから、スタッフの放射線被ばく量は大幅に減少したという。

日曜日(4/14)、IAEAチームは、サイト境界内を巡回した。5つの具体的原則の遵守を監視するため、チームは、彼らが巡回したエリアに重火器がないことを確認することができた。しかし、チームは、とりわけ、タービン建屋の西側、ZNPP冷却池の隔離ゲート、近隣のザポリージャ火力発電所(ZTPP)の330㎸の開閉所など、サイトのすべてのエリアを訪問するための許可を得ていない。

またこの1週間、IAEAチームは、2号機の原子炉建屋と格納容器を訪れ、使用済燃料プールの冷却ポンプの定期交換作業を視察した。

カホフカ・ダムが昨年破壊されて以降、困難な状況に直面しているサイトの水の状況を確認し、ZTPPの放水路からZNPPの冷却池に一日あたり約5,000㎥の水が汲み上げられているとの報告を受けた。ダムが破壊されてから建設された11基の井戸は、原子炉や使用済燃料の冷却用に毎日同量の水を提供している。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAチームは、この1週間ほぼ毎日空襲警報が発せられるなど、紛争が続くなか、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告している。

予定されていたメンテナンスおよび燃料交換作業がリウネの4基中2基で、南ウクライナの1基で進行中。チョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家は水曜日(4/17)に無事交代した。

IAEAは今週、フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所への個別ミッションを完了し、これら発電所における継続的なプレゼンス活動の調整とウクライナの原子力施設のスタッフを支援するための昨年の医療ミッションのフォローアップを行った。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-224-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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