ウクライナの原子力発電所の状況 #80


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第162号(現地時間2023年6月7日)[仮訳]

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)では、今週初めに下流のダムが被害を受けた後、水位が低下し続ける近くのカホフカ貯水池にアクセスできなくなった場合に備えて、最大限の冷却水を確保する作業が進行中であると語った。

グロッシー事務局長によると、6月6日の早い時間にダムが破壊されて以来、貯水池の水位はこれまでに約2.8m低下し、本日現地時間午後6時には水位は14.03mに達したという。

しかし、同事務局長は、ZNPPに駐在するIAEAの専門家からの情報を引用して、水位の低下率はわずかに減速しており、昨日の毎時約11cmをピークに5cmから7cmになっていると述べた。

水位が12.7mを下回ると、ZNPPは貯水池からサイトに水を汲み上げることができなくなる。ダムの被害の全容は明らかになっていないため、事態の変化を予測することはできない。しかし、現在の低下率が続けば、2日以内に12.7mの高さに達する可能性がある(使用されている高さはバルト海に対する相対的なもので、バルト海面高度システムとして知られている)。

そのような事態に備えて、ZNPPは、カホフカ貯水池の水をまだ利用可能なうちに十分に活用し、サイトに隣接する大型冷却池だけでなく、より小型のスプリンクラー冷却池や隣接する水路に水を継続的に補充している。

これらの水源が満杯になった場合、数か月間、6基の原子炉と使用済燃料の冷却には十分である。グロッシー事務局長によると、ZNPPの6基はすべて停止状態になっているが、それでも燃料の溶融と放射性物質の放出を防ぐために冷却水が必要だという。

カホフカ貯水池へのアクセスができなくなる可能性があることから、ZNPPの他の水源、特にサイト近くの大きな冷却池と、貯水池からZNPPサイトへ水を運ぶために使用されている近くのザポリージヤ火力発電所(ZTPP)の放水路を維持する必要があることが重要視されている。

「今後数か月間、ZNPPの冷却用に十分な水を確保するためにZNPPの冷却池とZTPPの放水路を完全に維持することが不可欠である」とグロッシー事務局長は述べた。

来週ZNPPを訪問し、ダム損傷後の現地の状況を評価し、5月30日に国連安全保障理事会に提示したZNPPを保護するための5原則の遵守状況を監視する。

また、新たに設定された原則の下でIAEAの活動が活発化していることをふまえ、現在のチームをより大規模なグループに拡大し、現場でのIAEAのプレゼンスを強化する。

「ZNPPにおけるIAEAのプレゼンスは、この地域における軍事活動が活発化する中で、原子力事故の危険性とそれが人々と環境に及ぼす潜在的な影響を防止するために、これまで以上に極めて重要である。ZNPPの主な冷却水源が失われれば、既に極めて困難な原子力安全とセキュリティの状況をさらに複雑化する」とグロッシー事務局長は述べた。

ZNPPの6基の原子炉のうち5基は冷温停止中である。6基が停止状態にあっても、6基の原子炉から排出される液体放射性廃棄物の処理などの作業のため、1基は蒸気生産のため温態停止状態のままである。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-162-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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