福島第一の多核種除去設備等処理水の処分方針決定に寄せて

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 新井 史朗

4月13日、東京電力福島第一原子力発電所で発生する汚染水を多核種除去設備(ALPS)等で処理した水(トリチウム以外の放射性物質を取り除いた水。以下、ALPS処理水)を海洋放出するとの方針が廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚会議で決定された。

今回公表された方針は、政府の汚染水処理対策委員会の下に設置されたトリチウム水タスクフォースでの技術的な評価、多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(ALPS小委員会)での安全性はもとより、風評被害など社会的な観点も含めた総合的な検討、さらには関係者との対話を踏まえてなされたものであり、関係者のこれまでのご尽力に敬意を表したい。

今般決定された方針では、トリチウムを放出する際の濃度については規制基準6万Bq/Lの40分の1(WHO飲料水基準の約7分の1)にあたる1,500Bq/Lにまで希釈し、年間の総量は22兆Bqを下回ることとされており、放出期間は40年以上にわたることになる。これに対しALPS小委員会では、極めて保守的な仮定を置いて影響評価を行っている。すなわち、タンクに貯蔵されているALPS処理水全て(含有トリチウム量は約860兆Bq)を1年間で海洋放出し、さらに翌年以降も同量の海洋放出を継続したと仮定した上で、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」*の評価モデルを用いた試算を行い、その影響は日本における自然放射線による影響(年間2.1mSv)を大きく下回る年間約0.000071mSv~0.00081mSvと評価している。

海洋放出は、日本やその近隣諸国を含め世界の原子力関連施設での安全基準を満たす濃度に処理・希釈される形で行われている。また、日本の原子力規制委員会は、規制基準を守って実施されるため、環境や海洋での産物に影響が出るとは考えられないとの認識を示している。

ALPS小委員会における検討結果は、国際原子力機関(IAEA)の専門家チームによる審査が行われ、昨年4月に公表されたIAEAレビュー報告書では、「十分に包括的・科学的に健全な分析に基づいており、必要な技術的・非技術的および安全性の側面について検討されている」との評価を得ている。IAEAのグロッシー事務局長は、今年3月に行われた梶山経済産業大臣との会談において、①レビューミッションの派遣、②環境モニタリングの支援、③国際社会に対する透明性の確保、について全面的に協力し、引き続き支援を行う用意があると述べている。

今後の実施に際しては、国と東京電力をはじめとする関係者には、ALPS小委員会の報告書やこれまでに「ご意見を伺う場」等で寄せられた声を踏まえ、風評影響を最大限抑制する対応を徹底するとともに、環境影響についてのモニタリング結果を国内外に分かりやすく発信するなどの取り組みにより、国内外の理解醸成ならびに不安解消に努めていただきたい。

当協会は引き続き、国内はもとより海外へ向けても、IAEAをはじめとする海外関係機関との連携を通じ、正確な情報の提供と理解促進に努めてまいりたい。

以 上

*電離放射線による被ばく線量とその影響を評価・報告するために設置された国連の委員会
<参考>
◆多核種除去設備等処理水の取扱いに関する検討状況について(御意見を伺う場(第7回)参考資料:廃炉・汚染水対策チーム)
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/takakushu_iken/pdf/1008_sankou1.pdf
◆多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/018_00_01.pdf
◆IAEAレビュー報告書(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2020/04/20200402002/20200402002.html
◆処理水ポータルサイト(東京電力ホールディングス)
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/
<関連メッセージ>
◆国際原子力機関(IAEA)との連携による処理水処分への理解に向けて(2020/3/4)
https://www.jaif.or.jp/president_column96_200304

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