vol06.多面的に評価する必要がある”理想像”ドイツの現実

脱原子力 ドイツの実像

課題5.再生可能エネルギーのCO2削減効果の低さ

 図9はドイツのCO2排出量の経年変化を表している。実は2012年、2013年と再生可能エネルギーによる発電電力量自体は増加したが、CO2の排出量は連続で前年を上回ってしまった。
2014 年は減少に転じたものの、暖冬の影響が大きいことが指摘されている。
 CO2の排出量は景気や気象に大変大きく左右されるため要因分析が必要であるが、再生可能エネルギーの導入量が増えても系統全体での削減量が大きく期待できない理由は、端的に言えば火力発電の低炭素化が進まなかったことにある。
 再生可能エネルギーの不安定性を吸収するためには火力発電を使わざるを得ないが、課題2で述べた通り、火力発電の市場は自由化されているため、コストの高い天然ガス火力の稼働は減り、国内に産出する安価な褐炭を使う火力の稼働が増加したのである。火力発電は再生可能エネルギーの不安定性を調整する“調整電源” としての稼働を強いられ、稼働が許されるのは再生可能エネルギーが発電しない時に限られる。稼げる時間の奪い合いが生じ、環境性には優れるが価格の高い天然ガスは市場から退出を迫られ、老朽化して減価償却も終わったような褐炭、石炭の発電所が生き残ってしまったのである。
 図10 から火力発電の内訳がわかる。ガスの割合が減って、石炭、特に褐炭が増加しており、火力発電の低炭素化は進んでいないことがわかる。
 その結果として、ドイツでは再生可能エネルギーの導入量が拡大している割にはCO2排出量の削減が進んでいない。図9を見れば、リーマンショックで世界的に排出量が減少した2009年は別としてそれほど顕著な減少は見られないといえよう。1990年を起点とした同じグラフ(図11)では大きく減少したように見えるが、これは東西ドイツの統一により西側の進んだ高効率技術が普及することによるもので、当時の削減効果の47%は統一によるものであることをドイツ環境省が分析している。

 
 

 なお、再生可能エネルギー導入拡大の目的の大きな一つがCO2削減であるならば、そのコストパフォーマンスを検証する必要がある。政策としての有効性を比較検討するには、目的に対して費用対効果がどれだけ高いかの分析が必要だからだ。図12は再生可能エネルギーの電気によって、どれだけの温室効果ガス排出が回避できたかを示しているが、2011年、ドイツは再生可能エネルギーの電気により7000万トンの排出回避に成功したとしている。しかし、この年にドイツ国民が負担をした再エネ発電に対する賦課金総額は1兆8900億円にも上る。単純計算で1トン当たりの削減に2万7000円を要したことになる。
 ドイツは2020年には1990年比で温室効果ガスを40%削減する目標を掲げているものの、2014年に精査したところ、これが未達になる可能性が強いという結論が出された。発電分野からの排出をさらに2200万トン削減するために「CO2排出課税案」が検討されたものの、これが導入されれば、国内の石炭・褐炭産業が打撃を受けるとして激しい反対に遭い、結局廃案となっている。
 特に今後原子力発電所を停止させるのであれば、電源不足に備えて褐炭火力発電所には存在はしていてもらわねば困るが、さりとて自由に発電されたのでは掲げたCO2削減目標が達成できない。
そのためいくつかの褐炭火力発電所に対して卸電力市場に電気を売ることを禁止する代わりに、リザーブとして4年後まで維持することを求めた。そのためのコストとして規制機関が負担するのは、4年間で合計9億2000万ユーロにも上ると報じられている。それでも削減目標に届かない可能性も指摘されるが、その場合には褐炭発電業界が2018年の時点で150万トンの追加削減を行うとされている。しかしこれはどのように追加削減が行われるのかも明らかでなく、さらなるコストを伴うものになる可能性がある。

 
 

見習うべき点:再生可能エネルギーと自然との調和

 上記に見てきた通り、ドイツはFITによる国民負担のコントロールには失敗し、大幅なCO2削減にも成功したとは言い難い。しかし、一つ見習うべきは再生可能エネルギーの導入にあたって自然との調和を求めていることだ。
 州によって規制の内容が異なる場合もあるが、例えば再生可能エネルギー設備建設のために森林伐採を行うようなことがあれば、ある程度の面積の植林が義務付けられるという。ノイハルデンベルク空港ソーラーパワープロジェクトは、空港跡地を利用したものであるが、敷地の3倍(90ヘクタール)の土地を別の場所で確保して、25年間にわたって自然保護の取り組みを継続することが、再生可能エネルギー事業者に義務づけられているという。さらに重要なのは、撤去費用を事業者が国に供託金として支払っておく制度であろう。事業者が倒産したような場合でも、国はその供託金を基に国民負担を強いることなく撤去をすることができるのだ。
 翻って日本は、「自然エネルギーは自然にやさしい」というイメージがあるせいか自然環境保全という観点の規制が非常に脆弱であり、各地で地域住民の反対運動に発展している。

“Energiewende”(エネルギーシフト)の行方

 ドイツのエネルギー変革、“Energiewende” はコストの増大など多くの課題を抱えている。しかし国民はEnergiewendeのコンセプトを強く支持をしている。2014年1月のものではあるが世論調査をみると、Energiewendeが正しいと思うかという問いに対して、「完全に正しい」「どちらかといえば正しい」を合わせると8割が賛意を示している。また、国際連系線で他国とつながっているドイツでは安定供給に関する課題は明らかになりづらい。
 こうした事情により、ドイツが大きくEnergiewendeをやめて方向転換することには決してならないであろう。しかしギリシャに端を発する経済危機、シリアの難民問題など様々な課題を抱え、Energiewendeの正念場はこれからだ。

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