米国の原子力プラントの運転期間延長の現状――運転期間延長が加速 80年運転も続々
2025年10月31日
■世界の趨勢:既存炉の延長が低炭素・供給安定の鍵に 米国では60年運転が標準化
世界では、既存炉の健全性を確認したうえで、運転期間を延長する動きが広がっています。国際エネルギー機関(IEA)などは、喫緊の課題である二酸化炭素(CO2)の削減には原子力発電の活用は不可欠であり、とりわけ既存プラントの40年超運転は「最も経済性の高い低炭素電源」と位置付けています。最近では、CO2削減効果に加え、原子力発電が持つ供給安定性への評価も高まり、原子力の再評価が進んでいます。
こうした潮流を受け、日本では2025年2月、第7次エネルギー基本計画により、安全性の確保を大前提に「原子力の最大限活用」が閣議決定され、同年6月には、運転期間を40年とし一回に限り最長20年の延長を認める原子炉等規制法と電気事業法の規定が改正、施行されました。
世界に目を転じると、フランスやフィンランドなど、多くの国々では定期的な安全審査を通じて、運転延長認可の更新回数に制限を設けず、安全性が確認されたプラントの運転期間の延長を認めています。
世界最大の原子力発電国・米国でも、既存炉の長期運転が加速しています。米国では、既存炉の有効活用策の一つとして、原子力発電所の運転期間を20年延長する措置が一般化しており、これまでに計97基のプラントが運転期間延長の認可を取得しています(うち、10基が早期閉鎖)。2025年10月現在、運転中のプラント94基のうち、87基(合計出力:9,414.9万kW)が運転期間延長の認可を取得済みで、3基(同349.2万kW)が申請中、1基(同121.0万kW)が申請予定です。また、米国では2度目の運転期間延長も可能となっており、このうち15基*(同1,392.2万kW)が80年運転の認可を取得しています(*気候変動を含む潜在的環境リスクの見直しに伴い、再評価が必要となったピーチボトム2、3号機については、再評価完了まで80年運転認可の効力が一時停止)。さらに、現在10基(同1,036.7万kW)が申請中であり、20基以上が将来の申請予定を表明しています。

■再評価される既存炉の価値
こうした運転延長の動きが広がる一方で、かつて経済性を理由に閉鎖されたプラントにも、再評価の動きが見られます。
2010年代には、20年の運転期間延長を申請し認可されたものの、経済性の悪化等を理由に閉鎖に追い込まれたプラントもありました。しかし近年では、AIやデータセンターの急拡大に伴う電力需要の増加を背景に、カーボンフリーで24時間安定的に電力を供給できる原子力発電が再び注目を集めています。さらに、インフレ抑制法(IRA)による財務的支援策が追い風となり、既存炉の運転期間延長のみならず、閉鎖済みプラントの再稼働に向けた動きが活発化しています。
ミシガン州のパリセード原子力発電所(PWR, 85.7万kW)では、経済性を理由に2022年に閉鎖されたものの、2024年には80年運転の認可を視野に再稼働をめざす動きが進んでいます。また、2019年に閉鎖したスリーマイル・アイランド1号機(PWR, 89.0万kW, 現クレーン・クリーン・エネルギー・センター)や、2020年に閉鎖したデュアン・アーノルド1号機(BWR, 62.4万kW)も80年運転をめざして、2度目の運転期間延長申請を予定しています。

■40年の運転認可期間の背景と米国民の理解
米国では、原子力発電所の初期の運転認可期間は40年とされていますが、これは技術的な制約ではなく、主に経済性を考慮して設定されたものです。運転期間延長の申請はあくまで自発的なものであり、プラント所有者が規制当局の原子力規制委員会(NRC)が要求する技術要件やその費用を勘案し、判断します。

2025年1月1日現在で60%強の57基のプラントが40年超運転を実施中であり、そのうちの24基が50年の運転期間を超えて運転中です。

米国で長期運転するプラントの運転実績も良好です。米国原子力学会(ANS)の最近の調査によると、直近3年間(2022~2024年)の、最も古い10基のプラントの平均設備利用率は93.15%、上位20基では91.67%となっており、長期運転においても高い運転実績が維持されていることが示されています。なお、2015年6月に公表されたビスコンティ・リサーチ社による世論調査では、「原子力発電所の運転認可更新」について、「安全基準を満たす限り、認可を更新すべき」と回答した米国民が87%に上りました。
■政策の軸足:脱炭素から国家強靭化へ
気候変動を最重要課題の一つとして位置付けた、J. バイデン政権下では、原子力を「ゼロエミッション電源」としてクリーンエネルギー政策の一環に位置付け、税控除制度(PTC/ITC)や民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラムといった原子力支援策によって、既存原子力発電所の運転継続を支援してきました。
一方、2025年に再登場したD. トランプ政権は5月23日、原子力産業基盤の活性化やNRCの改革等を指示した、原子力に関する4本の大統領令を発表。原子力発電を「国家の強靭化とエネルギー安全保障の要」として再定義し、既存炉の運転期間延長も戦略的施策の一つに据えています。大統領令では、既存プラントの運転継続の申請に対する最終決定について、最初の規制ステップから1年以内に結論を出すよう、NRCに対して求めています。
両政権とも原子力支援に変わりはありませんが、バイデン政権が脱炭素化政策の一環として原子力を支援していたのに対し、現政権は気候変動対策よりも国家安全保障・供給網強化を重視する姿勢を鮮明にしています。
このように、米国では60年運転が標準化し、80年運転も現実的な選択肢として定着しつつあります。今後は、経年化プラントの安全性評価の高度化や、経済性確保に向けた支援制度の継続が重要な課題となります。
<米国における原子力発電所の運転期間延長の更新状況(60年運転、80年運転)>
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