リトアニア 原子力導入を検討へ
11 Jul 2025
リトアニア政府は7月3日、リトアニアにおける原子力開発の可能性について協議を行い、国内における原子力開発の準備に向け、国営企業イグナリナ原子力発電所を含む作業部会をエネルギー省に設置することを決定。同時に原子力安全検査局(VATESI)に対し、安全規制に関する提案の提出を指示した。
リトアニアでは、イグナリナ原子力発電所(軽水冷却黒鉛減速炉:RBMK-1500×2基、各150万kWe)が1980年代から稼働していたが、欧州連合(EU)は、ウクライナのチョルノービリ原子力発電所と同型であるRBMK炉の安全性への懸念から閉鎖を要求、リトアニアはEU加盟と引き換えに同発電所を2009年までに閉鎖した。同発電所は閉鎖されるまで、リトアニアの電力の70%を供給していた。その後、イグナリナ原子力発電所近傍のヴィサギナスに日立製作所が主導する新規原子力発電所プロジェクトも浮上したが、福島第一原子力発電所の事故により、原子力発電に対する国民の支持は低下。2012年の原子力発電所の新規建設への支持を問う国民投票では否定的な意見が優勢となり、2016年10月の総選挙による政権交代を経て、翌11月にヴィサギナス・プロジェクトは凍結された。その後、リトアニアでは電力不足を補うため、電力供給源の多様化を図り、再生可能エネルギーの導入を促進。現在、総発電電力量の約7割を再生可能エネルギーで賄うものの、近隣諸国からの電力輸入量も多い。
イグナリナ原子力発電所のL. バウジス所長は、「原子力が再び国家戦略の重要課題として取り上げられたことは、リトアニアが長期的安定、エネルギーの自立を目指していることの表れ。リトアニアの電力需要が2050年までに3倍以上になると予測される中、クリーンで信頼性が高く、競争力のあるエネルギー確保のため、さまざまな電源について現実的な評価が必要」とし、「小型モジュール炉(SMR)は、有望な選択肢の一つであり、真剣かつ専門的に評価されるべき」と語った。さらに「イグナリナ原子力発電所は、運転のみならず廃止措置においても長年にわたるノウハウを蓄積しており、この経験は新たな原子力開発計画において極めて重要である」と述べ、作業部会に積極的に協力し、実現可能性調査の準備に貢献していく意向を示した。
作業部会では関連する国家機関、学術機関、エネルギー関連企業の代表が参加し、原子力開発の可能性を評価する。詳細な分析を行い、一般市民の参加を促し、国内外の専門家と協力しながら、小型炉プロジェクトの評価について報告書を作成し、リトアニアにおける原子力開発の戦略的方向性と行動計画を提示することとしている。
昨年承認された国家エネルギー自立戦略では、電力需要の増加と気候目標の達成に対応するため、あらゆる電源を検討する必要があると強調されている。リトアニアの電力需要は、2030年の240億kWhから2050年には740億kWhと、3倍以上に増加する可能性があり、気候変動への対応やエネルギー安全保障、各種調査結果を踏まえると、合計して最大150万kWeの原子力導入が一つの有力な選択肢とされている。同戦略では、2028年までに小型炉の設置に関する決定を行い、最初の50万kWの初号機を2038年までに稼働可能とし、後続機を2050年までに稼働させるとしている。
リトアニア政府は、原子力は、太陽光や風力の発電量が不安定な時期にも安定した電力供給を維持する、エネルギーシステムのバランスと信頼性を確保する補完エネルギー源の役割があると指摘。原子力との統合により、気候中立目標の達成をより効果的に進め、電力供給の安定性と競争力の向上に期待している。昨年9月にイグナリナ原子力発電所が実施した世論調査によると、リトアニア国民の42%が新世代の原子力開発を支持しているという。
さらにイグナリナ原子力発電所は7月9日、イタリア・ローマで、仏パリに本社を置く先進炉開発企業ニュークレオ社と協力覚書を締結した。この覚書は、リトアニアにおける先進高速炉(LFR)技術の実現可能性を共同で分析するため、両者が協力することを想定したものである。ニュークレオ社は第4世代の先進モジュール炉(AMR)である鉛冷却高速炉(LFR)と使用済み燃料を利用する技術を開発中で、原子力発電の運転経験がある国々や持続可能かつ安全な使用済み燃料の管理に向けて、その高度な運用モデルを適用することを目指している。
同様のモデルは、すでにスロバキアによって選択されており、今年6月、スロバキア国営の原子力廃止措置企業であるJAVYSは、国内の既設炉から回収された使用済み燃料由来のMOX燃料を使用する、ニュークレオ社製のLFRを4基、JAVYSが所有、廃止措置を実施するボフニチェ原子力発電所(V-1)サイトに建設する計画を発表している。
覚書の調印に立会った、リトアニアのZ. ヴァイチウナス・エネルギー相は、「イグナリナ原子力発電所の有するノウハウは現在、廃止措置にのみ活用されているが、先進的な原子力技術開発や使用済み燃料削減に向けた技術の可能性を評価する機会を逃すべきではない」と述べ、革新的な解決策の早期評価の必要性を強調した。