国内NEWS
25 Apr 2025
38
東芝 UAEと重粒子線治療装置供給で調印
海外NEWS
23 Apr 2025
411
ノルウェー政府 SMR発電所計画で環境影響評価の準備へ
海外NEWS
23 Apr 2025
375
ハンガリーのパクシュ増設 大型設備の製造に進展
国内NEWS
22 Apr 2025
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新潟県議会 柏崎刈羽再稼働の住民投票条例案を否決
海外NEWS
22 Apr 2025
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米国 軍事施設向けマイクロ炉導入計画を推進
海外NEWS
21 Apr 2025
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米DOE 先進炉開発5社にHALEU供給へ
海外NEWS
21 Apr 2025
546
チェコ SMR建設計画に進展
国内NEWS
18 Apr 2025
747
「使用済燃料対策推進協議会」エネ基策定後 初開催
ノルウェー政府は4月8日、同国西部にあるアウレとハイムの両自治体で計画されている複数の小型モジュール炉(SMR)を備えた原子力発電所の建設に向け、環境影響評価(EIA)プログラムの策定を複数の機関に委託した。この計画は、ノルウェーの新興エネルギー企業であるノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft AS)社が2023年11月に提案したもので、西部ノルウェー海側のアウレ(Aure)自治体とハイム(Heim)自治体の境界に位置する共同工業地帯のタフトイ(Taftøy)工業団地でのSMR建設を想定している。これを受け、エネルギー省、保健・介護サービス省、司法・公安省、気候・環境省の4省は、水資源エネルギー局(NVE)、放射線・原子力安全局(DSA)、国民保護局(DSB)に対し、包括的な環境影響評価(EIA)プログラム策定に向けた勧告を、遅くとも今年9月までに作成するように求めている。ノルスク社が8日に4省から受け取った書簡によると、4省は各局との責任分担を明確化し、EIAプログラムはノルウェーの法律と国際条約を確実に遵守しなければならないと強調。影響評価の目的は、原子力法やエネルギー法、公害防止法および放射線防護法に基づく許認可プロセスにおいて、その決定に関連する十分な情報提供に資することである、と説明している。ノルスク社は今回の決定を受け、「ノルウェーの原子力法を適用した実践的なガイドラインの策定において重要な一歩である。ノルウェーにはすでに包括的な原子力法があるが、商業用原子力発電に適用されるのは初めてである」と述べ、ノルウェーの原子力発電にとって歴史的であると評価した。タフトイ工業団地で計画されている発電所は、最大出力150万kW、年間最大125億kWhの発電能力を持ち、運転時には最大500人の雇用を見込んでいる。ノルスク社は、ノルウェー国内の複数の自治体や電力集約型産業と連携したSMRの立地可能性調査を実施し、SMRの建設・運転を目指している。同社のJ. ヘストハンマル会長によると、国内では原子力発電導入に向けた調査に率先して取組む自治体の数が急速に増加しているという。
23 Apr 2025
411
ハンガリーのP. シーヤールトー外務貿易相は4月8日、同国のパクシュ原子力発電所の増設プロジェクト(=パクシュⅡプロジェクト 5、6号機を増設、各VVER-1200、120万kWe)に関連し、6号機の原子炉容器がロシア国営原子力企業ロスアトム傘下でサンクトペテルブルクにあるAEM-Specstal工場で鍛造されているほか、5号機の最初のタービン部品が、仏アラベル・ソリューションズ社のベルフォール工場で製造されていることを明らかにした。シーヤールトー相は、「5号機のタービン部品がフランスのベルフォールで、6号機の原子炉容器がロシアのサンクトペテルブルクのヨーロッパ最大級の鍛造工場でそれぞれ製造開始されている事実は、増設プロジェクトが大規模な国際投資であることを示している」と述べた。さらに、「パクシュⅡプロジェクトは、EU域内で進行中の、最大かつ最先端の原子力プロジェクト。その成功は、国内のエネルギー供給の長期的な安全保障にとって極めて重要」と指摘。バイデン前政権による制限措置がプロジェクト進行の妨げとなっているものの、「プロジェクトは前進しており、重要なマイルストーンに到達したことには大きな意味がある」と強調した。また、この製造は欧州とハンガリーの最も厳しい規制に従って行われており、原子炉容器は少なくとも60年間、300℃の温度と162バールの圧力に耐えなければならず、製造期間中に約700回の品質チェックを受けるという。パクシュⅡプロジェクトを主導するパクシュⅡ開発会社のG. ヤカリ会長兼CEOは、「長納期の設備の製造は順調に進んでおり、ハンガリーの専門家は設計管理からライセンス供与、継続的な生産管理まで多くの努力をしている。目に見える成果の一つは、6号機の原子炉容器の鍛造が始まったことだ。5号機の原子炉容器の鍛造が始まってからまだ1年も経っていない」とプロジェクトの順調な進行をアピールした。5号機の原子炉容器のノズル部分を含む最終検収が4月中に行われ、その後、組立て作業がロシアのボルガドンスクにあるAEM-Technologies工場で開始される。両機の炉内構造物については、ハンガリーの国家原子力庁(HAEA)から既に製造の承認を受けており、それに基づいて製造を開始できるという。原子炉容器と容器底部は、鍛造中に約12,000tの圧力で形成される。完成重量は約330t、高さは11m以上、直径は4.5m、最大壁厚は285mmになる。近代的な材料組成と製造技術により、原子炉容器は最長100年間使用できるという。5号機のコアキャッチャー(メルトトラップ)はすでに完成しており、2024年8月にハンガリー側に引き渡された。ハンガリーでは、旧ソ連時代に建設されたパクシュ原子力発電所の4基(各VVER-440、出力約50万kWe)で総発電量の約5割を供給している。公式運転期間の30年を超過したため、運転期間を20年延長しつつ容量の大きい5、6号機に徐々にリプレースしていく方針。シーヤールトー相は、同発電所の拡張はハンガリーの長期的なエネルギー供給を保証する重要要素であり、総発電量の約70%も供給できるとしている。パクシュIIプロジェクトはロシアとの政府間合意により2014年に開始され、プロジェクトコストの大部分がロシアの低金利融資によって支えられている。パクシュⅡ開発会社は2022年8月、パクシュⅡプロジェクトの建設許可をHAEAから取得。2023年7月以降、サイトでは建設の準備作業が進行している。HAEAからの承認を待ち、今年内には初コンクリート打設を行い、2030年代初頭には運転を開始したい考えだ。
23 Apr 2025
375
米国防総省(DOD)傘下の国防イノベーション・ユニット(Defense Innovation Unit:DIU)は4月10日、安全性、セキュリティ、信頼性を備えた原子力発電の供給に向け、特定の軍事施設で導入可能なマイクロ炉の開発企業8社を選定した。DIUは、民間セクターで開発、軍事にも利用可能な最先端の商用技術を企業との契約などを通じて獲得することを主要な任務とする機関。今回の選定は、バイデン政権下で2024年夏に始動したDIUと陸軍省および空軍省の共同作業プログラムであるAdvanced Nuclear Power for Installations(ANPI)プログラムの一環。同プログラムは、陸・海・空・宇宙・サイバー空間におけるグローバルな作戦を支援するため、DODの軍事施設向けに陸上固定式の1基または複数のマイクロ炉から構成される原子力発電システムの設計、ライセンス取得、建設、運用を行うのが目的である。今回選定された8社は以下のとおり。アンタレス・ニュークリア社BWXTアドバンスト・テクノロジー社ジェネラル・アトミック・エレクトロマグネティック・システムズ社ケイロス・パワー社オクロ社ラディアント・インダストリー社ウェスチングハウス・ガバメント・サービス社X-エナジー社DODは、米国が先進炉の開発と展開を主導し、特に遠隔地や厳しい環境でのDODの重要ミッションにおいて、レジリエンスのある、途切れのない電力で自国の重要なインフラの保護を重要視。基地外へのエネルギー依存は、制約のある電力網システム、自然災害、インフラへの物理的・サイバー攻撃によってミッションの中断やリスクを引き起こす恐れがあるとの考えだ。DIUによると、ANPIプログラムは、トランプ大統領による大統領令(国家エネルギー緊急事態宣言、米国のエネルギーを解き放つ)に沿ったものであると同時に、DIUの商業技術ソリューション取得のための契約プロセスを含み、大統領令(防衛調達品の近代化と産業基盤におけるイノベーションの促進)の目的に合致するものでもある。DIUのエネルギーポートフォリオディレクターのA. ヒギエル氏は、「軍事施設に設置されるマイクロ炉は、部隊にエネルギーを確立するための重要な第一歩。軍事分野で民間セクターの急速な技術進歩を活用することは、過去数年間で投じられた多額の民間投資を考慮すると、極めて重要である。米国と国防総省は、エネルギー支配を維持し、国家安全保障のために最先端の原子力技術を最大限活用する必要がある」と語った。なおANPIプログラムは、DIU、陸軍、空軍に加え、エネルギー省、原子力規制委員会(NRC)、アイダホ国立研究所(オークリッジ国立研究所と共同)、ロスアラモス国立研究所、アルゴンヌ国立研究所、パシフィック・ノースウェスト国立研究所、サンディア国立研究所から支援を受けている。
22 Apr 2025
547
米エネルギー省(DOE)は4月9日、米国の先進炉開発者の5社に対し、短期的な燃料需要を満たす高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)の供給を条件付きで実施することを明らかにした。DOEはこの1回目のHALEU割当てが、革新的な原子力技術の商業化を促し、より安全かつ安価で信頼性の高いエネルギー供給を保証するものと位置付けている。ライトDOE長官は、「今回のHALEUの割当ては、米国の先進炉開発者が安全なサプライチェーンから調達された燃料を用いて先進炉を展開するのに役立つ。米国の原子力部門の再活性化をはかるトランプ大統領のプログラムにおいて重要な一歩だ」と語った。HALEUの割当ては、民間の研究開発、実証、および商業利用に向けてHALEUの国内供給を確保するために2020年に設定された「HALEU利用プログラム」を通じて行われる。多くの先進炉が、既存炉よりも小さな設計、より長い運転サイクル、より高い効率を実現するためにHALEU(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を必要とするが、米国の燃料サプライヤーは現在、HALEUを生産する能力が不足している。そのため、国家核安全保障局(NNSA)管理下の原料や政府所有の研究炉からの使用済み燃料由来の高濃縮ウラン(20%以上のU235)のダウンブレンドを行い、限られた量を製造している状況である。なおHALEUは、通常の商用炉向けの濃縮ウラン製造のプロセスを利用した製造も可能。DOEはウラン濃縮事業者のセントラス・エナジー社(旧・米国濃縮公社:USEC)と提携し、オハイオ州パイクトンの濃縮施設で16台の新型遠心分離機を製造、連結設置し、HALEU製造のための濃縮の実証を行っている。現状のHALEUの需給ギャップを埋めるためDOEは、先進炉開発者によるHALEU供給申請手続きを開始。15社がHALEU供給を申請した。第1回目の割当てでは、優先順位の基準を満たした企業のうち、2025年中に燃料供給を必要とする3社を含む5社を特定した。 今回、HALEUの割当てを受ける5社は以下の通り。TRISO-X社ケイロス・パワー社ラディアント・インダストリーズ社ウェスチングハウス社テラパワー社今回のHALEUの割当てでは、DOEの先進的原子炉実証プログラム(ARDP)の5~7年以内に実証(運転)可能な炉に選定された企業のほか、アイダホ国立研究所(INL)内の国立原子炉イノベーション・センター(NRIC)が運営するマイクロ炉実験機の実証(DOME)テストベッドで試験を計画している企業、さらにARDPの10~14年後に実証を想定したリスク低減プロジェクトの選定企業を対象としている。次のステップとしてDOEはすでに契約プロセスを開始しており、一部企業は今秋にもHALEUを受取る可能性がある。DOEは今後も追加企業へのHALEUの割当てを継続する計画だ。
21 Apr 2025
597
チェコ電力(ČEZ)は4月8日、自社の進める小型モジュール炉(SMR)×2基の建設計画の支援に、米国のエンジニアリング会社であるアメンタム(Amentum)社を選定した。ČEZが運転するテメリン原子力発電所(VVER-1000、108.6万kW×2基)のサイト、および閉鎖予定の石炭火力発電所があるトゥシミツェ(Tušimice)のサイトにおいて、英ロールス・ロイス社製SMRを建設するプロジェクトに関する環境影響評価(EIA)報告書を提出する。アメンタム社は2サイトで初期のスコーピング調査を実施後、入札によりEIA実施者に選定された。EIAは、潜在的な放射線障害、廃棄物管理、事故発生時の影響のほか、地下水と河川の汚染防止対策、輸送、騒音などを調査対象としている。EIA報告書はチェコの環境省によって正式に承認される前に、公聴会と第三者機関による独立した評価を受ける。アメンタム社のA. ホワイト上席副社長は、「当社のチェコにおける長年のプレゼンスと計画プロセスに関するノウハウは、この戦略的プロジェクトの推進にとって理想的。ČEZとロールス・ロイス社が、電力生産の脱炭素化に向けてSMRの有効性を実証するための大きな一歩を踏み出すことを支援していく」と語った。チェコは2033年までに発電や熱生産における石炭利用を全廃し、再生可能エネルギーとともに、大型炉と中小型炉(SMR)の導入により、原子力発電を拡大する方針。既存のドコバニ原子力発電所(VVER-440、51.0万kWe×4基)とテメリン発電所での増設を優先させ、石炭火力全廃後、特に2035年以降に旧石炭火力サイトにSMRを順次リプレース、地域暖房を含めてSMRを活用する計画だ。2024年9月には、チェコ政府とČEZはSMR供給者7社の中から入札によって、ロールス・ロイスSMR社をSMRの建設プロジェクトの優先サプライヤーに選定している。なおアメンタム社は、オランダのボルセラ原子力発電所のサイトを建設候補地とする2基新設の計画について、2024年11月、オランダ気候政策・グリーン成長省からの委託により、海外ベンダーの3社(米ウェスチングハウス社、フランス電力、韓国水力・原子力会社)が実施した技術的実行可能性調査と市場調査に対する全面的なレビューのほか、同省に対して2基の新設に係る技術面および市場面での実行可能性、および、設計と資金調達に関する助言を行っている。またその翌月には、ノルウェーのコンサルティング企業であるマルチコンサルト・ノルゲ社(Multiconsult Norge AS)とともに、ハルデン・シャーナクラフト社(Halden Kjernekraft AS)から、ノルウェー南部ハルデン市でのSMR建設の実行可能性調査を受注。SMR建設にあたり、ノルウェー国内外の機器・サービスに関するサプライヤーの候補企業の調査のほか、採用炉型、環境影響などの評価を実施している。
21 Apr 2025
546
インド政府で原子力や科学技術を担当するJ. シン閣外専管大臣は、4月2日付の下院議会への答弁書で、原子力プロジェクトへの民間部門の参加を可能にする、原子力法ならびに原子力損害に対する民事責任法の改正を議論、提案するため、委員会が設立されたことを明らかにした。委員会は原子力省(DAE)内に設置され、DAE、原子力規制当局(AERB)、政府系シンクタンク(NITI Aayog)、法務省(MOLJ)からのメンバーで構成される。法律改正の他、廃棄物管理、燃料調達と取扱い、廃止措置、セキュリティと保障措置の実施についても検討していく。法律の改正をめぐっては科学的問題だけではなく、省庁間協議の様々な段階を含むため、時間も掛かり、タイムラインを示すことはできないとしている。インドのN. シタラマン財務大臣は2月、2025年度(2025年4月~2026年3月)連邦予算を発表。原子力発電設備容量を2047年までに少なくとも1億kWに引き上げるとともに、2,000億ルピー(約3,500億円)を投じて小型モジュール炉(SMR)の研究開発を推進する「原子力エネルギーミッション」を開始、2033年までに少なくとも国産SMR×5基の運転開始をめざす方針を表明した。さらに、民間企業がこのセクターに参入するための大きなハードルとなっていた原子力法および原子力損害賠償法の改正を進め、民間部門との連携強化を図る考えを示していた。シン大臣の答弁書によると、現在、バーバ原子力研究所(BARC)では以下のSMRの開発が進められている。バーラト小型モジュール炉(BSMR-200、20万kWe):閉鎖予定の火力発電所のリプレースのほか、鉄鋼、アルミニウム、金属などのエネルギー集約型産業向けの自家発電プラント。小型モジュール炉(SMR-55、5.5万kWe):遠隔地およびオフグリッド地域へのエネルギー供給向け。高温ガス冷却炉(HTGCR、0.5万kWth):輸送部門やプロセス産業の脱炭素化を目的とした水素製造向け。これらのSMR初号機はDAEの所有サイトに設置され、後続炉は自家発電所や閉鎖予定の火力発電所のサイトに設置される予定だという。一方、インド政府の野心的な原子力拡大目標と、2070年までに炭素排出量をネットゼロにするという公約の実現に向けて、電力省の管理下にあるインド最大の国営火力発電会社(NTPC)は3月末、インド政府の承認を条件として、インドにおける大型炉(PWR、100万kWe級)の国産化および建設に関する協力への関心表明(EOI)の募集を開始している。概念設計から、エンジニアリング、調達、建設、運転開始までを一貫して協力の範囲とする。募集締切りは5月9日。NTPCは、原子力分野における技術向上と国内人材の育成必要性を認識し、PWR技術の国産化を目指している。この動きは、原子力技術における自立と原子力発電所サプライチェーンの国産化という国家目標に沿ったものであり、NTPCは世界の原子力ベンダーとの協力を促進し、PWRベースの原子力発電の強固な国内サプライチェーンを確立させたい考えだ。今回のEOIによって、国内での大型炉の建設に向けてPWR技術を国産化するためのベンダーの見通しを評価し、すべての要件を満たすことに関心のあるベンダーのEOIに基づき、入札を実施する計画である。NTPCが目標とする発電設備容量は1,500万kWe+10%。募集案内に示された協力の大枠では、提案されるPWRの主要技術のインドへの段階的な移転のほか、原子力技術の自給自足への着実な移行を確実にするために、初号機では部品の最低60%を国産化し、シリーズ建設を通じて95%以上までに増加させることが示されている。これは、提案者のインド子会社/合弁会社を通じて、またはインド企業との提携も含めることができるとしている。また、燃料の恒久的な供給と国際原子力機関(IAEA)の保障措置下での燃料製造施設の建設にコミットするとともに、NTPC幹部の人材育成(特に運転と保守分野におけるトレーニングとスキル開発)の実施や、NTPC職員が自信を持って引き継ぐことができるようになるまで、提案者に対し、最初の5年間は原子力発電所の運転と保守を実施するよう要求している。
18 Apr 2025
494
米国の先進原子力会社である、ナノ・ニュークリア・エナジー(NANO Nuclear Energy)社は4月2日、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)と、研究用マイクロモジュール炉「KRONOS MMR」初号機の同大学キャンパスでの建設に向けて戦略的提携契約を締結した。同契約により、イリノイ大学はKRONOS MMRの許認可、立地、市民参加、研究活動に係わる正式パートナーとなり、研究・実証施設である原子炉の恒久的な設置サイトとなる。NANO社の創設者兼会長であるJ. ユー氏は、「設計が現実のものとなる。今回、サイトが選定され、イリノイ大学シャンペーン校の世界トップクラスの工学教育機関グレインジャー工科大学がパートナーとなった。単なる研究炉ではなく、安全でポータブル、かつレジリエンスのある原子力エネルギーの未来のための実証実験の場となる。当社の長期的な原子炉開発戦略の基盤となるものであり、世界中のコミュニティ、キャンパス、産業界に次世代の原子力エネルギーを供給していきたい」と意気込みを語った。KRONOS MMRは、冷却材にヘリウムを使用する第4世代の小型モジュール式高温ガス炉。5エーカー(0.02㎢)未満のコンパクトな設置面積で、最大4.5万kWt(1.5万kWe)の出力により、ローカルグリッド、再生可能グリッド、プロセス熱システムとシームレスに統合し、柔軟に稼働するように設計されている。燃料は、低濃縮ウラン(LEU)またはHALEU燃料を使用。NANO社は、KRONOS MMRエネルギーシステムは、既存の技術を活用し、新たなブレークスルーや時間とコストのかかる研究プログラムが不要と強調している。MMR(マイクロ・モジュール炉)は米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア(USNC)社が開発していたが、USNC社は2024年10月、米国破産法第11章第363条に従い、自社技術の売却プロセスを実施することを発表。競売により同年12月、NANO社がUSNC社のMMRを含む、原子力技術資産の一部を買収し、MMRをKRONOS MMRに改称した。今後NANO社は、イリノイ大学が米原子力規制委員会(NRC)に提出する建設許可申請(CPA)の準備を支援するため、地下調査を含む地質学的特性評価のプロセスを開始する。この作業はサイトの環境パラメータを理解するために不可欠であり、施設の信頼性と安全性を最大限に確保し、NANO社の予備安全解析報告書(PSAR)と環境報告書(ER)作成をサポートするものである。この戦略的提携により、イリノイ大学とNANO社は、規制当局の許認可プロセス、プラント設計の実施、市民やステークホルダーの関与、および労働力の育成分野で協力していく。イリノイ大学はNRCとの規制面での関わりや市民との交流を主導するほか、PSARやERなどのライセンス活動を支援しつつ、サイト配置、建設性評価、将来のオペレーター訓練プログラムを実施。NANO社は、プラントの設計、建設、システム統合、商業化に向けた開発を行う。この提携は、イリノイ大学のノウハウとNRCとの関わりを基に構築されており、同大学は2021年6月、(当時)USNC社製MMRを将来に学内で建設するため、NRCに意向表明書(LOI)を提出している。イリノイ大学内のグレインジャー工科大学のC. ブルックス教授は、「KRONOS MMRプロジェクトは、国内初となるだけでなく、学術界初となる可能性があり、学生、研究者、規制当局、市民が実際の世界のマイクロ炉開発の取組みを直接、大学サイトで学ぶことができる」「このエネルギーシステムは、教育、研究、大規模な実証を通じて原子力の新しいパラダイムを可能にする可能性を秘めており、米国のどのキャンパスにおいても最先端の原子力研究のプラットフォームとなり得るものだ」と指摘。NANO社の最高技術責任者兼原子炉開発責任者であるF.ハイデット博士も「同プロジェクトは、将来のあらゆる大学主導の原子力プロジェクトの先例となる」と強調した。
17 Apr 2025
2576
国際エネルギー機関(IEA)は4月10日、報告書「Energy and AI」を公表。データセンターの電力消費量が、2030年までに約9,450億kWhと2024年の水準から倍増するとの見通しを明らかにした。これは、現在の日本の総電力消費量をわずかに上回る規模である。報告書によると、AIが他のデジタルサービスに対する需要増と並んで、この増加を牽引する最大の要因であるという。特に米国の影響が圧倒的に大きく、2030年までに見込まれる電力需要の増加分の約半分を、データセンターが占める見通しだ。さらに、データセンターによる電力消費量は、アルミニウム、鉄鋼、セメント、化学などのエネルギー集約型産業全体で使用される電力の合計を上回ると予想している。なお、現在、米国のデータセンターの半分近くが、5つの地域クラスターに集中している。これにより、これらの地域では既にデータセンターが、電力市場に大きな影響を及ぼしているという。また、報告書は、データセンターの旺盛な電力需要に対して、蓄電設備や地域間の電力融通といった電力系統のバックアップに支えられた、再生可能エネルギー(再エネ)と天然ガス火力が、供給面での主導的な役割を担うと指摘している。具体的には、今後5年間で世界のデータセンターにおける電力需要の伸びの半分を、再エネがカバーすると予測。再エネについては、短い建設期間や高い経済競争力、そしてIT企業による積極的な電力調達戦略を背景に、2035年までに4,500億kWh以上増加すると見込まれている。原子力については、2030年以降に小型モジュール炉(SMR)の導入が進むと予想。米国では、大手IT企業がSMR開発の支援に乗り出しており、特に、SMR初号機が運転開始予定の2030年以降、原子力発電の役割が一段と大きくなる見通しだ。現在、IT企業は既に合計出力2,000万kW以上ものSMRへの出資を計画しており、SMR開発が順調に進めば、さらに大きな展開が見込まれるという。また、再エネの着実な増加とSMRの拡大により、天然ガス火力の追加需要は抑えられ、2035年までに米国のデータセンターへの電力供給の半分以上を低排出電源が占めると予測している。同様に、中国でも2030年以降、SMRの導入により、データセンター向け電力供給における原子力シェアが大幅に増加する見込みである。2030年から2035年にかけて、再エネと原子力の拡大が進むなかで、石炭利用が相対的に減少。報告書は、2035年までに再エネと原子力を合わせて、中国のデータセンターへの電力供給の約60%を占めると予想している。そのほか、欧州では、再エネと原子力が、追加で必要となる電力の大部分を供給する見通しである。これにより、欧州全体における両電源のシェアは合わせて、2030年までに85%に上昇する。また、現在、日本と韓国のデータセンターが消費する電力は、世界のデータセンターの電力需要の約5%を占めており、このシェアは2030年まで維持される見込み。両国では、再エネと原子力が、2030年のデータセンターの消費電力の現在の35%から60%近くをカバーすると見られている。一方で報告書は、AIやデータセンター事業者による原子力投資が実現せず、既設インフラからデータセンターに電力供給される場合、2035年までにデータセンター向けの電力供給に占める原子力の割合は、現在の約15%から約10%にまで低下する可能性があると指摘している。関連記事:原子力産業新聞 FEATURE「IT社会と原子力」
16 Apr 2025
1490
エストニアの新興エネルギー企業のフェルミ・エネルギア社と韓国の建設大手のサムスンC&T社(サムスン物産)は4月2日、エストニアにおける、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製のSMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の建設準備に関する提携契約に調印した。フェルミ社は2023年2月、同国で建設する最初のSMRとしてBWRX-300を選定した。今回の提携契約は、2024年11月に両社間で締結された覚書を基にしており、エストニアの原子力開発にとり、エネルギー安全保障の確保、ならびにカーボンニュートラルの達成に向けた重要なステップ。本契約に基づき、サムスンC&T社はフェルミ社が推進する最大2基のBWRX-300の建設プロジェクトに、概念設計(Pre-FEED/Front-End Engineering Design)から、事業構造の構築、コスト積算、サイト評価を実施する基本設計(FEED)段階まで、プロジェクトの初期段階から参画し、その後に続くEPC最終契約の締結を視野に入れている。フェルミ社のK. カレメッツCEOは、「旧ソ連から独立後、エストニアは大胆かつ果断な改革を実施し、新技術に対して開放的な経済国である。エストニアの1人当たりのGDPは30,000ドル(約429万円)で、韓国の33,000ドル(約472万円)に匹敵。エストニア国民は常に革新的な技術を取り入れ、隣国フィンランドの経済競争力と安価なエネルギー供給を通じて、原子力が果たす役割について理解している。原子力は簡単な技術ではなく、エストニアのような小国では、信頼できる民主的なパートナーとの協力によってのみ実現可能だ。サムスンC&T社の原子力発電と大規模発電プロジェクトにおける経験は、エストニアと北欧全域のSMRプロジェクトを軌道に乗せ、予算内で実行するためのカギである」と強調した。SMR建設の準備状況は、現在、サイト候補地の事前選定の段階(2025~2027年)にある。フェルミ社は今後、選定された場所での詳細な調査を含む、サイト検証期間(2027~2029年)を経て、2029年に建設許可を規制当局に申請する計画である。手続きが順調に進めば2031年に着工、2035年後半には初号機の稼働を計画している。なお両者は、協力関係をエストニア以外にも広げ、北欧全域にSMRを配備することも想定している。サムスンC&T社は、このパートナーシップを通じて、北欧地域全体で少なくとも10〜15件のBWRX-300プロジェクトに参加することで、スケールメリットを実現し、プロジェクト実施に伴うリスクの低減を目指す考えだ。サムスンC&T社は現在、ルーマニアにおいて、米ニュースケール・パワー社製SMRである出力7.7万kWeの「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を6基備えた「VOYGR-6」(合計出力46.2万kWe)の建設プロジェクトのFEEDに取組むほか、2024年12月には、スウェーデンでSMRの建設を計画するシャーンフル・ネキスト(KNXT)社と協力覚書を締結するなど、欧州での原子力発電所事業の拡大を加速させている。
15 Apr 2025
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ドイツ原子力技術協会(KernD)は3月27日、2月の連邦議会選挙の結果を受けて発足する新政権に対し、気候目標の達成と経済強化に向けて、閉鎖済みの6基の原子炉を運転再開すべき、とする見解を発表した。同協会は、「安定した持続可能なエネルギーのために、今こそ正しい決断を下す時」と述べ、「脱工業化、高すぎる電気料金、電力輸入への依存、不透明なエネルギー供給状況は、今すぐ終わらせなければならない」と主張した。さらに、ドイツの原子力発電所の運転継続は、現在のエネルギー政策に代わって、気候目標に対処し、安全で経済的に実行可能な選択肢であり、同国のエネルギーの未来のために現実的で持続可能な決定を下すためには、今後数か月が極めて重要であると強調している。見解の中で、再生可能エネルギーは天候に左右され、ベースロード電力は、依然として石炭火力発電所と、今後稼働するガス火力発電所が担わざるを得ないことに言及。一方で石炭火力発電所の継続的な稼働により、CO2排出量は計画を大幅に上回り、現在の枠組みでは石炭を段階的に廃止していくスケジュールは非現実的であると指摘している。既存の閉鎖済みの6基の原子炉を運転再開させることで、石炭火力に代わり、年間約6,500万トンのCO2削減(ドイツの総排出量の約10%)、ガス発電では、年間約3,000万トンのCO2削減に貢献し、2045年にドイツの気候目標を達成できるとの見通しを示した。加えて、原子力発電は安価な電力を産業や家庭に供給可能であるとし、最大6基を2030年までに運転再開させ、2050年頃までの運転が可能になると予測。年間発電量としては、約650億kWhの利用が可能となり、解体状況にもよるが、運転再開1基につき10億~30億ユーロ(約1,620億円~4,860億円)の資金投入が必要と見込んでいる。ドイツでは、2030年までに総電力需要が1兆kWh以上になると予測されている(2024年の実績は5,100億kWh)。同予測では輸送と暖房の電化を考慮しているが、将来の技術(データセンター、AI)の大幅な拡大は考慮されていない。また、フランスなどの近隣諸国はAIに多額の投資を行っており、余剰電力をドイツに輸出できなくなる恐れがあるとしている。安価なエネルギーは、ドイツをビジネス拠点として、産業がドイツにとどまり、AI、データセンターなどの電力需要の高い未来の新技術を定着させるほか、他の欧州諸国からの電力輸入(2024年の純電力輸入量320億kWh、主にフランスによる原子力発電)の減少により、自国内で独立した競争力のある電力を確保し、価格変動の抑制、産業の活性化に期待を寄せている。なお、技術的にも、最大6基の運転再開は可能であるが、運転再開に向けた検査の実施と解体作業の即時中止が重要であり、決定が迅速であればあるほど、コストは少なくて済むと強調。原子力発電所の運転再開が、経済的にも社会的にも合理的、現実的な解決策であるとの考えを示した。ドイツの原子力技術コミュニティは、ドイツの原子力産業と研究は準備ができており、安全な原子力発電所の運転再開を強く支持するとして、以下のようにコメントしている。「原子力発電は、ドイツの気候目標に大きく貢献することができ、電力供給コストも削減できる」― T. ザイポルト NUKEMテクノロジーエンジニアリング社CEO、KernD会長「原子力発電所の運転再開を決定する連邦政府は、必要な条件を整えなければならない。一つ確かなことは、原子力発電は、短期的にCO2排出量を削減し、低電力コストを通じて経済の競争力を強化するための重要な柱であるということだ。当社はドイツの原子力発電所の建設者。発電所に精通しており、発電所を安全に運転再開させるために必要な手順を実行できる専門知識を有している」― C. ハーフェルカンプ フラマトム(ドイツ)社取締役、KernD副会長「燃料供給は簡単。この選択肢を真剣に考えることは理に適う。原子力再開の利点は、気候保護、エネルギーセキュリティの確保、ロシアへの依存からの脱却だ。そして最後に重要なのは、ドイツの産業の競争力だ」― J. ハレン ウレンコ・ドイツ社取締役、KernD副会長「原子力発電は、ドイツの再生可能エネルギーを完全に補完するもの。安全性を損なうことなく、2030年までに原子力発電所の運転再開は可能だ。当社は、国際的な専門知識を持って、ドイツが将来に向けて正しい道を歩むことを支援し、運転再開に向けて必要な製品とサービスを提供する」― M. パシェ ウェスチングハウス・ドイツ社取締役、KernD理事「ドイツは、原子力発電所の安全かつ効率的な運転に関する広範な専門知識を有している。原子力技術部門と研究機関は、原子力の運転再開に向けた訓練機会とノウハウを提供できる」― M. コシュ ルール大学ブーフム、プラントシミュレーション・安全担当教授、KernD理事(研究・人材開発担当)「ドイツは依然として原子力技術の専門知識を必要としている。研究機関、大学、革新的な企業のネットワークを維持し、若い才能を引き付けなければならない。運転再開は、経済的利益と環境への利点をもたらし、専門知識の維持と発展に大きく効果的に貢献する。ドイツは国際的に追いつくこの機会を逃すべきではない」― T. トロム カールスルーエ工科大学放射性廃棄物管理・安全・放射線研究 (NUSAFE)プログラムスポークスマン「ドイツの原子力技術コミュニティは、私たちの安全な原子力発電所の運転再開を強く支持している」― F. アペル ドイツ原子力学会会長、KernD理事ドイツでは2023年4月中旬に脱原子力を達成している。1998年に環境政党の緑の党を含む連立政権が発足、2002年に段階的原子力発電廃止を定める原子力法が発効。その後、発足した新政権は2010年、脱炭素化促進のために、運転期間延長を規定する原子力法改正を実施し、段階的廃止を中止するも、2011年には福島第一原子力発電所事故が発生。当時のメルケル政権は同年6月、2022年末までに全基の原子炉を廃止するための原子力法修正案を閣議決定し、同案は翌7月に可決された。8基が直ちに閉鎖され、その後2021年末までにさらに6基が閉鎖。残る3基も2022年末までに閉鎖予定だったが、政府は2022年10月、ロシアのウクライナ侵攻後のロシアからの天然ガス供給減リスクに対応するため、残る3基の運転期間を2023年4月15日まで延長した。ドイツは、脱原子力政策により不足する電力を補うため、再生可能エネルギーの発電量を拡大したが(2023年時点で55%シェア)、再エネだけに適用されている固定価格制度等の優遇措置により電気料金は高騰。ロシアのウクライナ侵攻後は、石炭火力による発電量も増加。この状況下、今回の総選挙で第1党となったキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は、安価でクリーンなエネルギー供給を目指し、送電網、貯蔵、そしてあらゆる再生可能エネルギーの拡大とともに、最近閉鎖された原子力発電所の運転再開の検討を行っている。
15 Apr 2025
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カナダ原子力安全委員会(CNSC)は4月4日、オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社に対し、ダーリントン新・原子力プロジェクト(DNNP)サイトにおける、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の初号機の建設を承認した。CNSCはOPG社が原子炉建設に適格であり、人々の健康と安全、環境を守りながら建設を行うと結論づけた。CNSCは建設許可の発給にあたり、2024年10月2日にオンライン上、ならびに2025年1月8日~10日、13、14日にオンタリオ州エイジャックスにて対面で開催された公聴会で受け取ったすべての意見書と見解を慎重に検討。さらに、先住民の権利についても協議の上、最大限に尊重することとしている。建設許可は2035年3月31日まで有効。標準的な許可条件に加え、環境アセスメントのフォローアッププログラムの実施など、DNNPサイト固有の許可条件を定める。さらにOPG社に対し、安全上重要な構造物、システム、およびコンポーネントの安全解析および設計に関する規制要件の遵守を検証するため、ホールドポイントを設定し、特定の作業に着手する前にはCNSCへの追加情報の提出を義務付けている。なお、今回の建設許可では、DNNPサイトでのBWRX-300の運転は承認しておらず、運転認可の発給にはOPG社の申請後、あらためて審査が必要となる。ダーリントン原子力発電所(CANDU炉×4基、各90万kWe級)ではOPG社が2012年8月、大型炉の増設(最大4基、480万kW)に向けてCNSCから10年間有効のサイト準備許可(LTPS)を取得した。大型炉の建設計画を中止した後、同サイトでSMRを建設する計画を進め、CNSCへの申請により、2021年10月にLTPSを10年更新した。同年12月、GEH社製BWRX-300の選定を発表し、2022年10月には、CNSCに初号機の建設許可を申請。さらに、オンタリオ州政府は2023年7月、OPG社と協力して、初号機に3基を追加した合計4基のBWRX-300をDNPPサイトで建設すると表明した。2023年10月にカナダ産業審議会が発表した調査では、SMR×4基の建設と運転・保守により、カナダのGDPを65年以上にわたり、約153億ドル(約1.57兆円)増加させ、平均して約2,000人/年の雇用をもたらすという。OPG社は2024年2月には、事前のサイト準備作業を完了させており、2028年末までに初号機を完成させ、2029年末までに営業運転を開始したい考えだ。後続機については順次、CNSCに建設許可を申請し、2030年代半ばまでに稼働させる計画である。OPG社は、初号機の建設経験等を通じて後続機のコストの削減やスケジュールの短縮方策を模索していく方針。また、ダーリントン原子力発電所における改修工事を通じて、大型炉の建設プロジェクトを予算内・スケジュール通りに進める知見を培っており、同様のアプローチをSMR建設にも適用できると強調している。
07 Apr 2025
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オランダの原子力規制当局である原子力安全・放射線防護庁(ANVS)は3月25日、海外ベンダーの3社それぞれが実施した、ボルセラ原子力発電所における2基新設の技術的実行可能性調査(THS)について、「設計上の不備はない」と暫定評価した。THSの実施は、気候政策・グリーン成長省(KGG)との契約によるもので、KGGはANVSに対し、THSに基づく安全性の観点から、オランダでの新設の実現の可否について評価するよう要請していた。2021年12月、オランダの新連立政権は連立合意文書に原子力発電所の新設を明記。また、政府は2022年12月、新設サイトとしてボルセラ・サイトが最適と発表した。計画では、2035年までに第3世代+(プラス)の原子炉、出力100万~165万kW×2基を新設し、オランダの総発電量の9~13%を供給するとしている。現在同国の原子力シェアは、唯一稼働するボルセラ原子力発電所(PWR、51.2万kW)により、約3%を占めている。同炉は運転開始後40年目の2013年に運転期間が20年延長され、現在の運転認可は2033年まで有効である。THSを実施したのは、米ウェスチングハウス(WE)社、フランス電力(EDF)、韓国水力・原子力(KHNP)の3社。2023年末から2024年にかけて、オランダ経済・気候政策省(EZK)(当時)とTHS実施契約を締結した。THSでは、各社の提案炉型(WE社:AP1000、EDF:EPR、韓KHNP:APR1400)が、オランダの法律および規制に準拠しているか、ボルセラ・サイト内のどの場所での設置が適しているか、必要な建設期間とコストについて調査するようKGGに依頼された。3社は、2024年末までにTHSを完了。ANVSは、3社自身による評価を踏まえ、ANVSは、これらの設計のいずれかがオランダで認可されないと想定する理由を今のところ見出されず、現時点で安全上の理由から、いずれかの設計を入札プロセスから除外したり、そのプロセスの一環として標準設計に調整を加えることを求める理由はないと評価。今後ANVSは、国際原子力機関(IAEA)の勧告、最近の原子力法の評価、および今回の3社自身による評価の結果を受け、原子炉に関するガイドラインを最新のものに改訂する方針だ。一方、ANVSは、これは企業自身による評価と設計に対して一般的なレビューを行ったものであり、ANVSが独自の徹底的な評価を実施してはいないため、最終的な認可発給を保証するものではないと指摘している。なおKGGは2024年11月、米国のAmentum社を独立した第三者評価機関として選定し、3社から提出されたTHSや市場調査の結果のレビューのほか、2基の新設に係る技術的および市場的実行可能性、および、設計と資金調達に関する助言を求めている。KGGはこれらの情報を早期から把握することで、新規建設プロジェクトの全体的なリスク軽減につながるとし、入札手続きでこれら情報を活用し、ベンダーを選定する考えだ。KGGは、5月初旬にも議会(下院)にTHSや第三者機関のレビュー結果を含め、新規建設プロジェクトについて報告を予定している。なお、第三者機関による各ベンダーとの最終協議の段階において、KHNPが選定プロセスから撤退したことを、S. ヘルマンスKGG相(副首相)が3月中旬、下院に宛てた書簡で明らかにした。これはKHNPのスウェーデン、スロベニアにおける選定プロセスからの撤退に続くものであるいう。
07 Apr 2025
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東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)は京浜事業所で4月22日、アラブ首長国連邦(UAE)のクリーブランドクリニックアブダビ(CCAD)との間で、同国初となる重粒子線がん治療装置の機器供給契約調印式を開催した。同装置の導入は中東初でもある。調印式には、東芝ESSの竹内努パワーシステム事業部長、駐日UAE大使のアル・ファヒーム閣下、CCADを傘下に収めるM42グループのアル・ノワイスCEO、量子科学技術研究開発機構(QST)の小安重夫理事長、経済産業省の渡辺信彦医療・福祉機器産業室長らが出席した。竹内事業部長は挨拶で、「重粒子線がん治療装置の導入は、中東地域における医療イノベーションの推進とがん治療向上への共通のコミットメントを示すもの」と指摘。1988年以来、ガス火力発電所建設やインフラ整備などを通じてUAEで培った信頼関係に触れつつ、今回のプロジェクトがUAEおよび中東地域における持続可能な発展への重要な節目になると強調した。また、「重粒子線治療により、より少ない回数と短時間の治療で、より効果的な治療を実現する」と語った。アル・ノワイスCEOは「今日は単なる契約の調印ではなく、人々の命を変える大きな一歩だ」と述べ、最新の重粒子線治療装置が導入されることで、これまで遠方への治療で経済的・精神的な負担を強いられてきた患者たちが、地元で高度な治療を受けられるようになると、その意義を強調。東芝の最先端技術とQSTの協力に感謝を表し、「ともに未来のがん治療に新たな1ページを!」と呼びかけた。小安理事長は、2023年の岸田文雄首相(当時)訪問時にUAEのアブダビで締結した研究協力覚書を振り返り、「QSTで重粒子線治療が始まって30年、16,000人を超える患者を治療してきた。今回アブダビでこの技術がさらに発展することを喜ばしく思う」と語った。今後もQSTとM42およびCCADの間で研究・人的交流を進め、世界的な治療普及を推進していく意向を示した。経産省の渡辺室長は、「重粒子線の導入に関しては、長年の議論を経て今回の契約締結に至った」と述べ、特に東芝の回転ガントリー型技術が患者負担の軽減につながることを評価。「アブダビでの治療が発展していくことを期待している」とエールを送った。アル・ファヒーム大使も、医師がたった一人だった1960年代のアブダビの医療事情から、現在までの大きな発展を紹介し、今回のプロジェクトが両国の協力関係をさらに深める節目になると期待を表明した。東芝ESSは今後も積極的に国内外での重粒子線治療装置の普及に取り組み、最先端医療の提供を通じて世界各地のがん治療水準向上に貢献する考えだ。
25 Apr 2025
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新潟県議会は4月18日の本会議で、知事提出の議案「直接請求に係る東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関する新潟県民条例の制定について」を否決した。柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に向けては、現在、県の判断が焦点となっている。花角英世知事は、県内28市町村で開催された国による説明会が2月までに終了したのを受け、国の対応に一定の理解を示す一方で、「時間と場所を限定した説明会はやはり難しい」とも述べ、住民理解を集約していくことの困難さを示唆していた。再稼働の判断材料の一つとされる県の技術委員会からも最終報告書が提出されたほか、住民避難の課題に関しても、4月2日に原子力規制委員会の検討チームによる「原子力災害対策指針」改正に係る報告書が了承されたところだ。県議会に提出された議案は、市民団体が14万人超の署名を集め請求されたもの。これを受け、県議会は4月16日に臨時会を招集。特別委員会を設置し有識者からのヒアリングも行い審議を行ってきた。18日の特別委員会では同議案を否決。続く本会議では、修正案が提出されたが反対多数で否決となった。自由民主党の県議会議員は「原発再稼働の是非の県民投票という手段は、あまりにも多くの総合的な判断が必要で、一般有権者の判断を超える。政策判断は専門的な立場による意思決定がなければ、責任も安全も、公平性も保てない」として、二者択一のいわゆる「マル・バツ形式」で国策に対し住民の考えを示すことについて反対の考えを主張。これに対し、住民投票実施を求める議員からは、憲法の地方自治に関する規定に立脚し「間接民主主義を補完するものとして意義があり、広く県民の意思を確認することになる。知事が県民の意思を確認する方法を明らかにしない以上、県民投票の実施を求めることは妥当だと考える」と述べた。この他、住民投票実施に要する数億円の費用負担に関する意見も出された。23日には花角知事の定例記者会見が予定されており、今回の議会判断に対する発言が注目されそうだ。原子力発電所の再稼働をめぐる住民投票条例案に関して、最近では、茨城県議会で2020年6月に日本原子力発電東海第二発電所について議論となった経緯がある。いわゆる「NIMBY」施設に関する住民判断の事例として、沖縄県の辺野古米軍基地の前例が俎上にあがったものの、「国策である原子力発電は国が責任を持って判断すべき」といった意見が大勢を占め否決となった。
22 Apr 2025
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経済産業省の「使用済燃料対策推進協議会」が4月17日、1年3か月ぶりに開かれた。同協議会は、核燃料サイクル事業の推進について、事業者と話し合う場として、2015年以来、行われている。今回は、武藤容治経済産業相他、資源エネルギー庁幹部、電力11社および日本原燃の各社社長が出席。〈配布資料は こちら〉今回の同協議会開催は、2月の「第7次エネルギー基本計画」閣議決定後、初めてとなる。新たなエネルギー基本計画では、 (1)使用済み燃料対策の一層の強化 (2)再処理等の推進 (3)プルトニウムの適切な管理と利用 (4)高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取組の抜本強化 (5)立地自治体等との信頼関係の構築――に基づき、バックエンドプロセスの加速化を図ることとされている。前回の協議会開催以降、核燃料サイクルをめぐる動きとしては、六ヶ所再処理工場およびMOX燃料工場のしゅん工目標について、日本原燃は2024年8月29日、審査に時間を要していることから、それぞれ「2026年度中」、「2027年度中」と、見直すことを発表。また、リサイクル燃料備蓄センター(むつ市)では、2024年9月26日に柏崎刈羽原子力発電所から使用済み燃料を入れたキャスク1基の搬入を完了し、同年11月6日に事業を開始している。また、最終処分については、北海道の寿都町と神恵内村に続き、佐賀県玄海町で2024年6月10日より文献調査が開始されている。武藤経産相は、事業者より、使用済み燃料対策の進捗について報告を受け、六ヶ所再処理工場のしゅん工目標達成に向けた支援、使用済み燃料対策強化に向けた連携強化とともに、高レベル放射性廃棄物最終処分の取組強化、国・原子力発電環境整備機構の協力について要請。具体的には、 (1)六ヶ所再処理工場のしゅん工目標達成に向けた日本原燃への支援 (2)使用済み燃料対策 (3)事業者間の連携を通じたプルトニウム利用のさらなる促進 (4)最終処分およびガラス固化体の搬出期限遵守 (5)地域振興――の5項目をあげた上、六ヶ所再処理工場のしゅん工に向けては、人材確保、サプライチェーンや技術維持の必要性を指摘。使用済み燃料対策としては、再稼働が進む関西電力による「使用済み燃料対策ロードマップ」の確実な実行や地元への丁寧な説明などをあげている。
18 Apr 2025
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原子力産業新聞が電力各社から入手したデータによると、2024年度の国内原子力発電所の平均設備利用率は32.3%、総発電電力量は934億8,290万kWhで、それぞれ対前年度比3.4ポイント増、同11.2%増となった。いずれも新規制基準が施行された2015年度以降で最高の水準。2024年度中は、東北電力女川2号機(2024年11月15日発電再開、同年12月26日営業運転再開)がBWRとして初めて新規制基準をクリアし再稼働したのに続き、中国電力島根2号機(2024年12月23日発電再開、2025年1月10日営業運転再開)も再稼働。これら2基のBWRを合わせ、再稼働した原子力発電所は、東北電力女川2号機、関西電力美浜3号機、同高浜1~4号機、同大飯3、4号機、中国電力島根2号機、四国電力伊方3号機、九州電力玄海3、4号機、同川内1、2号機の計14基・1,325.3万kWとなった。再稼働していないものも含めた国内の原子力発電プラントは、いずれも前年度と同じく計33基・3,308万kWとなっている。因みに再稼働した14基のみでの設備利用率は80.5%となる(女川2号機と島根2号機は年度当初を期首として算出)。国内の長期運転プラントは、関西電力美浜3号機、同高浜1、2号機に加え、新規制基準をクリアし再稼働の先陣を切った九州電力川内1号機が2024年7月4日に、関西電力高浜3号機が2025年1月17日に40年超運転入りとなった。2024年度は、11月14日に高浜1号機が国内初の50年超運転入りしたことも特筆される。2025年度中には、同2号機もこれに続き運転開始から50年に入る見込みだ。原子力発電所の高経年化対策に関しては、2023年5月31日に成立した「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(GX脱炭素電源法)に基づき、2025年6月6日に高経年化した原子炉に対する新たな規制が施行される。同法により、30年超運転のプラントについて、10年以内ごとに「長期施設管理計画」の認可を受けることが義務付けられた。現在再稼働している計14基のうち、12基が施行日時点で、同計画を認可されている必要があり、事業者からの申請を受けて、現在、原子力規制委員会で審査が進められている状況だ。*2024年度の各プラントの稼働状況は こちら をご覧ください。
17 Apr 2025
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大会2日目のセッション4「新規建設に向けて:学生と描く原子力産業の未来」では、前半に、原子力発電所の新規建設に関わる企業4社から開発状況と展望に関する講演があり、後半では4名の学生が加わってのパネルディスカッションが行われた。企業からの登壇者は、遠藤慶太氏(日立GEニュークリア・エナジー)、佐藤隆司氏(東芝エネルギーシステムズ)、平松晃佑氏(三菱重工業)、ユセフ・ファルガニ氏(フラマトム社)の4名。学生パネリストとして、岡田ひなた氏(福井工業高等専門学校)、黒木裕介氏(名古屋大学大学院)、加藤巧人氏(東京都市大学)、川谷千晶氏(芝浦工業大学)が登壇し、原子力産業に対するイメージとそれぞれが見出している未来像について語った。山路哲史氏(早稲田大学教授)がモデレーターを務め、日本で原子炉の新設を迎えるにあたり、未来を見据えた議論を促した。冒頭、モデレーターを務めた早稲田大学教授の山路哲史氏は、原子力発電が直面する課題を概説し、福島第一原発事故後の状況を踏まえ、既存炉の廃炉、新型炉の開発など幅広い取り組みの必要性を指摘。「原子力技術は相互に関連し合い、安全性の向上に役立つ研究が多く存在する」として、次世代炉開発の重要性を強調した。続いて各企業からの講演があり、各社が取り組む次世代原子炉について紹介された。日立GEニュークリア・エナジーの遠藤慶太氏は、同社が開発する革新軽水炉「HI-ABWR」、小型軽水炉「BWRX-300」、軽水冷却高速炉「RBWR」、小型液体金属冷却高速炉「PRISM」の開発状況を説明。デジタル技術やロボット技術が原子力分野にも積極的に活用されていることを強調し、学生に対して「皆さんが描きたい将来は何か、その将来をどう切り拓きたいか」と問いかけると同時に、多様な学問領域が集まり、国内外のエンジニアとの共創を通じて新しい分野、未知の分野に挑めると述べた。東芝エネルギーシステムズの佐藤隆司氏は、同社が開発を進める革新軽水炉「iBR」の技術的特徴や、安全性を向上させるための受動的安全システム、機械学習を活用したAI技術やロボットによる点検技術の応用例のほか、重粒子線治療装置なども紹介。「原子力業界は多彩な専門性を持つ人々が活躍できる領域が広がっている」と述べ、職種や年齢を超えた幅広い人材の参画を求めた。三菱重工業の平松晃佑氏は、同社が開発を進める革新軽水炉「SRZ-1200」について、設計の概要や特徴的な安全対策を詳説。自然災害への対応やテロ対策、再生可能エネルギーとの共存を目指す点に触れつつ、自身が取り組む炉心監視装置の開発に関しても紹介。国内プラントで初導入となる技術であることや、海外ベンダーとの技術交流の必要性についても語り、技術的挑戦の面白さと社会的な意義を融合させることの重要性を訴えた。フラマトム社のユセフ・ファルガニ氏は、低炭素エネルギーとしての原子力発電の重要性を指摘。特に欧州でのEPR(欧州加圧水型炉)建設プロジェクトに関わった実務経験を通じ、原子力発電所の新規建設は、単に電力確保だけでなく、今後50年にわたって低炭素エネルギーを維持するための取り組みであり、若い世代にとって大きなインパクトを生み出せる場になると強調した。後半のパネルディスカッションでは、原子力産業の未来と新技術の開発、グローバルな視点での若手が参画することの魅力などについて意見が交わされた。岡田氏は、福井工業高等専門学校 専攻科 環境システム工学専攻2年生で、専門は材料科学。光硬化性樹脂を用いた接着剤を研究する。地元の敦賀市には原子力関連施設があり、身近に感じていたことから原子力に対するマイナスのイメージはなかった。軽水炉の動向を知り、原子力発電所の新設が、近い将来まで迫っていることを実感する。原子力業界は、様々な分野の人との関わりがあり、新しい知識を吸収できる環境だと岡田氏の目には映る。新設は全国的なニュースになるだけではなく、議論を呼ぶことで学生の進路選択にも大きな影響を与える可能性があるという考えを述べた。黒木氏は、名古屋大学 大学院 工学研究科 総合エネルギー工学専攻 修士1年生。研究するのは、次世代革新炉の中でも炉心溶融を起こさず高温の熱源としても利用できる高温ガス炉。2023年2月に閣議決定されたGX実現に向けた基本方針において、実証炉の運転が2030年代後半に目標とされている。黒木氏は、研究を通して日本だけではなく世界のエネルギー情勢をより良くしたいと考える。原子力産業には幅広いキャリアパスや挑戦できる機会が多くあり、研究開発から、デジタル技術の活用や国際的なプロジェクトに参加するなど活躍できる分野が多いと期待を寄せた。加藤氏は、東京都市大学 理工学部 機械システム工学科4年生で、専門をロボット研究とし、幅広い分野に興味を持つ。大学進学後は産業技術総合研究所の半導体製造技術や名古屋大学で開発されるマイクロ流体チップなど様々な研究現場を訪問し学んだ。現在取り組むロボット研究については、「分野横断的な面白さ」と「単純にロボットが好き」という動機を挙げている。自身の研究と原子力分野との共通点を「技術の幅広い応用可能性」だと述べた。川谷氏は、芝浦工業大学 理工学研究科 社会基盤学専攻 修士1年生で、コンクリート材料を研究する。コンクリート製造時に大量の二酸化炭素が排出されるという課題に対し、副産物を使用したセメントの開発など、カーボンニュートラルの実現に向けた研究に取り組む。高校生の時に道路やトンネルなどの構造物に興味を持ち、土木工学を専攻。社会基盤を支える重要な材料であるコンクリートを学ぶことが、土木工学を広く学ぶことに繋がると考える。原子力についても関心があり、大規模なプロジェクトに携わり、社会基盤を支える仕事にやりがいを感じる、と述べた。山路氏からは、企業登壇者に対し、前半での講演を深堀する形で新規建設が新技術のショーケースになるか、そして、イチ推しの技術について尋ねたほか、学生時代に原子力産業を進路に選んだ背景についても話題を広げた。原子力産業は、新たな研究開発に様々な技術が活かされ、技術者や科学者、スタッフなど多くの人がそれぞれの立場で関わる。山路氏は、これだけダイバーシティに富む分野はそうたくさんないのではないかと述べつつ、環境やエネルギーの革新を通じて人々の暮らしを良くしたいという共通の認識が共有される分野でもあるという見解を示し、学生を含め若手世代の積極的な参加を促し、議論を締め括った。
16 Apr 2025
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東芝エネルギーシステムズ(東芝 ESS)は4月15日、アラブ首長国連邦(UAE)のクリーブランドクリニックアブダビから、重粒子線治療装置を受注したと発表した。中東地域では初の重粒子線治療装置の導入になる。今回同社が受注した装置は、回転ガントリー式の治療室と固定ポート式の治療室を1室ずつ備えている。先進的な高速スキャニング照射技術と超伝導電磁石を採用した小型の回転ガントリーが特徴。また、治療に用いるイオン源は炭素だが、マルチイオン源などの拡張性を考慮した仕様となっており、患者のがん病巣の位置、大きさ、形状に合わせたきめ細かい治療が可能になる。クリーブランドクリニックアブダビは、アブダビ政府の投資会社であるムバダラ・ディベロプメント・カンパニーと米国のクリーブランドクリニックが共同で設立した病院で、2023年に中東最大のヘルスケア企業であるM42グループの傘下に入った。UAE政府は医療水準の高度化を推進しており、がん治療においては、患者の負担が少ない重粒子線治療が注目されている。東芝ESSは、量子科学技術研究開発機構(QST)とともに重粒子線治療装置を開発し、2016年にはQST放射線医学研究所(千葉市)の新治療棟に、世界で初めて超伝導電磁石を採用することで小型化・軽量化に成功した重粒子線回転ガントリーを納入した。その後、山形大学向けにさらに小型化を進めた山形モデルの回転ガントリーが完成し、韓国の延世大学校医療院でも治療が開始されている。つい先日も、韓国のアサンメディカルセンターから重粒子線治療装置を受注したばかり。東芝ESSは今後、重粒子線治療装置の普及を目指して、国内外での積極的な受注活動を展開し、質の高いがん治療の実現に貢献していくとしている。
15 Apr 2025
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「第58回原産年次大会」では2日目の4月9日、セッション3(福島セッション)「福島第一廃炉進捗と地元復興への取り組み」が行われた。同セッションではまず、東京電力ホールディングス福島第一廃炉推進カンパニープレジデントの小野明氏が講演。福島第一原子力発電所における廃炉・汚染水・処理水対策の現状と課題について説明した。本セッションテーマの関連で言えば、廃炉は「地域の皆様や環境への放射性物質によるリスクを低減するための作業」だ。主な取組状況は、 (1)使用済み燃料プール内の燃料取り出し (2)燃料デブリの取り出し (3)汚染水対策 (4)ALPS処理水の処分 (5)廃棄物の処理・処分および原子炉施設の解体等――に大別される。その中で、小野氏は、最近の動きとして、2024年11月の2号機におけるテレスコ式装置(釣り竿を引き伸ばすイメージ)を用いた燃料デブリの試験的取り出し完了に触れ、「わずか0.7gではあるが大きな一歩だった」と振り返った上で、今後のロボットアームによる本格的取り出しに向けて、さらなる分析・技術開発を図っていく姿勢を示した。また、ALPS処理水の海洋放出については、2024年度末までに累計11回の放出が「計画通り安全にできている」と説明。引き続き、2025年度は計7回で放出量約54,600㎥が計画されている。小野氏は、福島第一原子力発電所廃炉の進捗状況につき、毎年、原産年次大会で報告の場が設けられていることに対し謝意を述べるとともに、引き続き「着実に進めていく」と明言した。これに続くパネルディスカッションは、開沼博氏(東京大学大学院情報学環学際情報府准教授)がモデレーターを務め、廣野宗康氏(信和工業社長)、辺見珠美氏(富岡町議会議員)、エミリー・ブケ氏(あまの川農園園主)が登壇。廣野氏は、1979年に富岡町に創業し原子力発電所の電気設備のメンテナンスに携わってきた信和工業の経緯を紹介した。その中で、2007年の中越沖地震に伴う柏崎刈羽原子力発電所被災を振り返り、「日々行ってきた電気・計装設備のメンテナンスによって、機器が正常に機能。日本の原子力発電所は世界一安全」との信念を強調。2011年3月の東日本大震災発生時、同氏は富岡町の自社事務所で大地震に遭遇。福島第一1、3号機の水素爆発のニュースから「今までにない恐怖を覚えた」と回想した。一方で、「新たな挑戦」と意欲を燃やし、放射線測定器など、既製品の販売にとどまらず、「長い現場経験を活かし、廃炉に必要な新開発の提案を行っていきたい。事故を教訓として以前より進化した原子力を利用できる姿にたどり着けるはず」と強調。2024年3月から富岡町議会議員を務める辺見氏は東京都大田区の生まれ。武蔵工業大学(現在の東京都市大学)で原子力・放射線関連を学んでいた時期に東日本大震災が発災したのを契機に、復興への想いから2012年より川内村、いわき市、富岡町と、福島県の浜通り地域に13年間暮らしてきた。同氏は、原子力災害に伴う避難指示が未だ解除されていない地域があるという課題をあらためて強調。昨今、避難指示解除に伴い、地元小中学校の入学式が復活する一方で、震災による行方不明者の捜索が続く状況を憂慮。さらに、2045年3月までに福島県外への搬出が求められる除染に伴う除去土壌の最終処分に関して問題提起した。フランス生まれのブケ氏は、大熊町で「自然のまま」の農業を営んでいる。首都圏に住んでいた同氏は、フランス語の教師をする中で、福島市出身の学生に出会ったのが福島に関心を持つきっかけとなった。2021年より会津地方に移住し、農業に取り組み始めたという。ディスカションでは、今後のインフラ整備など、現在の浜通りの復興状況について、課題や展望が示され、「教育移住」に関する指摘もあった。パネリストからは、「浜通りに存在し続け、仕事を続けることが使命との気持ち」、「互いを知り立場の違いを尊重し、手を取り合うことが大事」、「足を運んで現地の人たちと触れ合ってもらいたい」などと意見が寄せられ、原子力業界に対する有意義なメッセージともなった。
15 Apr 2025
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原産年次大会へ参加するために来日した海外の若手原子力専門家らが4月11日、大阪府内の大学研究施設を訪問し、日本における原子力教育・研究の現場を体感した。見学先は、近畿大学原子力研究所と大阪大学核物理研究センター(RCNP)の2サイトで、いずれも放射線やラジオアイソトープに関する先端的な教育・研究活動を展開している。午前中に訪れた近畿大学では原子力研究所教授の山田崇裕氏より、同大学が保有する出力1ワットの教育用研究炉「UTR-KINKI」について解説を受けた。UTR-KINKIは同大学が米国から購入した軽水減速、黒鉛反射、非均質型熱中性子炉で、1961年に初臨界を達成。国内大学として初の研究炉である。山田氏はUTR-KINKIの設計概要、運用の歴史、教育現場での活用事例について詳しく説明。参加者たちは制御室や原子炉建屋内部を見学しながら、学生実習や研究における具体的な利用実態を学んだ。見学中には、制御盤での手動停止操作・スクラム表示や、炉内の照射装置・検出器の構造、放射線計測器の取り扱いなどについても質疑が交わされた。現在UTR-KINKIは、3年に及んだ新規制基準への対応を終え、再稼働を果たしており、学生向けの運転訓練や放射線測定実習などに活用されている。「安全性の高い低出力炉だからこそ、教育現場での実践的な運用が可能になっている」と語る山田氏の言葉に、参加者からは「自国の研究炉と比べてもユニークな設計」「学生がリアルな装置に触れられる点は非常に重要」といった感想が寄せられた。またUTR-KINKIは、日本国内に8基残る数少ない研究炉のうちの1基であり、大学レベルでの実習機会を提供できる貴重な施設でもある。年間を通じて他大学の学生や教員の受け入れも行っており、高校教員向けの放射線教育セミナーなども定期的に開催されている。こうした活動は、次世代の原子力人材育成や科学リテラシー向上にも多大に貢献している。一行は午後、大阪大学核物理研究センター(RCNP)を訪問。同センター講師の神田浩樹氏の案内により、加速器を中心とする核物理実験設備の概要や、施設が担う研究・医療応用についての説明が行われた。RCNPは、1971年の設立以来、陽子やヘリウムイオンなどの荷電粒子を加速・照射し、原子核構造や基本相互作用の研究を行ってきた国内有数の核物理研究拠点である。同センターには、50年以上にわたり稼働しているAVFサイクロトロンと、1991年に建設されたリングサイクロトロンの2基の加速器があり、実験ホールでは核共鳴現象や荷電粒子の散乱実験、半導体照射試験などが行われている。施設やビームの利用は、純粋な核物理の探求のみならず、宇宙線による半導体障害の評価や研究用短寿命放射性同位体の製造など、多様な応用分野に展開されている。とりわけ注目を集めたのは、来年度の稼働を予定している新たな加速器施設である。この新施設は、α線を放出する放射性核種「アスタチン211」の製造を念頭に設計されており、がんの標的α線治療(TAT: Targeted Alpha Therapy)分野の活性化が期待されている。アスタチン211は半減期が7時間と短く、遠方からの輸送には限界があることから、国内での安定的な製造体制の確立が求められている。RCNPの新施設では、ビーム電流を従来の10倍に高め、短時間で高収率な製造を可能にする設計が採用されており、将来的には臨床試験用の供給体制の中核を担うことが見込まれている。加速器の照射ターゲットや搬送ライン、冷却・遮蔽設備などについても、施設内部で実際に見学しながら詳しい解説がなされた。高出力ビームによる熱負荷を分散するためのビームスポット拡散機構や、照射前後の標的を照射室と標的準備室の間で迅速に移動するための搬送システムについても説明があり、現場密着型の設計に、海外参加者からは「極めて現実的かつ洗練された構想」と称賛の声が上がった。大阪大学ではそのほか、同大学が福島県浜通り地域で展開している教育・復興支援プログラム「浜通り環境放射線研修」について、同大放射線科学基盤機構から能町正治教授と藤原智子助教が説明。同研修は、放射線リスクに対する科学的理解と社会的文脈の両面からのアプローチを重視し、参加者が放射線測定の実習、被災地でのフィールドワーク、地域住民との意見交換などを通じて「放射線を適切に怖がる」感覚を養うことを目的としている。参加者は、放射線教育が実験や数値だけでなく、現実の暮らしや価値観と結びつけられている点に共感を示し、「サイエンスとしての原子力と社会をつなぐ教育モデルであり、非常に示唆に富んでいる」と賛辞を送った。なお同研修は2022年度より、国際原子力機関(IAEA)との協力のもと海外からの参加者も加えて英語で実施されており、今年は7月に「Hamadohri Environmental Radiation Measurements International School 2025」と題して、世界各国から参加者を受け入れる予定である 。今回の施設見学は、原子力業界に身を置く海外の若手専門家が、日本の大学における研究炉や加速器の運用、そこから生まれる応用研究、教育・人材育成への展開、そして社会との接点という一連のサイクルを具体的に目にする貴重な機会となった。参加者からは「自身が原子力の未来を担う次世代の、国際的人材ネットワークの一助となれれば」との声も多く聞かれた。また、ある参加者は「それぞれの大学が限られたリソースの中で、教育・研究・社会貢献を三位一体で進めている姿に感銘を受けた」と話していた。
14 Apr 2025
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大会2日目に開催されたFireside Chatでは、「学生へのメッセージ」をテーマに、国際的に活躍する若手エンジニアが原子力業界で培った経験やその魅力を語り合った。登壇したのは、北米原子力若手連絡会(NAYGN)アンバサダーのオサマ・ベイク氏と、東京科学大学准教授の中瀬正彦氏。オサマ氏はカナダ唯一の原子力工学専攻(オンタリオ工科大学)を卒業後、CANDU炉改修プロジェクトや廃止措置計画、ビジネス開発、戦略立案など、幅広い分野で実務経験を積んだ。さらにIAEA(国際原子力機関)との連携を通じて、グローバルな視野とコミュニケーション能力を養ったという。また、自身が運営するYouTubeチャンネルを通じて、原子力施設を訪問した映像コンテンツを発信し、業界内外の教育・啓発活動に大きく貢献している。一方、中瀬准教授は学生時代からエネルギーやロボティクスに関心を持ち、化学工学や核燃料サイクル、さらには福島第一原子力発電所事故後の廃棄物処分など、多岐にわたる研究を経験。海外留学や国際的な研究活動を通じて、分野横断的な視点を身につけた。自身の経験から、「原子力は分野横断的で、多面的な研究や実務を経験できる魅力的な領域」と強調した。また両氏は、原子力業界の魅力と可能性について次のように述べた。オサマ氏は、原子力業界が多様な専門分野を融合した領域であり、技術的・科学的知識に加えてビジネス視点や戦略的な思考、コミュニケーション能力が求められることを指摘。若い世代が新たなテクノロジーやイノベーティブなビジネスモデルを持ち込み、業界全体を活性化させる可能性があることを強調した。中瀬准教授も、原子力分野の分野横断的な性質を挙げ、多様な専門分野が交差することで、新しい研究やプロジェクトが生まれる可能性が大きいことを紹介。特に、内向きになりがちな日本の原子力業界にあって、国際的な視野を持つことが新しいアイデアやイノベーションをもたらすカギになると述べ、若い世代がこの魅力を感じ取り、積極的に参画してほしいと呼びかけた。両氏は学生たちに、情報発信の重要性についても強調。オサマ氏は、これまで原子力業界が伝統的に保守的だったことから、原子力に関するわかりやすく親しみやすい情報が不足していたと指摘。自身の動画制作活動が業界内の教育や研修教材として幅広く活用されるようになったことで、一般社会への原子力理解が促進されている事例を紹介した。中瀬准教授は、研究者や専門家が自らの研究成果を社会に分かりやすく伝えることで、原子力に関する社会的理解を深めることができると語った。さらに、このような活動は研究者自身のモチベーションを向上させ、社会との繋がりを強化する効果もあると強調し、積極的なコミュニケーションの重要性を訴えた。最後に学生への具体的なアドバイスとして、オサマ氏は「この年次大会の場のように、学生時代に積極的に業界のプロフェッショナルたちと交流し、好奇心を持ち続け、自分の限界を超えて挑戦し続けてほしい」とエールを送った。中瀬准教授は、「なぜその研究や仕事を行うのか、その意義を常に意識するとともに、日本に閉じこもらず、国際的な視野をもって多様な経験を積んでほしい」と語りかけた。
09 Apr 2025
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第58回原産年次大会・セッション2「新規建設に向けて:海外事例に学ぶサプライチェーンの課題」では、既設炉の運転再開の遅れや長期に亘る新設の中断により、厳しい状況にある国内サプライチェーンの課題と対応について、海外の良好事例や教訓から、新設プロジェクトを円滑に進めるための方策を探った。モデレーターの伊原一郎氏(電気事業連合会)は冒頭で、日本のサプライチェーン確保と強化に向けた取組みを紹介。第7次エネルギー基本計画で原子力の最大限活用と次世代革新炉へのリプレースの必要性が示されたが、新規建設が長らく途絶え、震災後は定期点検やOJT機会の減少により、電気事業者、メーカー、サプライヤーは、プラントを実際に触りながら学ぶ機会を喪失。有能な技能者が45%減となるなど、技術力の継承・維持の面で影響が顕在化し、取替え部品の供給途絶や、サプライチェーンの劣化に直面していると指摘。一方で、建設には一定のリードタイムが必要であることを考慮すると、今すぐに新設に着手する必要があるため、海外の経験や良好事例を学び、日本の原子力産業界が活力を維持できるような、政策を考えていきたいと語った。続いて、米原子力エネルギー協会(NEI)のジョン・コーテック氏は、米国での原子力への関心の高まりの背景に、原子力が脱炭素電源であることに加え、電化だけでなく、AI関連の需要増により、2029年までの5年間の電力需要成長予測がこの2年で5倍増になったと紹介。この急激な需要増に原子力は対応可能であり、新設には連邦や州政府レベルでの税額控除や融資保証などの各種支援も原子力への追い風になっていると説明した。また、A.W.ボーグル原子力発電所(3、4号機、各AP1000)建設でのオーバーラン(工期遅れ、予算超過)の経験を踏まえ、設備・機器によっては、海外での調達も選択肢にあると述べた。フランス原子力産業協会(GIFEN)のアガット・マルティノティ氏は、同協会CEOのオリビエ・バード氏のビデオ・メッセージによるフランスの原子力開発の最新状況の報告に続けて、人材の訓練、採用、産業支援の取組みとして、フランスの原子力プログラムの復活に関連するニーズを定量化し、原子力プログラムのギャップ分析を行うため、約100社と協力してMATCHプログラムを開発したと紹介。今後10年間で必要となるフルタイムの労働力の定量化評価の結果、年25%の増強が必要であると判り、これを20の分野と約100の主要な専門職に細分化、原子力専門職大学で特に重視されているスキルが優先的に身につくように計画を立てる、と説明した。韓国原子力産業協会(KAIF)のノ・ベクシク氏は、韓国の最新の原子力開発状況や計画を紹介。なお、韓国では原子力発電が始まって以来、約1. 8年に1基のペースで継続的に建設・運転しており、現在、1,100を超える企業が原子力産業全体のサプライチェーンに参加していると言及。サプライチェーンの安定確保には、一貫性と予見可能性のあるエネルギー政策が重要であるとの見解を示した。有能な人材確保や投資環境の整備、許認可プロセスの合理化も不可欠であると同時に、サプライチェーンは一国だけの資産ではなく、原子力産業の促進のための世界共通の資産と捉えるべきであると強調した。日立製作所の稲田康徳氏は、日本電機工業会の原子力政策委員会の前委員長を務めた立場から、撤退・縮小を表明するサプライヤーが顕在化する状況を俯瞰するとともに、日立製作所の取組み事例を紹介。自社内での活動として、一般産業用工業品採用(CGD)、サプライヤーが撤退した製品の内製化、GE日立のSMR建設プロジェクトの機会を活用した国内製造の機会創出の取組みのほか、パートナーサプライヤーとコミュニケーション強化を図り、予備品や製造中止製品のデータの共有、経済産業省の支援事業の活用などを説明した。サプライチェーンの維持には、既設炉のメンテナンスやリプレースが必要であり、その事業予見性を高めるため、政府による支援事業の適用拡大に期待を寄せた。後半のパネル討論は、日本のサプライチェーンの立て直しのため、海外事例から具体的に学ぶ機会となった。打開策を問われたコーテック氏は、米国での多くの建設プロジェクトの機会を活用して、パートナーシップの構築、さらには投資に繋げていくことへの期待を示した。マルティノティ氏は、プロジェクトオーナーと早期段階から対話を開始し、作業量やリソースの計画をたて、リスク軽減と準備の度合いを高めることが重要であると述べた。ノ氏は、韓国の経験上、企業は投資リスクが低く、ビジネス機会を条件にサプライチェーンに参加するため、新規建設や運転再開の計画を明確に示すことが重要であると指摘した。また、韓国内では受注機会が少なく、海外市場を開発したことがサプライチェーンの強化に繋がっていると述べた。海外サプライヤーとの国際協力への対応については、コーテック氏は、米国では、非安全系で量産系の機器については北米だけでなく世界全体を対象にCGDを実施しており、今後それが加速するとの見通しを示した。マルティノティ氏は、フランスでは、サプライヤーの資格認定の標準化を図ろうとしており、専門家同士によるベストプラクティスの共有を提案。ノ氏は、韓国水力・原子力会社(KHNP)にサプライヤー登録制度があり、いったん登録されれば、国内外の原子力発電所に機器を納入でき、国際的に認められた規格基準に則り、海外市場にも参画しやすくなると説明した。人材育成について、コーテック氏は、原子力業界に入ればこの先何十年と良い生活が保障されているとアピールし、人材を惹きつけるNEIの取組みについて紹介した。加えて、大学を含め、徒弟制度のような教育制度を採用する機関に対して、原子力業界に入ってもらえるようなプログラム作りの支援の実施や、コミュニティでデジタルツールを駆使した求人募集活動を行い、実際、原子力業界に応募する人が増えたという実績を紹介した。マルティノティ氏は、現場での必要なトレーニングから逆算して、早い段階からプログラムを作り、適材適所なスキルを持った人材を適切なタイミングで確保することに尽きると強調。ノ氏は、韓国では運転保守は問題ないが、特に中小のメーカーがその採用段階から苦労している現状を踏まえ、政府による支援プログラムのほか、KAIFも中小企業対象向けに、経験者採用にあたって補助金を支給する支援プログラムや、トレーニングプログラムを独自で実施していると紹介した。プロジェクトマネジメントについてコーテック氏は、既設炉の運転コストを2012年比で30%以上下げたNEIの取組みを紹介。平均の定検期間は2000年代初めに44日であったが、現在は31日に短縮化されたという。米国では定検期間中、かなりの人数の応援部隊がサイトを巡回するが、教訓を共有する文化が重要だと語った。マルティノティ氏は、時間が経っても設計が安定していることが重要であり、プロジェクト管理も一貫性を持たせて効率アップを図るとともに、手戻りが生じないように品質管理を重視する必要性を訴えた。ノ氏は、KHNPが国内、海外プロジェクト向けに、プロジェクト管理組織を持ち、建設会社やメーカー、設計会社を含めて、総括的な管理・調整を実施し、うまく機能してきたと紹介した。最後にモデレーターの伊原氏は、日本の原子力産業界にとり非常に多くの有益な助言をいただいたと述べ、これを活かして次の世代に繋げる産業基盤を作っていかなくてはならない、とセッションを締め括った。
09 Apr 2025
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大会初日の午前中に開催されたFireside Chatでは、午後のセッション1、2で議論する原子力発電所の新設に向けた資金調達やサプライチェーン上の課題について、問題提起と欧州の事例に基づく課題共有が行われた。Fireside Chatとは、暖炉脇での会話を想起させるリラックスした雰囲気で行われる対話形式のトークイベント。原産年次大会では初めての試みであり、その後のセッションへの橋渡しとして実施された。初日の登壇者は、フラマトムジャパン株式会社のピエール・イヴ コルディエ代表取締役社長と日本原子力産業協会の増井秀企理事長。増井理事長は冒頭、日本の原子力産業の現状に触れ、2025年2月18日に策定された「第7次エネルギー基本計画」に関し、特に日本の原子力産業界が注目する重要な変化として、「原子力依存度の低減」から「原子力の最大限の活用」へと表現が改められ、既設炉の活用に加え、「新規建設」にも明確に言及されたことを挙げた。コルディエ氏は、欧州における原子力の現状について解説。欧州では130基以上の原子炉が稼働しており、世界全体の約3分の1に相当する規模を有している。近年では原子力への関心が再び高まり、新規導入や既存炉の運転期間延長が広く検討されていると述べ、欧州全体で原子力活用のモメンタムが拡大していると指摘した。コルディエ氏は、在英フランス大使館勤務時に関わった英国ヒンクリーポイントCやフィンランドのオルキルオト3号機のプロジェクトを例に挙げ、欧州の原子力プロジェクトがEUの政策動向に大きく左右される点を指摘した。特に環境上の持続可能性を備えたグリーン事業への投資基準 である「EUタクソノミー基準」をめぐっては、原子力を推進する国々と、反対する国々の間で激しい議論があったが、最終的に原子力は2023年1月1日付でEUタクソノミーに含まれ、グリーンファイナンスの活用が可能となったことを紹介。休眠中のプロジェクト再活性化への期待を示した。日本における資金調達課題について増井理事長は、⽇本では原子力産業が民間事業であり、電力市場自由化が進んでいることから、新たな長期的投資回収が難しくなり、金融機関からの融資を受けることが困難である現状を説明。かつて存在した「レート・オブ・リターン(総括原価方式)」の仕組みがなくなったことで、原子力プロジェクトの資金調達環境が厳しくなっていると述べた。コルディエ氏は、欧州で採用されている多様な資金調達スキームの事例として、ヒンクリーポイントCで導入された「差金決済取引(CfD)」、英サイズウェルCに適用予定の「規制資産ベース(RAB)モデル」、フランスの改良型欧州加圧水型炉(EPR2)6基の建設プロジェクトにおける低利の政府融資とCfDの組み合わせを紹介した。また、欧州のプロジェクトで課題となった建設遅延やコスト超過についても触れ、その主要因としてサプライチェーンと人材の準備不足を指摘。こうした課題に対応するため、フランス電力(EDF)とフラマトムは2020年から2023年にかけて、プロジェクト管理やサプライチェーン標準化などを推進する「エクセル・プラン」を実施し、これにより改善が見られたと評価した。さらに、原子力産業が若年層に対して魅力あるキャリアとして欧州で再評価されていることを紹介。英国ヒンクリーポイントCでは、約8,000人の若者がスキル訓練を受け、地域の若年人口が大きく増加。また、フランスでは、高度な技能を持つ人材を育成するため、エクセル・プランの一環として、溶接訓練機関や原子力のための大学University for Nuclear Professionsが設立され、着実に成果を上げていると述べた。最後に増井理事長は、原子力の新設プロジェクト成功のカギとして「ファイナンス」「人材」「サプライチェーン」の3点を挙げ、欧州の経験から学ぶべき多くの教訓があると総括。コルディエ氏もこれに同意し、適切な制度設計と体制整備が整えば、日本においても”On Time, On Budget”での原子力新設が実現可能であると展望を語った。
09 Apr 2025
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第58回原産年次大会・セッション1「新規建設に向けて:資金調達と投資回収」では、新規原子力プロジェクトを推進するための資金調達・投資回収スキームに関する課題や方向性が議論された。モデレーターの樋野智也氏(有限責任監査法人トーマツ)は冒頭で、第7次エネルギー基本計画において原子力発電所の新規建設推進が明記されたことを受け、その実現のためには事業リスクを官民で明確に分担し、事業環境の予見性を高める必要性があると強調した。また、長期脱炭素電源オークション制度の課題として、建設期間中の想定外コスト(設計変更、部品調達問題)や廃炉費用の不確実性、資本コストの上昇リスク、市場収益の約9割を還付するルールに伴う未回収リスク、供給力提供開始期限(17年)超過による収入減少などを具体的に指摘した。ファイナンス面では、東日本大震災以降の電力会社の信用力低下やGX投資負担増大が、資金調達リスクを高めていることを説明し、コスト回収面の施策と合わせて債務保証、低利融資、官民のリスク分担、資金調達多様化、建設期間中の資金回収を可能とする仕組みの整備などの制度措置が必要と提言した。続いて、ハントン・アンドリュース・カースのジョージ・ボロバス氏は、米国の事例を中心に、原子力プロジェクトの資金調達方法を紹介。特にA.W.ボーグル原子力発電所の建設費が320億ドルに達した例を挙げ、プロジェクトマネジメント能力の重要性に触れながら、シリーズ建設を提案。民間の投資を活用し、政府が積極的な支援策を提供することが重要だとした。また、米国政府による政権を超えた原子力支援策や、小型モジュール炉(SMR)に対するGoogle社やAmazon社など大手IT企業からの投資が活発化している現状を紹介し、民間企業の参加は既存発電所の再稼働プロジェクトの成功にも大きく寄与すると指摘した。英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省のマーク・ヘイスティ-オールドランド氏は、英国の原子力政策について説明。英国政府は2050年までに原子力発電容量を2,400万kWに拡大する目標を掲げ、SMRを含めた原子力発電の開発を「Great British Nuclear(GBN)」を通じて推進していることを示した。特に「規制資産ベース(RAB)」モデルを採用するまでの歩みを説明しながら、建設期間中から投資回収を可能にする制度的メリットを強調した。また、核燃料サイクルの安全保障確立や、ロシア・中国依存を低減する取り組みが英国の原子力政策の重要な柱であると述べた。日本経済団体連合会の小野透氏は、産業界の視点から原子力の重要性を指摘。特に地域間の電気料金差(北海道と九州の差が月間10億円規模)が、企業の国内投資判断に大きく影響していると具体的な数字を示した。また、経団連が行ったアンケート結果(再稼働支持率9割、新増設支持率7割)を紹介し、第7次エネルギー基本計画により支持がさらに拡大する可能性を示唆した。さらに、原子力損害賠償における無限責任制度の見直しも提案した。みずほ銀行の田村多恵氏は、銀行や社債市場を通じた電力会社の資金調達について資金供給者の視点を示し、金融機関がファイナンスの対応意義、事業の継続性、キャッシュフローの安定性等を重視していることを説明した。また、継続的に原子力建設プロジェクトを実施することが、コストの上振れリスクの軽減につながると述べ、金融機関が資金供給できる事業環境整備の重要性を主張した。最後に経済産業省資源エネルギー庁の吉瀬周作氏は、国内の電力需要が今後も増加傾向にあり、脱炭素電源(原子力含む)の増強が不可欠だと具体的な数値を示して説明した。そして、2040年における原子力シェアを約2割とする方針を再確認し、海外の事例を参考に、日本の投資回収予見性を高める制度整備が必要だと強調した。後半のパネル討論では、こうした課題を踏まえた具体的な解決策や政策的対応が議論された。樋野氏はまず、米国における原子力プロジェクトの将来展望や、自由化市場における原子力発電の資金調達リスクについてボロバス氏に質問。ボロバス氏は、自由化市場で原子力プロジェクトを成功させるためには、長期的な収益予測可能性を高めることが重要であり、特に政府が支援の仕組みを作ることが必要になると強調した。一方、英国のRABモデルの詳細についてオールドランド氏は、英国では運転終了後の廃炉費用をあらかじめ計画に組み込み、投資回収を安全かつ透明に行う仕組みを導入していると指摘。これが金融機関や投資家のバックエンドに関する懸念を和らげ、安定的な資金調達を可能にしていると述べた。日本の制度設計に関連し、原子力産業におけるサプライチェーン維持の重要性と国のリーダーシップの必要性について問われた小野氏は、明確な原子力政策の提示がサプライチェーンの維持・強化に不可欠であり、特に最終処分場の選定などバックエンド問題に関し、国の積極的な関与を求めた。田村氏はファイナンス支援の必要性について問われ、公的信用補完に触れながら、個別プロジェクトの投資回収予見性だけではなく、事業者が継続的に投資できる環境が必要であり、それを支えるファイナンス側も継続的に資金提供できるような制度支援が必要だと強調した。リスク分担や投資回収の予見性をどのように制度設計に反映させるか問われた吉瀬氏は、初号機だけでなくシリーズ建設していくという考え方が参考になったとし、モラルハザードを防ぎ、コストダウンのインセンティブを取り入れながら、社会全体でリスクとコストをどう分担するか、これらのバランスを慎重に検討していることを明らかにした。セッション1では質疑応答を通じ、海外の先進事例を参照しつつも、日本固有の事情を踏まえた制度設計が求められることが明確となった。また、原子力への国民理解促進に向けた情報発信の重要性についても意見が交わされ、「情報を取りに来る層への情報発信は充実しているが、情報を取りに来ない層に対する発信が課題」とし、産業界、政府、金融機関の連携が強調された。最後にモデレーターの樋野氏は、原子力発電が安定供給とエネルギー安全保障、脱炭素社会の実現に不可欠であることを再確認した上で、制度設計の遅れは産業界に大きな損失をもたらすため、迅速な対応が必要だと指摘した。また、米英の先進事例を日本の実状に適切に修正・適用しつつ、単発のプロジェクトに終わるのではなく、継続性をもった長期的な取り組みの重要性を強調した。さらに、国民理解を促進するためには丁寧なコミュニケーションが必要であり、産業界、政府、金融機関が一体となって取り組みを進めていくことが求められると結論付けた。
08 Apr 2025
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