海外NEWS
04 Mar 2021
212
OECD/NEAが福島第一原子力発電所事故後の対応等で報告書公表
国内NEWS
04 Mar 2021
145
消費者庁、食品中の放射性物質に関しオンライン意見交換会
海外NEWS
03 Mar 2021
433
ロシアのTVEL社、鉛冷却高速実証炉用の窒化物燃料を開発
海外NEWS
02 Mar 2021
356
ブラジル、アングラ3号機の建設再開に向け土木建築契約の入札公告
国内NEWS
02 Mar 2021
589
福島第一3号機、使用済燃料プールからの燃料取り出し完了
海外NEWS
01 Mar 2021
490
米エネ省長官にジェニファー・グランホルム元ミシガン州知事が就任
国内NEWS
01 Mar 2021
581
新井理事長、福島第一事故から10年を前に所感
海外NEWS
26 Feb 2021
539
仏国の90万kW級原子炉32基、50年間運転継続する見通し
経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は3月3日、福島第一原子力発電所事故後の10年間に日本の内外で取られた対応とその進展、教訓、今後の課題等をまとめた報告書「Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident, Ten Years On:Progress, Lessons and Challenges」を公表した。OECD/NEAは、日本の政府当局はこの事故後、技術面や組織面で行動を起こし改革も実行するなど精力的に取り組んできたとの認識を示している。中でも、同事故で組織構造的な欠点が明らかになったことから、政府当局は原子力規制庁(NRA)を設置して原子力関係の規制・監督方法を完全に再設計、組織面のみならず、政策面や財政面においてその独立性を確保したとしている。OECD/NEAの報告書はまた、事故事象が発生した場合でも国内の原子力施設が一時的な停止から回復し安全な運転を保証するため、NRAが新たな規制要件を迅速に打ち出したほか、リスクインフォームド規制の考え方に基づいて新たな監視プロセスの導入も模索していると評価。日本はさらに、施設の安全性向上と緊急時対策をさらに進め、原子力損害賠償が保証されるよう法改正も行っているとした。しかし、日本が今後も長期的に復旧・復興の努力を続けていく上で、福島第一原子力発電所の除染のほか、事故や津波の影響を受けた周辺コミュニティの再活性化など、直面する課題はまだ数多く残っている。これには、技術的な問題のほかに規制や法改正関係の問題も含まれるが、OECD/NEAによれば、現在進められているコミュニティの再建や経済復興に関しては、彼らとの合意の下、コミュニティが一層強靭な社会的復活力を身に着けられるような枠組みを有効にしなくてはならない。今回の報告書はまた、OECD/NEAおよびその他の国際機関との協力を通じて、同事故の技術側面に関する理解がかなり深まっていると指摘。それによって、すべての原子力開発利用国で施設の安全性や緊急時計画、環境面や社会・経済面および政策的な側面が改善されるよう、支援を続けなくてはならないとした。こうしたことからOECD/NEAは今後、同事故の経験から関係する知見をさらに深めていくとともに、事故後の影響に対する日本の長期的な取り組みを一層強力に支援すると表明。以下の9分野について日本に提案を勧告、その進め方についても助言している。(1)原子力規制において、効率的でバランスの取れた独立性や公開性、透明性を確保する。(2)防護レベルを向上させるために原子力施設の安全システムを統一するなど、同一システムについて系統的かつ全体的なアプローチを取る。(3)難しい放射線環境下における安全性の維持や先進的ロボット技術の活用など、廃止措置技術の開発で国際協力に積極的に参加する。(4)福島第一原子力発電所の廃止措置を成功裏に実施するため、放射性廃棄物の管理・処分計画を十分に検討する。(5)どのような原子力損害に対して賠償が行われ、賠償額がどのように算出されるかなど、当事者が明確に理解できるよう、原子力損害賠償制度の適用と解釈について引き続き改善を図る。(6)ステークホルダーがリスク・コミュニケーションを一層深く理解し、一般国民が政策決定にさらに参加することを目指して、リスク情報を正確に伝えるための努力を継続する。(7)福島第一原子力発電所事故から復興するには、物理的側面や健康科学的面だけでなく環境面や社会・経済面、倫理面、感情面の考慮が必要なため、影響を受けた住民のメンタル的健康に一層配慮する。(8)廃止措置に使われる遠隔・ロボット技術などの新しい技術や方策を経済復興の原動力として活用し、経済的再開発の機会をさぐる。(9)福島第一原子力発電所事故は福島県民や日本国民、政府当局、そして世界のコミュニティにとって悲劇的な出来事だったが、この経験は学びと探求の源でもあるため知識管理システムを構築してその知見を継承することが重要である。(参照資料:OECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Mar 2021
212
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社の燃料部門であるTVEL社は3月1日、計画中の鉛冷却高速実証炉「BREST-300」に使用するウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料の設計が、モスクワ市にある同社の「ボチバール・ロシア無機材料研究所(VNIINM)」で完成したと発表した。TVEL社の子会社でトムスク州セベルスクにある「シベリア化学コンビナート(SCC)」では、すでに年内の完成を目指して「BREST-300」用のMNUP燃料製造加工プラントを建設中。MNUP燃料は同施設の完成を待って、商業生産されることになる。核燃料サイクルの確立を目標に掲げるロシアは、実績豊富なナトリウム冷却高速炉(SFR)の研究開発と並行して、鉛冷却高速炉(LFR)の研究開発も「ブレークスルー(PRORYV)プロジェクト」で進めている。同プロジェクトではSCC内に「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」を建設することになっており、その主要3施設として電気出力30万kWの「BREST-300」とMNUP燃料製造加工プラント、および「BREST-300」専用の使用済燃料再処理モジュールを併設することを計画している。今回の発表によると、TVEL社は今後もMNUP燃料の研究開発を継続し、燃焼による損傷の発生を抑える次世代のMNUP燃料を開発する方針。これは将来的に「BREST-300」の使用済燃料を再処理し、新燃料として再加工することを見据えたものになる。窒化物燃料を組み込んだ試験燃料集合体の照射試験は、2014年からベロヤルスク原子力発電所の高速原型炉「BN-600」(60万kW)で行われており、VNIINMは「BREST-300」用MNUP燃料の健全性試験ではすでに大幅な改善が見られたとしている。「BREST-300」用窒化物燃料の研究開発はまた、出力120万kWの商業用ナトリウム冷却高速炉「BN-1200M(=「BN-1200」のアップグレード版)」における窒化物バージョンの炉心開発にも大きく貢献。2022年には「BN-1200M」タイプの試験燃料集合体を「BN-600」に装荷して、健全性試験を実施する予定である。なお、連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)は2月10日、SCC内で「BREST-300」を建設するための許可をSCCに発給した。ロスアトム社は同炉を2026年末までに完成させる方針で、2019年2月には原子炉建屋とタービン建屋、および関連インフラ設備の総合建設契約をエンジニアリング企業のTITAN-2社と締結。同炉は世界でも初の鉛冷却高速炉になると強調している。(参照資料:TVEL社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Mar 2021
433
ブラジル原子力発電公社(Eletronuclear)は2月25日、建設工事が2015年以来中断しているアングラ原子力発電所3号機(140.5万kWのPWR)の作業を再開するため、一部の土木建築工事と電気機器組み立て工事について国内企業向けの入札公告を官報に掲載した。3号機の完成までには別途、EPC(エンジニアリング・資材調達・建設)契約企業を選定して、建設工事全体を委託することになるが、その前段階の作業を少しでも進めておくことが今回の入札の目的。5月までに土木建築工事の請負企業と契約を結び、10月には複数の構造物について改めて最初のコンクリートを打設する。その後、2022年後半にEPC契約企業との契約に調印し、2026年11月には3号機の運転を開始したいとしている。アングラ3号機は同1、2号機に次ぐ国内3基目の商業炉となる予定で、1976年に独シーメンス社に機器発注して開始されたが、景気の後退等により1986年に作業が中断した。政府の建設再開決定を受けて、原子力発電公社は2010年6月に3号機で最初のコンクリートを打設したほか、2011年には仏アレバ社から一部の機器を購入することで同社と合意。しかし、関係する汚職の調査や財政問題等により、建設工事は2015年9月に再び停止した。原子力発電公社の2月19日付け発表によると、アングラ3号機の建設再開については鉱物エネルギー省(MME)が最優先事項として進めており、昨年以降いくつかの打開策により大きく進展中である。議会の上院も2月初旬、アングラ3号機が発電した電力の価格改定を可能にする法改正を承認。建設プロジェクトで収益が確保されるよう、既存の電力供給契約を終了し新たな価格で契約を締結することが可能になった。アングラ3号機が発電する電力の基準価格は、ブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)が改訂することになっており、その算出に当たりBNDESは、建設プロジェクトの経済性維持と財政的実行可能性を考慮に入れる方針。BNDESはまた、同炉の完成までに必要な投資額を約150億レアル(約2,840億円)と試算していたが、これについても改訂を行うとしている。原子力発電公社のL.ギマランイス総裁は今回の入札公告について、「アングラ3号機の建設再開がようやく現実のものになった」と表明。同炉はブラジルの電力システムの供給保証強化と多様化に貢献するだけでなく、その発電電力はコストの高い火力発電所に取って替わることになると指摘した。同炉はまた、温室効果ガスを排出しないことから、ブラジルのエネルギー生産における脱炭素化をまた一歩前進させると強調している。(参照資料:ブラジル原子力発電公社(ポルトガル語)の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Mar 2021
356
DOEのグランホルム長官©DOE米エネルギー省(DOE)は2月25日、元ミシガン州知事のジェニファー・M.グランホルム氏が同省の第16代長官として議会上院で承認され、就任宣誓を行ったと発表した。DOE長官を務めた女性としては、B.クリントン政権時代のH.オレアリー長官に次いで2人目。カナダからの移民であるグランホルム長官は、1984年にカリフォルニア大学(UC)バークレー校を卒業し、1987年にはハーバード大学の法科大学院を卒業。直ちにミシガン州の第6巡回区控訴裁判所で公務についており、1990年からはデトロイトで連邦検事、1994年には同州ウェイン郡の法人弁護士となった。1998年から2002年まで同州の司法長官、2003年から2011年まで同州の州知事を2期務めた後は、UCバークレー・公共政策大学院の特別栄誉実務教授として、クリーンエネルギーや法令、政策、産業などの問題を扱った。また、非営利の非政府組織であるピュー慈善信託では、クリーンエネルギー・プログラムのアドバイザーを務めていた。就任に際してグランホルム長官は、「DOEには優秀な科学者やエンジニア、エネルギー政策のエキスパートが揃っており、DOEの責務である新たなクリーンエネルギー技術の開発や配備を進めるには最適だ」と指摘。このようなスタッフなら、J.バイデン政権が目標の一つに掲げる「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化」を達成し、米国の未来を保証することができるとした上で、「彼らとともに米国でクリーンエネルギー革命を始動し、関係する高給雇用を数百万人規模で創出、国中の労働者やコミュニティに利益をもたらしたい」と抱負を述べた。同長官はまた、宣誓式後にビデオメッセージとDOEブログへの投稿文を公表。DOEの長官として、クリーンな電力を廉価で豊富に発電する技術を配備してクリーンエネルギー革命を進め、地球温暖化に取り組んでいく覚悟を明らかにした。DOEの発表によると、同長官はミシガン州知事時代、リーマンショック後の世界的金融不況により自動車産業や製造部門の破たんを州内で経験したが、その対応策として、州経済の多様化を図るとともに自動車産業を強化、製造部門の維持とクリーンエネルギー部門の台頭を促した。今や、北米における電気自動車バッテリーの三分の一がミシガン州で生産されているほか、クリーンエネルギー関係の特許取得で同州は上位5州の一つとなった。さらに、新型コロナウイルスによる感染の拡大前は、12万6千人の州民がクリーンエネルギー関係の職に就いていたとDOEは強調している。米原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック理事長は同日、新長官の就任を歓迎すると表明した。「CO2排出量が一層少ない発電所の建設やクリーンエネルギー関係の雇用創出、経済の全面的な脱炭素化など、バイデン政権の地球温暖化防止プログラムを進めていく上で、グランホルム長官は極めて重要な役割を果たすだろう」と指摘。また、米国の確実な脱炭素化に向けて、原子力を含む無炭素エネルギーの価値が適切に評価されるよう協力していきたいと述べた。(参照資料:DOEとNEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Mar 2021
490
仏国の原子力安全規制当局(ASN)は2月25日、国内で1980年代前半に運転開始した32基の90万kW級PWRがそれぞれ40年稼働した後、追加で10年稼働させる際の諸条件を23日付で決定したと発表した。事業者であるフランス電力(EDF)が提案したすべての対策によって、これらの原子炉で運転開始後50年間、運転を継続させる見通しが立ったとASNは説明している。仏国では商業炉の稼働にあたり政府はASNに諮問して認可を発給しているが、運転期間に制限がなく、運転開始後10年毎に詳細な安全審査を実施して、次の10年間の運転継続で課題となる設備上のリスクや対応策等を評価している。今回対象となっている90万kW級PWRは、ルブレイエ発電所の4基、ビュジェイ発電所の4基、シノンB発電所の4基、クリュアス発電所の4基、ダンピエール発電所の4基、グラブリーヌ発電所の6基、サンローラン・デゾーB発電所の2基、およびトリカスタン発電所の4基。仏国内では最も古い部類に属することから、これらで2031年までに実施が予定されている4回目の安全審査では、設計時に想定した40年という期間を超えて運転を継続するには設計面の調査や、機器の取り換え等が重要となるとASNは述べた。今回の決定(2021-DC-0706)の中でASNは、仏国内の商業炉58基すべてを保有・運転するEDFに対し、EDFが自ら提案していた大規模な安全性向上工事や追加対策を実行に移すよう指示。これには格納容器のベントや炉心溶融物質による溶け抜け防止など、炉心溶融事故時におけるリスク軽減のほか、発電所内外からこれまで想定してきた以上に激しい攻撃を受ける場合の対策、事故時の放射性物質の放出量抑制、事故等の厳しい環境下における使用済燃料貯蔵プールの管理などが含まれるとしている。10年に一度の安全審査では、対象原子炉すべてに共通する事項の「包括的審査」に加えて、「それぞれの原子炉に特有の設備の審査」が行われるが、今回ASNが決定した要件は原子炉毎に適用される予定である。90万kW級PWRの4回目の安全審査に向けた「包括的調査」の一環として、EDFは2018年9月から2019年3月までの期間、「原子力安全情報・透明性高等委員会(HCTISN)」の支援を受けながら共通対策に関するパブリックコメントを募集。また、その結果を踏まえた決定事項の案文についても、ASNは2020年12月から今年1月にかけてパブリックコメントに付して、要件の修正や明確化を行っている。(参照資料:ASNの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Feb 2021
539
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は2月24日、出力88.5万kWの「高速実証炉(BN-800)」として2016年11月から営業運転中のベロヤルスク原子力発電所4号機で、燃料交換時に初めてウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料のみを装荷したと発表した。これらの作業を終えた同炉は再び送電網に接続され、運転を再開している。運転開始当初、同炉の炉心はウラン燃料とMOX燃料のハイブリッド炉心となっており、2020年1月の初回の燃料交換時にMOX燃料集合体を18体装荷。今回新たに160体のMOX燃料集合体をウラン燃料集合体と交換したことから、同炉の炉心は三分の一までMOX燃料になった。ロスアトム社は今後の燃料交換でもMOX燃料のみを装荷していく予定で、2022年には同炉は「フルMOX炉心」で稼働することになる。高速実証炉である4号機の主な目的は、高速炉を活用した核燃料サイクルの様々な段階の技術をマスターすることで、同発電所のI.シドロフ所長は「原子力産業界における戦略的目標の実現に、また一歩近づいた」とコメント。「MOX燃料を使用することによって、燃料製造に使われない劣化ウランも含め、原子力発電の材料資源であるウランが有効活用されるほか、別の原子炉から出た使用済燃料を再利用することで長寿命核種など放射性廃棄物の排出量を削減できる」と強調した。ベロヤルスク4号機の初期炉心には、ディミトロフグラードの国立原子炉科学研究所(RIAR)が製造したMOX燃料集合体が含まれていたが、取り換え用のMOX燃料は、クラスノヤルスク地方ゼレズノゴルスクにある鉱業化学コンビナート(MCC)が製造した。原材料は、ウラン濃縮後の劣化六フッ化ウランから生成した劣化ウラン酸化物と、ロシア型PWR(VVER)の使用済燃料から生成したプルトニウム酸化物である。MCCで産業規模のMOX燃料を製造することは、2020年までを視野に入れたロシア連邦政府の目標プログラムに設定されており、ロシアの原子力産業界はMCC内にMOX燃料製造施設を設置するため、広範な協力体制を敷いている。これらの調整役を担うロスアトム社傘下の核燃料製造企業TVEL社によると、MCCでは2014年に6t/年の製造能力でMOX燃料製造施設の試運転を開始。最終的に60t/年の製造能力を目指しているが、2018年後半からは「BN-800」向けに取り換え用MOX燃料の連続製造を始めている。なお、TVEL社の担当副社長によると、MCCではBN-800用MOX燃料の製造と並行して、ロスアトム社の専門家チームが同様にMOX燃料の製造技術開発を続けている。VVERの使用済燃料から抽出したプルトニウムで新燃料を製造する技術はすでにマスター済みで、全自動の無人設備を使って最初のMOX燃料集合体が20体完成。原子炉への装荷に向け、検査もクリアしたと伝えている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Feb 2021
699
仏国のフラマトム社は2月22日、2020会計年度(2020年12月31日まで)における決算報告を公表した。金利・税金・償却前利益(EBITDA)が合計5億6,100万ユーロ(約719億円)と対前年比で6.4%増加した一方、収益や受注高はともに前年実績を下回る結果になったことを明らかにしている。2020年のEBITDAが拡大した理由は主に、様々なプロジェクトを円滑に遂行できたことやコストの削減で同社が努力を継続したことによる。2020年の受注高は総額28億6,900万ユーロ(約3,768億円)で、2019年実績の33億ユーロ(約4,230億円)から約13%下落したが、既存の原子力発電所や建設中原子炉に保守・エンジニアリング・サービスを提供する「設置基盤事業」、および「計測制御(I&C)系事業」に関しては、欧州や北米での活動が比較的堅調だったと指摘した。収益も32億9,500万ユーロ(約4,224億円)と前年実績から3.1%の減少となったが、これは新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大が同社の「設置基盤事業」部門と、いくつかの機器取り替えプロジェクトのスケジュールに大きく影響したためである。それでも同社はパンデミックの最中、これらの部門における作業量を顧客と調整しつつ継続。「設置基盤事業」部門では競争の激しい米国市場で実績が改善されたとしている。また、ブラジルで進められているアングラ原子力発電所3号機(140.5万kWのPWR)の建設プロジェクトでも、ドイツにある同社の製造拠点から引き続き機器類を納入したと述べた。フラマトム社はまた、「計測制御(I&C)系事業」部門では、英国や東欧、米国における新規原子炉建設や既存炉の補修事業で活動が活発に継続したと説明。機器の製造プロセスや品質向上計画に対して同社が行った投資は、「プロジェクト・機器製造(PCM)事業」部門における蒸気発生器や重機器の品質向上に繋がったほか、英国のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(172万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)建設プロジェクトと仏国内のフラマンビル3号機(165万kWのEPR)建設プロジェクトも、同部門の事業拡大に貢献した。同社はこのほか、2020年は「原子燃料事業」部門における燃料集合体の生産が順調だったと表明。これらは主に、米国の原子力発電事業者や英国唯一の軽水炉であるサイズウェルB原子力発電所(125万kWのPWR)に納入したとしている。(参照資料:フラマトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Feb 2021
416
スペイン原子力安全委員会(CSN)は2月17日、同国最大の原子力発電設備で1984年8月に送電開始したコフレンテス発電所(109.2万kWのBWR)の運転期間を、2030年11月末まで9年半延長することを承認したと発表した。これにより、同発電所の運転期間は2024年時点で運転開始後40年が経過し、それ以降はいわゆる「長期運転(LTO)」期間に入る。CSNの今回の裁定は今後、環境移行・人口問題省に送られ、「原子力および放射線取扱い施設に関する規制(RINR)」に基づいて最終審査を受けることになる。スペインではTMIとチェルノブイリ両原子力発電所で事故の発生後、脱原子力政策によって新規原子炉の建設を禁止している。しかし、脱原子力の達成時期については明確に定めておらず、スペイン議会は2011年2月、CO2排出量を抑制するため、原子力発電所に課していた最大40年という運転期間の制限規定を撤廃。稼働中の商業炉(当時、合計8基)の運転期間は、規制当局などの助言に従い、政府が様々な条件を勘案して決定していくことになった。また、スペイン政府は2020年1月、欧州委員会の政策に基づき「2021年~2030年までの統合国家エネルギー・気候変動対策プラン(INECP)」を作成した。その中で、CO2排出量を2030年までに(1990年比で)少なくとも20%削減するとの目標値を設定しており、「商業炉を運転開始後40年で閉鎖するとなると、2030年を待たずにそのすべてが閉鎖され、CO2の20%削減は不可能になる」と指摘。理想的な条件の下で整然と脱原子力を進めるにはまだ十分時間があるため、現在稼働する7基のうち4基までを2030年までに段階的に閉鎖する一方、残り3基(約300万kW分)については2035年末までに閉鎖していくとの方針を明記している。CSNはコフレンテス発電所の運転継続裁定について、「同発電所の的確な運転状況や、安全レベルが適切に維持されているか等を確認して下した」と説明。発電所を所有・運転するイベルドローラ社の(CSN要件に対する)適切な対応も考慮に入れており、10年に一度の大掛かりな定期安全審査で指摘された課題に対し、同社が提案した様々な安全性改善対策が確認されたとしている。なお、CSNはこのほか、アルマラス原子力発電所についても運転期間延長を承認すると2020年5月に発表。1981年に送電開始した1号機(104.9万kWのPWR)は2027年11月1日まで合計46年間、1983年に送電開始した2号機(104.4万kWのPWR)については2028年10月末まで45年間運転することを許可した。また、2020年6月には(1987年に送電開始した)バンデリョスII原子力発電所(108.7万kWのPWR)の運転を2030年7月まで10年間追加で継続することを承認。同発電所の合計運転期間は43年間に達する見通しである。(参照資料:CSNの発表資料(スペイン語)、スペインのINECP、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Feb 2021
422
インドの大手エンジニアリング・建設企業であるラーセン&トゥブロ(L&T)社は2月18日、同国の南端タミルナドゥ州のクダンクラム原子力発電所で建設が計画されている5、6号機の土木建築工事契約を、インド原子力発電公社(NPCIL)から獲得した。ボンベイ証券取引所に対するL&T社の同日付申告文書で明らかになったもの。正確な契約金額は公表していないが、プロジェクト規模の分類では「最大級」の100億ルピー~250億ルピー(約145億~364億円)に相当すると明記している。インドの商業炉は低出力の国産加圧重水炉(PHWR)が主流だが、クダンクラム原子力発電所では現在、同国で唯一の大型軽水炉が稼働(1、2号機)・建設(3、4号機)中である。これらはすべてロシア国営の原子力企業ロスアトム社が建設した100万kWのロシア型PWR(VVER)で、III期工事に相当する5、6号機についてもインドとロシアの両国政府は2017年6月、100万kW級VVER設計を採用して建設することで合意、一般枠組み協定(GFA)とプロジェクトの実施に必要な政府間信用議定書に調印した。同年7月には、NPCILがロスアトム社傘下のアトムストロイエクスポルト社と5、6号機の主要機器の設計・製造契約に調印。両炉の本格着工に先立ち、機器の調達手続きが始まったもので、建設プロジェクトは実質的に具体的な実施段階に移行していた。L&T社が請け負った建設工事は、5、6号機の原子炉建屋と補助建屋、タービン建屋、ディーゼル発電機棟、およびその他の安全性関係構造物で、工期は64か月を予定。同社は現在建設中の3、4号機についても、同様の土木建築工事を請け負っている。2017年に相次いで着工したこれら2基は、2023年末までに運転開始予定となっている一方、5、6号機に関しては今年後半に着工後、2030年までに運転を開始できると見込まれている。(参照資料:ボンベイ証券取引所の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Feb 2021
387
米国のニュースケール・パワー社は2月17日、ブルガリアのコズロドイ原子力発電所内で同社製の小型モジュール炉(SMR)を建設する可能性を探るため、コズロドイ原子力発電所増設会社(KNPP-NB)と協力覚書を締結したと発表した。コズロドイ発電所では現在、5、6号機(各100万kWのロシア型PWR=VVER)のみが稼働中だが、これらは同国唯一の原子力発電設備であり、総発電量の約35%を賄っている。ブルガリア内閣は昨年10月14日、欧州連合(EU)が目標に掲げる「2050年までに気候中立(CO2の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロ)を達成」を前進させるためにも、同発電所の設備容量拡大に向けた可能性調査や準備活動を実施すると閣議決定した。内閣はその際、世界の潮流に沿って、将来的にSMRを第3世代+(プラス)の大型炉に代わる選択肢として活用する方針を明示。コズロドイ発電所では設備容量の上限を定めていないため、原子炉の増設に向けて現在進めている活動の範囲を広げることや、様々な原子炉技術を考慮することなどを指示した。また、具体的な措置として、SMRのデベロッパーを含む米国企業と新たな原子炉技術の開発協力で交渉に入るなど、必要なアクションを取るようエネルギー大臣と国営エネルギー持ち株会社(BEH)に命じている。実際、ブルガリア政府は今年1月、頓挫したベレネ原子力発電所のために調達した一部機器を使って、コズロドイ発電所7号機の建設を検討すると発表している。この方法が最も経済的であり、環境面や技術面でも適していると述べた一方、SMRなどの新技術を採用した原子炉を建設する可能性についても調査を継続するとしていたニュースケール社が今回覚書を結んだKNPP-NB社は、既存のコズロドイ発電所サイトに新たな原子炉を建設するために設立された株式会社。閣議決定に沿って、KNPP-NB社は先進的な原子炉技術を同発電所に導入する方針であり、ニュースケール社のSMRについても技術的な適性を評価する。ニュースケール社側もKNPP-NB社のこのような活動に協力するため、様々な分析・調査をサポートする予定。具体的には、実行可能性調査の実施も含めた開発スケジュールの作成や費用見積もり、エンジニアリングや許認可手続きなど、ニュースケール社製SMRの導入で双方が合意した項目を支援していく。ニュースケール社は2016年12月末日、SMR設計としては初の設計認証(DC)審査を原子力規制委員会(NRC)に申請した。その後約4年半の審査を経て、NRCは2020年9月29日付けの連邦官報で、「電気出力各5万kWのモジュール×12基」で構成される同社製SMRに「標準設計承認(SDA)」を発給したと発表した。同設計の初号機については、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)がエネルギー省傘下のアイダホ国立研究所内で建設することを計画しており、ニュースケール社は2027年までに最初のモジュールを納入する考え。また、米国以外では、カナダやヨルダン、チェコ、ルーマニアで同社製SMRの建設可能性調査に関する覚書がニュースケール社と結ばれている。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、コズロドイ原子力発電所増設会社(ブルガリア語)の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Feb 2021
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米エネルギー省(DOE)の原子力局は2月9日、使用済燃料(SNF)と高レベル放射性廃棄物(HLW)の輸送用として予備的に設計した8軸(車輪が8対=16輪)のハイテク鉄道車両「Fortis」について、米国鉄道協会(AAR)からプロトタイプを製造し試験を開始するための許可が得られたと発表した。DOEはすでに、「Fortis」開発の次の段階であるプロトタイプの製造・試験契約の締結に向けて、契約オプションに関する情報提供依頼書(RFI)と市場調査通知(SSN)を産業界に向けて発出済み。予備設計通りのプロトタイプの製造と試験の実施で契約を2つに分けるオプションと、製造と試験を一本化したオプションの2種類について情報や意見の提供を求めている。首尾良く契約が結ばれて、試験車両が完成するまでに約18か月を要する見通しだが、DOEとしては5年以内に「Fortis」の運用を可能にする方針である。米国では「1982年放射性廃棄物法」に従って、DOEが全米の原子力発電所敷地内や中間貯蔵所に保管されているSNFとHLWの処分と、処分場までの輸送義務を負っている。SNF等の輸送容器(キャスク)は主に鋼鉄製の円筒型で、外部への漏洩防止のため溶接かボルトで密閉されている。重さも80~210トンに達することから、DOEは主に鉄道の利用をキャスクの輸送手段として想定している。「Fortis」はSNFキャスクのように大型のコンテナの積載に適したフラットな設計の車両で、ハイテク・センサーやモニタリング・システムを搭載。これらによって、輸送時に起こり得る11種類の状況をリアルタイムでオペレーターに伝えることができる。予備設計は今年初頭、パシフィック・ノースウエスト国立研究所の技術支援により完成しており、AARは鉄道産業界の厳しい設計基準に照らして「Fortis」を製造し、試験するようDOEに要求している。なお、DOEは「Fortis」のほかに、高レベルの放射性物質を輸送する12軸の車両「Atlas」の開発も進めている。「Atlas」ではすでに、単一車両のプロトタイプを使った試験をコロラド州プエブロで実施中。DOEは2020年代半ばまでに、これら車両の両方について運転許可をAARから取得するとしている。(参照資料:DOEの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Feb 2021
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ロシアの原子炉機器製造企業のアトムエネルゴマシ(AEM)グループは2月12日、中国の遼寧省で中国核工業集団公司(CNNC)が建設を計画している徐大堡原子力発電所の3号機用主要機器の製造をロシアで開始したと発表した。同発電所のⅡ期工事となる3、4号機の建設工事については、2019年6月にロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が請け負うことが決定。この時、同社傘下の原子力発電所建設・輸出企業であるアトムストロイエクスポルト(ASE)社が、CNNCと一括請負契約を締結した。3、4号機の設計は第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)を採用することになっており、CNNCは今年10月に3号機を、2022年8月に4号機を本格着工し、その後はそれぞれ、2027年と2028年の完成を目指すとしている。徐大堡発電所の建設計画では2006年当時、100万kW級PWRを最終的に6基建設することが計画されており、国家発展改革委員会は2011年1月、Ⅰ期工事の1、2号機について事前作業の実施を許可した。これを受けて基礎掘削の前段階の起工式が行われたものの、同年3月に福島第一原子力発電所事故が発生したため、政府は計画を一時凍結。2014年4月に国家核安全局(NNSA)から同計画のサイト承認が発給され、2016年10月に両炉の原子炉建屋の土木建築契約が結ばれた折は、100万kW級のウェスチングハウス社製AP1000を2基建設すると伝えられたが、これらは今のところ未着工である。今回、3号機の機器製造を開始したアトムエネルゴマシ・グループはロスアトム社のエンジニアリング部門で、実際の作業は傘下のAEMテクノロジー社のボルゴドンスク支部であるアトムマシ社が行っている。AEMテクノロジー社が中国の建設プロジェクト用に主要機器を供給するのは2件目で、今回の契約内容は2基の120万kW級VVERについて、蒸気発生器と冷却材ポンプ、加圧器などを製造・納入すること。これら機器の総重量は、合計6,000トンに達する。発表によると、現時点では1基あたり4台設置する蒸気発生器の胴部と原子炉容器のシェル部分について点検が完了し、機器製造作業が始まったところ。原子炉容器シェルの重さは92トンあるが、ノズル部分の機械加工は15日ほどかけて行われる。これと同時に、炉心に耐食性の覆いをかける準備も進展中で、1台あたり37トンの重さがある蒸気発生器・胴部の機械加工は6日間で仕上げるとしている。(参照資料:アトムエネルゴマシ・グループの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Feb 2021
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消費者庁はこのほど食品中の放射性物質に関する意見交換会を開催。食品に関するリスクコミュニケーションの一環として、消費者庁が食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省と連携し全国主要都市で行ってきたもので、今回は感染症拡大防止に鑑み、ウェブサイトで収録動画を公開し、一般からの質問・意見を受け付ける格好となっている(質問・意見の受付は3月7日まで、収録動画の公開は3月31日までを予定)。〈動画および質問・意見の応募は こちら〉意見交換会ではまず、放射性物質の基礎知識、食品中の放射性物質に係る対策と現状について説明。厚労省と農水省によると、福島第一原子力発電所事故後17都県を中心とする地方自治体で行われてきた食品中の放射性物質に関する検査で、2019年度に基準値(100ベクレル/kg)を超えたものは、栽培・飼養管理が可能な田畑・果樹園の農産物(山菜類を除く)・畜肉と海産魚介類についてはゼロとなっている。一方、消費者庁が2012年度より実施している風評被害に関する消費者意識実態調査の結果で、2020年度は、放射性物質を理由に福島県産品の購入をためらう人の割合はこれまでで最小となった。また、買物をする際に食品の産地を「気にする」または「どちらかといえば気にする」と回答した人のうち、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいから」と回答した人の割合は減少傾向にあるものの、前年と同程度の14.1%だった。続くパネルディスカッションでは、フリージャーナリストの葛西賀子氏(コーディネーター)が、こうした根強く残る被災地産食品を忌避する傾向について問題提起。これに対し、消費者の立場から、コープデリ生活協同組合連合会サービス管理部長の篠崎清美氏は、「避けるというよりは、漠然とした不安があるのでは」として、行政機関などによるわかりやすい情報発信を改めて求めるとともに、「生産者と消費者の相互理解が安心して食べることにつながっていくのでは」とも指摘。いわき市で農業を営むファーム白石代表の白石長利氏は、自身を「農家と消費者を結ぶ『畑の仲人』」と称し、「安心・安全はもとよりいかに美味しいものを作るか。生の福島の声を野菜と一緒に届けていきたい」と、生産者としての使命感を強調。流通事業者の立場から、「うまいもんドットコム」などの食品通販サイトを運営する(株)食文化取締役の井上真一氏は、昨今のステイホームの流れにより食品通販の利用者が増えつつあるとする一方、家庭での食事に加工品が多くなりがちなことを懸念し、「食材そのものの魅力を発信したい」と、販路拡大に意欲を燃やす。ディスカッションの結びで、産業医科大学産業保健学部長の欅田尚樹氏は、「この1年間はコロナという新しいものに対する不安が続いてきたが、おうち時間の充実など、色々な工夫がなされてきた」とした上で、福島第一原子力発電所事故後の食品安全についても同様に、前例のない困難に対し検査体制の構築や生産段階での管理など、様々な取組があったことを忘れぬよう訴えている。
04 Mar 2021
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東京電力は2月28日、福島第一原子力発電所3号機の使用済燃料プールからの燃料取り出し作業が終了したと発表した(動画)。福島第一廃止措置に向けた中長期ロードマップで目標とする「2020年度内の取り出し完了」を達成。使用済燃料プール内の燃料取り出し完了は2014年12月の4号機に続くもの。同社では、続く1、2号機での燃料取り出し作業に向けて、「安全最優先で廃炉作業を着実に進めていく」としている。梶山弘志経済産業相は3月2日の閣議後記者会見で、「燃料デブリが残るプラントで使用済燃料の取り出しが完了したのは初めてのことであり、長期にわたる廃炉作業において重要な一歩」と述べた。3号機使用済燃料取り出しのイメージ(東京電力発表資料より引用)3号機の使用済燃料プールには、事故発生時、使用済燃料514体、新燃料52体が保管されていた。4号機に続く燃料取り出しに向けて、2017年度に燃料取り出し用カバー(全ドーム屋根)および燃料取扱機・クレーンの設置工事を完了。燃料取り出し開始は、当初「2018年度中頃」が目標とされていたが、燃料取扱機・クレーンの試運転で複数の不具合が連続して発生し2019年4月に延ばされた。2020年11~12月にはクレーンモーターのトラブルによる作業中断もあったが、燃料取り出しは12月24日時点で441体にまで達した。2020年度からは重量物落下によりハンドル部分に変形が生じた燃料への対応に向け、つかみ具の製作やつり上げ試験に入り、2021年2月3日よりこれら燃料の取り出しも開始。同28日に使用済燃料プール内の最後の6体を輸送容器から共用プール燃料ラックへ取り出す作業が終了した。続く2号機の燃料取り出し開始は2024~26年度が目標とされており、現在、燃料取扱設備の設計が進められている。
02 Mar 2021
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原産協会の新井史朗理事長は2月26日、月例のプレスブリーフィングを行い、同日発表の理事長メッセージ「福島第一原子力発電所事故から10年を迎えるにあたって」を配布し説明(=写真)。改めて被災者の方々への見舞いの言葉とともに、復興・再生に向け尽力する多くの方々への敬意・謝意を述べた。事故発生から10年を迎えるのを間近に、復興が着実に進展し生活環境の整備や産業の再生などの取組が期待される「ふくしまの今」を伝える情報発信サイトを紹介。原子力産業界として、「福島第一原子力発電所事故の反省と教訓をしっかりと受け止め、二度とこのような事故を起こさないとの固い誓いのもと、たゆまぬ安全性向上に取り組んでいく」とした。また、昨夏東京電力より現職に就いた新井理事長は、福島第一原子力発電所に配属された新入社員当時を振り返りながら、「私を育ててくれた場所、思い出がたくさん詰まった場所」と思いをはせたほか、発災後、富岡町における被災住宅の家財整理など、復旧支援活動に係わった経験に触れ、「住民の方々の生活が事故によって奪われたことに対し誠に申し訳ない」と、深く陳謝。福島第一原子力発電所の廃炉に向けて「現地の社員たちが最後までやり遂げてくれると信じている」とした上で、「1日も早い福島の復興を願ってやまない」と述べた。将来福島第一原子力発電所事故を知らない世代が原子力産業界に入ってくる、「事故の風化」への懸念について問われたのに対し、新井理事長は、会員企業・団体を対象とした現地見学会などの取組を例に、「まず現場を見てもらい肌で感じてもらう」重要性を強調。事故を踏まえた安全性向上の取組に関しては、「一般の人たちにわかりやすく広報していく必要がある」などと述べた。また、2050年カーボンニュートラルを見据えたエネルギー政策の議論については、「まず再稼働プラントの基数が増えていくこと」と、既存炉を徹底活用する必要性を強調。経済団体から新増設やリプレースを求める声が出ていることに対しては、「60年運転まで考えてもやはり足りなくなる」などと、首肯する見方を示した。
01 Mar 2021
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日本原子力研究開発機構は2月26日、研究炉「JRR-3」(東海村、最大熱出力20MW)が運転を再開したと発表した。同施設は、2018年11月に約4年間の審査期間を経て新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可を取得。その後、建屋の耐震改修工事などを完了し、最終段階となる定期事業者検査に合格となったもの。本格的な供用運転開始は6月末を予定している。〈原子力機構発表資料は こちら〉「JRR―3」は、1962年に初の国産研究炉として建設され、日本の原子力の草創期を支える多くの研究活動に寄与。最盛期の2008年度は年間の延べ利用日数(中性子ビーム実験装置数×運転日数)が5,270日にまで達した。旧原研・動燃が統合し原子力機構が発足した2005年度以降は、産業利用が急増。供用実験に占める産業利用の割合は2010年度で約35%となっている。利用分野は、原子炉燃料・材料の照射試験、医療用ラジオアイソトープの製造、シリコン半導体の製造など多岐に及ぶ。2010年11月に定期検査に伴い「JRR―3」は停止。以降、東日本大震災を経て、新規制基準への対応が図られてきたが、中性子利用に係るニーズを受け、2017年に日本学術会議が「大強度陽子加速器施設『J-PARC』だけではとてもすべてをカバーできるものではなく、研究炉の役割は非常に大きい」との提言を発表するなど、産業利用のツール、人材育成の場として、早期の運転再開が求められていた。原子力機構は、「JRR-3」の運転再開により「多彩な研究者・技術者が集まる科学探求・イノベーション創出の場を提供できる」と期待を寄せ、「安全確保の徹底を大前提に、立地地域の皆様の理解を得ながら、研究開発を通じて地域・社会に貢献できるよう取り組んでいく」としている。
26 Feb 2021
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=安井至・バックキャストテクノロジー総合研究所エグゼクティブフェロー)が2月25日、およそ2年ぶりに開かれ、2050年カーボンニュートラル実現を見据えたエネルギー政策における原子力利用の方向性について検討が始まった。同調査会の基本政策分科会では昨秋よりエネルギー基本計画の見直しに向けた検討を本格化。2050年カーボンニュートラル宣言(10月26日の菅首相所信表明演説)で、「再生可能エネルギーを最大限導入」、「安全最優先で原子力政策を進める」との方向性が示されたのを受け、同分科会では12月の会合で、原子力を巡る課題を、(1)安全性の追求、(2)立地地域との共生、(3)持続的なバックエンドシステムの確立、(4)事業性の向上、(5)人材・技術・産業基盤の維持・強化/イノベーションの推進――に整理し議論を深めていくこととした。25日の原子力小委員会会合では、このうち、安全性の追求と立地地域との共生について、電気事業連合会原子力開発対策委員長の倉田千代治氏らより説明を聴取。倉田氏は、地域との共生に関し、電力個社で行われる地元小中学校への「出前授業」、水産業への研究支援、清掃・緑化活動、イベント開催などの他、原子力防災対策の取組事例を紹介した。その中で、原子力災害時における協力要員の派遣・資機材の貸与などについて定めた事業者間協力協定(12社締結)について、3月中にも見直しを行い、派遣要員を現在の300人から3,000人規模に拡充し、発災時の住民避難を円滑に実行できる相互支援体制を構築するとした。安全性向上に関しては、原子力エネルギー協議会(ATENA)理事長の門上英氏も産業界挙げての取組状況を説明。2018年のATENA発足時を振り返り山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)は、原子力安全推進協会(JANSI)や電力中央研究所原子力リスク研究センター(NRRC)との連携効果を改めて示すよう求めた。また、立地地域との共生に関する論点の中で、資源エネルギー庁は、発電所の運転終了後も見据えた立地地域の将来像を地域と国・事業者がともに議論する場の創設を提案。これに対し、杉本達治氏(福井県知事)は書面を通じ、「国の原子力に対する考えが漠然としていては、事業者の安全への投資意欲が失われ原子力を志す人材も集まらない。結果として立地地域の安全が脅かされかねない」と、原子力政策の方向性を危惧した上で、「より具体的な内容になるよう取り組むべき」と、議論の場の早急な設置を求める意見を出した。この他、委員からは、新型コロナを機にサテライトオフィスを求める動きをとらえた「便利で快適な暮らしのモデルケース」となる地域振興策の提案や、2050年カーボンニュートラルの関連で、「2050年以降も見据え原子力の長い将来の姿を念頭に議論すべき」、「再生可能エネルギーの不確実性を補うため、原子力を一定比率持つことは国家の安定にとって不可欠」との声があった。また、原子力を巡る課題に関し、東日本大震災からの復興が進まぬ自治体の現状、地層処分に係る調査受入れを拒否する条例制定の動きなどから、「ネガティブな情報も整理すべき」といった意見や、昨今の不祥事に鑑み、「信頼回復ウェブサイトを設け真実をきちんと出していくべき」との声もあった。
25 Feb 2021
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日本原子力文化財団は、高レベル放射性廃棄物の地層処分事業への関心を全国に広めるべく様々な活動を行う人たちの声を紹介した特設サイト「知爽(ちそう)の人」を設け、順次動画コンテンツを公開している。その中で、2月10、11日に開催された「クリアランス制度」に関するシンポジウム(文部科学省主催)にも市民の立場から登壇した鈴木早苗氏(=写真上、福井県鯖江市在住、原発のごみ処分を考える会)は、「対立ではなく対話でお話ししていきたい。何かを生産すれば必ず『ごみ』は出る」と、2017年より有志で継続している地域対話活動の取組姿勢を示し、使用済燃料の問題について考える必要性を強調。さらに同氏は、北海道寿都町・神恵内村で処分地選定に向けた文献調査が開始したことに関し、「そこに決まればよい。うちに来なければよい」というのではなく、電気の恩恵を享受した日本全体が放射性廃棄物の問題に向き合うべきとした上で、次世代層に対し「頭の柔らかい若年層の方々なら純粋にこの問題を考えていってくれるだろう」と期待を述べている。また、高レベル放射性廃棄物に関する資源エネルギー庁主催の学生フォーラムなどに参画してきた平澤拓海氏(東北大学工学部)は、「地層処分を次世代に知ってもらうために学校教育ははずせないポイント」とした上で、現地の声や施設を見聞きし「自分の意見を持てる環境」を作っていくことを主張。幌延深地層研究センターの見学をきっかけに高レベル放射性廃棄物の処分問題に関心をもったという渡邊恭也氏(=写真下、北海道大学工学部)は、地層処分事業が進展するフィンランドとスウェーデンの視察経験から「専門家や国の機関に対する信頼の高さ」を強く感じたとしている。「知爽(ちそう)の人」では、この他、地層処分の理解に向け、中学生サミットを毎年開催している澤田哲生氏(東京工業大学先導原子力研究所助教)、松江市で学生を中心とした学習会を行う石原孝子氏(環境とエネルギーを考える消費者の会)のインタビュー動画が紹介されている。※写真は、いずれも原子力文化財団ホームページより引用。
24 Feb 2021
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電気事業連合会の池辺和弘会長は2月19日の定例記者会見で、13日23時過ぎに発生した福島県沖を震源とする大地震への対応状況を説明した。東京電力エリアで最大約86万戸、東北電力エリアで最大約9万戸発生した停電は翌14日午前9時までにすべて復旧。揺れの大きかった地域の原子力発電所においても、大きな影響はなく、福島第一原子力発電所では、原子炉注水設備や使用済燃料プール冷却設備など、主要設備に異常がないことが確認されたとしている。火力発電所では、地震の影響で複数のプラントが停止したものの、被害の軽微なプラントから順次運転を再開しており、電力供給に大きな影響はない状況だ。〈電事連発表資料は こちら〉なお、福島第一原子力発電所における今回の地震に伴う影響に関し、東京電力は22日の原子力規制委員会の検討会で説明。発災後の現場パトロールの状況を整理し、19日までに1、3号機の原子炉格納容器の水位に低下傾向があることが確認されたが、原子炉圧力容器底部温度や敷地境界モニタリングポストに有意な変動はみられず、外部への影響はないものとしている。ベース供給力不足のイメージ(電事連発表資料より引用)また、電事連は会見で今冬の需給状況に関し、「数年に一度レベル」の非常に強い寒波到来に伴い、12月下旬から1月上旬にかけて電力需給のひっ迫が生じたが、電力各社では燃料の追加調達や日頃稼働していない高経年火力を含めた発電所をフル稼働させるなど、供給力の確保に全力を尽くすとともに、需給ひっ迫エリアへの広域的な電力融通も図り安定供給が確保されたとしている。1月下旬以降は、気温が平年を上回る日も多くなり電力需要は落ち着きを見せ、発電用LNGについても各社とも安定供給に必要な水準にまで回復。電力供給面では、関西電力大飯4号機(関西エリア供給力の4%に相当)が1月17日に発電を再開した。電事連は2月17日の総合資源エネルギー調査会会合で、今般の需給ひっ迫対応における課題として、(1)リスクを考慮した需給電力量(kWh)想定と評価の不足、(2)ベース供給力の不足、(3)全国大で燃料不足が発生している状況の把握遅れ(4)需給電力量不足に対するエリア間で融通調整に時間を要したこと、(5)節電協力のお願いの実施検討・調整に時間を要したこと――をあげている。
22 Feb 2021
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「原子力エネルギー協会」(ATENA)がこれまでの活動状況を報告し、原子力産業界の関係者が取り組むべき課題を共有する「ATENAフォーラム2021」が2月18日、オンラインにて開催された。門上ATENA理事長ATENAは2018年7月に電力会社他、メーカーなども含めた原子力の安全性向上に向けた産業界を挙げての組織として発足し、(1)事業者に対する効果的な安全対策の導入促進、(2)産業界の代表者としての規制当局との対話、(3)安全性向上の取組に関する社会とのコミュニケーション――の役割を担っている。門上英ATENA理事長の活動報告によると、福島第一原子力発電所事故後の事業者の取組状況を踏まえ、現在、サイバーセキュリティ対策など、19の共通技術課題を抽出し検討が行われている。原子力発電プラントの40年超運転の関連では、原子力規制委員会との技術的意見交換も踏まえ、安全な長期運転に向けて、(1)長期停止期間中の保全、(2)設計の経年化評価、(3)製造中止品の管理――に係るガイドラインが9月に策定された。山中原子力規制委員フォーラムに来賓挨拶として訪れた原子力規制委員会の山中伸介委員は、「安全性の向上には規制側と被規制側の双方による対話が必要」と述べ、経営層に限らず様々な階層での信頼関係をベースとしたコミュニケーションの重要性を強調。今後のATENAの活動に向けては、「グッドプラクティスを事業者全体で共有できる機能」、「安全を担う人材育成」に期待を寄せた。コーズニックNEI理事長また、海外から、マリア・コーズニック米国原子力エネルギー協会(NEI)理事長、リチャード・A・メザーブ電力中央研究所原子力リスク研究センター(NRRC、2014年に設立された日本の組織)顧問、ジョージ・アポストラキス同所長、ウィリアム・E・ウェブスター・ジュニア原子力安全推進協会(JANSI)会長が、ビデオメッセージにて講演。コーズニック氏は、気候変動問題に直面する世界情勢を踏まえ、「クリーンエネルギーの礎を築かねばならない。原子力はどんなときも一刻も動きを止めない安定したカーボンフリーのエネルギー源」と、原子力の役割を強調。さらに、「世界では原子力利用の機運が高まっている」と展望を述べ、ATENAとともに「クリーンエネルギーの未来」の創造に向け努力していく考えを示した。メザーブ氏は、福島第一原子力発電所事故後の日本において、産業界と規制機関とのコミュニケーションには一定の評価を示す一方、「国民は原子力に対し未だに懐疑的だ。信頼獲得には長い時間を要する」と指摘。アポストラキス氏は、事業者による安全性向上の取組に関し、NRRCが研究開発を進める確率論的リスク評価(PRA)の国際的比肩を課題としてあげ、それぞれATENAへの協力姿勢を示した。JANSIの会長に就任し間もなく3年となるウェブスター氏は、原子力の安全性向上に向けた枠組として、発電所を運転する事業者、国の安全規制機関に加え、産業界の支援グループをあげ、米国のNEI、原子力発電運転協会(INPO)、電力研究所(EPRI)による成功事例にも触れながら、「個々の問題に協力して取り組み、国際的コミュニティとも緊密なつながりを持つ」重要性を強調した。パネルディスカッションの模様フォーラムでは、遠藤典子氏(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティチュート特任教授)をモデレーターとするパネルディスカッションも行われ、加藤顕彦氏(日本電機工業会原子力政策委員会委員長)、倉田千代治氏(電気事業連合会原子力開発対策委員会委員長)、近藤寛子氏(東京大学大学院工学系研究科)、山﨑広美氏(JANSI理事長)、玉川宏一氏(ATENA理事)が登壇。ATENAの果たすべき役割の他、社会からの信頼獲得や人材育成などについても意見が交わされた。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
19 Feb 2021
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原子力人材育成に係る産学官連携のプラットフォーム「原子力人材育成ネットワーク」(運営委員長=新井史朗・原産協会理事長)の2020年度報告会が2月16日に開催された。オンライン形式となった今回の報告会には約120名が参加。原子力教育における遠隔ツールの活用をテーマに、小原徹氏(東京工業大学先導原子力研究所教授)の進行のもと、パネルディスカッションが行われた。登壇者は、喜連川優氏(東京大学生産技術研究所教授)、若林源一郎氏(近畿大学原子力研究所教授)、高田英治氏(富山高等専門学校教授)、中園雅巳氏(IAEA原子力エネルギー局上級知識管理官)。九大学生へのアンケート結果「オンライン授業は対面授業を代替できていたと思いますか」(国立情報学研・喜連川氏発表パワポより引用)国立情報学研究所所長も務める喜連川氏は、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い2019年度末より取り組んできた大学教育における「対面から遠隔への転換」支援策を披露。行政機関や全国の大学・高専などと連携した情報交換活動により、遠隔講義での著作物の無償利用(2020年度内)が可能となった成果を紹介した。また、同氏は、九州大学で最近実施された遠隔講義に関する学生アンケートの結果を例示。それによると、学部1年生より2~4年生の方が遠隔講義への満足度が顕著に高い傾向にあった。コロナ終息後も見通した講義スタイルに関する学生の意見から、講義録をオンデマンド配信し難解な部分を繰り返し視聴できる工夫も求められていることをあげた上で、喜連川氏は「学びのスタイルが変わりつつある」などとして、今後もIT技術を通じた高等教育の向上に取り組んでいく考えを述べた。近大が構想する「原子炉遠隔実習システム」のイメージ(上)とバーチャル・コンソール画面(近大・若林氏発表パワポより引用)教育現場に携わる立場から若林氏は、大学保有の原子炉が少ない現状下、研究炉「UTR-KINKI」を用いた実習に関し、研修生の旅費と原子力規制(入域人数制限など)の課題をあげ、TV会議システムを通じ研究炉を持たない国にも原子炉実験の機会を提供するIAEA-IRL(Internet Reactor Laboratory)を手本とした「原子炉遠隔実習システム」構想を披露。モニター画面に表示される「原子炉バーチャル・コンソール」を遠隔地の教室と共有し指導を行うもので、現場での実習参加に替わる有効な手段として期待を寄せた。一方、感染症対策により2020年度はオンラインによる原子炉実習を行った経験から同氏は、「対面でないと伝わらないものもある。実際に現場に入るまでの手続きも含めて実習といえる」などと述べ、遠隔実習には限界があることを示唆。高田氏は他校へも配信する原子力人材育成“eラーニング”のカリキュラムを紹介し、今後の課題としてコンテンツの充実と若手高専教員の裾野拡大をあげた。また、将来のリーダーを目指す各国若手の育成に向けたIAEA「原子力エネルギーマネジメントスクール」(NEMS)に関わる中園氏は、国際的視点から、オンラインを通じたイベントを開催する上で、地域間の時差を「最大の問題」と指摘。一般参加者を交えた討論では、原子力分野の遠隔教育に関し、機微情報に係るセキュリティ対策についても質疑があった。上坂原子力委員長「原子力人材育成ネットワーク」は2010年11月の発足から10年を迎えた。今回の報告会では、原子力委員会・上坂充委員長からの祝辞が紹介されたほか、ネットワーク初代の、それぞれ運営委員長、事務局長を務めた服部拓也氏(原産協会顧問)、杉本純氏(サン・フレア校長)が、当時を振り返るとともに、発足4か月後に福島第一原子力発電所事故が発生し新たな課題に対応してきた経緯を語った。花光氏(仏プロバンスにてオンライン参加)また、NEMSの日本誘致(2012年)に貢献し、現在はITER機構で活躍中の花光圭子氏がフランスよりオンライン参加。コロナの影響で厳しい外出制限が敷かれている現地の状況を述べながらも、「ネットワークを活かした実習が続いていることはとても意義深い」と、日本が主導する原子力人材育成の取組に期待を寄せた。
18 Feb 2021
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福井県の杉本達治知事は2月16日、定例県議会の開会に際し、2021年度予算案、県政を巡る諸課題などについて説明し、その中で、関西電力美浜3号機、同高浜1、2号機の再稼働について議会での議論を求めることを表明した(=写真、オンライン中継)。3基とも2016年に原子力規制委員会により60年までの運転期間延長に係る設置変更許可が得られている。杉本知事はまず、13日に発生した福島県沖を震源とする大地震の被災地に対し見舞いの言葉を述べた上で、県としても先般嶺北地方を襲った大雪に伴う被害状況に鑑み、防災対策の強化に一層努めていく考えを強調した。原子力政策に関し、知事は12日に行われた梶山弘志経済産業相、森本孝関西電力社長とのTV会談について報告。それによると、森本社長からは、県外における使用済燃料の中間貯蔵に関し、むつ中間貯蔵施設(青森県むつ市、東京電力と日本原子力発電が設立したリサイクル燃料貯蔵が建設)の共同利用への参画希望が表明され、国や電気事業連合会と一体となって地元理解に取り組むとともに、同施設以外の検討も含めあらゆる可能性を追求していく考えが述べられたとしている。さらに、森本社長は、使用済燃料の県外搬出に向け「2023年末を期限に計画地点を確定するとし、期限までに実現できない場合は、確定までの間、美浜3号機、高浜1、2号機を運転しない」方針を明示。また、資源エネルギー庁より同計画地点の確定に向けて関係者の理解確保に最善を尽くすとの考えが示されたとし、知事は、関西電力による使用済燃料対策に関し、(1)一定の回答があった、(2)計画地点の確定期限が明示された、(3)確定に向けた関西電力と国の覚悟が示された――ものとして、「新しい課題の議論に入る前提は満たしたものと考えている」と結論付けた。加えて知事は、年明け後の政府・原子力防災会議による美浜地域の緊急時対応取りまとめ(1月8日)、高浜1、2号機の新規制基準適合性に係る保安規定認可(2月15日)などに言及。「美浜3号機と高浜1、2号機に関する許認可や防災対策の手続きは整った」とし、県として、国や事業者に求めている事項への対応を確認し、原子力安全専門委員会においてプラントの安全性について審議する考えを述べるとともに、議会に対し「再稼働について慎重に議論してもらいたい」と表明した。この他、知事はエネルギーを活用した地域振興に向けて、2020年3月に策定された「嶺南Eコースト計画」を通じ、原子力ビジネスの創出や研究炉利活用のプロジェクトに取り組んでいく意欲を示した。
16 Feb 2021
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資源エネルギー庁は2月10日、小学校高学年を対象とした「わたしたちのくらしとエネルギー」をテーマとする「かべ新聞コンテスト」の2020年度優秀作品を発表した。小学生のエネルギー問題に対する当事者意識を喚起し学校や家庭・地域での実践行動を促すことを目指した取組で、子供たち自らがかべ新聞形式に研究成果をまとめた553点の応募作品のうち、35点が入賞。経済産業大臣賞を、北海道大学附属札幌小学校(札幌市)の「どさえこ新聞」(=図、エネルギー教育情報ステーションホームページより引用)が受賞した。「どさえこ新聞」では、2018年9月の北海道胆振東部地震で発生した道内全域停電(約295万戸)を振り返り、電力需給における防災対策に着目。電気自動車「日産リーフ」について調べるため、北海道日産自動車へのインタビューを行い、発災時、「日産リーフ」からの給電で道内のコンビニチェーン「セイコーマート」が営業を続け市民の生活を支えた経緯を記事化し、「エネルギーのおすそわけ」と題し称賛している。また、道内に北海道電力泊発電所が立地することをとらえ、「原発と私たちの選択」と題するコラムも掲載。高レベル放射性廃棄物処分地選定に向けた寿都町と神恵内村での文献調査の動きにも触れ、「原発を持つ日本には核のゴミをどこかが受け入れなければならないのも事実」とした上で、風評被害に対する不安などから「北海道の未来に害がないことを約束してほしいと願う」と述べている。入賞作品には水素や太陽光など、個々のエネルギー供給源を特集的に取り上げた作品も多かったが、今回6点の作品が入賞し優秀学校賞を受賞した常葉大学教育学部附属橘小学校(静岡市)の「未来に届け!!エネルギー新聞」と「今までとこれからのエネルギー新聞」(いずれも優秀賞)では、日本のエネルギー資源・需給の全体像を整理し、将来の電力構成や地球温暖化問題について、データを織り交ぜながらまとめていた。
15 Feb 2021
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原子力発電所の廃炉が進む中、放射能濃度が低く人体の健康への影響がほとんどない金属・コンクリート廃棄物の再利用を可能とする「クリアランス制度」について考えるシンポジウム(文部科学省主催)が2月10、11日、若狭湾エネルギー研究センター(敦賀市)を拠点にオンラインで開催された。原電・山内氏2005年度に始まった同制度に設計段階から長く関わっており、昨夏より国際廃炉研究開発機構(IRID)理事長も務める日本原子力発電廃止措置プロジェクト推進室長の山内豊明氏によると、110万kW級のBWRの場合、発生する撤去物の総量は約53.6万トンで、そのうち、約5%に当たる約2.8万トンがクリアランス対象物となる。原電が開発中のクリアランス測定装置、ユニット化構造によりフリーレイアウトが可能に(同社発表資料より引用)同氏は、(1)循環型社会形成への貢献、(2)原子力発電所廃止措置の円滑化、(3)放射性廃棄物の減容化――から「クリアランス制度」の必要性を強調。国内商業炉で初めて廃止措置に入った同社の東海発電所の解体工事に関しては、2006年に金属約2,000トンに係る測定・評価方法が国により認可された後、そのうちの約400トン分が確認済みとなっており、原子力施設の遮蔽体やPR館のベンチなどへの再利用が進められている。原電では、敦賀1号機でも廃止措置を進めているが、今後の作業増に備え、より作業負担・コストを軽減するクリアランス測定装置の開発にも取り組んでいる。今回のシンポジウムでは、初日にバックエンド対策が進展するスウェーデンなどの海外事例の報告を受けた後、2日日には「クリアランス制度」の定着に向けた方策について、1月に福井県内で行われた市民勉強会の参加者も招きディスカッションを行った。関西大・土田氏2日日ディスカッションの座長を務めた土田昭司氏(関西大学社会安全学部教授)はまず、「クリアランスの制度普及と国民理解」と題して講演。同氏は、人体の健康に影響がない放射能レベルの基準「クリアランスレベル」は、自然界から受ける放射線量の100分の1以下に過ぎない年間0.01mSv相当の放射能濃度であることを改めて強調。土田氏が示した経験的判断による錯誤の一例、上段の1文字目と下段の4文字目は同じ形状だが「HOME」「TODAY」という単語を知っていることからそれぞれ「H」「A」と読んでしまうその上で、リスクコミュニケーションの観点から、岸和田のだんじり祭や長野の御柱祭など、死者を出すほど危険と隣り合わせの祭が長く続いていることを例に、「安全の基準は人々の合意で成り立っている」と述べた。さらに、「自動車を使わなければ事故はなくなるが、それを使うことによって得られる利益もなくなる」として、危険と利益のバランスを考える「リスク学」の視点を提示。また、土田氏は、風評被害について「事実と異なる情報の流布」と定義し、心理学の立場から、発生のメカニズムを、経験的判断による錯誤(思い込み)の事例や流言が広まる要因・背景を分析しながら説明。昨今の新型コロナウイルスに対する人々の動きにも触れ、複雑・不確実な情報・知識に対し専門外の人は真偽判断が困難なことを述べた上で、クリアランスに関わるリスクのとらえ方に関し「一般の人たちは独力で対応できない。まずは信頼が重要」と結論付けた。福井大・柳原氏、クリアランスのビジネス化に向け「嶺南Eコースト計画」にも期待ディスカッションに移り、先の市民勉強会で学生参加者の指導に当たった柳原敏氏(福井大学附属国際原子力工学研究所特命教授)は、「学生たちはクリアランスの考え方をよく理解していたと思う。家庭での会話を通して少しずつでも広がっていけばよいと思う」と所感を語った。量研機構・鈴木氏、学校向けの副読本を示し原子力教育の重要性も強調また、広報部門での経験が豊富な鈴木國弘氏(量子科学技術研究開発機構次世代放射光施設整備開発センター総括参事)は、大強度陽子加速器施設「J-PARC」へのクリアランス物利用(遮蔽体)の報道を振り返り、「オブジェのようなものを作ればもっとPRにつながるのでは」と提案。勉強会参加者からは、高レベル放射性廃棄物処分に関し10年間理解活動を続けているという鈴木早苗氏(鯖江市)が、フィンランドの学校視察経験に触れ、「日本は原子力教育というと、腫れ物に触れるようだ。もっとフランクに語れるようになれば」などと指摘。さらに、今後の「クリアランス制度」の理解促進に向けては、「よいプレゼンターを育てることが重要」と強調した。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
12 Feb 2021
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