国内NEWS
10 Oct 2025
51
放射線の正しい知識を発信 ぐぐるプロジェクトが作品コンテストの募集を開始
海外NEWS
10 Oct 2025
68
米マイクロ炉 イリノイ州に研究拠点新設
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10 Oct 2025
56
カザフスタン 第2サイトもアルマティ州に
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10 Oct 2025
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米新興企業 地下設置型SMRのサイトを選定
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10 Oct 2025
382
AI技術の限界と原子力産業への応用可能性 ――鷲尾隆教授講演
国内NEWS
09 Oct 2025
633
日本原燃 濃縮工場に11年ぶりにウラン受け入れ
海外NEWS
09 Oct 2025
557
BWRX-300を海外展開へ GVHとサムスンが提携
海外NEWS
09 Oct 2025
338
米セントラス 濃縮施設の大規模拡張を計画
米国の先進原子力エネルギー企業であるナノ・ニュークリア・エナジー(NANO Nuclear Energy)社は10月7日、イリノイ州商務省経済機会局(DCEO)と連携し、米イリノイ州に製造・研究開発施設を新設すると発表した。イリノイ州のクリーンエネルギー政策支援プログラムより680万ドル(約10億円)の支援を受け、総額1,200万ドル(約18億3,000万円)以上を投資する計画だ。同社は7月にシカゴ近郊に約2万3,500平方フィート(約2,200平方メートル)の実証施設とオフィスを取得している。新施設では約50人のフルタイム雇用が新たに創出される見通しで、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)と共同で進める小型モジュール炉「KRONOS MMR」の構築・実証・商業化に向けた拠点として機能する。また、原子力技術者をはじめ部品メーカー、研究者らの人材育成・技術支援にも活用される見込みとなっている。今回のプロジェクトは、イリノイ州が推進する「REVイリノイ法(Reimagining Energy and Vehicles in Illinois)」プログラムの一環。ナノ・ニュークリア・エナジー社は対象企業に選定されており、制度を通じて680万ドル(約10億円)の奨励金を受ける見込みとなっている。なお、REVイリノイ法は、電気自動車や再生可能エネルギーなど次世代クリーンエネルギー産業のサプライチェーン強化を目的としている。同社のジェームズ・ウォーカーCEOは、「本施設を活用して全米から優秀な人材を惹きつけ、目標達成に向けて全力を尽くしていきたい」とコメントした。また、イリノイ州のJ.B.プリツカー知事は、「イリノイ州はクリーンエネルギー生産への投資企業にとって最適な州である。この重要な投資は、州民に新たな雇用を創出し、クリーンエネルギー産業における革新的な進歩を促進するだろう」と述べ、歓迎の意を示した。
10 Oct 2025
68
カザフスタン原子力庁(KAEA)のA. サトカリエフ長官は10月1日、アルマティ州の2サイトで原子力発電所の建設が計画されていることを明らかにした。同長官によると、原子力産業の発展に関する省庁間委員会において、2番目の建設候補サイトが特定され、第1発電所と同じく、アルマティ州のジャンプール地区に決定されたという。同国南部に2サイトを設置し、電力不足に対応する方針。現在は国際南北連系線を介して同地域に電力が送電されているが、これにより、エネルギー供給の信頼性と安定性が生まれる、と記者会見で述べた。長官は、競争に参加するすべてのベンダー候補者との交渉が現在進行中であると述べる一方で、「最終決定ではないが、提出された提案に基づいて、我々は中国核工業集団公司(CNNC)を優先契約者と考えている」と語った。ロシアの国営原子力企業ロスアトムが建設プロジェクトを進める、同地区の第1発電所サイトでは今年8月、エンジニアリング調査が開始されている。K.-J. トカーエフ大統領は今年3月の国民会議における演説で3サイトでの原子力発電所の建設について言及。先のベンダー選定作業における潜在的な候補には、露ロスアトム、CNNC、フランス電力(EDF)、韓国水力・原子力(KHNP)が含まれており、KAEAはロスアトムの提案の採用に次いで、CNNCの提案を2番手とした。サトカリエフ長官は、「中国は間違いなく必要な技術をすべて備えており、完全な産業基盤を持っているため、次の優先事項は中国との協力だ」と述べ、中国側との交渉が行われることを強調。カザフスタンのR. スクリャル第一副首相は今年7月末の合同記者会見で、第2および第3発電所のサイト候補を評価中であり、今年後半にも評価結果が明らかになるとし、CNNCが第2発電所に続き、第3発電所も建設するだろうと述べている。
10 Oct 2025
56
米国の新興企業ディープ・フィッション(Deep Fission)社は9月18日、自社が開発する小型モジュール炉(SMR)を地下1マイル(約1.6km)、幅30インチ(約76cm)のボーリング孔に設置する最初の3サイトとして、テキサス州、ユタ州、カンザス州を選定。共同開発プロジェクトを推進するために各拠点のパートナーと基本合意書(LOI)を締結したことを明らかにした。ディープ・フィッション社の開発する原子炉「DFBR-1」(PWR、1.5万kWe)は、原子力、石油・ガス、地熱分野での実証をベースに設計。発生した熱は地下深部にある蒸気発生器に伝わり水を沸騰させ、非放射性の蒸気が急速に地表に上昇、そこで標準的な蒸気タービンを回して発電する。検査が必要と判断された場合、原子炉に取り付けられたケーブルにより、原子炉を地表に持ち上げることが可能。モジュール設計により、出力を最大150万kWeまで拡張可能で、産業現場、データセンター、遠隔送電網、成長する商業ハブ全体を対象に柔軟に展開できるという。また既製部品と低濃縮ウラン(LEU)を利用し、サプライチェーンの合理化を追及。原子炉は地下1マイルに設置され、地下深部の地質が自然封じ込めの役目を果たす、革新的な立地アプローチにより、安全性とセキュリティを強化、地表フットプリントを最小限に抑え、コストの削減をねらう。同社のコストモデルでは、オーバーナイトコスト(金利負担を含まない建設費)の比較で、従来の原子力技術の70~80%となり、発電コスト(LCOE)はkWhあたり5~7セントと見込んでいる。2026年にはライセンスを申請予定。2028年には取得し、想定6か月の建設期間を経て、2029年秋には営業運転の開始を予定している。ディープ・フィッション社は今年8月、米エネルギー省(DOE)の先進炉の実用化に向けた「原子炉パイロットプログラム」の対象に選定され、DFBR-1の2026年7月4日(独立記念日)までの臨界達成を目指している。なお同社は、現CEOのエリザベス・ミュラー氏とリチャード・ミュラー氏の父娘が共同で2023年に設立。E. ミュラーCEOは以前、深部ボアホール放射性廃棄物処理事業を手掛けるディープ・アイソレーション(Deep Isolation)社の共同創設者兼元CEOを務めていた。ディープ・フィッション社はディープ・アイソレーション社と2025年4月、先進的な地下原子炉の使用済み燃料と放射性廃棄物の管理で協力するための覚書(MOU)を締結。ディープ・アイソレーション社が特許取得済みの地下処分技術の使用許諾などについて検討する。両社は、ディープ・アイソレーション社の革新的な深部ボアホール処分技術をディープ・フィッション社の最先端の原子炉技術と統合し、顧客に長期的に実用的かつ拡張性のある廃棄物ソリューションを提供したい考え。ミュラーCEOは、「深地層処分は世界的に好まれるアプローチで、海外諸国は地下処分場の計画を進めているが、米国はこの方向でさらなる進展を図る」と指摘。ディープ・アイソレーション社のR. バルツァーCEOは、「新たな原子力技術が登場する中、廃棄物処理に対する先見的なアプローチが不可欠。原子力発電設備容量は2050年までに3億kWe以上増加すると予測されているが、過去70年間に発生した使用済み燃料を未だ永久処分していない。信頼性が高く恒久的な放射性廃棄物の処分方法の確立は、業界の長期的な成功に必要」と強調し、放射性廃棄物を地下深くに安全かつ永久に処分する深部ボアホール技術がソリューションとなるとの考えを示した。
10 Oct 2025
66
米GEベルノバと日立製作所の共同出資会社である米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)と、韓国の建設大手サムスンC&T社(サムスン物産)は10月7日、北米を除くグローバル市場での「BWRX-300」(BWR、出力30万kWe)の導入推進に向けた戦略的提携を発表した。GVHによると、両社は小型モジュール炉(SMR)であるBWRX-300のサプライチェーンの構築や、プロジェクト実施に向けたソリューションなどの共同開発に取り組む。GVHは今年4月、カナダ・オンタリオ州のダーリントン原子力発電所でBWRX-300初号機についてカナダ原子力安全委員会(CNSC)から建設許可を取得しており、2030年末までの運転開始を目指している。一方、サムスンC&T社も今年4月、エストニアの新興エネルギー企業フェルミ・エネルギア社とSMR導入で提携し、同国でのSMR2基の配備に協力するなど、欧州での小型原子炉導入事業を加速させている。GVHの電力部門CEO、M.ジンゴーニ氏は、「当社はカナダでBWRX-300の初号機を建設中であり、SMR産業の展開と規模拡大をリードする立場にある」と述べた。サムスンC&T社の原子力分野とインフラ建設プロジェクトにおける豊富なプロジェクト実施経験を活かし、両社はSMR産業分野での世界的な地位確立を目指すという。両社はスウェーデンで計画されている5基のBWRX-300導入計画についても協力することになっている。
09 Oct 2025
557
米国のウラン濃縮事業者のセントラス・エナジー社(旧・米国濃縮公社:USEC)は9月25日、オハイオ州パイクトンにある米国遠心分離プラント(ACP)の大規模拡張計画を明らかにした。低濃縮ウラン(LEU)ならびに高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)の生産を増強し、濃縮分野での米国のリーダーシップを取り戻す考えだ。拡張計画には、連邦政府からの資金提供を含めて数十億ドル規模の官民投資が必要。同社は最近、既存炉向けのLEUならびに次世代炉向けHALEUの国内生産拡大に向けた米エネルギー省(DOE)の資金提供対象の選定プロセスに提案書を提出した。連邦政府による資金提供の決定を条件に、ACPに数千台の遠心分離機を追加導入する計画だ。この拡張を見据え、セントラス社は過去12か月間に2回の転換社債取引で10億ドル以上を調達し、国内外の電力会社顧客から20億ドル以上の条件付き購入契約を締結している。この他、韓国の韓国水力・原子力ならびにPOSCOインターナショナル社による投資協力の可能性も示した。またセントラス社は、官民パートナーシップを見越して、連邦政府による選定に先立ち、採用活動を開始。建設段階で1,000人の雇用と操業段階で300人の新規雇用の創出を見込んでいる。さらに、同社がテネシー州オークリッジに有する遠心分離機製造工場における数百の雇用に加え、全米の製造サプライチェーン全体で数千の間接雇用を生み出すと予想されている。同社のA. ベクスラーCEOは、「米国がウランを大規模に濃縮する能力を回復する時が来た。今まさにその目的のため、オハイオ州で数十億ドル規模の歴史的投資を計画している。外国の国有企業への依存をやめ、米国人労働者によって構築された米国技術への投資が始まる」と強調した。オハイオ州のM. デウィン知事は、「パイクトンの施設の拡張・更新への取組みは、米国経済と国家安全保障を支える、オハイオ州の重要性を強調している。パイクトンにおけるウラン濃縮事業は冷戦初期から国防に重要な役割を果たしてきた。セントラス社の施設は、産業規模での国内濃縮体制を構築できる、現時点で唯一の技術を提供している」と拡張計画に期待を寄せた。世界の濃縮能力のほぼ100%が外国の国有企業に属しており、それらの企業は海外で独占的に製造された遠心分離技術を使用している。パイクトンの濃縮施設は、国内製造の遠心分離機と関連機器を用いて稼働する唯一の米国施設。セントラス社の遠心分離機は、オークリッジにある敷地約4万㎡の技術製造センターで独占的に製造されており、13州の米企業14社の主要サプライヤーと数十の小規模サプライヤーが製造を支えている。製造された遠心分離機と関連機器は最終組立て、設置のためにパイクトンに送られている。連邦資金拠出の選定先となった場合、その資金は海外製造ではなく国内製造に向けられることになる。
09 Oct 2025
338
仏フラマトム社と伊ENEA(国立新技術・エネルギー・持続可能な経済開発庁)は9月25日、将来の月面居住用の動力源となる原子炉設計の開発にむけて協力覚書(MOU)を締結したことを明らかにした。過酷な環境条件で動作する能力と耐久性により、特に地球の約15日間にあたる長い月の夜の間に信頼性が高く、持続的なエネルギーを供給し、月面での人類の持続的な居住を可能にする原子炉を両者が協力して開発。特に、効率性と安全性を最適化した燃料に関する研究、宇宙での過酷な環境に耐える新素材の開発、原子炉部品の製造に向けた積層造形(3Dプリンティング)利用の3分野で協力する。両者の専門知識を統合する今回の提携により、さらに競争力のある技術ソリューションの開発が可能となり、月面利用の原子炉の技術的成熟度を高めて、宇宙開発競争における欧州のプレゼンスを拡大したい考え。フラマトム社はこの提携を機に、宇宙関連事業に携わるフラマトム・スペース社を設立した。原子力エネルギーは、特に光が長期間存在しない場合、太陽光などの再生可能エネルギー源の信頼性が低下する宇宙での継続的な供給を保証できる数少ないエネルギー源。宇宙原子炉は、将来、月面での人類の持続的な居住のために必要かつ重要な技術であり、さらに野心的な火星へのミッションへの道を切り開く資産になると期待されている。
08 Oct 2025
506
原子力電池の大手開発会社である米ゼノ・パワー(Zeno power)社は9月24日、仏オラノ社とフランスのノルマンディーにあるオラノ社のラ・アーグ再処理工場から回収された放射性同位体のアメリシウム241(Am-241)の供給を確保し、宇宙用途に使用する戦略的合意を締結したことを明らかにした。この契約に基づき、ゼノ社は数百万ドルを投資し、オラノ社から大量のAm-241を優先的に確保する。Am-241は長寿命同位体であり、ゼノ社は米航空宇宙局(NASA)向けに宇宙用途に開発する放射性同位体電源(Radioisotope Power System=RPS)の燃料として使用される。ゼノ社がNASA向けに開発しているAm-241燃料のRPSは、月面探査車、着陸船、月面のインフラ向けに電力を供給する。ゼノ社によると、歴史的にプルトニウム238(Pu-238)が宇宙用途のRPSに使用されているが、その供給制限や高い製造コストが課題であり、その代替となるAm-241が注目されているという。Am-241は、半減期が430年以上と長く、熱電システムを数十年にわたって持続させることができる宇宙用途の動力として魅力的な燃料源であり、使用済み燃料の再処理から得られる。月の約15日間という長い夜を乗り切り、恒久的に影となる地域で動作して信頼性の高い電力を供給するため、ゼノ社は、NASAが主導する有人宇宙飛行、月面着陸および持続的な探査活動を目指す「アルテミス計画」とその先の火星探査に不可欠な機能性を有すると指摘。オラノ社と提携してAm-241の商業サプライチェーンの確立を進める方針である。ゼノ社は2022年からオラノ社と協力し、ラ・アーグ施設でAm-241粉末の工業規模の回収を検討開始。2023年7月には、アルテミス計画の一環として、NASAから1,500万ドルの資金提供を受け、長期の月面ミッションに熱電供給可能なAm-241燃料のスターリング発電機(RSG)の開発を行っている。さらに同社は、米国防総省との契約に基づき、米エネルギー省ならびにオークリッジ国立研究所との連携によりストロンチウム90(Sr-90)を取得し、海洋用途向けの燃料電池を開発する他、ウィスコンシン州に拠点を置く核融合エネルギーのスタートアップ企業であるシャイン・テクノロジーズ社とも提携して、Sr-90の供給確保に取り組んでいるという。ゼノ社のT. バーンスタインCEOは、「宇宙ミッション用のAm-241と海洋および地上展開用のSr-90を組み合わせ、ゼノ社の原子力電池は深海から深宇宙まで、フロンティアでの運用が可能」と指摘。仏オラノ社の米国法人であるオラノUSA社のJ.-L. パレイヤーCEOは、「Am-241は、使用済み燃料リサイクルの価値を実証する。ゼノ社との協力は、貴重な同位体の工業規模の回収が、まったく新しい市場を生み出し、革新的なアイデアを実現する方法を示している」と語った。
08 Oct 2025
447
米国の原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社は9月23日、米国中西部のミズーリ州カンザスシティを拠点とする電力会社エバジー(Evergy)社ならびにカンザス州商務省と覚書(MOU)を締結した。テラパワー社が開発するナトリウム冷却高速炉「Natrium」(34.5万kWe)と付随するエネルギー貯蔵システムをカンザス州におけるエバジー社の供給区域内に建設を検討する。本MOU締結により、先進的な原子力発電所のサイト固有の特性を共同で評価するほか、Natrium炉の技術設計およびエバジー社の顧客に向けたサービス能力を調査する。サイト選定は、地域社会の支援、サイトの物理的特性や米原子力規制委員会からの許認可取得可能性、既存インフラへのアクセスなどの要素を評価した上で実施される。カンザス州のL. ケリー知事は、「カンザス州の市民と企業のエネルギー需要を満たすにあたり、常にあらゆる手段を講じる方針を支持してきた。州の未来を支える、利用可能なあらゆるエネルギー源を探求する必要があるため、革新的な手法の活用を歓迎する」と述べ、D. トーランド州副知事兼商務長官も、「カンザス州の驚異的な経済成長を継続するためには、競争力を強化しながら消費者のコストを抑制する、あらゆる革新的な選択肢を検討する必要がある。このプロジェクトは両方を実現し得るものだ」と語った。エバジー社のD. カンプベルCEOは、「原子力発電は何十年にもわたって当社の発電ミックスを構成している。信頼性が高く、無炭素電源の原子炉をカンザス州に追加導入するにあたり、そのコスト、技術、実現可能性を評価していく」と述べた。エバジー社はカンザス州とミズーリ州に電力を供給しており、発電電力量の約半分を炭素排出ゼロの電源から供給。カンザス電力共同組合と共同所有するウルフ・クリーク原子力発電所(PWR、128.5万kWe)は1985年に運転を開始し、カンザス州の発電電力量の約20%を占めている。Natrium炉は、熔融塩ベースのエネルギー貯蔵システムを備えており、貯蔵技術は必要に応じてシステムの出力を50万kWeに増強し、5時間半以上維持することができる。これにより、Natrium炉は再生可能エネルギーとシームレスに統合され、費用対効果の高い電力網の脱炭素化を実現すると言われている。ワイオミング州ケンメラーにおける建設に向けて、現在、米原子力規制委員会は建設許可申請の審査を加速して実施中。テラパワー社はNatrium炉の送電開始を2030年と見込んでいる。
07 Oct 2025
474
欧州委員会の域内市場産業・起業家精神・中小企業総局は9月12日、ブリュッセルで開催された欧州小型モジュール炉(SMR)産業アライアンスの第2回総会において、初の「戦略行動計画(Strategic Action Plan)」が採択されたことを明らかにした。本計画は、今後5年間の活動計画を包括的かつ詳細に示し、2030年代初頭までに欧州におけるSMRの開発・実証・展開を促進することを目的としている。SMRの迅速な展開は、欧州産業の競争力の維持、2050年までのカーボンニュートラル実現に向けたエネルギー移行の推進、さらにエネルギー分野におけるEUの戦略的自律性を高める上で極めて重要とし、戦略行動計画では今後5年間で実施する10の具体的かつ重点的な行動を提示した。SMR展開に関する主要課題として、発電以外での市場需要の開拓、サプライチェーンの再活性化、研究開発と人材育成の推進、資金調達の機会を創出、規制枠組みの簡素化などに焦点を当てている。10の重点行動と目標とする達成時期は以下のとおり。SMR実証プロジェクトの枠組みづくり(~2026年6月)データセンター、エネルギー多消費産業、地域暖房などの用途でSMR実証プロジェクトを企画。公共部門・開発者・産業界の三者協定を検討。研究・実験施設の整備計画(~2026年12月)SMRの研究開発に必要な試験施設を特定・評価し、既存設備の改修や新設に向けた計画と資金計画を策定。規格・標準化と技術交流の促進(~2028年6月)SMR向けの共通規格・基準を提案し、EU域内での技術・データ交換を円滑化する制度を整備。サプライヤー連携プラットフォーム構築(~2026年12月)各国の有資格サプライヤーとSMR開発プロジェクトを結ぶマッチング機能を備えた支援プラットフォームを構築。EUサプライチェーン強化策の提言(~2026年6月)サプライチェーンの現状を評価し、NZIA(ネットゼロ産業法)やIPCEI(欧州共通利益に適合する重要プロジェクト)を活用した強化方策を提案し、能力拡大を継続的に推進。欧州「ネットゼロ・アカデミー」構想(~2027年1月)SMR・AMR(先進モジュール炉)開発に必要な専門スキルを特定し、欧州全体で人材育成を担う教育アカデミーの設立を計画。公衆・関係者向けエンゲージメントツール(試行:2026年3月/完成:2026年12月)地域社会や関係者との対話を促進するためのツールキットを開発し、早期計画段階で導入。共通安全評価の推進(2025年以降継続)規制当局間の協力を促し、安全性に関する「業界ポジションペーパー」を作成。早期審査を支援する体制を構築。標準化燃料設計の支援(~2027年10月)軽水炉型SMRならびにAMR向けの標準化燃料の仕様策定を支援し、安全性と互換性の向上を図る。投資リスク低減と資金支援策の提案(~2026年3月、以降毎年更新)初号機(FOAK)開発リスクを軽減するための資金支援・保証制度を提案し、EU基金・金融機関と連携して投資環境を整備。同アライアンスは2024年2月に設立され、産業界のリーダー、研究者、政策立案者など、350を超える幅広いSMR関係者が結集。共通のビジョンと行動計画の下で協働することを目的としている。運営面では、EC、Nucleareurope(欧州原子力産業協会)、欧州の100名以上の科学者や環境専門家のグループの欧州持続可能な原子力技術プラットフォーム(SNETP)が主要パートナーとしてアライアンスを支え、複数の具体的なSMRプロジェクト支援や戦略行動計画に基づく施策の実施を主導。アライアンスの運営は理事会が指揮し、戦略的助言や重要な意思決定を行っている。戦略行動計画を成功裏に実施するには、産業界および公共部門の強力なコミットメントと、多様な関係者間の協力が不可欠であるとし、同アライアンスは、加盟団体、EC関連部局、他のEU機関、国際機関と緊密に連携し、欧州におけるSMRの迅速かつ円滑な展開を確実に行っていく方針である。
07 Oct 2025
405
ブルガリアのR. ジェリャズコフ首相とZ. スタンコフ・エネルギー相は第80回国連総会に出席するために米国を訪問。9月24日、GEベルノバのR. マルテラCCOと会談し、小型モジュール炉(SMR)の導入の可能性について協議した。スタンコフ大臣は、「ブルガリアは、安全保障と適正価格でのエネルギーへのアクセスを確保するために、近代的なエネルギーインフラと戦略的パートナーシップに積極的に投資している欧州諸国の1つであり、世界のクリーンエネルギーソリューションの地図上でますます認知されるようになっている」と指摘。南東欧地域において、エネルギーリーダーの地位を強化すべく、現在進行中のコズロドイ原子力発電所7-8号機に米ウェスチングハウス社製AP1000を2基増設するプロジェクトに加えて、長期的な安定性、予測可能性、低コスト、低排出の実現に貢献する小型モジュール炉(SMR)をブルガリアに導入する可能性についても言及。ブルガリアがエネルギー安全保障、脱炭素化、経済成長という戦略的目標を達成する上で、GEベルノバ社との協力に期待を寄せた。さらに同大臣は9月26日、カナダのオンタリオ州を訪問し、同州のS. レッチェ・エネルギー・鉱業相とも会談。SMRに焦点を当て、両国間のエネルギー協力の深化について討議した他、GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製SMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の建設プロジェクトが進むダーリントン・サイトも視察した。これらの会談に先立ち、国際原子力機関(IAEA)総会期間中の9月16日、スタンコフ大臣は米エネルギー省のC. ライト長官とも会談。民生用原子力協力を強化するという両国間の政府間協定の目的を再確認する共同声明に署名し、革新的な原子力技術の開発と展開で協力することを確認した。これを機に、ブルガリアは米国研究所の専門知識を活用して、SMRの展開を加速するための候補サイトの立地可能性と適合性評価を事前に調査し、ブルガリア政府当局とプロジェクト会社であるコズロドイ原子力発電所-New Build EADは革新的技術の導入に向けた準備を進める。米国貿易開発庁は既に、ブルガリアの条件に最適なSMRを特定するため、様々な炉型の評価に資金提供する用意があることを表明している。原子力発電分野で50年以上の経験を持つブルガリアは、SMR導入により原子力をさらに拡大し、将来のデータセンター立地のためのプラットフォームを構築したい考え。スタンコフ大臣は、「他の国ではそのようなセンターの建設には10年かかるが、ブルガリアは大幅に短い期間で提供可能であり、国際的な投資家やパートナーにとって魅力的である」と強調。ブルガリアは将来へのビジョン、安定したインフラ、地域のエネルギー移行を主導し、信頼できるエネルギー輸出国であり続けるとの展望を示した。
06 Oct 2025
568
欧州連合(EU)の司法裁判所(Court of Justice)は9月11日、ハンガリー政府によるパクシュ原子力発電所増設(パクシュⅡ)プロジェクトへの国家補助を承認した欧州委員会(EC)の決定を取り消した。パクシュⅡプロジェクトは、2014年1月のロシアとハンガリー間の原子力平和利用の協力協定に基づき、2014年12月、ロシア国営原子力企業ロスアトム傘下のニジニノブゴロド・エンジニアリング・アトムエネルゴプロエクト(JSC NIAEP)社に発注された。同発電所サイトにVVER-1200を2基増設して、既存のVVER-440×4基を段階的にリプレースする計画で、ロシアは2014年3月の政府間融資協定により、長期の低金利融資で総工費の約8割に当たる約100億ユーロの国家融資を行い、ハンガリーは自国予算から追加で25億ユーロを拠出する。ECは2017年3月、ハンガリー政府による国営企業MVMパクシュIIへの投資補助を承認。MVMパクシュIIは、無償で増設2基の所有者兼運転者となり、その建設費用はハンガリー政府が全額負担することとなった。ECによる国家補助承認を受け、ハンガリーの隣国であるオーストリアは2018年2月、一般裁判所(General Court=下級審)にECを提訴。MVMパクシュⅡがロシア企業と直接契約(競争入札なしの発注)し、公共調達に係わるEU指令に抵触しているにも係わらず、ハンガリー政府による補助は条件付きで域内市場と適合するとして国家補助を承認したことは違法であり、公共調達規則に基づき、国家補助の問題を検証すべきであると訴えた。これに対し、一般裁判所は2022年11月、国家補助審査に先行する直接契約が国家補助の目的と不可分に結びついているとは認められず、公共調達の規則違反を国家補助審査の枠組みで検証すべきではないとし、オーストリアの訴えを棄却した。オーストリアはこれを不服として、2023年2月に司法裁判所に上訴。司法裁判所は、一般裁判所による判決を破棄、ECの承認決定を無効とした。司法裁判所は、一般裁判所が判断した内容とは異なり、ハンガリー政府による援助がEUの国家補助規則に適合しているか否かの確認に留まるだけでなく、ロシア企業への直接契約の行為は国家補助の審査に本質的に関連するため、公共調達の観点からも検証すべきであったと判断した。司法裁判所の判決を受け、ハンガリーのP. シーヤールトー外務貿易相は9月11日、「司法裁判所はECに対して不利な判決を下したが、パクシュIIプロジェクトをいかなる形でも制限または遅らせるものではなく、ハンガリー政府はパクシュⅡプロジェクトが自国のエネルギー安全保障の将来の主要な柱と見なし続けている」と述べた。むしろ最近の数か月、同プロジェクトへの投資を加速させているとし、2030年代初めには、両機を送電網に接続し、ハンガリーのエネルギー安全保障において大きな一歩を踏み出すと強調した。同国のJ. ボーカEU問題担当相も、この判決では、直接契約が公共調達規則に準拠していないとはしておらず、ECは国家補助手続きの枠組みの中でそれを検討しなかったか、少なくともこの問題に関して正当であると説明しなかったと指摘。国家補助や公共調達の手続き上でも違反とされていないため、パクシュⅡプロジェクトへの投資を計画通りに継続することに法的障害はないとの認識を示した。ハンガリーでは、旧ソ連時代に建設されたパクシュ発電所の4基(各VVER-440、出力約50万kWe)で総発電量の約5割を供給している。公式運転期間の30年を超過したため、運転期間を20年延長しつつ容量の大きい増設2基に徐々にリプレースしていく方針。シーヤールトー大臣は、同発電所の拡張はハンガリーの長期的なエネルギー供給を保証する重要要素であり、総発電量の約70%を供給できるとしている。パクシュⅡは2022年8月、増設プロジェクトの建設許可を国家原子力庁(HAEA)から取得。2023年7月以降、サイトでは建設の準備作業が進行している。HAEAからの承認を待ち、年内の初コンクリート打設を予定している。
06 Oct 2025
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ルーマニア国営原子力発電会社のニュークリアエレクトリカ(SNN)は9月24日、JPモルガン・チェースの欧州法人であるJPモルガンSEが主導する銀行コンソーシアムと、チェルナボーダ原子力発電所1号機の改修と同3-4号機の増設プロジェクトへの融資契約を締結した。SNNの株主による承認を経て実施される。銀行コンソーシアムは以下の銀行で構成:1号機改修プロジェクトの資金調達: Banca Comerciala Romana SA、Banca Transilvania S.A.、BRD Groupe Societe Generale SA、CEC Bank S.A.、Citibank Europe PLC(ダブリン・ルーマニア支店)、ING Bank N.V. アムステルダム – (ブカレスト支店)、UniCredit Bank SA、J.P. Morgan SE(ドイツ本社)3-4号機プロジェクトの資金調達: Banca Transilvania S.A.、BRD Groupe Societe Generale SA、CEC Bank S.A.、ING Bank N.V. アムステルダム(ブカレスト支店)、UniCredit Bank SA、J.P. Morgan SE(ドイツ本社)1号機(カナダ製CANDU、70.6万kWe)の改修プロジェクト向けに、5.4億ユーロの融資が行われる。改修工事は同機の30年間の運転期間延長を目的としており、SNNは2024年12月、エンジニアリング、調達、建設(EPC)契約を、カナダ、イタリア、韓国企業のコンソーシアムと締結している。EPC契約額は19億ユーロ。プロジェクトは現在、計画策定、設計・調達・建設契約の締結、長納期設備の調達、インフラ整備、許認可取得、資金確保などの準備作業が進められている。今年9月上旬には、土木工事が開始された。3-4号機(カナダ製CANDU、各70.6万kWe)増設プロジェクトでは、8,000万ユーロの融資が、エンジニアリング・調達・建設・管理(EPCM)契約のうち、米・加・伊の企業から構成される合弁事業会社が手掛ける「限定的な着手指示通知(Limited Notice To Proceed, LNTP)」フェーズの資金に向けられる。同資金は、SNNが全額出資するプロジェクト開発会社エネルゴニュークリア(EN)社が借り手となる。EPCMの契約額は32億ユーロ規模と想定。EN社は、エンジニアリング開発、資金確保、欧州委員会によるプロジェクト承認取得、最終投資決定の採択を目指している。SNNのC. ギタCEOは、「2件の資金調達契約の締結は、当社の戦略的プロジェクトである1号機改修ならびに3-4号機の増設プロジェクトの進行を支える重要な一歩。安全で信頼性のあるクリーンなエネルギー供給を最優先に、遅延やコスト超過なく進めていく。このパートナーシップは、両プロジェクトの信頼性の高さと、長期的な原子力エネルギーの役割を再確認するものだ」と語った。SNNは、両プロジェクトが同国のエネルギー安全保障、エネルギーの安定供給、CO2排出の削減、サプライチェーンなどに貢献すると強調。プロジェクトの完成により、ルーマニアの無炭素電源の66%が原子力となり、数千の雇用創出が見込まれている。チェルナボーダ発電所はルーマニアで唯一稼働する原子力発電所。1996年と2007年にそれぞれ1-2号機が運転を開始した。ルーマニアの総発電電力量に占める原子力シェアは約19%(2024年実績)。同発電所の3-4号機は1984年~1985年にかけて着工したが、1989年のチャウシェスク政権崩壊によって建設工事は中断し、現在は保全状態におかれている。
03 Oct 2025
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環境省が手掛ける放射線に関する正しい情報を発信する「ぐぐるプロジェクト」では、今年度の作品コンテストの募集を10月1日より開始した。締め切りは12月25日まで。同プロジェクトは、放射線の健康影響に関する誤解や風評、差別、偏見の解消を目指し、メディア向け公開講座や、全国の企業や学校でのセミナーの開催、作品コンテストの実施など、幅広い活動を手掛けている。中でも、セミナーで学んだ知識を作品として世に発信していく一連の流れを「ラジエーションカレッジ」と称し、同プロジェクトの要に位置づけている。今回募集の作品コンテストとは、このラジエーションカレッジの一環であり、放射線の健康影響について学び、それを多くの人に広く伝えることが目的だ。公募テーマは「学び感じたあなたの想いを広く届ける。」で、募集部門は、「キャッチコピー部門」、「グラフィックアーツ部門」「ショート動画部門」の3部門。詳細はウェブサイトへ。
10 Oct 2025
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10月7日に横浜市で開かれたOECD/NEA主催の国際シンポジウム「Information, Data and Knowledge Management for Radioactive Waste」では、関西大学の鷲尾隆教授が「AI技術 および原子力産業への その適用可能性」と題して講演を行った。鷲尾教授は長年にわたり原子力分野でAI研究を続ける第一人者であり、講演とその後の議論は会場を大いに沸かせた。冒頭、鷲尾教授は機械学習やディープラーニングなどAIの代表的手法を紹介し、「AIはデータが豊富な領域では優れた補間能力を発揮するが、未知の状況に当てはめて正しく判断することはできない」と強調した。「AIは与えられたデータの中で最適解を見つけるが、データが存在しない事象には無力だ。したがって、AIによる完全自動化を目指すべきではなく、あくまでも人間が監視・評価する“協働的ツール”として位置づけるべきだ」と述べた。続いて、ChatGPTなどに代表される生成AIの仕組みを解説。「生成AIは巨大な確率モデルであり、人間のような創造的思考をしているわけではない」と述べ、「文章をもっともらしく生成しても、未知の領域に当てはめて判断すると誤りが生じる可能性がある」と警告した。さらに、「AIの“答え”は、確率的に最も出現しやすい単語列の延長にすぎない。本質を理解して使わなければ、誤用によって安全文化そのものを損なうリスクがある」と語った。鷲尾教授はAIの応用例として、産業技術総合研究所(産総研)・日本電気株式会社(NEC)と共同で進めた人工衛星望遠鏡の迷光(stray light)分析を紹介。AIがリスク条件を自動的に探索するアルゴリズムを用い、従来のランダム探索より10万倍の効率で危険シナリオを発見できたという。そして、「この手法は、原子力発電所における想定外事故シナリオの自動抽出にも応用できる」と説明した。さらに、大阪大学との共同研究では、化学反応条件をAIが最適化することで、少数の実験データから高収率条件を導出。また、日産自動車などとのプロジェクトでは、工場の運転データをAIが解析し、シミュレーションモデルを自動補正して現場との整合性を高めたという。鷲尾教授は、「AIによるプロセス最適化や運転計画の高精度化は、原子力施設の安全運転支援にもつながる」と述べた。講演後の質疑応答では、スウェーデンの研究者から「AIは人間のCompetence(能力)を将来的に継承できるだろうか?」との質問が寄せられた。これに対し鷲尾教授は、「AIは知識やデータを扱えるが、人間の判断力や洞察力を直接再現することはできない」と明言。「重要なのはAIの出す解を“どう設計し、人間社会の意思決定に結びつけるか”であり、それは技術よりも組織や社会制度、そして人間同士の対話にかかっている」と答えた。会場からは「AIが“教育や会議を通じて能力を育てる存在”になれるのでは」という追加意見もあがったが、教授は「それは今後の哲学的・倫理的テーマ」として議論を未来に託した。米国の技術者からは、「フロッピーディスクやCD-ROMなど、古いデータ媒体が読み取れなくなった現状をどう考えるか?」との現実的な問いもあった。これに対して鷲尾教授は、「AIやデータベースの維持管理は、企業の自己責任だけに任せてはならない。将来的には政府による公的管理が必要になる」と指摘。「情報やAIモデルは“社会的インフラ”として保全されるべきだ」との見解を示した。最後に参加者から、「AIは未知領域を探索できるのか?」という質問が寄せられた。鷲尾教授は、「AIの根本的な限界は“未知を定量的に評価できない”ことにある」と説明。「AIは未知の発見を支援するが、自ら未知を創造することはできない。だからこそ、人間の科学的直感とAIの分析能力を組み合わせることが重要だ」と述べた。講演の締めくくりに鷲尾教授は、「原子力業界は安全を最優先するあまり、新技術導入に慎重すぎる傾向がある。しかし、安全性を高めるためにも、技術を“保守的に探求”する姿勢が必要だ」と述べた。そして、「AIの限界を理解したうえで、その強みを人間の判断力と結合することが、次世代の安全文化の形成につながる」と結び、会場は大きな拍手に包まれた。
10 Oct 2025
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日本原燃は10月7日、青森県六ヶ所村のウラン濃縮工場に、2014年以来、11年ぶりに濃縮ウランの原料となる六フッ化ウランを運び入れたと発表した。同日、青森県六ヶ所村のむつ小川原港に運びこまれたシリンダ(金属製の容器)を、輸送船から輸送車両にクレーンで陸揚げし、国土交通省の立ち合いのもと、放射線量の測定や外観確認を実施。その後、専用道路にて陸上輸送され、ウラン濃縮工場内でシリンダの受け入れ作業が行われた。同ウラン濃縮工場は1992年に操業を開始したが、2017年9月に一時生産を停止。2023年8月から運転を再開し、現在、112.5トンSWU/年(分離作業単位)の生産能力を誇る。「トンSWU/年」とは、ウラン濃縮の処理能力を表す単位で、1年間にどれだけのウランを濃縮できるかを示している。同社は、2028年度中に450トンSWU/年の生産体制を目指しており、すでに事業変更許可を取得した2号カスケード設備(150トンSWU/年の処理能力)では、新型の遠心分離機などへ設備更新が進み、安全性と効率の向上を図っているところだ。また、ウラン化合物を取り扱う六フッ化ウラン処理設備や高周波電源設備、放射線監視設備、非常用設備についても同様に設備更新が行われ、順調に設備更新が進んでいることから、この度、ウランの受け入れが決定した。今回の受け入れでは、カナダのCameco(カメコ)社から、シリンダ50本分、最大625トンを受け入れる。同社はこれまで、1991年から2014年までの間に計41回、シリンダ1,299本分のウランを搬入してきた実績がある。同社はWEBサイト上で「国内に唯一のウラン濃縮工場を安全に運転し続け、日本のエネルギーセキュリティに貢献できるよう事業に取り組んでまいります。そして、長年にわたって支えていただいている地域の皆さまへの感謝の気持ちを忘れることなく、これからも地域とともに歩み続け、地域の発展に貢献してまいります。」とコメントしている。
09 Oct 2025
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経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)主催の国際シンポジウムで来日したW.D.マグウッド事務局長は10月7日、記者会見に臨み、放射性廃棄物処分をめぐる知識・データ管理(Information, Data and Knowledge Management=IDKM)の重要性と、国際的な協力の方向性について語った。日本では2000年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が制定され、2002年にNUMOが文献調査の公募を開始。実際の文献調査は、2020年に北海道の寿都町・神恵内村で始まっているとはいえ、すでに公募開始から四半世紀が経過している。この点についてマグウッド事務局長は、「国ごとの文化や制度、社会的背景を踏まえ、社会的合意を得るための時間を十分に取ることが不可欠だ」と強調。「20年、30年、あるいはそれ以上をかけてでも、拙速な決定で失敗するよりははるかに良い」と述べた。さらに、事務局長は過去の失敗事例として米国のマクシーフラッツ(Maxey Flats)低レベル処分場を挙げ、「記録や知識の欠如が、地域住民の不安や巨額の除染費用を招いた」と指摘。記録と知識の管理が、いかに将来の社会的信頼の基盤となるかを強調した上で、「私たちは未来の世代に、問題だけを残すのではなく、それを管理するための知識を伝える責任がある」と語った。原子力産業新聞は、NEAが公表した『SMRダッシュボード』に関連して、長期にわたり燃料交換不要や、密閉炉心を謳うSMR(小型モジュール炉)であっても、最終的には廃棄物が発生することから、NEAはどのように世界規模での廃棄物管理対策を検討しているのか質問。事務局長は、「NEAは、新型炉による廃棄物の発生量と性状を正確に把握し、対応策を準備することを最優先課題としている」と説明。「新しい技術を導入しても、処分経路が確立していないのでは本末転倒だ。各国の制度や環境は異なるため、廃棄物処理基準の『国際的な調和(harmonization)』は容易ではないが、今こそ将来に向けた共通基盤づくりを始める好機である」との認識を示した。 また、デジタル技術の採用について本紙が、NEAが以前指摘していた「原子力分野はデジタル技術の採用で取り残されてはならない」との考え方を踏まえ、AIは知識管理だけでなく安全文化、意思決定をどのように改善しうるか、事務局長の見解を求めたところ、事務局長は「AIは今後、情報整理や検索機能などで極めて大きな役割を果たすだろう」としつつも、「長期的な影響や応用範囲についてはまだ見通せない部分が多い」と慎重な見方を示した。そして「AIは強力なツールであると同時に、文脈や人間的判断を失わせる危険もある。長期的な知識の継承と信頼性確保の観点から、慎重に統合していく必要がある」と述べた。 そのほか質疑では、「データとは何か」との問いに対し、数値やテキスト等の事実情報に限らず、公開対話や協議の記録、当時の社会状況や意思決定の経緯といった文脈や暗黙知も含めて捉えるべきだとし、将来世代が全体像を理解できるよう記録の幅と質を確保する重要性を強調した。NUMOについては、「NUMOの技術的能力は世界のいかなる処分機関にも劣らない」と評価。スウェーデンやフィンランドなど先行国の知見を吸収しながら、段階的で慎重なプロセスを進めているとし、「NUMOの公開・レビュー活動は国際的にも透明性の高い取り組み」であり、今後もNEAが継続的に支援していく考えを示した。会見とシンポジウムを通じて、技術・制度の整備だけでなく、「記録・知識・記憶」の継承こそが社会的信頼を築く鍵であるという趣旨が、繰り返し強調されていた。NEAが提唱する情報・データ・知識管理(IDKM)は、NUMOが進める地層処分の長期的な安全性と社会的合意形成の双方を支える基盤となるだろう。
09 Oct 2025
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経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は10月7日、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で、「放射性廃棄物管理に関する情報・データおよび知識マネジメント」をテーマにシンポジウムを開催した。国内外から技術者、研究者、規制当局、政策決定者など約100名が参加。高レベル放射性廃棄物の地層処分をめぐる長期的な情報管理の重要性や、各国の取り組みについて議論が行われた。OECD/NEAは2019年に「情報・データ・知識管理(Information, Data and Knowledge Management=IDKM)」作業部会と専門家グループを設立し、活動を開始。放射性廃棄物の処分にあたっては、処分技術や施設の安全性に加え、記録・知識・記憶の世代間継承を重視している。アジアで同テーマのシンポジウムを開催するのは今回が初めて。日本を代表して、原子力発電環境整備機構(NUMO)がホストを務めた。開会にあたり、OECD/NEAのW.D.マグウッド事務局長は、「気候変動への対応やロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機を背景に、加盟国では原子力発電の再評価が進んでいる」と述べ、従来とは異なる新たな局面にあるとの認識を示した。また、新型炉の開発も進む中、放射性廃棄物に関して世代を超えた長期にわたる情報管理を徹底することは、放射性廃棄物の処分について人々の理解を得るうえで極めて重要であると強調した。NUMOの山口彰理事長は、単に情報を保存するだけでなく将来の関係者が理解し実際に活用できる形で情報を維持することの重要性を指摘。そのうえで、シンポジウムで得られた各国の知見や協力関係が、具体的な行動につながるよう期待を示した。本セッションでは、NEAによる国際的な取組状況に加え、日本国内における放射性廃棄物管理および関連研究開発の現状が紹介された。また、関西大学ビジネスデータサイエンス学部長の鷲尾隆教授からはAI技術の原子力産業への応用可能性に関する講演が行われた。シンポジウムは10月9日まで、3日間にわたり開催される。
08 Oct 2025
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中部電力は10月7日、浜岡原子力発電所1号機(BWR、54.0万kWe)の建屋内にある原子炉圧力容器の上蓋(直径約5m、高さ約3m)をクレーンで取り外し、原子炉領域の解体撤去工事を開始したと発表した。原子炉領域とは、原子炉圧力容器および炉内構造物、原子炉圧力容器を取り囲む放射線遮へい体を含む領域を指す。同1号機の使用済み燃料はすでに取り出されており、今後、切断装置(大型バンドソー)等を用いて圧力容器や格納容器の解体作業に入る。同社によると、その際発生する廃棄物は、廃棄先が決まるまで建屋内にて安全に保管されるという。今年3月、すでに同発電所の2号機(BWR、84.0 万 kWe)の解体撤去工事が開始されており、日本国内における商業用原子力発電所の原子炉領域における解体撤去は、同1号機が2例目となった。同1、2号機は、2009年1月に運転を終了し、同年11月、廃止措置計画認可を受けた。その後、複数回の廃止措置計画の変更を経て、この度、原子炉領域の解体作業に着手する。原子炉の廃止措置計画は4段階に分かれ、この度の作業は、その第3段階目にあたる。同計画では、2035年度までに原子炉領域の解体撤去工事を終え、2042年度までにすべての廃炉を完了させる予定だ。また、使用済燃料再処理・廃炉推進機構(NuRO)は10月3日、原子炉本体の解体に向けたパイロットプロジェクトを立ち上げた。これを受けて、同社は1・2号機を実証プラントとして提供し、プロジェクトに参画することを表明した。このプロジェクトは、NuRO、電力10社、電気事業連合会、原子力エネルギー協議会(ATENA)が連携し、安全性を最優先に、原子炉本体の円滑かつ合理的な解体工法の確立を目指すもの。NuROは、実証を通じて原子炉領域の解体工事に伴うさまざまな課題を検証し、その成果を今後の他プラントの廃止措置に活かす考えを示している。同社はWEBサイト上で、「同プロジェクトを牽引し、引き続きトップランナーとして原子炉本体の解体を進めることで、日本の廃止措置に貢献できるものと考える」と意欲を示した。
08 Oct 2025
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総合資源エネルギー調査会の革新炉ワーキンググループ(以下WG、座長=斉藤拓巳・東京大学大学院工学系研究科教授)が10月3日、約1年ぶりに開催され、次世代革新炉の開発の道筋の具体化に向けた議論が行われた。前回のWG開催後に策定された第7次エネルギー基本計画では、原子力を脱炭素電源として活用することが明記され、次世代革新炉(革新軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合)の研究開発を進める必要性が示された。今回のWGでは、実用化が間もなく見込まれる革新軽水炉と小型軽水炉に焦点を当てた議論が行われ、開発を進める各メーカー(三菱重工・日立GEベルノバニュークリアエナジー・東芝エネルギーシステムズ・日揮グローバル・IHI)から、安全性への取り組み、技術の進捗、今後の見通しなどの説明があった。三菱重工のSRZ-1200は、基本設計がおおむね完了しており、立地サイトが決まれば詳細設計に進む段階で、すでに原子力規制庁との意見交換も5回実施済み。規制の予見性向上に取り組んでいるとの報告があった。日立GEベルノバニュークリアエナジーからは、開発中の大型革新軽水炉HI-ABWRや小型軽水炉BWRX-300の説明があり、特にBWRX-300はカナダのオンタリオ州で建設が決定しているほか、米国やヨーロッパでも導入・許認可取得に向けた動きがあると述べた。東芝エネルギーシステムズは、開発中の革新軽水炉iBRに関して、頑健な建屋と静的安全システムの採用で更なる安全性向上を進めながら、設備・建屋の合理化を進め早期建設の実現を目指すと強調した。IHIと日揮ホールディングスは、米国のNuScale社が開発中の小型モジュール炉(SMR)について、米国では設計認証を取得し、ルーマニアで建設に向けた基本設計業務が進められていると伝えられた。両社は、経済産業省の補助事業を活用し、原子炉建屋のモジュール化や要求事項管理、大型機器の溶接技術、耐震化などの技術開発に取り組んでいるという。その後、参加した委員から多くの期待感が示されたが、同時に課題点の指摘があった。例えば、革新炉開発の技術ロードマップの定期的な見直しの必要性や、日本特有の自然条件への適合に関する議論の進展、また、各社が進める新型炉の開発状況に応じた規制要件や許認可プロセスの予見性向上の必要性など挙げられた。また、エネルギー安全保障の観点や立地地域との信頼の醸成など技術開発以外で取り組むべき事項についても意見があった。産業界の立場から参加している大野薫専門委員(日本原子力産業協会)は、ロードマップには技術開発だけでなく、投資判断の際に重視される事業環境整備やサプライチェーン、人材の維持・強化についても明示的に盛り込むよう要望。また、環境影響評価や設置許可などの行政手続きについては、標準的なタイムラインの提示が必要だと指摘した。 小型軽水炉のロードマップに関しては、国内での開発動向や新たな知見を反映したアップデートに加え、日本企業が参画する海外の小型軽水炉プロジェクトの導入可能性も視野に、ロードマップで取り上げることを提案。またGX関連支援では、革新技術だけでなく、サプライチェーンを支える製造基盤の維持に対する支援継続も不可欠と訴えた。
07 Oct 2025
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京都大学複合原子力科学研究所の中村秀仁助教らは10月2日、文部科学省にて「Nプロジェクト」に関する記者会見を開いた。同プロジェクトは、高校生が科学の「ワクワク感」を小学生や地域社会に伝える対話型学習活動であり、このたび初めて公立小学校(4校、50クラス、計1704名)に展開することが正式に発表された。中村助教は、20年にわたり科学教室を続けてきた経験を振り返り、「これまで理科好きの子どもや保護者が熱心な家庭にしか届いていなかった」と反省を語った。その上で「科学は学問ではなく、世界共通の言語。人と対話するツールとしてこそ意味がある」と強調。学力中間層や文系生徒を対象とした新たなアプローチの意義を訴えた。今回の小学校での授業は、低学年に「気象」、高学年に「放射線」を題材に、高校生1名に対し、小学生4~5名の少人数形式で45分間。自作のスケッチブックを使ったクイズ形式で行われる予定だ。中村助教は「文系の生徒に科学を届けたい」と考え、題材を設計した経緯を説明。高校2年で文理が分かれる際、文系に進む理由の多くは「古文が好きだから」や「漢文が好きだから」ではなく、「算数が苦手だから」であり、理系科目に対して苦手意識があるという実態がある。こうした生徒に物理や化学の題材を取り上げても「理系の生徒には勝てない」「自分にはできない」という意識が先立ち、学びにつながらない。そこで中村助教は、社会的な話題でありながら、理系生徒も文系生徒も「誰もが同じスタートラインに立てるテーマ」を選ぶ必要があると考えた。その一つが「福島第一の処理水に含まれるトリチウム水」の問題だった。理系も文系も詳しくないテーマであり、初めて「対等に議論できる」題材となったのだ。放射線は一般的に不安や偏見と結び付けられがちだが、科学的に学べば「必ずしも悪いものではない」ことを理解できる。だからこそ、放射線を題材に選ぶことには、科学リテラシーを育てる契機となる社会的にセンシティブな話題に向き合う力をつけるという狙いがある。大阪高等学校の平野宏太校長は「2000人近い生徒たちがNプロジェクトに参加しているが、その7割近くが文系の生徒。その文系の生徒たちが、Nプロジェクトが終わった後に、物理や科学系の参考書を読み始めたり、YouTubeを見るようになった」と語り、これまでの授業とは全く違う形での教育効果を実感していると述べた。中村助教も「小学校で実施するからと言って、小学生に知識を与えることが目的ではない。かっこいいお兄さん・お姉さんの姿を見て、『あんなふうになりたい』と思ってもらうことが大切」と述べ、高校生にとっても「役割交代」を通じてキャリア意識を育む機会になるとした。記者会見に同席した京都大学複合原子力科学研究所の川端祐司特任教授は、Nプロジェクトについて「3年目という若いプロジェクトだが、アウトプットの場を多様に設けることで子どもたちの非認知能力に改善が見られる」と評価。「吹田市のご協力を得て公立小学校という公の教育の場で活動できるのは、我々にとって全く新しいステージに入った」と語った。当初は「放射線を題材にする」ことへの不安が小学校側から多く寄せられたが、大阪・関西万博での高校生の活動を見た教員らがSNSで拡散し、協力的な姿勢へと転じたという。保護者からも「家庭で子どもが科学やニュースを話題にするようになった」と喜びの声が寄せられている。授業は10月20日からスタートし、桃山台小、津雲台小、佐竹台小、千里たけみ小の4校で順次実施される。さらに今後は海外当局との共同記者会見も計画されているそうで、Nプロジェクトは国際的な広がりを視野に入れているようだ。 高校生が語る「挑戦」と「ワクワク感」今回の会見には、大阪高等学校から2名の高校生が出席し、それぞれの成長体験と今後の意気込みを語った。寒川琴音さん(3年):「科学のワクワク感」を伝えたい文系の生徒として参加した寒川さんは、中学時代に委員会や生徒会の活動を断り続けてきた後悔から、高校入学時に「前向きにすべてに挑戦しよう」と決意したという。Nプロジェクトでは「科学のワクワク感を伝える」ことを最も重視しており、「教えるという形にこだわらずに伝える」という姿勢で小学生との対話に臨むと語った。小学生への説明で最も苦労している点について「漢字が使えないこと」を挙げており、「風向計とかも風の向きを計測する機械です」と大人には説明できるが、小学生低学年へひらがなで説明する際は「イラストを丁寧に描く」といった工夫が必要だと話した。将来は芸能関係を目指す寒川さんは、「いろいろな人と話せるようになりたい」と語り、今回の活動がコミュニケーション能力向上の良い機会になると期待している。同世代の高校生に対しては「挑戦したら変わるよっていう挑戦することの大切さを身をもって実感できるので、それを伝えたい」と述べ、自らの変化体験を基にした説得力のあるメッセージを送っている。横田さくらこさん(3年):「踏み出す勇気」を伝えたい横田さんは、高校入学前は将来について何も考えていなかったが、姉が大阪高等学校の在校生だったことからNプロジェクトの存在を知り、「文系理系関係ないなら、科学とか得意じゃないけどできるかな」という気持ちで参加した。参加後は発表機会が増えるにつれて「コミュニケーション能力とかプレゼン力がどんどん上がってきた」と実感。理科の授業に対する向き合い方も変化し、「公式を覚える授業というよりは、自分が知って、科学に興味を持ってるから取り組む」ようになり、「ただ暗記するような、テスト用の勉強じゃなくなった」と語った。小学生と向かい合うことに関しては「ちょっと踏み出すことによって、こんなにも世界が広がるというのを伝えていけたら」と語る横田さん。自分には弟や妹がいないため「どうやって接したらいいのかわからないから」と、小学生との接し方についても学びたいと話した。同世代の高校生に対しては「何事にも関係ないって思わずに挑戦しよう」と語り、「将来や進路につながらなくても、きっとどこかにつながると思う。科学だけじゃなくて、プレゼン力やコミュニケーション力とか。大事なことは知識だけじゃない」と強調した。川端特任教授は、寒川さんと横田さんの発言を受けて「普通の高校生がこのような場に来て、自分の言葉で話すというのはなかなか難しい。学力のボリュームゾーンの子どもたちが自分で考えて、プレッシャーがある場で話すことができること自体が、大きな成果だ」と評価した。
06 Oct 2025
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所所長)が10月1日に開催され、第7次エネルギー基本計画を踏まえた原子力発電の将来像と見通しが議論された。同委員会では、次世代革新炉の動向や立地地域との共生、燃料サイクル、サプライチェーン・人材確保、国際動向などさまざまな課題が示され、委員から幅広い意見が出された。特に、電気事業連合会(電事連)がまとめた資料には、運転期間60年を前提とした場合、2030年代半ば以降に廃止措置に入る原子炉が増えるため、2040年代に約550万kWのリプレースが必要との試算が示され(既報)、これを中長期議論の出発点とすべきといった提案がなされた。黒﨑委員長は、脱炭素電源不足を避けるため将来像を提示する意義を強調し、定量的見通しの重要性、そして、電事連が示した試算を議論の出発点とする妥当性を確認した。他の委員からも、「リプレースに必要なリードタイムを考慮すると、時間的な猶予はあまりないため早期に議論に着手すべき」との声や「2040年以降のシナリオも、海外事例を参考に、政府と産業界が共同で計画を検討すべきだ」との声が上がった。この試算について多くの委員が支持した一方で、電力需要の伸び方など、DXやGXの進展次第で大きく変わる不確実性を考慮し複数シナリオを提示する必要性や、安全文化の確立、規制の予見性向上に関する指摘があがった。専門委員として出席している日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、電事連が示したリプレースに関する試算について「電力需要の見通しと原子力比率に基づいた試算であり穏当と受け止めた」と評価し、国が将来像を策定するに当たって、「中期・長期の二段階で見通しを提示すべき」との意見を示した。また、原子力産業の基盤維持・強化の取組みに関して、①原子力産業への就業確保②産業内での人材定着③シニアの活用、の3点を挙げ、原子力産業界全体の生産性向上に向け、省人化技術を積極的に活用することの重要性を訴えた。また、これらの課題について、「産官学の協力が必須であり、協会としても当事者意識をもってしっかり取り組みたい」と意欲を示した。〈発言内容はこちら〉
03 Oct 2025
790
電気事業連合会(電事連)は10月1日、第46回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の原子力小委員会において、「今後の電力需給を見据えた原子力発電の見通し・将来像について」と題する資料を提示し、将来的に必要となる原子力発電所のリプレース規模に関する説明を行った。それによると、国が定めた第7次エネルギー基本計画に記された原子力発電容量(総発電電力量の2割程度)を達成するためには、2040年代に約550万kWの原子力リプレースが必要で、2050年代には最大で約1,270~1,600万kWのリプレースが必要な可能性があるという。今後の発電電力量の推移や、脱炭素電源の導入状況によっては、さらなるリプレースが必要なケースも想定される。第7次エネルギー基本計画では、増加する電力需要に応えるべく、脱炭素電源としての再生可能エネルギーと原子力を最大限活用しつつ、出力調整機能に優れた火力発電等の電源を組み合わせるエネルギーミックスの重要性が示された。電事連は、今後の設備容量の低下や原子力発電所建設に係る長いリードタイムを踏まえると、既存の安定電源を如何に更新していくかが重要だと指摘している。また、電事連は、既設炉を最大限活用していくとしても、運転開始後60年で廃止を決定するとした場合、2030年代半ばから廃止措置段階を迎えるプラントが増え、2040年度までに4基、2050年度までに更に11基が廃止措置段階へ移行すると試算している。そのため、既設炉の最大限活用を進めるとともに、次世代革新炉の開発と建設に取り組む必要性を強調したほか、それら具体的な中長期の見通し・将来像の明示が、人材やサプライチェーン、技術基盤の維持や再構築に直結すると訴えた。その上であらためて、国による事業環境の整備や、規制予見性向上が重要であると指摘した。
02 Oct 2025
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中国電力は9月30日、「中国電力グループ経営ビジョン2040」を公表し、今後、原子力発電を最大限活用するなど、脱炭素化と成長を両立させる取り組みを打ち出した。経営ビジョンの改定は5年ぶり。中川賢剛代表取締役社長執行役員は冒頭メッセージで、「前回の経営ビジョンの策定以降、脱炭素化の潮流加速や電力システム改革の進展、国のエネルギー基本計画の改定など、当社をとりまく環境は大きく変化している」と指摘。そのうえで、中国地域の電力需要が、全国平均を上回るペースで増加する見通しをふまえ、「エネルギー供給の安定化や脱炭素化ニーズに応えていくことは当社の使命であり、経営環境の変化や社会課題の解決をグループ全体の成長の好機と捉えている」と述べた。新ビジョンでは、自己資本比率を現在の16.5%から2040年度までに25~30%へ引き上げ、経常利益は2040年度までに1,600億円とする目標を掲げた。その前提として、建設中の島根原子力発電所3号機(ABWR, 137.3万kWe)の営業運転開始を位置付けている。同社は今後、原子力発電所等の脱炭素関連設備への投資を行いつつも、負債の増加を抑制しながら利益を着実に上げる財務体質を目指し、同社グループ全体の飛躍に繋げたいとしている。同3号機は現在、新規制基準適合性審査の対応中で、2028年度を目途に安全対策工事を完了し、2030年度までの営業運転開始を目指している。昨年12月には13年ぶりに同2号機(BWR、82.0万kWe)が再稼働しており、2040年度までに発電電力量に占める原子力の割合を2割程度まで高める計画だ。さらに、使用済み燃料貯蔵対策の一環として、中間貯蔵施設の設置検討を加速させるほか、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、山口県上関町での原子力発電所建設計画にも取り組む方針を盛り込んだ。
01 Oct 2025
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日本原子力産業協会の増井秀企理事長は9月26日、定例の記者会見を行い、「第69回IAEA総会」と「第3回新しい原子力へのロードマップ会議」への参加報告や原子力産業セミナー2027東京会場の速報、また、記者からの質疑に応じた。 増井理事長はまず、第69回IAEA総会に参加し、IAEAの幹部ら(ラファエル・グロッシー事務局長、ミカエル・チュダコフ事務局次長)と面会したことや、日本ブースの展示を政府や民間関係機関と共同で取りまとめたことについての所感を述べた。 グロッシー事務局長との面会においては、ALPS処理水放出や福島第一原子力発電所の国際社会への理解促進におけるIAEAの貢献に感謝の意を示し、引き続きIAEAと同協会の関係を深め、さらなる協力可能性等について意見を交わしたことを報告した。また、日本ブースの展示においては、次世代革新炉を中心とした原子力技術開発の展望や福島第一原子力発電所の状況などを紹介し、来訪者が計780名と昨年を100名以上も上回る盛況ぶりであったと伝えた。その他、オープニングセレモニーには日本政府代表である城内実科学技術政策担当大臣から挨拶を頂戴したことや、復興庁の協力により福島県浜通りの銘酒が来訪者に振舞われ、福島の復興をアピールする良い機会となるなど、ブース全体の充実ぶりを伝えた。 次に、OECD原子力機関(NEA)と韓国政府が主催した「第3回新しい原子力のロードマップ会議」に参加し、他国の原子力関係機関とともに共同声明を発表したこと、そして、毎年秋に同協会が実施している「原子力産業セミナー2027」の東京会場での速報を報告した。 原子力産業セミナー2027の東京会場では、来場者数と出展企業数が昨年より増加し、参加者アンケートにおいても全体的にポジティブな回答が多かったと述べた。この後、開催される大阪(9/27に開催済み)と福岡(10/18開催予定)会場においても、同じような盛り上がりが見られることに期待を寄せた。 その後、記者から、「原子力産業セミナーに来場した学生の関心等傾向は年々変わってきているのか」と問われ、増井理事長は、「同セミナーの現場に立ち会ったのは昨年が初めてだが、採用する企業側の熱意があふれていると感じた。学生らは、仕事の面白さや手ごたえ等キャリアアップに関する点を重視していると同時に、転勤の有無や住宅補助等の実利的な面にも着目しているという印象を受けた」と述べた。 また、記者から「原子力工学以外を専攻する学生への訴求や、今後、原子力人材の育成や確保に向けて、どういった手立てが考えられるか」と問われ、増井理事長は、「原子力発電所の運営には、土木、機械、電気、化学やその他事務系等、総合的な人材が必要であるため、原子力産業セミナーの意義について、今後さらに説明を重ね、幅広い学生に原子力産業の入口としての理解を促していく。また、当協会が実施している人材育成活動をさらに強化し、原子力産業界が人材を引き付けて長く留まってもらうための方策を考えていきたい」と課題と抱負を述べた。
30 Sep 2025
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