エストニア政府は5月22日、合計出力60万kWeの原子力発電所およびその運転に必要なインフラ整備のため、定められたサイト選定プロセスと戦略的環境影響評価を開始することを明らかにした。エストニアの新興エネルギー企業フェルミ・エネルギア社は2025年1月、計画している原子力発電所を建設する最適地を見つけるため、経済通信省に対し、原子力発電所のサイト選定プロセスの開始を申請した。フェルミ社は、エストニアのエネルギー安全保障と気候目標へのコミットメントの一環として、GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製のSMRであるBWRX-300の2基から構成される、合計出力60万kWeの原子力発電所の建設を計画。2029年に規制当局に建設許可を申請し、早ければ2035年までに初号機の運転開始を予定している。サイト選定プロセスの実施にあたり、フェルミ社は5月12日、経済通信省と協力協定を締結。影響評価と調査を含む、すべての費用をフェルミ社が負担し、同省は計画の準備、取り纏めを行うという。E. ケルド経済通信相は、「サイト選定プロセス=イコール原子力発電所の建設開始、ではない。まずは、原子力発電所を建設する条件や具体的な場所について分析。投資家が原子力発電所の建設への投資を希望し、国が建設を決定した場合に、十分に検討され、評価された計画を持っているように、準備を進めていく」と説明。「建設が実現されれば、地域に新たな高レベルの雇用が創出され、地域経済の発展が見込まれる」と展望を示した。選定の計画区域の面積は西ヴィル郡と東ヴィル郡の両方で約1,285㎢と、発電所とその関連インフラが建設される区域よりも大幅に広い範囲に及ぶ。そのため、既存の電力網との接続の計画も含め、原子力発電所の最適な立地を徹底的に検討・評価することが可能になる。発電所が計画区域内の住民、その住宅および生活環境や自然環境、経済に及ぼす影響など、関連するあらゆる影響を評価していくという。サイト選定プロセスには、計画区域の住民、地方自治体、関連当局、およびその他の利害関係者が参加。予備的な選定において、発電所と運営に必要なインフラに最適地を、計画区域全体で調査し、複数の候補地を検討する。フェルミ社ならびに政府の原子力作業部会は、すでに原子力発電所の建設に適した可能性のある地域を分析している。フェルミ社が実施した予備調査では、西ヴィル郡クンダ近郊のヴィル・ニグラと、東ヴィル郡リュガヌセのアー村を候補地に挙げている。フェルミ社は、過去6年間にわたり、住民を対象とした説明会を16か所の自治体で50回以上実施し、500人以上が参加。これを経て、西ヴィル郡ヴィル・ニグラ、ならびに東ヴィル郡リュガヌセの各自治体議会はサイト選定プロセスへの参加について合意している。なおフェルミ社は、今年4月に委託・実施した世論調査の結果、エストニア国民の69%がSMR建設準備の継続を支持、または支持する傾向を示しており、この数字は過去5年間を通じて着実に増加していると指摘。また、エストニアにおいて発電電力量の約半分のシェアを占めるオイルシェールによる発電を段階的に廃止するにあたり、どのエネルギー源を優先すべきかを尋ねる設問では、回答者の56%が原子力を挙げているという。
05 Jun 2025
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米大手電力会社のコンステレーション社とIT大手のMeta社は6月3日、コンステレーション社がイリノイ州で運転するクリントン原子力発電所(BWR、109.8万kWe)からの電力を20年間購入する電力購入契約(PPA)を締結した。契約額は未公表。本契約は2027年6月に開始され、イリノイ州のゼロ・エミッション・クレジット(ZEC)((クリーンエネルギー発電事業者に対して、その発電した電力量に応じて一定のベネフィットを提供するもの。廃止予定だった原子力発電所の運転延長など、原子力発電もこれに含められるのが一般的である。))プログラム終了後も、同発電所の継続的な運転を支援することになる。同発電所の電気出力を3万kWe増強するとともに、地元では1,100人の高レベルな雇用を維持し、年間1,350万ドルの税収の確保が予想されている。コンステレーション社のJ. ドミンゲスCEOは、「昨年、当社が発表したクレーン・クリーン・エネルギー・センター(スリーマイル・アイランド1号機)の運転再開計画は多くの関心と圧倒的な支持にもかかわらず、重要な問題が見落とされていた。それは、そもそもなぜこのような価値のある発電所を閉鎖してしまったのかということ。閉鎖によって、地域社会の雇用と税収が失われ、大気汚染は拡大、電気料金が上昇した」と述べ、「Meta社はこの重要な問題を提起してくれた。既存発電所の運転期間延長と出力増強への支援は、新たなエネルギー源を見つけることと同じ影響力がある」と契約締結の意義を強調した。Meta社のU. パレク・グローバルエネルギー部門長は、「クリーンで信頼できる電力確保は、当社のAIの野望を前進させ続けるために必要不可欠。クリントン発電所の運転を維持し、エネルギー分野における米国のリーダーシップ強化に向けた重要な要素であると示していきたい」と語った。クリントン原子力発電所(別名:クリントン・クリーン・エネルギー・センター)は、イリノイ州で1987年に運転を開始、最も稼働率の高い原子力発電所の一つであったが、長年にわたる赤字で、運転認可期限である2027年を待たずに、2017年に早期閉鎖が予定されていた。同発電所の閉鎖は、イリノイ州のエネルギー法案である「未来エネルギー雇用法(Future Energy Jobs Act)」の制定によって阻止され、同法により、2027年半ばまで同発電所を財政的に支援するZECプログラムが設立された。今回のPPA契約は、実質的にZECプログラムに代わる市場ベースの解決策であり、料金支払者の追加負担なしに同発電所の長期的な運転を保証することとなる。コンステレーション社は2024年2月、米原子力規制委員会(NRC)に同発電所の20年間の運転期間延長(60年運転)を申請済み。本PPA契約の締結により、20年運転の継続が保証される中、コンステレーション社は同サイトでの改良型原子炉または小型モジュール炉(SMR)の開発に向けて、NRCに既存の事前サイト許可(ESP)の有効期間を延長申請するか、新たな建設許可を求めるか、戦略を検討中である。Meta社は自社データセンターの効率的な運用を最優先し、電力の100%をクリーンで再生可能なエネルギーで賄うとともに、新興のエネルギー技術の研究開発にも取り組んでいる。同社は、AIの進化に伴い、将来の電力需要の増大が予想される中、信頼性が高く安定した供給が可能な電源として原子力の価値を認識。原子力プロジェクトが地域経済を支えるとともに、米国のエネルギーリーダーシップの強化に資するとの考えから、新たな原子力発電の促進にも注力している。その一例としてMeta社は2024年12月初め、合計電気出力100万〜400万kWの原子力発電プロジェクトの早期開発を目的とする事業提案依頼を実施。電力会社、開発者、原子力技術メーカーなど、さまざまな参加者から50を超える提案が寄せられた。提案では、全米20以上の州で多様な技術オプション、取引条件、サイトの提示を受け、原子力開発を迅速に進め、実行可能性が高く、タイムラインの確実性が見込める場所を優先し、複数の州で有力な原子力プロジェクト候補を既に選定済み。現在、最終的な協議を進めており、年内にも完了する見通しだ。この他、Meta社は今年3月、大手IT企業を含む14社による「2050年までの世界の原子力発電設備容量を少なくとも3倍に増やす」という目標を支持する誓約書に署名している。
04 Jun 2025
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国際原子力機関(IAEA)原子力エネルギー局は5月13日、小型モジュール炉(SMR)とそのエネルギーミックスにおける潜在的な役割について、各国政府、規制当局、業界関係者への情報提供を目的とした新たなイニシアチブとして、SMRスクールを発足、実施したと明らかにした。初回のスクールは5月5日~9日にかけて、ケニア政府主催で首都ナイロビにて開催された。アフリカ諸国に焦点をあて、ケニアをはじめ、ガーナ、ニジェール、ナイジェリア、ウガンダ、ザンビアで原子力プログラムを実施している組織の公務員、政策立案者、管理者など28人が参加した。スクールでは、技術開発と実証、法的枠組み、利害関係者の関与、安全性、セキュリティ、セーフガードなど、SMRの主要な側面をカバー。参加した各国高官らは、将来の原子力導入に向けた理解を深めた。ケニア国営企業の原子力発電・エネルギー機構(Nuclear Power and Energy Agency: NuPEA)のS. エセンディCEO代理は、「ケニアは、原子力の新規参入国として、クリーンで手頃な価格のエネルギーへのアクセスのギャップを埋め、産業の成長を支え、再生可能エネルギーの野心を補完する上で、SMRの重要な役割を認識している」と述べ、「このスクールは、技術チーム、規制当局、将来のリーダーに、原子力技術を責任ある形で展開するためのノウハウを提供する触媒となる」とその意義を強調した。ナイジェリア原子力委員会のR. A. オグノラ氏も、「技術的な発表、議論、経験の共有により、SMRの展開と規制上の考慮事項について理解が深まった」「安全かつ効果的な原子力プログラムの構築を支援する出版物やサービスについて学ぶことができた。この知識は、原子力発電プログラム開発のマイルストーンを進める際の有益な情報となる」と評価した。アフリカでは原子力発電が拡大しつつあり、IAEAは各国が安全かつセキュアな原子力エネルギーに必要なインフラ整備を支援している。エジプトは4基のロシア製大型炉からなるエルダバ発電所(VVER-1200)を建設しており、南アフリカはアフリカ大陸で唯一稼働するクバーグ発電所(PWR、97.0万kW×2基)に加え、原子力発電プログラムの拡大を計画している。更に多くのアフリカ諸国が、エネルギーミックスの一環でSMRの導入を検討しているところだ。大型炉の数分の一のサイズのSMRは、世界中で現在開発が進められており、中国とロシアは既に初プラントを配備している。2023年にドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)で原子力発電の拡大に関する世界的なコンセンサスが浮上する中、SMRを太陽光や風力などの再生可能エネルギーと並行して取り組み、開発の初期費用を抑え、柔軟性を持つ原子力発電としてより身近な選択肢になることが期待されている。 IAEAのD. ハーン・プラットフォームコーディネーターは、「各国がエネルギーと開発の課題に向けてクリーンで信頼性の高いエネルギーの解決策を求める中、原子力エネルギー、特にSMRの選択肢がますます注目されている」と指摘。「IAEA SMRスクールは、この有望な新技術の開発と展開に関連する一連の問題について各国がより深く理解するため重大なギャップを埋めることを目的としている」と付け加えた。次回のIAEA SMRスクールは、タイ・バンコクで、7月21日~25日に開催され、アゼルバイジャン、カンボジア、エストニア、ヨルダン、カザフスタン、クウェート、マレーシア、モンゴル、サウジアラビア、セルビア、タイ、ウズベキスタンからの参加者を迎える。8月25日~29日には、アルゼンチン・ブエノスアイレスで開催され、アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、コロンビア、ドミニカ共和国、エルサルバドル、グアテマラ、ジャマイカ、パラグアイ、ペルーからの参加者が予定されている。
03 Jun 2025
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カナダを拠点とするARCクリーン・テクノロジー社は5月13日、カナダの新興エネルギーインフラ開発企業のニュークレオン・エナジー(Nucleon Energy)社とMOUを締結した。ニュークレオン社がカナダ・アルバータ州および米国・テキサス州で進める熱電併給施設および発電施設の開発において、ARC社製の先進SMR設計「ARC-100」(ナトリウム冷却小型高速炉)の設置可能性を共同で検討する。今回のMOU締結は、ARC社にとって北米における商業展開戦略の新たな重要な一歩であり、重工業や電力網の脱炭素化に向けたニュークレオン社のクリーンエネルギーサイトの開発方針に沿ったもの。両社はニュークレオン社が現在開発中の発電サイトへのARC-100の導入をはじめ、北米での複数展開を視野に設置候補地の評価で協力し、カナダと米国での規制手続きを進めていく考えだ。ARC-100は、第4世代のナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉で、電気出力は10万kW。電力とプロセス熱の両方の用途向けに設計されており、石油・ガス、精製、化学分野などにおける脱炭素化イニシアチブに適している。同炉の技術は、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉Ⅱ(EBR-Ⅱ)」で実証済みだ。ARC社はARC-100の導入計画について、カナダのニューブランズウィック・パワー(NBパワー)社と提携、同社のポイントルプロー発電所(Candu炉、70.5万kWe)サイトで進めている。NBパワー社は2023年6月、同サイトにARC-100を1基建設するため、サイト準備許可(LTPS)をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。ARC-100は現在、CNSCが実施する正式な許認可申請前の任意の設計評価サービス「ベンダー設計審査(VDR)」の第2段階(許認可上、障害となる点を特定)にある。
03 Jun 2025
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米国のニュースケール・パワー社は5月29日、米原子力規制委員会(NRC)から、同社製の小型モジュール炉(SMR)のニュースケール・パワー・モジュール(PWR型NPM、7.7万kWe)の標準設計承認(SDA)を取得した。NRCに2023年1月にSDAを申請、同7月に受理されていた。ニュースケール社は、米国でSMR設計の設計承認を受けた唯一のSMR開発企業であり、2020年9月のNPM(5万kWe)の設計に対するSDA取得に続き、今回で2回目。今回の7.7万kWe版の承認は、5月28日のNRCスタッフによる最終安全評価報告書(FSER)の発行に基づくもの。出力を増強した7.7万kWe版の設計は、当初、顧客であったユタ州公営共同事業体(UAMPS)が希望する出力レベルに応じて、同NPMを6基搭載した原子力発電設備VOYGR-6(合計出力46.2万kWe)の建設を念頭に置いていたものの、2023年11月に経済性を理由に同建設計画は打ち切りとなっている。今回のSDA発給により、ニュースケール社の独占的なグローバル戦略パートナーで、同社のSMRの商業化、流通、展開の独占権を有するENTRA1エナジー社は、同SMRを内蔵したENTRA1エナジー・プラントにより、オフテイカーや消費者に信頼性の高いカーボンフリーのエネルギーを供給していく計画だ。初号機は2030年までの導入目標としている。7.7万kWe版の設計は、すでに承認された5万kWe版のNPMを部分的にベースにし、運転システムと安全機能において、対流や重力などの自然の受動的安全機能を継続して採用。固有の安全性能により異常な状況下で原子炉を自動停止し、人の介入や追加の注水、外部からの電力供給なしで原子炉の冷却が可能である。また、出力増強とモジュール数の調整により増加する容量ニーズに対応、プラントの建設と運用の全体的な経済性も向上している。当初は今夏の終わりに承認される予定だったが、NRCの審査プロセスが早期に完了した。なお、ニュースケール社は2016年12月に5万kWe版の設計認証(DC)審査をNRCに申請しており、2017年3月にNRCは受理。その後、米国内で建設可能な標準設計の一つとして認証適用するための規制手続き「最終規則」の策定の完了を受け、2023年1月にSMRとしては初となるDCが発給された。DCの発給により、今後、建設運転一括認可(COL)や建設許可の申請(CPA)において設計に関する審査を受ける必要がなくなるため、審査の大幅な合理化が期待される。米エネルギー省(DOE)はこれまで、ニュースケール社のSMRプラント設計と許認可取得活動に5.75億ドル(約825億円)以上を支援しているという。ニュースケール社のJ. ホプキンスCEOは、「今回のSDA発給は、ニュースケール社だけでなく、業界全体にとって歴史的な出来事。当社は10年以上にわたり、厳格な安全基準で国内外に認められるNRCと設計承認に向けて協力してきた。当社はENTRA1社と、クリーンで信頼性が高く、安全なエネルギーをオフテイカーと消費者に幅広く供給していく」と語った。ニュースケール社のSMRはモジュール統合型のPWRで、7.7万kWの電力、25万kWの熱を生成するNPMを最大12基連結。顧客のニーズに合わせて柔軟に拡張可能である。発電、地域暖房、海水淡水化、商業規模の水素製造、その他のプロセス熱として供給し、世界中の多様な顧客にサービスを提供する体制を整えているという。ニュースケール社は現在、ルーマニアのロパワー・ニュークリア(RoPower Nuclear)社が計画する、NPM(7.7万kWe)を6基備えた合計出力46.2万kWeのSMRプラントの基本設計(FEED)作業を実施中。また製造パートナーである韓国の斗山エナビリティ社と協力して12基のNPMを製造中で、受注の拡大を目指している。
02 Jun 2025
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アラブ首長国連邦(UAE)の首長国原子力会社(ENEC)と米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社は5月27日、UAEのアブダビで、GVH社製のSMRであるBWRX-300の国際展開に向けて、包括的なロードマップの評価と策定で協力するMOUに調印した。MOUは、次世代原子力技術の評価と潜在的な展開を加速するために創設されたENEC社のADVANCEプログラムの一部。ENEC社はバラカ原子力発電所(韓国製APR1400×4基)以外にも、クリーン電源である原子力による、エネルギー安全保障と持続可能性の推進のため、UAE国内外での投資、協力、展開の機会の開拓に重点を置いている。今回のMOUは、2023年にドバイで開催された第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の際に締結された協力の覚書に続くもの。両社は、原子力が急増する電力需要を満たす重要なソリューションであるとの共通認識のもと、サイトの特定、許認可手続き、投資と商業化戦略、サプライチェーンの開発など、ロードマップの策定において協力を深化し、国際展開の機会を探っていく計画だ。今回のMOUにはENEC社のM. アルハマディCEOとGEベルノバ社の電力部門M. ジンゴーニCEOが世界公益事業会議への出席を機に調印。ENEC社のアルハマディCEOは、「先進炉によるUAEおよび国際市場での展開を加速するため、GVH社との協力の前進を嬉しく思う。両社のノウハウを結集し、安全で効率的かつ品質主導の原子力の展開に向けたロードマップを策定していく」と語った。ジンゴーニCEOは、「SMRは、エネルギーの安全な未来において重要な役割を果たす。カナダと米国でBWRX-300のプロジェクトが進められており、ENEC社との協業はUAEとの関係をさらに強化するものだ」と述べた。GVH社製BWRX-300は、電気出力30万kWの次世代BWR。2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」をベースにしている。5月8日、カナダのオンタリオ州はダーリントン・サイトへのBWRX-300初号機の建設計画を承認。5月20日には、米テネシー峡谷開発公社(TVA)は、米国初となるBWRX-300の建設許可を申請している。
30 May 2025
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韓国水力・原子力(KHNP)は5月20日、新ハヌル3号機(PWR=APR1400、140.0万kW)を着工した。新ハヌル3、4号機は2023年6月に産業通商資源部(MOTIE)から実施計画の承認を受け、発電所建設のための用地取得工事を実施。2024年9月には原子力規制機関の韓国原子力安全委員会(NSSC)から建設許可を取得し、主要建物の基礎掘削工事を開始していた。新ハヌル3号機は、2032年に完成する予定。KHNPのJ. ファンCEOは「新ハヌル3、4号機の建設を安全に、スケジュール通り、予算内で実施する目標を達成し、世界の原子力発電所建設市場で、韓国の原子力産業の地位をさらに高めるよう最善を尽くす」と述べた。新ハヌル3、4号機をめぐっては、KHNPが2016年1月、NSSCに両機の建設許可申請を行ったが、当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領による脱原子力政策下で、2017年の「エネルギー転換(脱原子力)ロードマップ」と「第8次電力需給基本計画」に基づき、建設計画が一時白紙化されていた。2022年5月に就任したユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の政権下で両機の新設計画が復活した。新ハヌル3、4号機は韓国製の第3世代の140万kW級PWR設計「改良型加圧水型炉(APR1400)」を採用し、すでに運転中のセウル1、2号機(旧名称:新古里3、4号機)、新ハヌル1、2号機(旧名称:新蔚珍1、2号機)および建設中のセウル3、4号機(旧名称:新古里5、6号機)を含めると、韓国国内における7、8基目のAPR1400となる。 海外では、韓国が初めて海外に輸出したアラブ首長国連邦(UAE)のバラカ原子力発電所で同炉(計4基)が採用され、全基が運転中である。韓国では、2025年2月に産業通商資源部(MOTIE)が「第11次電力需給基本計画」を発表、原子力発電を拡大する方針を示した。同計画では、セウル原子力発電所3、4号機と新ハヌル原子力発電所3、4号機の建設プロジェクトは計画どおりに進められ、運転期間が満了となる原子炉の運転期間延長と並行して、2038年までに新規大型炉2基と小型モジュール炉(SMR)1基の建設が計画されている。
30 May 2025
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米ユタ州を拠点に原子力発電所の廃止措置や環境復旧サービスを手掛ける、エナジー・ソリューションズ社は5月13日、同社が所有する旧キウォーニ原子力発電所(PWR、59万kWe)サイトにおいて事前サイト許可(ESP)を申請する方針を明らかにした。初期計画とスコーピング、詳細なサイト・環境調査を開始する。ウィスコンシン州に立地する、キウォーニ原子力発電所は1974年6月に営業運転を開始、2013年5月に永久閉鎖された。エナジー・ソリューションズ社は2021年5月、同発電所の所有者兼運転者のドミニオン・エナジー社から、廃止措置の実施を目的に同発電所を買収。翌5月から主要な廃止措置の作業を開始し、完了までに7~8年がかかると見込まれている。今回ESPを取得する主な狙いは、電力会社が原子炉新規建設の投資判断をする前に、サイト特有の安全性や環境影響、緊急時計画について予め原子力規制委員会(NRC)から事前承認を得ることにある。エナジー・ソリューションズ社は、WECエナジー・グループ(WEC)と協力し、ウィスコンシン州での次世代の原子力発電の建設に取り組んでいくこととしている。WECエナジー・グループは、ウィスコンシン州を拠点に電力や天然ガスの供給を手掛ける、同州最大のエネルギー会社。両社は現在、新しい原子力発電をキウォーニ・サイトで稼働させるため連邦政府の承認を求める「複数年」計画の初期段階にある。エナジー・ソリューションズ社のK. ロバックCEOは、「データセンター、人工知能、産業の成長によるエネルギー需要の増加に伴い、信頼性の高い無炭素電源の必要性はかつてないほどに高まっている。当社の原子力許認可とプロジェクト管理のノウハウを活用し、ウィスコンシン州の新規原子力発電の初期計画段階においてWECを支援していきたい」と抱負を語った。この発表を受け、A. ジャック州上院議員は、「キウォーニ発電所での原子力発電の再開を長年提唱してきた私は、ウィスコンシン州とわが国が緊急に必要としているクリーンで信頼性の高いエネルギーを優先する計画の具体化に勇気づけられる。地域への投資により経済的活力を回復し、長期的なエネルギー安定供給の確保のため、コミュニティを結集していきたい」と語った。エナジー・ソリューションズ社は2024年12月にカナダのテレストリアル・エナジー社と協力覚書を締結している。両社は、エナジー・ソリューションズ社が廃炉プロセスで取得した旧原子力発電所サイトにおいて、テレストリアル社が開発するSMRである一体型熔融塩炉(IMSR)の設置と展開の検討で協力することになっている。エナジー・ソリューションズ社は、ウィスコンシン州キウォーニ原子力発電所のほか、ネブラスカ州フォートカルホーン発電所、カリフォルニア州サンオノフレ発電所、ペンシルバニア州スリーマイル・アイランド発電所(2号機)の廃止措置を実施中。ウィスコンシン州ラクロス発電所とイリノイ州ザイオン発電所の廃止措置作業は完了している。ウィスコンシン州では、データセンターによる電力需要の急増が予想されており、超党派の州議会議員らが今後数年間にウィスコンシン州により多くの原子力発電を導入することを提唱。ウィスコンシン州上院は5月15日、州の公共サービス委員会に原子力発電の立地調査の指示を承認する法案を可決した。これを受け、法案提出者のひとりである、J. ブラッドリー州上院議員は、「ウィスコンシン州は、可能な限り早期に原子力発電の拡大を推進する準備を整えておく必要がある。州が成長し、将来の世代にわたって経済を活性化させるための大きな利点となる可能性がある」と述べた。ウィスコンシン州には、他にポイントビーチ原子力発電所1-2号機(PWR、各64万kWe)が1970年代から稼働している。同州における原子力発電シェアは約16%(2023年)。2020年11月にはNRCに、2度目となる運転認可の更新申請をしている。認可されれば80年運転が可能になる。
28 May 2025
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国際社会でも、原子力はエネルギーに関する議論において、これまでの脇役から主役へと位置付けが変化している。ロシアと中国が国内外で積極的に原子力発電所建設を進める一方、カナダ、日本、英国などの西側諸国も原子力によるエネルギー自立をめざす動きがある。脱原子力国のイタリアでは、原子力発電再開に向けた検討が本格化し、ドイツでも、現在、大多数の国民が原子力プログラムの再開を支持している。最近の報道によると、ドイツはもはや、原子力発電をEU法上で再生可能エネルギーと同等に扱うことに対し、これまでのように阻止しない姿勢へと転じると報じられている。さらに、従来から原子力推進国である、ブルガリア、ルーマニア、インドなども新たな原子力発電所の建設を進めている。翻って米国では、ポーランドにおける同国初の原子力発電所建設に向け、ウェスチングハウス(WE)社とベクテル社が提携している。いまや多くのリーダー、政策立案者、起業家にとって、原子力は最優先のテーマであることは明白だ。我々は、原子力の世界的リーダーとなるために競争している。もし連邦政府のリーダーらが既存の政策やプログラムを維持しないのなら、アメリカは後れをとることになろう。米国では過去1年間で、2基のプラント再稼働申請2基の第1回目の運転認可更新(60年)6基の第2回目の運転認可更新(80年運転)25以上の新たなプロジェクトが進行中今後、少なくとも8件の建設許可申請書、4件の運転認可申請書の提出が見込まれており、これにより、5か所のサイトで建設開始、今後2年間で2基のマイクロ原子炉の運転が可能となる。また、ミシガン州にあるホルテック社のパリセード原子力発電所(PWR, 85.7万kW)は再稼働間近、ネクストエラ(NextEra)社は、アイオワ州のデュアン・アーノルド原子力発電所(BWR, 62.4万kW)の運転再開の可能性を模索している。原子力産業界が今、必要としていることは、業界内のすべてのステークホルダーが一丸となって行動することである。そのためには、「調整」「最適化」「加速」という3つのステップが必要だ。第一に「調整」。この一環として今年2月、大統領は、公的および民間の利害関係者を結集し、閉鎖炉の運転再開から新しい原子炉の建設まで、幅広い課題に取り組む「国家エネルギードミナンス(支配)評議会(National Energy Dominance Council)」を立ち上げている。第二に「最適化」。NEIは昨年、マイクロ原子炉の審査プロセスについて、5年間かかる可能性があるところ、6か月に合理化するロードマップをNRCに提出した。引き続き、規制プロセスの合理化に向け、多くの改革を求めていく。第三に「加速」。将来の新規建設に向けては、燃料供給を含むサプライチェーンの整備が不可欠である。また、国内の原子力人材確保に向け、全国の学校、大学、インターン制度を通じた原子力教育とSTEM教育の拡充が必要である。AIをリードする者は、世界をリードする。そして、AIの進化の速度が、新規建設の速度によって制約を受けないようにすることは、国家的な緊急課題である。将来にわたって、グリッドのクリーン性と信頼性を保証できる、唯一の現実的なエネルギー源は、原子力である。原子力こそが、スマートで戦略的な答えなのだ。
28 May 2025
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スウェーデン議会(リクスダーゲン)は5月21日、国内の新規原子力発電プラントの建設を検討する企業への国家補助に関する政府法案を採択した。新法は今年8月1日に施行、同日から申請が可能となる。同法案は「新規原子力発電プラント建設の資金調達とリスク分担に関する法案」と題し、2025年3月下旬、E. ブッシュ副首相兼エネルギー・企業・産業担当相、ならびにN. ウィクマン財務次官・金融市場相が議会に提出した。新規建設への投資が収益を生み出すまでの長いリードタイムを勘案し、リスク分担がない場合の民間融資に伴う資金調達コストは、プロジェクトの総コストのかなりの部分を占める。政府の低い借入コストにより、信用リスクを政府に転嫁することで資金調達コストの削減、ひいては原子力発電自体のコスト削減がねらい。議会は、国家補助が、政府と企業の間でリスクと利益の共有を管理するメカニズムの整備を念頭に、新規建設と試運転、および建設前の設計他の準備に向けて、資金調達コストを引き下げるため、低利の借入コストである政府融資の提案を認めた。なお、補助を受ける企業は投資額の全額の借入は出来ず、原子炉の稼働まで売電収入がないため、融資と株式資本の注入で賄う必要がある。融資額は、原子炉が稼働した時点から、原子炉の予想される運転寿命以内に分割返済しなければならない。また議会は、新規炉の運転時に市場リスクを軽減するため、運転事業者と政府による双方向の差金決済取引(CfD)制度の導入の提案も承認。これは、新規炉のフル稼働が許可されてから適用される。但し国家補助の条件として、新規建設は同一サイトで、合計電気出力が少なくとも30万kW以上の場合のみと規定し、特別な理由がある場合は30万kW未満であっても、政府が補助の実施を決定できるとしている。また、補助の範囲を大型炉4基分(約500万kW)に限定し、プロジェクト会社の申請を受けて政府が決定することに加え、プロジェクト会社の株式を他の民間企業や政府が取得し、共同所有者になる可能性にも言及している。N. ウィクマン財務次官兼金融市場担当相は、「これは、新規建設にあたり、公的資金と納税者の資金に対して責任を負う歴史的な発表。原子力発電の拡大は、価格の安定性の向上とシステムコストの削減をもたらし、新規建設を検討する企業だけでなく国民の家計にもメリットがある。新規建設は気候目標の達成とともに、より高い経済成長、より多くの雇用など、より良い条件への道を開くものだ」と期待を示した。スウェーデンは現在、家庭や企業向けの不安定な電力価格と電力システムの不均衡という大きな問題に直面している。これに対処し、化石燃料を使わないベースロードを拡大する必要から、2022年9月に総選挙を経て、翌10月、40年ぶりに原子力を全面的に推進する中道右派連合の現政権が誕生。2023年11月には、原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップが発表された。これには、カーボンフリーの電力を競争力のある価格で安定して供給することを目的に、社会の電化にともない総発電量を25年以内に倍増させるため、2035年までに少なくとも大型炉2基分、さらに2045年までに大型炉で最大10基分を新設することなどが盛り込まれている。また、2024年1月には、環境法の一部改正法が発効、新たなサイトでの原子炉の建設禁止や国内で同時に運転できる原子炉基数を10基までとする旧・制限事項が撤廃されている。
27 May 2025
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米原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック理事長は5月20日、会員企業やその他の原子力関係者らを招いて毎年開催している「Nuclear Energy Policy Forum」で、原子力産業界の現状に関する講演を行った。同理事長によると、AIやデータセンターからの急速な電力需要増を背景に、大手IT企業が全米で約3,000万kWの原子力導入にコミットしており、その規模は今後さらに拡大する見通しだ。また、連邦政府の原子力支援策が後押しとなり、2024年の原子力分野における民間取引額は、過去4年間の合計額を上回ったという。一方で、原子力発電の維持・拡大には、政策支援の継続が不可欠だと強調。なかでも、原子力税額控除(nuclear tax credits)が維持されなければ、原子力の展開は大幅に減速し、あるいは計画そのものが方向転換を迫られる可能性があると警鐘を鳴らした。同理事長の講演概要は、以下のとおり。♢ ♢この20年間、電力需要は停滞していたが、今、状況は変わりつつある。米国の製造業やイノベーション、人工知能、あらゆる分野でより多くの電力が求められている。AI競争を勝ち抜くうえで必要な大規模データセンターには、来年末までに2,800万kW規模の電力が必要だ。原子力産業界は、これまでの漸進的な成長から、信じられないほどの成長へと転じようとしている。原子力への超党派による支援も続いている。C. ライト米エネルギー省(DOE)長官は、就任わずか3日目に「商業用原子力発電を解き放つ(unleash commercial nuclear power)」という長官命令に署名。これは現政権が、原子力エネルギーの価値を、セキュアで強靭、安価かつ豊富で、今後ますますクリーンなエネルギーシステムの一部として、認識していることの証左だ。原子力産業界も準備を整えている。TVA(テネシー峡谷開発公社)は今朝、GEベルノバ日立社製小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」の建設許可申請書を提出した。また、ベクテル社、デューク・エナジー社、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社を含むパートナー連合とともに、DOEによる8億ドルの助成金を申請している。ドミニオン・エナジー社は昨年、ノースアナ原子力発電所(PWR、100万kW級×2基)の運転期間延長(80年運転)の認可を取得。加えて、IT大手アマゾンと連携し、SMRの活用に向けた検討を進めている。エンタジー社は、急増する産業部門の電力需要に対応すべく、新設および出力増強を検討中であり、同社は、ミシシッピー州に新たな原子炉建設のための事前サイト許可(ESP)を取得している。コンステレーション社は昨年、マイクロソフトと提携し、かつて運転していたスリーマイルアイランド(TMI)1号機を「クレーン・クリーンエネルギーセンター」として再稼働させる計画を発表した。IT大手では、グーグル、メタ、アマゾンが、世界の大手金融機関14社とともに、2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍にすることを誓約した。これまでに、グーグルはケイロス・パワー社と500万kW相当の電力購入契約を締結。アマゾンは、X-エナジー社への5億ドルの投資を主導し、500万kWの原子力導入をめざしている。メタも、400万kW分の原子力による電力調達をめざし、提案依頼書(RFP)を発行している。さらに今月には、エレメントル・パワー社は、先進型原子炉の3つのプロジェクトサイトを開発する契約をグーグルと締結した。このように、IT企業と原子力事業者による新たなパートナーシップは、全米で約3,000万kWの原子力導入に向けたコミットメントとなっており、その規模は今後も拡大していく見込みだ。原子力分野への投資熱も高まっている。NEIが毎年開催する資金調達サミットには、今年は3年前の第1回開催時の2倍の参加者が集結。さらに、2024年の原子力分野における民間部門の取引額は、過去4年間の合計を上回る水準となった。こうした民間投資の増加は、公的支援の強化と軌を一にしている。米議会は昨年、ロシア依存の低減をめざし、国内燃料サプライチェーンの強化を目的に約30億ドル、また次世代原子炉の実証支援向けに約10億ドルを拠出。加えて、許認可審査の効率化を含む、クリーンエネルギーの多用途かつ先進的な原子力展開の加速化法(ADVANCE法)も可決した。連邦政府による原子力支援策として、先進的原子炉実証プログラム(ARDP)や融資プログラム局(LPO)、そして原子力税額控除などがある。これらの政策は、原子力発電の維持・拡大に不可欠であり、今後も維持されるべきである。中でも、原子力税額控除は、良質な雇用、コミュニティの繁栄、そして国家安全保障を支えている。もし議会がこの税制措置を維持できなければ、原子力の展開は大幅に減速するか、あるいは完全に方向転換を余儀なくされる可能性がある。これは、米国の未来を前進させるうえで絶対に避けなければならない。ADVANCE法は、原子力規制委員会(NRC)に対して、安全性を確保しつつ、審査プロセスの効率性も重視するよう求めるもの。NRCは昨年、2021年以来初となる第2回目の運転認可更新(subsequent license renewals)を承認した。対象となったのは、エクセル・エナジー社のモンティセロ原子力発電所(BWR, 69.1万kW)であり、当初24,000時間を要すると予想されていた審査時間は、最終的に16,000時間で完了。審査時間は3分の1に短縮された。このような効率性は、例外ではなく、ルールとする必要がある。州レベルでも支援が拡大している。―テネシー州では、ケイロス・パワー社が2基の新実証炉のうちの1基を建設中。―ワイオミング州では、テラパワー社が同州で最初の商業用原子炉を建設中。―コロラド州は、原子力をクリーンエネルギーと認める法案を可決。―テキサス州は、全米最大規模となる可能性のある、原子力エネルギー基金(Nuclear Energy Fund)を創設中。―アイダホ州では、国防総省(DOD)が国内初のマイクロ原子炉の一基を建設中。(つづく)
27 May 2025
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米トランプ大統領は5月23日、原子力エネルギー政策に対する連邦政府のアプローチの再構築を目的とした一連の大統領令に署名した。人工知能(AI)産業、製造業、量子コンピューティングなどの最先端のエネルギー集約型産業での電力需要増に対し、豊富で信頼性のある電力を供給するのがねらい。エネルギー安全保障を確保するとともに、米国の原子力業界の世界的な競争力維持と国家安全保障の強化のため、2050年までに原子力発電設備容量を現在の約1億kWeから4倍の4億kWeとし、このために必要となる原子力の規制緩和を迅速に行う方針だ。具体的には、第3世代+(プラス)炉や先進炉の展開の促進、既存の原子力施設の継続的な運用と適切な拡大を促進しつつ、時期尚早に閉鎖された、または部分的に完成している原子力施設の再活性化を掲げている。そのため米エネルギー省(DOE)が原子力産業界と協業して、2030年までに既存の原子力施設の設備容量を500万kWe増強するほか、新規の大型炉10基の建設に着手することを、DOEの優先作業に設定している。ホワイトハウスで23日に行われた署名式には、国家エネルギードミナンス(支配)評議会の議長を務めるD. バーガム内務長官やP. ヘグセス国防長官のほか、原子力業界の幹部も同席。バーガム長官は「一連の大統領令が、50年以上続いた原子力業界に対する過剰な規制の時計の針を巻き戻す」「米国の電力需要が急増する中、既存の原子力フリートを拡大し、先進炉への投資により、信頼性の高い電力を供給、電力網を強化して、米国のエネルギードミナンスを拡大する」と強調した。なお、一連の大統領令は以下の4つに関するもの。原子力産業基盤の再活性化エネルギー省における原子炉試験の改革原子力規制委員会の改革国家安全保障強化のための先進的原子炉技術の導入C.ライトDOE長官は、「あまりにも長い間、米国の原子力産業は、お役所仕事や時代遅れの政府の政策によって妨げられてきた。AIの出現と大統領の国内製造業強化政策によって、米国の民生用原子力エネルギーは絶好のタイミングで解き放たれている。原子力は、米国にとって最大の追加エネルギー源となる可能性を秘めており、さまざまな規模で運用が可能だ。大統領令は、民生用原子力産業の束縛を解き放つものだ」と語った。ホワイトハウス科学技術局のM. クラツィオス局長は、「過去30年間、原子炉の新設がなかったが、それも今日で終わる。今回の大統領令は、ここ数十年で最も重要な原子力規制改革にむけた措置。強固な米国の原子力産業基盤を回復し、国内の原子燃料サプライチェーンを再構築し、米国が世界の原子力エネルギーを牽引していく。米国のエネルギー安全保障と、AIやその他の新興技術における継続的な優位性にとって重要である」と述べた。大統領令は、DOE傘下の国立研究所における原子炉の設計試験の申請とレビュープロセスの合理化により、迅速な原子炉の商業化を促している。また、国防総省やDOEが、軍事施設や連邦所有地で先進炉の建設にあたり、テストを通して実証された原子炉設計については、原子力規制委員会(NRC)が迅速に承認するなどの規制緩和も示している。AIデータセンターや重要な防衛施設に対する、安全で信頼性の高い原子力による電力供給確保は、AIをめぐる世界的競争、ひいては国家安全保障において不可欠との認識もある。さらにDOEに対し、原子燃料の海外依存を回避するため、国内のウラン採掘と転換・濃縮能力の拡大計画や国内燃料サイクルの強化にむけた勧告を指示するほか、原子力拡大政策を支える労働力の拡大、NRCの改革の必要性を示している。特にNRCに対しては、許認可申請の迅速な処理と革新的な技術の採用を促進するため、政府効率化省との協業によるNRCの再編成、さらに民生用原子力発電の認可と規制に際し、安全性、健康、環境要因に関する従来の懸念のみならず、原子力発電が米国の経済と国家安全保障にもたらす利益を考慮するよう指示。NRCにタイムリーな許認可を出すように要求することで規制上の障壁を取り除きたい考えだ。新規炉は原子炉の種類に関わらず、建設と運転の認可プロセスの簡素化により、数年かかる審査プロセスを18か月に短縮、既設炉の運転期間延長の最終決定は1年以内と期限を定めるなど、許認可の迅速化を指示している。
26 May 2025
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米国の原子力開発ベンチャー企業であるテラパワー社は5月8日、ワイオミング州ケンメラーで自社が開発するNatrium炉について、米原子力規制委員会(NRC)がプロジェクト全体の建設許可申請の審査を継続する一方で、同社による「エネルギー・アイランド」の建設を可能にする例外措置を認めたことを明らかにした。テラパワー社のC. レベスクCEOは、「当社のNatrium炉の設計は、原子炉を発電設備から切り離す革新的なもの。今回のNRCの承認により、建設スケジュールの短縮と材料費の削減が可能になる。Natrium炉は増大するエネルギー需要に対応するために最速で展開でき、最も費用対効果の高いソリューションの1つだ。原子力部の建設許可申請でNRCと引き続き協力していく」と語った。この例外措置の承認は、2024年9月のテラパワー社からの要請による。エネルギー・アイランド内の特別な取り扱いを必要としない、安全関連以外のすべての「構造物、システム、および部品」(SSC=Structures, Systems, and Components)を、連邦規則にある「建設」の適用範囲の定義から除外するもの。その後、NRCとテラパワー社間で協議が重ねられ、NRCはNatrium炉のエネルギー・アイランドでの特定の活動は、公衆の健康と安全に過度のリスクをもたらすものではないと結論。掘削中の杭の打ち込み、地下準備、埋め戻し、コンクリートまたは擁壁の設置や、基礎の設置、または特別な取扱いを必要としないSSCの現場組立、架設、製造、または試験を進めることを認めた。なお、NRCはこの例外措置は最終的な原子炉の建設許可の発給を約束するものでないとし、テラパワー社も建設許可が後に却下される可能性を考慮して、SSCの設置をしていくとしている。テラパワー社は、2024年3月にはNRCに建設許可申請(CPA)を行った。NRCとの間ではCPAおよびトピックレポートの提出に関して1年以上にわたるレビューが行われ、NRCは最近、レビューのスケジュールを前倒ししている。また、初号機建設サイトのある米ワイオミング州からは州レベルの建設許可を得ており、2024年6月に起工式を挙行、非原子力部の建設工事を開始した。「ニュークリア・アイランド」(原子力部)の着工は早くて2026年、送電開始は2030年を予定している。Natrium炉は、熔融塩ベースのエネルギー貯蔵システムを備えた34.5万kWeのナトリウム冷却高速炉。貯蔵技術は、必要に応じてシステムの出力を50万kWeに増強し、5時間半以上を維持することができる。これにより、Natrium炉は再生可能エネルギーとシームレスに統合され、テラパワー社はより迅速に費用対効果の高い電力網の脱炭素化を実現させたい考えだ。
26 May 2025
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台湾の立法院(国会)で5月20日、台湾南部の屏東県にある馬鞍山原子力発電所(PWR, 1号機:98.3万kW、2号機:97.5万kW)の運転再開を求める、国民投票の実施提案が賛成58、反対49票で可決された。この提案は、少数野党の台湾民衆党(TPP)が主導したもの。国民投票で問う設問は、「馬鞍山原子力発電所が、安全上の懸念がないことを確認した上で、運転再開することに同意するか」となっている。台湾で唯一稼働していた同発電所2号機が5月17日に40年間の運転期間を満了し、法律により、永久閉鎖された。国民投票実施の可決は、与党・民進党政権が掲げる目標である「2025年の脱原子力国家(非核家園:原子力発電のないふるさと)の実現」を達成してから、わずか3日後のことであった。立法院では5月13日、最大野党の国民党(KMT)の主導による、「核子反応器設施管制法(原子炉等規制法に相当)」の第六条条文のうち、原子力発電所の運転期間を40年から最長で20年延長とする改正法案が、第三読会で賛成61、反対50票で可決されている。TPPが国民投票を提案した背景には、馬鞍山発電所の運転を、安全上の懸念がないことを所轄官庁の同意を経て継続するという重大な政策案は、国民の意思を示す国民投票に付すべきとの判断がある。TPPは運転継続の理由に、馬鞍山2号機の廃止後、政府が設定した2025年の温室効果ガス排出削減目標の達成が困難になると主張。再生可能エネルギーの開発成果が不十分であり、既存の発電によるエネルギー不足、全原子力発電所の閉鎖後は輸入依存度の高い石炭火力やガス火力発電に頼らざるをえず、ネットゼロ目標と相反し、エネルギー安全保障上も好ましいものではないと指摘している。また、TPPはAI時代を迎え、世界最先端の半導体生産拠点が台湾に集中する現在、産業用電力需要は極めて急を要しているとした上で、台湾の低炭素電源開発は不十分で、2050年ネットゼロ実現は困難を極めるだけでなく、産業経済の発展と国家の競争力にも深刻な影響を与えると懸念を表明。さらに、欧州の多くの国々が、現在の温室効果ガス削減が不十分であり、ロシア・ウクライナ紛争後、エネルギー安全保障の重要性を再認識し、原子力発電の再導入を推進している点にも言及。台湾についても、地理的環境や国際政治情勢のリスクを鑑みれば、産業用電力の安定供給と国民生活の電力確保のためには、原子力を補助的な移行エネルギーとして、一定の運転能力を維持すべきだと主張した。TPPは、安全性の確保を前提に、できるだけ早い原子力による電力供給を回復し、5月13日に立法院で可決された原子力規制法第六条改正に基づき、台湾のエネルギー供給力を強化すべきだと訴えている。国民投票法によると、立法院で国民投票の提案が採択された場合、10日以内に中央選挙委員会に送られ、国民投票の実施が議決される。国民投票法により、投票日は8月の第4土曜日に定められており、2021年以降、2年ごとに実施。今年は8月23日に国民投票が実施される予定。なお、国民投票日は休日になる。
23 May 2025
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米テネシー峡谷開発公社(TVA)は5月20日、米原子力規制委員会(NRC)に、テネシー州オークリッジ近郊の同社クリンチリバー・サイトでの、小型モジュール炉(SMR)の建設許可を申請(CPA)した。GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製のBWRX-300(BWR、30万kWe)を採用している。今回のBWRX-300のCPAは米国初となる。北米ではカナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社によるカナダ原子力安全委員会(CNSC)へのCPAに続き、2番目(OPG社は建設許可をすでに取得済み)。TVAは同サイトにBWRX-300×1基を建設し、人工知能(AI)、量子コンピューティングなどに特化した電力供給を狙っている。TVAのD. モールCEOは、「今回のCPAは、TVA、テネシー州、米国にとって重要なマイルストーン。当社はBWRX-300初号機の導入に向けた作業を実施、SMR導入に伴うリスクを軽減し、同炉型の建設を選択する他の電力会社のために道筋を作る。新型炉の導入は、今後数十年にわたって米国の家庭や企業に手頃な価格で安定した電力を供給するために不可欠」と述べた。TVAはBWRX-300の安全性、シリーズ建設の容易性、効率性を利点に掲げる。また、設置面積が小さいために迅速に建設でき、かつコンパクトなサイズのため、操作が簡単で、景観によくフィットすると指摘している。TVAはクリンチリバー・サイトについて2019年12月、米原子力規制委員会(NRC)より、SMR建設用地として事前サイト許可(ESP)を取得済み。TVAは合計電気出力が80万kWを超えない2基以上のSMRを同サイトで建設することを想定し、2016年5月にNRCにESPを申請していた。またTVAは、GEH社のBWRX-300がSMRの中でも最も実現性が高いと判断。2022年8月にGEH社とクリンチリバー・サイトでBWRX-300を建設するための計画策定と予備的許認可で協力する契約を締結した。さらに2023年3月、BWRX-300の建設を計画するカナダのOPG社、ポーランドのシントス・グリーン・エナジー社とともに、GEH社が世界中で同炉の建設プロジェクトを円滑に進められるよう、BWRX-300の標準設計を開発することで合意、GEH社と3事業者間で技術協力契約を締結している。またTVAは今年1月、ベクテル社、BWXテクノロジーズ社、デューク・エナジー社、電力研究所(EPRI)、GEH社、アメリカン・エレクトリック・パワー社(AEP)傘下のインディアナ・ミシガン・パワー社、サージェント&ランディ社などの公益事業会社とサプライチェーンパートナーとの連合を結成、米エネルギー省(DOE)の第3世代+(プラス)小型モジュール炉プログラムから8億ドルの助成金の申請を主導している。同プログラムは、米国内の原子力産業を強化し、米国初のSMR導入への支援、先進原子力技術のサプライチェーンの確立を目的に創設されたもの。この申請とは別にTVAは4月初め、DOEによるNRCとのライセンス活動の支援プログラムに800万ドルの助成の申請も行っている。TVAはCPAに先立ち、クリンチリバー・サイトの環境報告書を4月末にNRCに提出。初期のサイト準備は早ければ2026年にも開始。2028年には着工、2032年末には営業運転を開始したい考えだ。今年1月、GEH社はデューク・エナジー社とBWRX-300の標準設計ならびに許認可の推進に向けた活動に投資する契約を締結。AEP社傘下のインディアナ・ミシガン・パワー社もインディアナ州スペンサー郡で運転するロックポート石炭火力発電所サイト内に、TVA主導のDOE助成プログラムを活用してBWRX-300を建設する計画を表明している。
22 May 2025
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オンタリオ州政府は5月8日、州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社のダーリントン新原子力プロジェクト(DNNP)の建設予定地に建設を計画する、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の4基のうち、初号機の建設計画を承認した。同州での30年以上ぶりの新規建設プロジェクト、北米初の商業用SMRプロジェクトとなる。オンタリオ州のS. レッチェ・エネルギー・電化相は、「今日はカナダにとって歴史的な日。建設プロジェクトはカナダで18,000人の雇用を創出。カナダ製の鉄鋼、コンクリート、材料を用いて、オンタリオ州の経済成長の野心的な目標を実現するために必要な、信頼性の高いクリーンな電力を提供していく」と述べた。州の電力需要が2050年までに少なくとも75%急増すると見込まれる中、州政府は、BWRX-300×4基の完成により120万世帯へ電力を供給し、2030年代初頭に発生する恐れのある電力不足を解消する考えだ。OPG社のN. ブッチャーCEOは、「当社はSMRのパイオニアとして、カナダのエネルギー安全保障を強化しつつ、国内産業をさらに成長させるための能力と専門知識を世界に示していく。オンタリオ州の強固な原子力サプライチェーンと、原子力プロジェクト、特にダーリントン改修での実績により、SMRをスケジュール通り、予算内で完成させる」と強調した。OPG社は今年4月初めにカナダ原子力安全委員会(CNSC)から初号機の建設許可を取得しており、2030年末までに稼働を予定。運転開始前には認可を取得しなければならない。原子炉は小型であるが、DNNPの経済的影響は甚大になる予想されている。民間シンクタンクであるカナダ産業審議会によると、4基のBWRX-300の設置、運転、保守により、カナダのGDPは65年間で385億加ドル(約4兆円)の増加。OPG社は4基を65年間の運転させることで年平均約3,700人の雇用維持に貢献するという。これには建設中の年間18,000人の雇用が含まれている。プロジェクト費用の約80%はオンタリオ州内の80社以上の企業に向けられ、年5億加ドル(約518億円)が州内のサプライチェーンに投入されるという。オンタリオ州の系統運用者(IESO)は、他の脱炭素電源と比較して、DNNPがコストとリスクの点で最良の選択肢であると結論付けている。IESOによると、4基のSMRがなければ最大890万kWeの風力と太陽光発電をエネルギー貯蔵と組み合わせて構築する必要があり、この代替アプローチには大幅な土地要件や大規模な送電網の構築の必要性など、重大なリスクを伴うと説明。これに加え、ダーリントン発電所(CANDU炉×4基、各93.4万kWe)の改修プロジェクトにおけるOPG社の優れた実績が、DNNPを支援するという州政府の決定に寄与し、州政府はDNNPに対し、209億加ドル(約2.2兆円)の支援を明らかにした。これには、サイト準備、エンジニアリング、設計作業、およびSMR全4基の建設のコストが含まれている。なお、最初のSMR初号機の建設コストは61億加ドル(約6,315億円)で、加えて4基に共通するシステムとサービスコストが16億加ドル(約1,656億円)。但し、コストはダーリントン改修プロジェクトと同様、効率の向上とともに後続機ごとに減少すると予想されている。OPG社によると、2022年秋に初期のサイト準備作業が開始され、整地作業のほか、防火管、給水管、衛生下水道管、ネットワークケーブルなどの設備を設置した。サイトでは製造棟を含むいくつかの重要な建物の建設が開始され、原子炉建屋のシャフトの掘削作業が継続されている。また、長さ30m以上、直径6m以上、重さ550 tの原子炉圧力容器(BWXテクノロジーズ社が製造)や、2027年夏までにサイトに到着予定の発電機ローターなど、長納期部品を確保している。ダーリントンサイトには、1990年~1993年にかけて営業運転を開始したCANDU炉(93.4万kWe)×4基がある。OPG社は、2026年までの完了を予定し、順調に進んでいるダーリントンの改修プロジェクトから学んだ7,000以上のノウハウを生かし、SMR建設プロジェクトをスケジュール通りに進める考えだ。旧GE(General Electric)のエネルギー事業を担うGEベルノバ社電力部門のM. ジンゴーニCEOは、「BWRX-300初号機の導入により、オンタリオ州はSMR分野で世界をリードする。OPG社とプロジェクトパートナーとの取組みは、世界の原子力産業のベンチマークとなる」と指摘。GEベルノバ日立SMR カナダ社のL. マクブライド・カントリーリーダーは、「世界がSMRの採用に注目する中、当社はOPG社、アトキンス・リアリス(AtkinsRéalis)社、エーコン(Aecon)社と共同でBWRX-300の初号機の建設に着手できることを誇りに思う。オンタリオ州のサプライチェーンは、このプロジェクトへの大きな貢献が期待されており、すでに州内の企業に国際的な輸出の機会が生まれている。クリーンエネルギー技術におけるオンタリオ州の世界的なリーダーシップを強化し、次世代の原子力イノベーションの世界的なハブとして位置付けるものだ」と述べた。なお同日8日、カナダ建設大手のエーコン社とKiewit Nuclear Canada社合弁のAecon Kiewit Nuclear Partners社(エーコン社が主導)は、DNNPの実行段階の管理、建設計画、実施を範囲とする提携契約をOPG社と締結した。エーコン社分の契約額は約13億加ドル(約1,967億円)。エーコン社は、ダーリントンとピッカリング発電所の改修、ブルース発電所の主要部品交換プログラムなど、オンタリオ州の3大原子力改修プロジェクトの主要な建設業者でもある。
21 May 2025
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ベルギー連邦議会(下院)は5月15日、原子力発電の段階的廃止を撤回し、新規建設を認める法案を、賛成100、反対8、棄権31の賛成多数で可決した。M. ビエ・エネルギー相は法案の可決に際し、「脱原子力政策の撤回であり、ベルギーのエネルギー史上画期的な出来事」と称し、「現実的で強靭なエネルギーモデルへの道を開き、20年に及ぶ停滞に終止符を打つものだ。政府はエネルギーの自立性を強化し、競争力のある価格を保障し、脱炭素化を加速させていく」と述べた。同法案は、同相が議員時代の2024年10月に他の議員らとともに提出したもので、2003年に制定された「脱原子力法」に明記された、原子力発電所の廃止スケジュールおよび新規の原子力発電所の建設禁止に関する規定を排除するもの。現在の地政学的な不確実性に照らして不可欠となるエネルギーミックスを実現するとともに、エネルギー移行に貢献する原子力部門を再活性化し、高レベルの雇用を創出したい考えだ。2003年の脱原子力法では、原子炉の運転期間を40年に制限。同国北部にあるドール原子力発電所×4基、南部のチアンジュ原子力発電所×3基の原子炉を順次、2025年までに閉鎖することとしていた。しかし政府は2015年、電力供給に懸念が生じたため、2025年の運転終了の条件はそのままに、ドール1-2号機、チアンジュ1号機に40年超の運転期間を承認。さらに、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻を受け、翌3月には、最新の2基(ドール4号機、チアンジュ3号機)について、運転40年目となる2025年以降も運転期間を10年延長し、2035年まで維持する方針を決定した。原子力発電事業者であるエンジー社とは2023年7月、運転期間延長の最終合意に向けて交渉していくことで枠組み合意し、同年12月には、2035年11月まで運転期間を10年延長する計画の諸条件について最終合意に達した。これにより、両機は2025年に一旦運転を停止した後、最大20億ユーロを投じてバックフィット作業等を実施し、2025年11月の運転再開を予定している。ベルギーでは現在、ドール発電所で2基(2、4号機)、チアンジュ発電所で2基(1、3号機)、2サイトで原子炉が稼働中。いずれもPWRを採用し、計4基の合計電気出力は365.3万kW。2024年の原子力発電シェアは約42%。再生可能エネルギー(風力・太陽光)は約30%と、クリーンエネルギーが7割を占める。ドール1、3号機はそれぞれ2025年、2022年に、チアンジュ2号機は2023年に閉鎖された。今年2月に発足した5党連立政権は連立協定の中で、脱炭素と増大するエネルギー需要に応えるため、再生可能エネルギーと原子力のエネルギーミックスを追求し、短期的には10年ごとに定期検査を実施し、安全基準を満たした既存炉は最大限に活用、長期的には新規建設する方針を示していた。詳細な特集記事はコチラ
20 May 2025
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デンマーク議会は5月15日、デンマークのエネルギー計画において原子力利用に係わる調査の開始を、賛成71、反対34、棄権5票で可決した。本決議は、原子力発電の検討を禁止した1985年の議会決定を覆す、デンマークのエネルギー政策における大きな転換点となった。議会は、太陽光と風力による再生可能エネルギーはデンマークのエネルギー供給の基盤であり続けるべきであり、従来の原子力発電がデンマークにおいて適切とは考えていないとする一方で、政府が新たな原子力技術の可能性とリスク、および原子力発電の禁止措置の撤廃に伴う多様な影響を分析する調査の開始を認めることとなった。デンマークにおける原子力発電の禁止は、原子力をエネルギー計画の一部にしてはならないという1985年の議会決定、ならびに原子力発電設備の送電網への接続を禁止する電気供給法第11条第6項に依拠している。今回の決議は、原子力を国家のエネルギー議論の俎上に戻すもの。但し、電気供給法第11条第6項を廃止しない限り、デンマークでは原子力が現実的な選択肢にはなり得ない。なお、今回の議決は、デンマークの野党(主に自由同盟、保守党、デンマーク民主党、デンマーク人民党)による、1985年の原子力発電禁止決定の明示的な撤廃を要求する緊急動議による。政府(社会民主党、自由党、穏健党)は代替案を提出。禁止措置を明確に撤廃する代わりに、原子力の調査を開始する内容で、原子力を計画に再導入する余地を残すものであった。デンマークのL. アーガード・気候・エネルギー・公益事業相(穏健党)は、デンマークが長年追求してきた風力や太陽光発電によるグリーン電力が、エネルギー計画の柱であることに変わりはないが、「現代の原子力技術は急速に進歩しており、将来的に可能性を秘めている。小型モジュール炉(SMR)を導入する場合、それがデンマーク社会にとって、どのような意味を持つかを明確にする必要がある。廃棄物の処理をどう行うのか、どのような安全対策が必要なのかなど、多くの課題がある」と指摘。そのうえで、政府は新たな原子力技術が将来的に風力や太陽光発電を補完する可能性とリスクの調査をする予定である、と言及した。国際エネルギー機関(IEA)によれば、風力、太陽光、バイオ燃料などの再生可能エネルギーが同国の電力の80%以上を占めている。
20 May 2025
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台湾電力は5月17日、同国で唯一稼働していた馬鞍山原子力発電所2号機(PWR、95.1万kWe)を、法律に基づき、永久閉鎖した。同機は、40年間の運転認可期限を満了したことから、同日午後1時頃から出力を下げ、午後10時頃には送電網から切断、午前0時頃に安全に停止された。今後、廃止措置を開始する。1985年5月18日に営業運転を開始した同機は、40年間で約2741.6億kWhを発電した。台湾電力によると、同機の発電量シェアは約3%であり、閉鎖による影響は限定的だという。与党・民進党政権の掲げる「2025年の脱原子力国家(非核家園:原子力発電のないふるさと)の実現」政策により、これまでに永久閉鎖されたのは、馬鞍山発電所1号機(2024年7月閉鎖)のほか、金山原子力発電所1、2号機(各2018年12月、2019年7月閉鎖)、國聖原子力発電所1、2号機(各2021年12月、2023年3月閉鎖)の計5基。近年、台湾電力は原子力発電所の順次廃止と老朽化した石炭火力発電所の廃止を実施。発電量削減に対応するため、2017年より既存の発電所の更新・改築に順次着手、再生可能エネルギーと、揚水発電、エネルギー貯蔵などの整備を加速し、安定した電力供給を継続しながら、CO2排出量の削減を目指している。今年に入って大型のガス火力発電所(計約500万kWe)と、風力・太陽光発電設備(計約350万kWe)を導入し、電力需要を確実に満たしていく考えだ。2025年の脱原子力政策の達成に向けて、台湾の経済部(経済省)が掲げる電源別発電構成は、再生可能エネルギーを20%、ガス火力を50%、石炭火力を30%に、原子力をゼロとするもの。2024年の発電構成は、再生可能エネルギーが11.9%、揚水発電が1.2%、ガス火力が47.2%、石炭火力が31.1%、原子力が4.7%となっており、ガス火力の比率が年々上昇している。当面は、再生可能エネルギーの普及を継続し、石炭火力からガス火力へのエネルギー転換を推し進めつつ、2050年には総発電量に占める再生可能エネルギーの割合を60~70%に引き上げ、エネルギー輸入依存度を50%以下に減少させる方針だ。一方で、台湾ではたびたび大停電が発生しており、産業界は安定的な電力供給を求め、政府に対しエネルギー政策の見直しを要請してきていた。再生可能エネルギーが主力となるまで、火力・ガス発電への依存による大気汚染、電気料金の上昇、企業の経営コスト上昇による台湾の競争力への悪影響を回避し、ネットゼロ排出の気候目標と国内のエネルギー供給構造の安定を維持するため、国民党(野党)議員らは、立法院(国会)で「核子反応器設施管制法(原子炉等規制法に相当)」の第六条条文のうち、原子力発電所の運転期間を最長で20年延長とする改正法案を提出。5月13日の第三読会で、賛成61、反対50票で可決された。これを受け、与党(民進党)党首の頼清徳総統は翌14日の党中央執行委員会において、原子力発電所の廃止措置に関する法定スケジュールにも大型ガス火力発電所を新規で稼働させるなど、電力の安定供給には責任を持って対応してきたと言及。そのうえで、「立法院は、原子力発電所の運転期間を40年から60年に延長する改正案を可決したが、新たに成立した規定に従ったとしても、同発電所の2号機を実質的な審査なしに直接延長したり、直ちに再稼働したりすることはあり得ない」と強調。一方、「将来的には、先進炉にも門戸を開いているが、政策変更は、原子力安全、放射性廃棄物問題の解決、社会的コンセンサスという3つの重要な前提条件を満たさなければならない」と述べ、新たな原子力技術の導入の可能性についても示唆した。
19 May 2025
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フィンランドの小型モジュール炉(SMR)開発企業であるステディ・エナジー(Steady Energy)社は5月6日、小型モジュール炉(SMR)のパイロット施設を建設することを明らかにした。ヘルシンキ中心部にある旧サルミサーリ石炭火力発電所サイトを利用する。 このパイロット施設は、ステディ社が開発するLDR-50モジュールの実物大モデルを採用。同炉の成熟度と安全性の実証を目的とする。ヘルシンキ市が保有するエネルギー企業ヘレン(Helen)社の、閉鎖されたサルミサーリB石炭発電所のタービンホール内に建設する。ステディ社とヘレン社は、2028年までのサイトのリース契約を締結しており、2025年後半に着工する予定。建設コストは1,500万~2,000万ユーロ(約24.4億円~32.5億円)で、ステディ社の自己資金で賄われる。 LDR-50(5万kWt)は熱供給専用のSMRで、最大150℃の熱を発生させる。高さは約10m。 このパイロット施設は実際のLDR-50とは異なり炉心に原子燃料を含まない。電気抵抗器が炉心に配置され、出力規模は実際の約1/10の0.6万kWtとなる。タービンホール内に完全に格納され、建物の外観に影響を与えることはない。商業炉の場合でも地下に建設され、同様に都市景観への影響はほとんどない。 フィンランドの放射線・原子力安全庁(STUK)は2024年2月、原子力発電所の緊急時計画区域や予防措置区域の規定を撤廃。発電所の認可申請者が、安全性の確保を条件に個別に説明する方法に切替えたため、住宅地近くへのSMRの設置が可能になった。ステディ社は、地域暖房プラントは都市部近くに配置する必要があるため、現在の市内中心部にある大規模な各種火力発電所を、コンテナサイズのSMRにリプレースすることで、都市中心部の住民にとって土地が解放される利点があると指摘している。 ステディ社のT. ナイマンCEOは、「このパイロット施設の主な目的は、LDR-50の炉心の受動的安全システムがフルスケールで効果的に機能するかを実証すること。実際の原子炉の導入前に徹底的にテストし、コストと時間のリスクを最小限に抑える。こうした慎重なアプローチが民間投資家が当社を信頼する大きな理由。当社の目標は、補助金なしで建設可能な市場ベースの小型原子力発電の実現である」と語った。 ヘレン社は2023年4月のハナサーリ発電所の閉鎖に続き、今年4月にサルミサーリ発電所を閉鎖して、エネルギー生産における石炭の使用をすべて終了した。同社の炭素排出量は2024年比で50%削減、ヘルシンキの炭素排出量の約30%削減に貢献する。同社は2030年までにカーボンニュートラルの達成、2040年までに完全な脱炭素を目指している。2022年には、同社の地域暖房生産の64%を石炭火力が占めていたが、石炭の代替には、廃棄物と環境熱を利用したヒートポンプ、電気ボイラー、エネルギー貯蔵、持続可能なバイオエネルギーを活用していく方針。フィンランドの法律では、2029年5月1日以降、エネルギー生産に石炭を使用することはできなくなる。 ヘレン社は、電気・熱供給または地域暖房用のSMRの導入を目的とした原子力プログラムを開始しており、現在、ビジネスモデルの評価、ヘルシンキ大都市圏の潜在的なサイト候補地のマッピング、SMR供給者の選定準備が進められている。年内には、サイト候補地を公表する予定だという。
19 May 2025
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欧州委員会(EC)は5月6日、ロシア産エネルギーへの依存を解消させ、欧州連合(EU)全体で安定したエネルギー供給と価格を確保させるための、ロードマップを発表した。EUのクリーンエネルギーへの移行と並行して、ロシアの石油、ガス、原子力(濃縮ウランまたは燃料)を平和裡にEU市場から締め出していく計画だ。ECは来月6月にも、ロードマップを支援する法案を提出するとしている。EUのロシア産エネルギーへの依存を減らすために2022年5月に開始されたREPowerEU計画により、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降に導入された16の制裁パッケージや、エネルギー供給元の多様化を通じて、ロシア産ガス輸入のシェアは45%(2021年)から15%(2023年)に大幅に減少した。しかし、2024年に19%に回復。ロードマップの作成は、ロシアのエネルギー輸入への過度の依存が安全保障上の脅威であり、より一層、協調的な行動の必要があるとの認識による。ECは、EU大でのロシア産エネルギー輸入の段階的廃止が、適切に実施されるよう、EU加盟国と協力していく。具体的には、加盟各国は2025年末までに、ロシアのガス、石油、原子力(濃縮ウランまたは燃料)の輸入の段階的な廃止にいかに貢献するかについて、国家計画を作成する。同時に、エネルギー移行を加速しながら、エネルギー供給の多様化と安全保障を維持し、価格と市場への影響を排除するための努力を続けていくとしている。ロードマップには、以下の対策が含まれている。ガス:EU市場におけるロシア産ガスの透明性、監視、トレーサビリティを向上させ、2027年末までにロシア産ガス(パイプラインとLNGの両方)の全面輸入禁止を導入。ロシア産ガス供給業者との新規契約は禁止され、スポット契約(即時支払い)は2025年末まで、既存の長期契約による輸入も2027年末までに禁止。なお、ロシア産ガスを代替する、ロシア以外からのLNG調達は2028年までに約2,000億㎥の増加を予想。石油:石油を輸送するロシアの「影の船団」(Shadow fleets:ロシアが制裁回避のために雇用する船舶)に対する制裁を実施。原子力:ロシアの濃縮ウランの輸入に対する貿易措置の提示。欧州原子力共同体(ユーラトム)供給局が共同で締結した、ロシア由来のウラン、濃縮ウラン、その他の核物質の新規供給の制限。なお、ロシア設計のVVER炉を運転する加盟国は、ロシア以外の燃料調達先を確保中。 ※石炭:制裁により、輸入はすでに全面禁止。ECは、ロシア産エネルギー輸入の段階的な廃止により、よりクリーンで独立したエネルギーシステムを確立し、経済の活性化と、欧州の脱炭素化の目標を達成するとしている。ECのU. フォンデアライエン委員長は、「ロシアのウクライナ侵略は、恐喝、経済的強制、価格ショックのリスクを容赦なく露呈させた。REPowerEUにより、エネルギー供給を多様化し、EUはロシアの化石燃料への依存を大幅に減らすことに成功した。今こそEUは、信頼できない供給国とのエネルギー関係を完全に断ち切る時。我々は、ロシア産エネルギーへの対価が、ウクライナに対する侵略戦争の資金源となることを許容しない」とコメントした。このECによる発表を受け、ハンガリーのP. シーヤールトー外務貿易相は、「ハンガリーの安価な光熱費に対する攻撃であり、ウクライナ支援の代償を払うことを余儀なくされている。加盟国にロシアとのエネルギー協力を断つよう強制する決定は政治的、イデオロギー的に動機付けられたものだ」と語った。参考)2024年のロシアからのエネルギー輸入規模ガス(パイプラインとLNG):520億㎥ (EU 10か国)(2021年は1,500億㎥)石油:1,300万トン(EU 3か国)(2022年初めはロシア産シェア27%。2024年は3%に縮小)濃縮ウランまたは燃料:2,800トン(EU 7か国)(EU需要のウランの14%以上、転換サービスの約23%、濃縮サービスの約24%をロシアが充足)
15 May 2025
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フィンランドで原子力発電所を運転するティオリスーデン・ボイマ(TVO)社は4月29日、オルキルオト原子力発電所1-2号機(BWR、各92万kWe)のバックフィット作業に向け、北欧投資銀行(NIB)と7,500万ユーロ(約123.4億円)の長期融資契約を締結した。融資期間は10年。バックフィットには、計装制御系やモニタリングシステム、気水分離器の交換が含まれ、運転期間延長と出力増強を計画している。1号機は1979年、2号機は1982年に営業運転を開始。当初の計画運転期間は40年間であったが、両機とも2018年9月に、2038年12月末まで20年間の運転期間延長を認可されている。これに先立ちTVO社は2024年12月、運転期間延長と出力増強にむけて、環境影響評価(EIA)報告書をフィンランド経済雇用省に提出。同省は2025年4月、EIA報告書が合理的であり、EIA法に定められた要件を満たしていると結論づけた。評価にあたり、越境環境影響評価条約(エスポー条約)に基づく評価手続きが適用され、公開協議も実施されている。出力増強による環境影響は、単に運転期間を延長した場合の影響よりもわずかに大きくなるものの、原子力発電所が通常運転中に最も大きな影響を及ぼすのは、発電所から近隣海域に排出される冷却水による熱負荷である。今回、その影響はほぼ現在のレベルにとどまり、環境への影響の観点から運転期間延長と出力増強は実現可能であると経済雇用省に判断された。同省による判断は、TVO社が運転期間延長と出力増強に関する意思決定を行うための前提条件。運転期間は2048 年または2058年までの延長を、出力(ネット値)は現状の89万kWeから97万kWeへの増強を想定している。オルキルオト原子力発電所は、フィンランドの電力需要の約28%(2024年)をまかなう、同国最大の発電所である。
14 May 2025
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スペインの原子力産業団体であるForo Nuclearは5月6日、2024年次報告を発表。4月28日にイベリア半島全域で起きた大規模な停電時の原子力発電所の安全性についても言及した。同年次報告によると、スペインで運転中の全7基の原子力発電所は、2024年に523.9億kWhを発電し、総発電電力量に占める原子力シェアは19.98%だった。平均設備利用率は83.9%。原子力発電設備容量は711万kWe(ネット)となり、原子力発電は再生可能エネルギーに次ぎ、2番目に大きな電源だった。総発電設備容量のわずか5.5%の原子力発電が、総消費電力の20%もの電力を13年間連続で生産し、その運転実績と安全性の両面で卓越した水準にあると説明している。さらに、原子力発電は2024年にスペインで発電された脱炭素電力の26.01%を占めており、環境とエネルギーの課題に対応する上での原子力の重要性を再確認するものと指摘している。一方、スペインの原子力発電所が技術的にも長期運転に向けた十分な準備が整っているが、2024年6月に適用された、発電所の閉鎖と廃棄物管理の費用を賄うために設計された、いわゆる「エンレサ税」(Enresa:スペイン放射性廃棄物管理公社)の30%増額が発電所にとって大きな負担となっており、原子力発電業界は、その軽減要求を続けているという。また、4月28日にスペイン、ポルトガル、フランスの一部で発生した大規模停電についても言及。停電発生時には4基の原子炉(アルマラス-2、アスコ-1、-2、バンデリョス-2)が運転中。トリリョは燃料交換のために停止中、アルマラス-1とコフレンテスは、技術的な制約により、スペイン全域の送電網を一元管理する系統運用者のレッド・エレクトリカ社から運転を止められていた。停電発生時に外部電源が失われた結果、運転中の原子炉は自動的に停止し、安全な停止を維持するため安全システムが作動。独立したディーゼル発電機が自動起動し、プラントを安全な停止状態に保つために必要なシステムへの電力供給を実施、その後、正常な運転の回復に支障はなかったという。停電の間、原子力安全委員会(CSN)は緊急時対応組織を立ち上げ、発電所の状況を監視しながら継続的に情報を提供。発電所は現在、対応するすべての安全チェックを完了し、系統運用者の指示に従い、送電網に再接続し、発電が再開された。今回の大規模停電の原因は今なお究明中であるが、レッド・エレクトリカ社は、停電の原因としてサイバー攻撃を除外。電力供給は翌日にはほぼ全面復旧。フランスとモロッコとの相互接続と、水力とガスタービンコンバインドサイクル発電との連系により回復されたという。Foro NuclearのI. アラルーセ理事長は、「2019年の原子力発電所の段階的廃止計画に固執することは、現在のエネルギー、環境、地政学的な状況に鑑みると論理的ではない」と主張。さらに停電の間、原子力発電所は「障害」ではなく、「電力システムに安定性を提供したが、それは十分ではなく、そのためシステムが機能しなくなった」と言及した。原子力発電所の大型タービンと発電機は、電力網において、電圧と周波数を安定化させる役割を果たすと説明している。スペインで稼働中の原子炉7基は1980年代前半~後半にかけて運転を開始。現在、総発電電力量の約6割を再生可能エネルギー(主に水力、風力、太陽光)で賄う。なお、最新の国家エネルギー・気候計画(NECP)では、2030年には総発電電力量の約8割を再生可能エネルギーが占めることを想定している。スペインは日本と同様、国内のエネルギー資源が乏しく、1950年代から原子力開発を開始。当初は米国やフランスから技術を導入し、1970年代のオイルショックを契機に開発を加速、これまでに閉鎖された3基を含み、10基を開発してきた原子力先進国の一つである。スペイン政府の原子力の段階的廃止政策による産業競争力と社会に及ぼす影響についての懸念や、国際的な潮流に沿った原子力発電所の長期運転の必要性から、2024年2月中旬、中道右派の国民党(PP)が、スペイン国会に、スペインの原子力発電所の運転期間延長と安全性向上を政府に求める非立法提案を提出、可決された。同月下旬には、スペインで原子力事業を展開する企業が原子力発電所の長期運転を支持するマニフェストを発表している。同国では2018年6月の中道左派の社会労働党(PSOE)への政権交代を機に、原子力発電所を段階的に閉鎖・廃止する方針に転換された。現状の政策では、2027~2035年までに運転期限を迎える原子力発電所は順次閉鎖される予定となっており、スペインの原子力発電は2030年末までに約320万kWeに縮小し(現在運転中の7基中、4基が閉鎖)、2035年にはゼロとなる予定である。
13 May 2025
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米原子力新興企業のケイロス・パワー社は5月8日、テネシー州オークリッジにある米エネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」において、フッ化物塩冷却高温実証炉「ヘルメス」(非発電炉、熱出力3.5万kW)を着工したことを明らかにした。ヘルメスは2023年12月に、米原子力規制委員会(NRC)が半世紀ぶりに建設を許可した非水冷却炉。TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料と熔融フッ化物塩冷却材を組み合わせ、原子炉の設計を簡素化しているのが特徴で、2027年に運開予定。2024年7月に土木工事(掘削工事)に着手していた。ヘルメスの基礎部分における安全対策工事は5月1日に開始。構造の安全性確保のため、地面から約12メートル下まで延びる直径約1.8メートルの杭穴51本を掘削、杭穴に鉄筋のケージを降下させた後、最初のコンクリートを打設した。ヘルメスは、DOEにより2020年12月、「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象炉に選定された。また、ヘルメスに隣接し、同炉を2基備えた実証プラント「ヘルメス2」(発電炉、2万kWe)の建設許可が2024年11月に発給されている。ケイロス社はこれらのヘルメス・シリーズで得られる運転データやノウハウを活用して、技術面、許認可面および建設面のリスクを軽減、コストを確実化して、2030年代初頭に商業規模の「KP-FHR」(熱出力32万kW、電気出力14万kW)の完成を目指している。なお、ケイロス社はIT大手のGoogle社と2024年10月、2035年までに複数の先進炉導入による電力購入契約(PPA)を締結。ケイロス社が開発する先進炉のフッ化物塩冷却高温炉を複数基、合計出力にして最大50万kWeを建設し、Google社のデータセンターへ電力を供給する計画だ。初号機を2030年までに運転開始させた後、後続機を順次建設していくという。
12 May 2025
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