
原子力電池の大手開発会社である米ゼノ・パワー(Zeno power)社は9月24日、仏オラノ社とフランスのノルマンディーにあるオラノ社のラ・アーグ再処理工場から回収された放射性同位体のアメリシウム241(Am-241)の供給を確保し、宇宙用途に使用する戦略的合意を締結したことを明らかにした。この契約に基づき、ゼノ社は数百万ドルを投資し、オラノ社から大量のAm-241を優先的に確保する。Am-241は長寿命同位体であり、ゼノ社は米航空宇宙局(NASA)向けに宇宙用途に開発する放射性同位体電源(Radioisotope Power System=RPS)の燃料として使用される。ゼノ社がNASA向けに開発しているAm-241燃料のRPSは、月面探査車、着陸船、月面のインフラ向けに電力を供給する。ゼノ社によると、歴史的にプルトニウム238(Pu-238)が宇宙用途のRPSに使用されているが、その供給制限や高い製造コストが課題であり、その代替となるAm-241が注目されているという。Am-241は、半減期が430年以上と長く、熱電システムを数十年にわたって持続させることができる宇宙用途の動力として魅力的な燃料源であり、使用済み燃料の再処理から得られる。月の約15日間という長い夜を乗り切り、恒久的に影となる地域で動作して信頼性の高い電力を供給するため、ゼノ社は、NASAが主導する有人宇宙飛行、月面着陸および持続的な探査活動を目指す「アルテミス計画」とその先の火星探査に不可欠な機能性を有すると指摘。オラノ社と提携してAm-241の商業サプライチェーンの確立を進める方針である。ゼノ社は2022年からオラノ社と協力し、ラ・アーグ施設でAm-241粉末の工業規模の回収を検討開始。2023年7月には、アルテミス計画の一環として、NASAから1,500万ドルの資金提供を受け、長期の月面ミッションに熱電供給可能なAm-241燃料のスターリング発電機(RSG)の開発を行っている。さらに同社は、米国防総省との契約に基づき、米エネルギー省ならびにオークリッジ国立研究所との連携によりストロンチウム90(Sr-90)を取得し、海洋用途向けの燃料電池を開発する他、ウィスコンシン州に拠点を置く核融合エネルギーのスタートアップ企業であるシャイン・テクノロジーズ社とも提携して、Sr-90の供給確保に取り組んでいるという。ゼノ社のT. バーンスタインCEOは、「宇宙ミッション用のAm-241と海洋および地上展開用のSr-90を組み合わせ、ゼノ社の原子力電池は深海から深宇宙まで、フロンティアでの運用が可能」と指摘。仏オラノ社の米国法人であるオラノUSA社のJ.-L. パレイヤーCEOは、「Am-241は、使用済み燃料リサイクルの価値を実証する。ゼノ社との協力は、貴重な同位体の工業規模の回収が、まったく新しい市場を生み出し、革新的なアイデアを実現する方法を示している」と語った。
08 Oct 2025
630
米国の原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社は9月23日、米国中西部のミズーリ州カンザスシティを拠点とする電力会社エバジー(Evergy)社ならびにカンザス州商務省と覚書(MOU)を締結した。テラパワー社が開発するナトリウム冷却高速炉「Natrium」(34.5万kWe)と付随するエネルギー貯蔵システムをカンザス州におけるエバジー社の供給区域内に建設を検討する。本MOU締結により、先進的な原子力発電所のサイト固有の特性を共同で評価するほか、Natrium炉の技術設計およびエバジー社の顧客に向けたサービス能力を調査する。サイト選定は、地域社会の支援、サイトの物理的特性や米原子力規制委員会からの許認可取得可能性、既存インフラへのアクセスなどの要素を評価した上で実施される。カンザス州のL. ケリー知事は、「カンザス州の市民と企業のエネルギー需要を満たすにあたり、常にあらゆる手段を講じる方針を支持してきた。州の未来を支える、利用可能なあらゆるエネルギー源を探求する必要があるため、革新的な手法の活用を歓迎する」と述べ、D. トーランド州副知事兼商務長官も、「カンザス州の驚異的な経済成長を継続するためには、競争力を強化しながら消費者のコストを抑制する、あらゆる革新的な選択肢を検討する必要がある。このプロジェクトは両方を実現し得るものだ」と語った。エバジー社のD. カンプベルCEOは、「原子力発電は何十年にもわたって当社の発電ミックスを構成している。信頼性が高く、無炭素電源の原子炉をカンザス州に追加導入するにあたり、そのコスト、技術、実現可能性を評価していく」と述べた。エバジー社はカンザス州とミズーリ州に電力を供給しており、発電電力量の約半分を炭素排出ゼロの電源から供給。カンザス電力共同組合と共同所有するウルフ・クリーク原子力発電所(PWR、128.5万kWe)は1985年に運転を開始し、カンザス州の発電電力量の約20%を占めている。Natrium炉は、熔融塩ベースのエネルギー貯蔵システムを備えており、貯蔵技術は必要に応じてシステムの出力を50万kWeに増強し、5時間半以上維持することができる。これにより、Natrium炉は再生可能エネルギーとシームレスに統合され、費用対効果の高い電力網の脱炭素化を実現すると言われている。ワイオミング州ケンメラーにおける建設に向けて、現在、米原子力規制委員会は建設許可申請の審査を加速して実施中。テラパワー社はNatrium炉の送電開始を2030年と見込んでいる。
07 Oct 2025
622
欧州委員会の域内市場産業・起業家精神・中小企業総局は9月12日、ブリュッセルで開催された欧州小型モジュール炉(SMR)産業アライアンスの第2回総会において、初の「戦略行動計画(Strategic Action Plan)」が採択されたことを明らかにした。本計画は、今後5年間の活動計画を包括的かつ詳細に示し、2030年代初頭までに欧州におけるSMRの開発・実証・展開を促進することを目的としている。SMRの迅速な展開は、欧州産業の競争力の維持、2050年までのカーボンニュートラル実現に向けたエネルギー移行の推進、さらにエネルギー分野におけるEUの戦略的自律性を高める上で極めて重要とし、戦略行動計画では今後5年間で実施する10の具体的かつ重点的な行動を提示した。SMR展開に関する主要課題として、発電以外での市場需要の開拓、サプライチェーンの再活性化、研究開発と人材育成の推進、資金調達の機会を創出、規制枠組みの簡素化などに焦点を当てている。10の重点行動と目標とする達成時期は以下のとおり。SMR実証プロジェクトの枠組みづくり(~2026年6月)データセンター、エネルギー多消費産業、地域暖房などの用途でSMR実証プロジェクトを企画。公共部門・開発者・産業界の三者協定を検討。研究・実験施設の整備計画(~2026年12月)SMRの研究開発に必要な試験施設を特定・評価し、既存設備の改修や新設に向けた計画と資金計画を策定。規格・標準化と技術交流の促進(~2028年6月)SMR向けの共通規格・基準を提案し、EU域内での技術・データ交換を円滑化する制度を整備。サプライヤー連携プラットフォーム構築(~2026年12月)各国の有資格サプライヤーとSMR開発プロジェクトを結ぶマッチング機能を備えた支援プラットフォームを構築。EUサプライチェーン強化策の提言(~2026年6月)サプライチェーンの現状を評価し、NZIA(ネットゼロ産業法)やIPCEI(欧州共通利益に適合する重要プロジェクト)を活用した強化方策を提案し、能力拡大を継続的に推進。欧州「ネットゼロ・アカデミー」構想(~2027年1月)SMR・AMR(先進モジュール炉)開発に必要な専門スキルを特定し、欧州全体で人材育成を担う教育アカデミーの設立を計画。公衆・関係者向けエンゲージメントツール(試行:2026年3月/完成:2026年12月)地域社会や関係者との対話を促進するためのツールキットを開発し、早期計画段階で導入。共通安全評価の推進(2025年以降継続)規制当局間の協力を促し、安全性に関する「業界ポジションペーパー」を作成。早期審査を支援する体制を構築。標準化燃料設計の支援(~2027年10月)軽水炉型SMRならびにAMR向けの標準化燃料の仕様策定を支援し、安全性と互換性の向上を図る。投資リスク低減と資金支援策の提案(~2026年3月、以降毎年更新)初号機(FOAK)開発リスクを軽減するための資金支援・保証制度を提案し、EU基金・金融機関と連携して投資環境を整備。同アライアンスは2024年2月に設立され、産業界のリーダー、研究者、政策立案者など、350を超える幅広いSMR関係者が結集。共通のビジョンと行動計画の下で協働することを目的としている。運営面では、EC、Nucleareurope(欧州原子力産業協会)、欧州の100名以上の科学者や環境専門家のグループの欧州持続可能な原子力技術プラットフォーム(SNETP)が主要パートナーとしてアライアンスを支え、複数の具体的なSMRプロジェクト支援や戦略行動計画に基づく施策の実施を主導。アライアンスの運営は理事会が指揮し、戦略的助言や重要な意思決定を行っている。戦略行動計画を成功裏に実施するには、産業界および公共部門の強力なコミットメントと、多様な関係者間の協力が不可欠であるとし、同アライアンスは、加盟団体、EC関連部局、他のEU機関、国際機関と緊密に連携し、欧州におけるSMRの迅速かつ円滑な展開を確実に行っていく方針である。
07 Oct 2025
538
ブルガリアのR. ジェリャズコフ首相とZ. スタンコフ・エネルギー相は第80回国連総会に出席するために米国を訪問。9月24日、GEベルノバのR. マルテラCCOと会談し、小型モジュール炉(SMR)の導入の可能性について協議した。スタンコフ大臣は、「ブルガリアは、安全保障と適正価格でのエネルギーへのアクセスを確保するために、近代的なエネルギーインフラと戦略的パートナーシップに積極的に投資している欧州諸国の1つであり、世界のクリーンエネルギーソリューションの地図上でますます認知されるようになっている」と指摘。南東欧地域において、エネルギーリーダーの地位を強化すべく、現在進行中のコズロドイ原子力発電所7-8号機に米ウェスチングハウス社製AP1000を2基増設するプロジェクトに加えて、長期的な安定性、予測可能性、低コスト、低排出の実現に貢献する小型モジュール炉(SMR)をブルガリアに導入する可能性についても言及。ブルガリアがエネルギー安全保障、脱炭素化、経済成長という戦略的目標を達成する上で、GEベルノバ社との協力に期待を寄せた。さらに同大臣は9月26日、カナダのオンタリオ州を訪問し、同州のS. レッチェ・エネルギー・鉱業相とも会談。SMRに焦点を当て、両国間のエネルギー協力の深化について討議した他、GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製SMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の建設プロジェクトが進むダーリントン・サイトも視察した。これらの会談に先立ち、国際原子力機関(IAEA)総会期間中の9月16日、スタンコフ大臣は米エネルギー省のC. ライト長官とも会談。民生用原子力協力を強化するという両国間の政府間協定の目的を再確認する共同声明に署名し、革新的な原子力技術の開発と展開で協力することを確認した。これを機に、ブルガリアは米国研究所の専門知識を活用して、SMRの展開を加速するための候補サイトの立地可能性と適合性評価を事前に調査し、ブルガリア政府当局とプロジェクト会社であるコズロドイ原子力発電所-New Build EADは革新的技術の導入に向けた準備を進める。米国貿易開発庁は既に、ブルガリアの条件に最適なSMRを特定するため、様々な炉型の評価に資金提供する用意があることを表明している。原子力発電分野で50年以上の経験を持つブルガリアは、SMR導入により原子力をさらに拡大し、将来のデータセンター立地のためのプラットフォームを構築したい考え。スタンコフ大臣は、「他の国ではそのようなセンターの建設には10年かかるが、ブルガリアは大幅に短い期間で提供可能であり、国際的な投資家やパートナーにとって魅力的である」と強調。ブルガリアは将来へのビジョン、安定したインフラ、地域のエネルギー移行を主導し、信頼できるエネルギー輸出国であり続けるとの展望を示した。
06 Oct 2025
729
欧州連合(EU)の司法裁判所(Court of Justice)は9月11日、ハンガリー政府によるパクシュ原子力発電所増設(パクシュⅡ)プロジェクトへの国家補助を承認した欧州委員会(EC)の決定を取り消した。パクシュⅡプロジェクトは、2014年1月のロシアとハンガリー間の原子力平和利用の協力協定に基づき、2014年12月、ロシア国営原子力企業ロスアトム傘下のニジニノブゴロド・エンジニアリング・アトムエネルゴプロエクト(JSC NIAEP)社に発注された。同発電所サイトにVVER-1200を2基増設して、既存のVVER-440×4基を段階的にリプレースする計画で、ロシアは2014年3月の政府間融資協定により、長期の低金利融資で総工費の約8割に当たる約100億ユーロの国家融資を行い、ハンガリーは自国予算から追加で25億ユーロを拠出する。ECは2017年3月、ハンガリー政府による国営企業MVMパクシュIIへの投資補助を承認。MVMパクシュIIは、無償で増設2基の所有者兼運転者となり、その建設費用はハンガリー政府が全額負担することとなった。ECによる国家補助承認を受け、ハンガリーの隣国であるオーストリアは2018年2月、一般裁判所(General Court=下級審)にECを提訴。MVMパクシュⅡがロシア企業と直接契約(競争入札なしの発注)し、公共調達に係わるEU指令に抵触しているにも係わらず、ハンガリー政府による補助は条件付きで域内市場と適合するとして国家補助を承認したことは違法であり、公共調達規則に基づき、国家補助の問題を検証すべきであると訴えた。これに対し、一般裁判所は2022年11月、国家補助審査に先行する直接契約が国家補助の目的と不可分に結びついているとは認められず、公共調達の規則違反を国家補助審査の枠組みで検証すべきではないとし、オーストリアの訴えを棄却した。オーストリアはこれを不服として、2023年2月に司法裁判所に上訴。司法裁判所は、一般裁判所による判決を破棄、ECの承認決定を無効とした。司法裁判所は、一般裁判所が判断した内容とは異なり、ハンガリー政府による援助がEUの国家補助規則に適合しているか否かの確認に留まるだけでなく、ロシア企業への直接契約の行為は国家補助の審査に本質的に関連するため、公共調達の観点からも検証すべきであったと判断した。司法裁判所の判決を受け、ハンガリーのP. シーヤールトー外務貿易相は9月11日、「司法裁判所はECに対して不利な判決を下したが、パクシュIIプロジェクトをいかなる形でも制限または遅らせるものではなく、ハンガリー政府はパクシュⅡプロジェクトが自国のエネルギー安全保障の将来の主要な柱と見なし続けている」と述べた。むしろ最近の数か月、同プロジェクトへの投資を加速させているとし、2030年代初めには、両機を送電網に接続し、ハンガリーのエネルギー安全保障において大きな一歩を踏み出すと強調した。同国のJ. ボーカEU問題担当相も、この判決では、直接契約が公共調達規則に準拠していないとはしておらず、ECは国家補助手続きの枠組みの中でそれを検討しなかったか、少なくともこの問題に関して正当であると説明しなかったと指摘。国家補助や公共調達の手続き上でも違反とされていないため、パクシュⅡプロジェクトへの投資を計画通りに継続することに法的障害はないとの認識を示した。ハンガリーでは、旧ソ連時代に建設されたパクシュ発電所の4基(各VVER-440、出力約50万kWe)で総発電量の約5割を供給している。公式運転期間の30年を超過したため、運転期間を20年延長しつつ容量の大きい増設2基に徐々にリプレースしていく方針。シーヤールトー大臣は、同発電所の拡張はハンガリーの長期的なエネルギー供給を保証する重要要素であり、総発電量の約70%を供給できるとしている。パクシュⅡは2022年8月、増設プロジェクトの建設許可を国家原子力庁(HAEA)から取得。2023年7月以降、サイトでは建設の準備作業が進行している。HAEAからの承認を待ち、年内の初コンクリート打設を予定している。
06 Oct 2025
534
ルーマニア国営原子力発電会社のニュークリアエレクトリカ(SNN)は9月24日、JPモルガン・チェースの欧州法人であるJPモルガンSEが主導する銀行コンソーシアムと、チェルナボーダ原子力発電所1号機の改修と同3-4号機の増設プロジェクトへの融資契約を締結した。SNNの株主による承認を経て実施される。銀行コンソーシアムは以下の銀行で構成:1号機改修プロジェクトの資金調達: Banca Comerciala Romana SA、Banca Transilvania S.A.、BRD Groupe Societe Generale SA、CEC Bank S.A.、Citibank Europe PLC(ダブリン・ルーマニア支店)、ING Bank N.V. アムステルダム – (ブカレスト支店)、UniCredit Bank SA、J.P. Morgan SE(ドイツ本社)3-4号機プロジェクトの資金調達: Banca Transilvania S.A.、BRD Groupe Societe Generale SA、CEC Bank S.A.、ING Bank N.V. アムステルダム(ブカレスト支店)、UniCredit Bank SA、J.P. Morgan SE(ドイツ本社)1号機(カナダ製CANDU、70.6万kWe)の改修プロジェクト向けに、5.4億ユーロの融資が行われる。改修工事は同機の30年間の運転期間延長を目的としており、SNNは2024年12月、エンジニアリング、調達、建設(EPC)契約を、カナダ、イタリア、韓国企業のコンソーシアムと締結している。EPC契約額は19億ユーロ。プロジェクトは現在、計画策定、設計・調達・建設契約の締結、長納期設備の調達、インフラ整備、許認可取得、資金確保などの準備作業が進められている。今年9月上旬には、土木工事が開始された。3-4号機(カナダ製CANDU、各70.6万kWe)増設プロジェクトでは、8,000万ユーロの融資が、エンジニアリング・調達・建設・管理(EPCM)契約のうち、米・加・伊の企業から構成される合弁事業会社が手掛ける「限定的な着手指示通知(Limited Notice To Proceed, LNTP)」フェーズの資金に向けられる。同資金は、SNNが全額出資するプロジェクト開発会社エネルゴニュークリア(EN)社が借り手となる。EPCMの契約額は32億ユーロ規模と想定。EN社は、エンジニアリング開発、資金確保、欧州委員会によるプロジェクト承認取得、最終投資決定の採択を目指している。SNNのC. ギタCEOは、「2件の資金調達契約の締結は、当社の戦略的プロジェクトである1号機改修ならびに3-4号機の増設プロジェクトの進行を支える重要な一歩。安全で信頼性のあるクリーンなエネルギー供給を最優先に、遅延やコスト超過なく進めていく。このパートナーシップは、両プロジェクトの信頼性の高さと、長期的な原子力エネルギーの役割を再確認するものだ」と語った。SNNは、両プロジェクトが同国のエネルギー安全保障、エネルギーの安定供給、CO2排出の削減、サプライチェーンなどに貢献すると強調。プロジェクトの完成により、ルーマニアの無炭素電源の66%が原子力となり、数千の雇用創出が見込まれている。チェルナボーダ発電所はルーマニアで唯一稼働する原子力発電所。1996年と2007年にそれぞれ1-2号機が運転を開始した。ルーマニアの総発電電力量に占める原子力シェアは約19%(2024年実績)。同発電所の3-4号機は1984年~1985年にかけて着工したが、1989年のチャウシェスク政権崩壊によって建設工事は中断し、現在は保全状態におかれている。
03 Oct 2025
556
ベルギーのチアンジュ1号機(PWR、100.9万kWe)が50年間の運転の後、9月30日に永久閉鎖した。現在、ベルギーで運転を継続するのは3基となった。チアンジュ1号機の閉鎖は、ドール3号機(2022年閉鎖)、チアンジュ2号機(2023年閉鎖)、ドール1号機(2025年2月閉鎖)に続き、4基目。ドール2号機(PWR、46.5万kWe)は今年11月末に閉鎖予定であり、ドール4号機(PWR、109万kWe)とチアンジュ3号機(PWR、108.9万kWe)の2基のみが、運転期間を10年延長し、2035年まで運転することになっている。チアンジュ1号機は1975年10月1日に営業運転を開始した。運転事業者であるエンジー・エレクトラベル社とフランス電力(EDF)が共同所有するこの原子炉は、2015年に閉鎖される予定だったが、エネルギー供給上の懸念から、運転期間は2025年まで10年間延長された。同機では今後、廃炉に向けた準備作業が行われる。使用済み燃料を燃料プールで冷却してから乾式の一時貯蔵施設に移し、一次系の化学洗浄を行う。これらの準備作業に5年かかる見通しで、その後、2040年にかけて解体作業を実施する計画だ。事業者は、連邦と地域レベルの双方で、解体許可に必要な申請書を提出する必要があり、すべての許可が下りてから解体作業を開始する。ベルギーでは今年5月、連邦議会(下院)が原子力発電の段階的廃止を撤回し、新規建設を認める法案を可決、原子炉の運転期間を40年に制限していた、2003年の脱原子力法は撤回された。現在の地政学的な不確実性に照らして不可欠となるエネルギーミックスの実現や、エネルギー移行に貢献する原子力部門を再活性化すると同時に、雇用創出を目的に、政府は原子炉をより長く稼働させ続けることを望んでいる。M. ビエ・エネルギー相は、エンジー社に対し、不可逆的な廃炉作業を行わないよう求め、地元の市長と市議会議員も、原子炉の解体許可申請に反対する意見を表明するなど、運転延長に関する議論が進行中であるという。一方のエンジー社は、ドール4号機とチアンジュ3号機以外の運転継続には繰り返し難色を示している。チアンジュ1号機の運転延長には、高コストなバックフィット作業を実施した上で、10年間の安全性審査を受ける必要があり、また、チアンジュ1号機の解体を停止すると、チアンジュ2号機の解体には1号機のスペースが必要なため、その作業が妨げられるという。チアンジュ1号機の閉鎖を受け、ベルギー原子力フォーラムのS. ドービー代表は、「閉鎖はナンセンス。閉鎖は何年も前に下された政治的決定の結果であり、この決定は現在の状況ではもはや意味をなさない」と述べ、世界的に不安定な地政学的状況からみても、低炭素で制御可能な電力供給は不可欠であり、ベルギーは原子力発電プラントを維持・強化すべきと訴えた。また、市民と産業界の双方の利益のために連邦政府と既存の事業者間で合意は可能、と期待を示した。同フォーラムによると、ベルギーの今年8月の総発電電力量に占める原子力の割合は34%。再生可能エネルギーが44%で、火力が22%。さらに電力需要を満たすために22%を輸入しなければならなかったいう。チアンジュ1号機の閉鎖により、同国は100万kW級の低炭素電源を失ったことになる。
02 Oct 2025
671
韓国のサムスン重工業(SHI)は、9月9日から12日までイタリアのミラノで開催された世界最大のガス・エネルギー展示会「Gastech 2025」において、小型モジュール炉の熔融塩炉(MSR)を搭載した、積載容量174,000㎥級LNG運搬船の基本設計認証(AiP)を取得したことを明らかにした。世界初となるMSR搭載LNG運搬船は、船の安全性と技術的妥当性を認証する米国船級協会(ABS)ならびにリベリア海事当局から技術認証を受けた。AiPは、新造船の設計や技術を審査し、国際規制や安全基準に適合すると評価する象徴的なプロセスであり、実際の船舶開発の第一歩。同技術はSHIと韓国原子力研究院(KAERI)が共同で開発した概念設計中のMSRを動力源としている。KAERIによると、MSRは安全性とエネルギー効率が高い液体燃料として、燃料と冷却剤を混合した熔融塩を使用するため、船舶用エンジンとして注目されているという。LNG運搬船の動力となるMSRの設備容量は10万kWth、単基のみの設置でも船舶の寿命期間中に燃料交換が不要になるように設計されている。両者は、2023年から科学技術情報通信部と海洋水産部の支援を受けて推進中のMSR基盤・革新技術開発事業に主管研究開発機関として参加し、2026年までに海洋用MSRの概念設計を完成させることを目標に研究を進めている。本プロジェクトの実現により、海洋部門の炭素中立達成に貢献したい考えだ。SHI社のH. ジャン技術開発本部長(副社長)は、「我々の次世代エネルギーバリューチェーンにより、造船およびオフショア産業における競争力を実証し、引き続き世界市場をリードしていく」と語った。
02 Oct 2025
1027
米テネシー川流域開発公社(TVA)は9月19日、テネシー州オークリッジ近郊にあるTVAの旧ブルラン火力発電所サイトにおいて、タイプ・ワン・エナジー(Type One Energy)社が開発する米国初の商業用ステラレータ核融合発電所である「Infinity Two」の建設支援に向け、同社と基本合意書(LOI)を締結した。タイプ・ワン・エナジー社は2019年設立のベンチャー企業。先進的な製造技術や最新の計算物理学、高磁場超伝導マグネットを組み合わせ、Infinity Two(35万kWe)を開発中で、早ければ2030年代中頃の稼働を目指している。同社は、複雑にねじれたコイルで強力な磁場を発生させ、ドーナツ状のプラズマを安定して閉じ込める、ステラレータ型核融合技術を採用。TVAによると、ステラレータは現在唯一、安定した定常運転と高効率を実証しており、競争力のある電力供給に資する可能性があるという。今回のLOIでは、Infinity Twoの運転・保守要員の研修施設として、旧ブルラン火力発電所サイトに建設されるプロトタイプ「Infinity One」を活用する可能性を指摘している。Infinity Oneは、後続の核融合パイロットプラントの設計と運用効率、信頼性、保全性、手頃な価格といった重要な側面をテストし、長期的な国家核融合研究施設の優れたプラットフォームにもなると期待されている。タイプ・ワン・エナジー社は今年2月、TVAとInfinity Twoプラントの計画を共同開発することで合意、7月には最初の商業契約を締結し、TVAはアラバマ州にある同社施設などを通じ、Infinity One向けに特化した溶接・製造技術の開発を支援する。Infinity One向けに開発された製造・建設手法は、Infinity Twoの建設に活用する方針である。TVAのD. モールCEOは、「当社は、米国の経済繁栄を支え、AI・量子コンピューティング・先端製造業を後押しする先進原子力導入のリーダー。タイプ・ワン・エナジー社との戦略的パートナーシップは、テネシー州のB. リー知事が同州を安全かつクリーンで信頼性の高いエネルギーのリーダーと位置づけ、経済成長と雇用機会をもたらす原子力エコシステムの構築にどのように貢献しているかを示すものだ」と強調した。ブルラン火力発電所は56年間の運転を経て、2023年に閉鎖。石炭依存を減らし、クリーンエネルギーに注力するというTVAの公約の一環である。タイプ・ワン・エナジー社は、リー知事自身が提案し、州政府が2023年に創設した「原子力基金」から資金提供を受けた初の企業でもある。同基金には5,000万ドル(約74億円)が投じられ、原子力関連企業の誘致や教育研究の強化に充てられている。同社のC. モウリーCEOは、「世界のエネルギー課題解決には、先見性あるパートナーとの大胆なコラボレーションが必要。リー知事やTVAと協力して、テネシー州を核融合の全国的なハブにしていく」と意気込みを語った。Infinity Twoの導入に必要な資金調達や建設、電力購入契約に関する最終決定や正式契約は、TVA理事会の承認や規制当局の審査、TVAの最低コスト計画および米国のエネルギー戦略との整合性が条件となる。
01 Oct 2025
917
米原子力規制委員会(NRC)は9月5日、フェルミ・アメリカ(Fermi America)社が申請した、ドナルド J. トランプ発電所に関する建設・運転一括認可申請(COLA)の最初の2部を受理した。同発電所には、米ウェスチングハウス(WE)社製の大型炉AP1000が4基導入される予定だ。米テキサス州を拠点とするフェルミ・アメリカ社は、元米エネルギー省(DOE)長官で元テキサス州知事のR. ペリー氏が共同創設者に名を連ねるエネルギー開発会社。次世代人工知能(AI)に不可欠なギガワット(GW=100万kW)規模の電力網の構築をめざし、テキサス工科大学(TTU)システム((テキサス州にある州立大学群))と提携。TTUシステムに世界最大の統合エネルギーとAIキャンパス「ドナルド J. トランプ大統領 先進エネルギー・インテリジェンス・キャンパス」(別名: プロジェクト・マタドール)を建設するプロジェクトを進めている。同プロジェクトは、テキサス州アマリロ郊外の約2,335万m²の敷地に建設される、世界最大級の民間初の電力網キャンパス。AP1000×4基(400万kWe)のほか、SMR(200万kWe)、ガス火力複合発電所(400万kWe)、太陽光発電とバッテリーエネルギー貯蔵システム(100万kWe)を組み合わせ、計1,100万kWeの独立電力供給インフラを確保する。これに連携する形で大規模なハイパースケールAIデータセンターを段階的に導入し、既存の電力網よりも安定性の高いエネルギーキャンパスとして、次世代AI技術を支える特化システムを構築する狙いだ。フェルミ・アメリカ社は今回受理されたCOLAの第1部を、6月17日に提出。一般的な情報や財務、環境に関するもので、続く8月20日に提出した第2部では、AP1000の標準設計を含む最終安全解析報告書の技術的部分(特定の建設予定地に依存しない章)や、その他の補足情報が含まれている。今後、第3部として、サイト固有の具体的な環境情報を2026年内に順次提出する予定。フェルミ・アメリカ社は今年8月、WE社とCOLA文書の完成と承認審査プロセスについて協力することで合意している。なおNRCは、規制効率化の一環として国家環境政策法(NEPA)に基づき、従来、NRCが作成していた環境影響評価書(EIS)を申請者(フェルミ・アメリカ社)自身がその草案を作成するパイロットプログラムを進めている。NRCのスケジュールによると、草案の提出期限は2026年2月28日で、NRCは審査をさらに効率化するために必要なフィードバックや情報提供を行うとともに、適切な時期にNRCの原子力安全・許認可委員会(ASLB)に審理を求めるとしている。さらにフェルミ・アメリカ社は9月5日、同プロジェクトに係る資金調達のため、米国証券取引委員会(SEC)に新規株式公開(IPO)の登録届出書を提出した。同社はAP1000の1基あたりの建設期間を約5年と見込み、迅速な規制当局の承認と多額の資金調達により、AP1000の初号機を2032年に、後続機を2034年~2036年に順次稼働させたい考えだ。
01 Oct 2025
743
スウェーデン政府は9月19日、2026年予算案で、新規原子力発電プラントの建設を支援するための財政枠組みを提案した。提案内容によれば、政府は最大2,200億スウェーデンクローナ(約3.5兆円)を投じ、12年間にわたって支援を行う方針だ。今後、議会の承認が必要である。この長期的な支援枠組みは、最大約500万kWeの新規原子力発電所への投資支援が対象。政府は、新規プラントが運転を開始してから最大40年間にわたって、年間平均10億~30億スウェーデンクローナ(158億~473億円)の価格保証も提供する予定だ。支援を受ける企業と政府の契約は2026年と2027年に予定されているが、2026年にはその約半分にあたる規模の申請が見込まれている。契約条件はプロジェクトごとに個別に交渉されるが、本支援スキームは欧州委員会(EC)の承認が必要であるため、個々の契約が調整される可能性があり、国のコストは最終的な建設価格と将来の電力価格の動向に左右される。政府の気候政策の基礎は、主に電化による化石燃料を使用しないエネルギーへの移行であり、安定的かつ競争力のある電力供給が不可欠だとして、原子力の拡充が重要な役割を果たすと認識されている。政府は今後、多くのサイトで効率的に許認可を進めるため、大・小規模の事業者双方に対応し、既存技術と新技術の双方を扱える許認可プロセスを2026年までに整備する方針。そのため2026年予算案では、放射線安全局、環境保護庁、県行政庁、国債管理庁、裁判所への予算として合計1.61億クローナ(約25億円)の追加措置が計上されている。さらに、環境許認可プロセスを簡素かつ効率的にしつつ、高水準の環境保護の維持を目的として、2027年7月1日に新たな環境審査庁の設立を予定し、2026年予算案に計上済み。但し、一度にすべての規制変更を導入すると逆に遅延を招く恐れがあるため、段階的に新機関の役割を導入するとし、当初は県行政庁から一部の責任が移管され、将来的には土地・環境裁判所の一部業務も新機関に移す計画である。議会は今年5月、国内の新規原子力発電プラントの建設を検討する企業への国家補助、新規プラントの運転時に市場リスクを軽減するため、運転事業者と政府による双方向の差金決済取引(CfD)制度の導入を含む国家支援の枠組みを確立する法律を可決した。支援対象は、大型炉4基分に相当する、最大500万kWeの発電設備容量を持つプロジェクトで、8月1日に施行され、新規建設プロジェクトへの支援申請が可能になっている。
30 Sep 2025
654
米グローバル・レーザー・エンリッチメント(GLE)社は9月16日、同社のノースカロライナ州にあるウィルミントンの試験ループ(Test Loop)施設において、大規模なウラン濃縮実証試験を完了し、レーザーを用いたウラン濃縮プロセスが商業的に展開可能であることを裏付ける豊富な性能データを収集したことを明らかにした。GLE社は、米国内における製造基盤や供給網を整備し、国内濃縮能力の確立を目指している。同社のS. ロングCEOは、「過去5か月にわたる実証試験活動により、当社は米国のウラン濃縮戦略のソリューションとなる体制を整えた。米国の電力供給の約20%は原子力に依存しており、GLEの取組みは、外国政府が支配する脆弱な燃料供給網への危険な依存からの脱却に資するものだ」と語った。なお、GLE社は2025年を通じて実証プログラムを継続し、数百キログラム規模の低濃縮ウラン(LEU)を生産する予定。GLE社はレーザー濃縮技術の商業化を目指し、豪サイレックス・システムズ社が51%、加カメコ社が49%所有する合弁企業。GLE社はサイレックス法(サイレックス社独自のレーザー分子法によるウラン濃縮技術)の独占行使権を保有している。GLE社はこれまでに、ノースカロライナ州とケンタッキー州で5.5億ドルを投じ、エンジニアリング、設計、製造、認可取得活動を進めてきた。現在、同社がケンタッキー州で計画しているパデューカ・レーザー濃縮施設(PLEF)は、米原子力規制委員会(NRC)が審査中の唯一の新規濃縮施設。GLEは今年7月にPLEFの建設と操業に向けた認可の申請を完了している。この認可申請は、GLE社が2012年9月に取得した、ノースカロライナ州ウィルミントンにおける商業規模のレーザー濃縮施設のNRCの建設・操業許可に基づいている。当時は市場環境が悪く、計画は進展しなかった。GLE社は2024年11月に米エネルギー省(DOE)が所有する、ケンタッキー州のパデューカ・ガス拡散工場(PGDP)跡地に隣接する665エーカー(約2.7㎢)の土地をPLEFの建設サイトとして取得しており、PLEFサイトの良好な特性から、認可取得は早まると予想されている。認可取得後、GLE社は2030年までにPGDPにある劣化六フッ化ウラン(DUF6)の再濃縮を開始する。これは、2012年11月のDOEとのDUF6の長期購入契約に基づいている。パデューカ・サイトでは、1960年代からガス拡散濃縮プラントが民生用の濃縮ウランを生産していたが、2013年に操業を停止し、サイトは現在、環境復旧プログラム下にある。PLEFで20万トン以上のDUF6を再濃縮し、最大6,000tSWU/年の生産能力となる見通し。これにより、GLE社は、ウランの転換から濃縮までを一拠点で担う、米国内の包括的な供給体制を構築したい考えだ。
29 Sep 2025
884
国営スロベニア電力(GENエネルギア)は9月4日、クルスコ原子力発電所の増設計画(JEK2プロジェクト)に関する技術的な実行可能性調査(TFS)の結果、フランス電力(EDF)が提案するEPRならびにEPR1200、米ウェスチングハウス(WE)社のAP1000のいずれの炉型もJEK2サイトにおいて技術的に実行可能であることが確認されたと明らかにした。GENエネルギアは今年1月、JEK2プロジェクトのTFS実施契約を、サプライヤー候補である仏EDFならびに米WE社と締結。WE社は、韓国の現代E&C(現代建設)社と協力してTFSを実施した。当初、TFS実施の入札を予定していた韓国水力・原子力(KHNP)は、ビジネス環境の評価と戦略的ビジネスの優先事項の変更のため、同入札に参加せず、JEK2プロジェクトの建設入札にも参加しないとGENエネルギアに通知していた。GENエネルギアは2024年5月、出力100万kWe~240万kWe規模の増設プラントを、スロベニアの電力システムへ接続した場合の安全性・安定性解析の結果、電力網への影響の観点から、JEK2プロジェクトの最適な設備容量は最大130万kWeであると結論づけた。JEK2の推定投資額(オーバーナイトコスト((金利負担を含まない建設費)))は9,300ユーロ/kWで、100万kWeのプラント増設で93億ユーロ、165万kWe増設で154億ユーロとの経済性評価を明らかにしている。なおGENエネルギアは、投資の経済的実行可能性を保証するJEK2の電力の最低販売価格を70.2ユーロ/MWhと推定している。TFSでは、スロベニアにおける特定の技術要件、欧州の法的要件、その他セキュリティ等を調査。両社の炉型は、いずれもJEK2の立地において技術的に実行可能であり、すべての規制枠組みに対応可能であると評価している。GENエネルギアの新規原子力施設部門責任者V. プラニンク氏によると、各設計は洪水や地震リスクを考慮し、既存の環境に安全かつ効率的に適合できることを確認済みで、設計寿命は60年とされており、条件を満たせば最大80年まで延長可能。サイトは、使用済み燃料や低・中レベル放射性廃棄物の一時的な乾式貯蔵施設の建設にも十分なスペースがあることを確認。調査では特に、環境影響の評価に重点が置かれ、提案されている炉型は自然通風冷却塔を採用、サヴァ川への影響を最小限に抑え、炭素排出量も最小となる、環境的に最も受入れ可能な方法であるとしている。同プロジェクトはまた、地域に広範な経済的利益をもたらし、地元企業のサプライチェーンへの参入、新規雇用の創出、インフラ整備、サービス開発などを通じて、人口の定着に寄与すると強調。投資額の見積もりも、2024年5月の経済性評価の範囲内に収まっているという。現在、増設に係わるプロセスの透明性の確保のために、JEK2の国家空間計画(DPN)イニシアチブの一般公開が今年7月から10月末まで進行中であり、一般の人々が提案や質問を行う。その後、DPNの開始に関する政府決定に続き、環境影響評価を実施する計画だ。GENエネルギアは、透明性を確保しながら、2028年までにJEK2プロジェクトの是非を問う国民投票を実施し、最終投資決定(FID)を予定。FIDから建築許可の取得までの期間を約4年、推定建設期間(サイト内の建設工事の開始から発電の開始まで)は7年と見込んでいる。スロベニアでは当初、2024年11月に国民投票の実施を計画していたが、その合法性やプロジェクトの透明性を疑問視する環境団体や世論の批判を受け、国民投票の実施を中止した。同社は、EU各加盟国が策定する国家エネルギー・気候計画(NECP)に基づき、2040年までに大型炉、2050年までにJEK2プロジェクトを補完するSMR(設備容量約25万kWe)の導入を想定しており、SMRを設置する可能性のある場所を特定するための作業も並行して実施している。スロベニアでは現在、クルスコ原子力発電所(PWR、72.7万kWe)が同国の総発電電力量の約35%を供給している。同発電所はGENエネルギアと隣国クロアチアの国営電力会社のHrvatska elektroprivreda(HEP)が共同所有。WE社は運転と燃料供給のサポートを通じて、GENエネルギアと数十年にわたるパートナーシップを有する。スロベニアの電力需要は、2050年までに倍増することが予想されているが、2033年以降は総発電電力量の約3分の1を供給する火力発電所を閉鎖する計画だ。2043年にはクルスコ発電所の運転期間(60年)も満了する。
29 Sep 2025
519
国際原子力機関(IAEA)の総会初日の9月15日に開催された、ベルギー主催のサイドイベントで、IAEAによる原子力調和・標準化イニシアチブ(NHSI)を活用した、小型モジュール炉(SMR)の国際的な共同事前認可プロセスが始動した。調印式には、IAEAのR. グロッシー事務局長も出席した。IAEAは2022年7月、SMRを始めとする先進炉の世界展開に備え、NHSIを立ち上げた。設計が標準化されることで、迅速かつ効率的に複数の国において認可され、かつ安全に導入されるために、各国間の規制と設計のアプローチを調和させる方法を追究している。今回、NHSIの対象となったのは、第4世代の鉛冷却型小型高速炉「EAGLES-300」。国際的な事前認可パイロットプロジェクトにおいて、ベルギー、ルーマニア、イタリアの各原子力規制当局が規制アプローチの調和で連携し、IAEAはこの取組みをNHSIのパイロットプロジェクトとして支援していく方針だ。イタリアのアンサルド・ヌクレアーレ(Ansaldo Nucleare)社、同経済開発省傘下の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)、ベルギー原子力研究センター(SCK-CEN)、およびルーマニアの国営原子力技術会社(RATEN)の4者は今年6月、第4世代の鉛冷却式の小型モジュール炉(SMR)の設計と商業化に取組むため、「イーグルス・コンソーシアム(Eagles Consortium)」を設立。同コンソーシアムは、欧州の産業界のリーダーと原子力研究機関とのユニークなコラボレーションにより、ベルギー、イタリア、ルーマニアの産業のノウハウと液体金属に関する研究の専門知識を組合せ、LEANDREAとALFREDという2つの主要試験施設により、第4世代の鉛冷却高速炉「EAGLES-300」(30万kWe)の実証炉を2035年までにベルギーで建設し、2039年には商業化と広範な展開を目指している。同コンソーシアムは、これまで先進的SMRの開発段階で各国の規制当局がコンソーシアムの設立からわずか3か月後という早い段階から連携したことはなく、安全要件等で最初から合意することは、規制の調和と商業化の道のりにおいて重要なステップになると強調している。SMRは国際的な展開と量産を前提に設計されているが、各国が独自の規制や手続きを維持すれば、開発者はその都度、長期にわたる認可プロセスに直面し、展開が遅れるため、SMRのスケールメリットが損なわれる。規制の調和は、より迅速で効率的かつ安全な商業化を可能にするとの考えだ。事前認可は承認を得ることが目的ではなく、原子力規制当局と開発者が正式な許可申請前の早い段階で対話を行い、安全要件、技術的課題、規制枠組みについて相互理解を築くことが狙い。同コンソーシアムは、鉛冷却型SMRのような先進技術においては、事前認可により初期段階でボトルネックを特定するのに役立つと指摘する。一般的に、まずは安全原則といった大枠から始まり、徐々に詳細な技術議論へと進み、次の正式な認可手続きでは、各国の規制当局が炉設計について、安全性、セキュリティ、放射線防護、環境影響に関する法的・技術的要件を満たしているかを審査するという。先進炉やSMRの安全かつ確実な導入促進を目的とした同イニシアチブにおいて最初の具体的な一歩であるとし、IAEAのグロッシー事務局長は、「欧州の原子力イノベーションにとって飛躍的な前進であり、地域協力の強力な事例だ」と語った。
26 Sep 2025
731
韓国水力・原子力(KHNP)は9月4日、米国で唯一ウラン転換施設を操業するコンバーダイン(ConverDyn)社と転換ウラン長期供給契約を締結した。契約に調印したKHNPのJ. ファンCEOは、「今回の契約は転換ウランの安定的な需給を通じてエネルギー安全保障を強化するだけでなく、両国間の原子力協力をより強固にする機会になる」と語った。KHNPは、米政府の原子力復興政策の推進や最近の両国首脳外交、ウラン濃縮供給会社のセントラス社との新遠心分離機プラント建設への共同出資の合意を背景に、米国内施設で濃縮ウランの生産に必要な原料をあらかじめ確保し、両国間の信頼と協力基盤を一層強化する足場にしたい考えだ。コンバーダイン社は、米国の多国籍企業であるハネウェル社とゼネラル・アトミックス社折半出資の合弁企業で、北米、欧州、アジアの原子力発電事業者に六フッ化ウラン(UF6)の転換と関連サービスを提供。イリノイ州メトロポリスで、米国唯一の転換プラントであるメトロポリス・ワークス(MTW)プラントを操業する。同プラントは2017年~2023年にかけて、市場環境の悪化により一時的に操業を停止していたが、2023年7月に再開されている。
26 Sep 2025
592
国際原子力機関(IAEA)は9月15日、世界の原子力発電の中長期的な傾向を分析した最新報告書「2050年までの世界のエネルギー・電力・原子力発電予測」(第45版)を公表し、5年連続で原子力発電の見通しを上方修正した。IAEAのR. グロッシー事務局長は「年次予測が着実に増加していることは、原子力が不可欠であるという世界的な合意が高まりつつあることの証左」としたうえで、「原子力はすべての人々にとって、クリーンで信頼性が高く、持続可能なエネルギーを実現するために不可欠」と強調している。新たな見通しによると、高予測ケースでは、世界の原子力発電設備容量は2024年末時点の3億7,700万kWeから2050年までに9億9,200万kWeと2.6倍に増加する見通し。一方、低予測ケースでも約50%増の5億6,100万kWeに達すると予想されている。IAEAは、2011年の福島第一原子力発電所事故以降初めて2021年に年次予測を上方修正、それ以降、高予測ケースにおける原子力発電設備容量の見通しは、2021年の7億9,200万kWeから25%増加している。また近年、注目を集める小型モジュール炉(SMR)については、2050年までに高予測ケースでは今後追加される設備容量(6億7,600万kWe)のうちの24%、低予測ケースでは今後追加される設備容量(3億2,000万kWe)のうちの5%を占めると見込まれている。IAEAによると、近年では多国間開発銀行などの金融機関や大手テクノロジー企業の間で、SMRを含む原子力支援への関心が高まっている。これらの多くは、2023年12月のCOP28で発表された「原子力3倍化宣言」を支持しており、さらに世界銀行を含む多国間開発銀行との原子力政策に関する関与が、前向きな変化をもたらしているとIAEAは分析している。IAEAはまた、現在運転中の原子力発電所の約3分の2が30年以上、約40%が40年以上運転している現状をふまえ、今後多くの新規建設が必要になると分析。また新規建設に加え、既存炉の運転期間延長が重要になるとも強調している。IAEAによると、既存炉の運転期間延長は、低排出電力のうち最も費用対効果の高い方法であり、大規模な原子力発電プラントを有する複数の国や地域で、運転期間延長を支援するための取組みが進行中である。さらに、長期運転に向けた経年化管理プログラムの実施例も増えているほか、自由化された電力市場での既存炉の競争力を支援する、新たな政策措置も導入されつつあるとした。
26 Sep 2025
1109
米国で先進炉と燃料リサイクルの開発を進めているオクロ社は9月22日、アイダホ国立研究所(INL)サイトで、初となるオーロラ発電所(オーロラ-INL)の起工式を開催した。起工式には、D. バーガム内務長官、L. ゼルディン環境保護庁長官のほか、アイダホ州のB. リトル知事、米原子力規制委員会(NRC)のB. クロウェル委員、米エネルギー省(DOE)のM. ゴフ首席次官補代理らが出席した。バーガム内務長官は、「オーロラ発電所は、クリーンかつ安価で信頼性の高い電力供給を可能にする。人工知能(AI)の進歩により電力需要が増加する中、そのニーズを満たし、世界のAI競争の最前線に留まり続けるために不可欠だ。トランプ大統領の『米国のエネルギー支配アジェンダ』下でイノベーションとエネルギー増産が実現する」と語った。オーロラは、金属燃料を使用するナトリウム冷却高速炉のマイクロ炉で、出力は顧客のニーズに合わせて1.5万kWeと5万kWeのユニットで柔軟に調整。少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能である。1964年から1994年までアイダホ州で稼働した実験増殖炉Ⅱ(EBR-Ⅱ)の設計と運転をベースにしている。オクロ社は2019年にDOEからEBR-Ⅱから回収された燃料を割当てられ、INLのオーロラ燃料製造施設(A3F)で初期炉心の製造に向けて、DOE認可の4つのステップのうち2つを完了している。オーロラ-INLは、DOEが新たに設立した原子炉パイロットプログラムに参加。今年7月には、建設運転一括認可(COL)申請のフェーズ1に関する事前審査を完了し、年内にCOLの申請を予定している。北米最大級の建設・エンジニアリング企業キウィット社の子会社であるキウィット ニュークリア ソリューションズ社は、2025年7月に発表されたマスター・サービス契約に基づき、発電所の設計、調達、建設をリード・コンストラクターとして支援。建設中に約370人の雇用と、発電所と燃料製造施設を運営する70〜80人の長期で高スキルの雇用創出が期待されているという。テネシー州に燃料リサイクル施設の建設へオクロ社は9月4日、テネシー州オークリッジにあるオークリッジ・ヘリテージ・センターの約100 haの敷地に、総額16.8億ドルを投じて、先進燃料センターにおける第一フェーズとして燃料リサイクル施設を設計、建設、操業する計画を発表した。使用済み燃料を先進炉向けの燃料に変換し、国内に供給する。国内初となる民間資金による施設を建設し、コストの削減、高レベルの雇用の創出、持続的な燃料供給の確立を目指している。オクロ社はテネシー峡谷開発公社(TVA)と共同で、同施設で電力会社の使用済み燃料をリサイクルし、将来、建設予定の発電所からTVAへの電力販売を評価する機会を模索している。米国の電力会社が最新の電気化学プロセスにより自社の使用済み燃料をリサイクルし、従来の負債を資源に変えることを模索する初の試みとなる。オクロ社のJ. デウィットCEOは、「使用済み燃料を大規模にリサイクルすることで、廃棄物をギガワットの電力に変え、コストを削減。クリーンで信頼性が高く、手頃な価格の電力供給を支援するサプライチェーンを確立していく」と抱負を語った。同社は、同施設で使用済み燃料から燃料材料を回収し、オーロラ発電所のような高速炉用の金属燃料に加工。このプロセスにより、廃棄物量を削減し、より経済的でクリーンかつ効率的な廃棄を実現したい考えだ。同施設は、規制当局による承認を経て、2030年代初めまでに燃料生産を開始する計画である。TVAのD. モールCEOは、「テネシー州は米国の原子力ルネサンスの中核。リー知事のリーダーシップの下、州はアメリカのエネルギーの未来を築く企業の誘致をリードしている。当社は、AIインフラを強化し、経済成長を促進するために必要な次世代の原子力技術を開発するオクロ社の取組みを支援していく」と語った。オクロ社によると、全国の発電所サイトに保管されている94,000トン以上の使用済み燃料に含まれるリサイクル可能な燃料から得られるエネルギーは、約1.3兆バレルの石油、サウジアラビアの原油埋蔵量の5倍に相当。今年5月の大統領令は、規制の近代化、原子炉試験の合理化、国家安全保障のための原子炉の配備、原子力産業基盤の強化など、原子力の新たな方向性を示しており、オークリッジはそれに従っているという。テネシー州には原子力研究および教育プログラムの開発を支援する原子力基金があり、オクロ社はそれを利用する5番目の原子力関連企業だという。
24 Sep 2025
2547
経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)と韓国政府(産業通商資源部)が9月18日~19日にフランスのパリで「新原子力2025へのロードマップ」ハイレベル会議を共催したのを機に、原子力産業を代表する9業界団体((日本原子力産業協会(JAIF)の他、カナダ原子力協会(CNA)、米国電力研究所(EPRI)、仏原子力産業協会(GIFEN)、韓国原子力産業協会(KAIF)、米原子力エネルギー協会(NEI)、英国原子力産業協会(NIA)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、世界原子力協会(WNA)の計9団体。))は9月18日、エネルギー安全保障の強化とクリーンで豊富な電力供給に対する世界的な需要の高まりに対応するために、各国政府に対して原子力への投資支援を呼びかける共同声明を発出した。 2023年、2024年にも開催されたこの年次ハイレベル会議には、政府と産業界のリーダーが一堂に会し、原子力に対する世界的な期待の高まりに応えるべく、必要な規模とペースで新規原子力発電所を建設するために必要な喫緊の課題について協議している。今回の会議では、多国間開発銀行やここ数か月間に原子力融資を発表した主要な民間資本関係者も参加し、原子力発電の規模拡大に不可欠な政策と資金調達のほか、タイムリーな建設や熟練した労働力の育成、燃料供給の確保、原子力部門のサプライチェーンに焦点を当てた協議が行われた。欧州原子力産業協会(Nucleareurope)のE. ブルティン事務局長は、「世界中の政府は、信頼性が高く、手頃な価格でクリーンな電力と熱を提供する上での原子力の重要な役割に合意している」と述べ、「政府は、大規模な新規建設から既設炉の出力増強と運転期間延長、小型モジュール炉(SMR)やマイクロ炉の開発と展開まで、あらゆる原子力技術を網羅するプロジェクトへの投資を支援する必要がある」と強調した。同声明では、政府に対して以下の分野で具体的な行動を起こすように提起している。 経済効率性の観点から、技術的に可能な既設炉の長期運転を確保する。新しい原子力プロジェクト(大型炉、SMR、先端技術)や原子力バリューチェーン、燃料サイクル施設を促進するための一貫性のある長期政策を確保する。ロシア製燃料と機器利用を段階的に廃止する多くのOECD諸国の意図を踏まえ、特に採掘、転換、濃縮に重点を置いた燃料サイクルを含む、原子力バリューチェーン全体を支援するための大胆な措置を引き続き講じる。クリーンエネルギー源に対して技術中立性を適用し、エネルギー部門の拡大を成功させる。これはエネルギーの最終消費者にとって不可欠であり、原子力部門への投資に対して明確なシグナルを送るためにも必要。さらに、原子力が国際的な炭素削減メカニズムにおける正当な取引手段として認められるようにする。世界銀行が原子力プロジェクトへの資金提供に前向きな姿勢を示していることを踏まえ、民間の資金調達も促進するため、国内および多国間レベルでの公的資金へのアクセスを可能にする。OECD域内および他国で新規プロジェクトを実現するOECDの可能性を最大限に引き出すために、強力かつ協力的な原子力サプライチェーンを支援する。規制当局間の連携強化により、設計のさらなる標準化を可能にし、コストの削減、フリートの展開を促進する。同産業団体は、気候変動とエネルギー安全保障の要請に応えるため、原子力開発を支援するという各国政府の取組みに対し、引き続き協力する用意があるとしている。
22 Sep 2025
953
米原子力新興企業のケイロス・パワー社とBWXテクノロジーズ(BWXT)社は9月3日、ケイロス社の先進炉やその他の潜在顧客への燃料供給に向けて、TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料の商業生産に向けた技術および製造プロセスの最適化を共同で検討することで合意した。今回の協力により、ケイロス社の環状の黒鉛ペブル製造能力と、BWXT社の20年以上にわたるTRISO燃料製造の経験を融合させ、ケイロス社が建設するヘルメス2実証プラントと後続の商業プラントの展開に向けた燃料供給の可能性を探る。ケイロス社が開発する商業炉のフッ化物塩冷却高温炉(KP-FHR)は、ゴルフボール大の環状黒鉛ペブルで被覆されたTRISO燃料を使用する。両社は、ケイロス社のニューメキシコ州にあるアルバカーキ・キャンパス内のTRISO開発ラボ(TDL)、バージニア州リンチバーグにあるBWXTイノベーション・キャンパス、さらにBWXT社の既存のTRISO製造ラインを活用し、TRISO燃料製造とプロセス自動化の最適化を検討する。両社はまた、TRISO燃料製造施設を共同で開発する可能性を探ることで合意。同施設には、これまでのノウハウに加え、商業用燃料生産のための新たな技術が組み込まれる予定だ。ケイロス社は、両社の燃料製造に関する知識と専門性を組み合わせ、効率的かつコスト効果の高い大量生産型TRISO被覆粒子燃料の開発によって、商業炉のスケールアップと燃料コストの低減を図る。同社のM. ハケット副社長(燃料・材料部門)は、「BWXT社との協力により、TRISO燃料製造プロセスにおけるイノベーションを加速させ、生産・自動化・効率性向上を早期に実現することで、将来の燃料コスト削減が可能になる」と語った。BWXT社のJ. パーカー先進燃料部門シニアディレクターは、「ケイロス社や他のベンダーが先進炉展開の計画を進める中、TRISO燃料の製造能力への投資は、将来の先進炉フリートにコスト競争力のある燃料供給のカギとなる。開発を加速させ、ケイロス社、BWXT社、そしてより広い先進炉コミュニティへ経済的なTRISO燃料の安定供給を実現していく」と語った。TRISO燃料は、米エネルギー省(DOE)によって開発された実証済みの技術で、「地球上で最も堅牢な燃料」とされている。TRISO粒子は、ウラン・炭素・酸素からなる燃料コアを、放射性核分裂生成物の放出を防ぐ3層の炭素系およびセラミック系の3重層で被覆した構造。ケイロス社は、TRISO燃料とフッ化物溶融塩冷却材を組み合わせ、堅牢な固有安全性を備えた、シンプルでコンパクト設計の先進炉の実現を目指している。
22 Sep 2025
678
米国のD. トランプ大統領による英国への国賓訪問を機に、両国は9月18日、人工知能(AI)、民生用原子力、核融合、量子技術などの戦略的科学技術分野において連携を強化する技術協定に調印した。原子力分野では、先進炉、先進燃料、核融合の分野での連携を深め、核分裂および核融合のイノベーションの最前線に留まり続けることを目指すとしている。また、両国において原子力発電所の増設を推進し、クリーンエネルギー分野への数十億ポンドの民間投資を後押しすることになるという。同協定では、協力の重点項目として以下を掲げている。新たな市場への原子力展開に向けて安全かつ安心な基盤を構築するとともに、不拡散および安全保障プログラムに関する協力を強化する。両国における先進炉の展開加速に向け、市場の障壁を特定・対処しつつ商業パートナーシップを促進する。米原子力規制委員会(NRC)、英原子力規制庁(ONR)、英環境庁(EA)がライセンスの合理化と迅速化を図れるよう支援し、原子炉設計レビューを2年以内、サイトライセンスを1年以内に完了する。両国における先進燃料の安全かつ信頼性の高いサプライチェーンを確保し、先進炉計画を支援する多様な燃料供給体制を確保する。また、2028年末までにロシア製燃料からの完全な脱却を目指す。先進炉および先進燃料分野において世界的なリーダーシップを推進し、第三国への民生用原子力輸出の安全かつ確実な展開を支援する。研究、開発、実験施設やデータの利用調整を促進し、AI技術と組み合わせて、コスト競争力のある商業用核融合発電に向けた道筋を構築する。両国主導による核融合市場の形成を支援するために、調和のとれた責任あるイノベーションの促進政策と規制の開発を主導する。民生用の海上用途を含む先進原子力の新たな応用機会を模索し、国際基準の確立や両国の領土間の海上輸送回廊の整備、検討を進める。また、防衛施設のエネルギー・レジリエンスも強化する。協定の発効後、6か月以内に閣僚レベルの作業部会を設置、協力の優先順位の設定や、共同イニシアチブの実施を監督するとしている。さらに、トランプ米大統領の訪英に先立つ9月15日には、「原子力の黄金時代」と称される両国企業間の複数の合意が発表された。英政府は、英ロールス・ロイス社と米BWXT社の既存の原子力分野における長い協力関係に続き、以下の新たな企業間の提携により、両国企業による市場へのアクセスが拡大されると強調している。英国のエネルギー供給会社であるセントリカ社は、米国の先進炉開発企業のX-エナジー社と提携して、イングランド北東部のハートルプールに最大12基の先進炉を建設。150万世帯への電力供給と最大2,500人の雇用創出を見込む。経済効果は少なくとも400億ポンド、そのうち120億ポンドがイングランド北東部に集中。米ホルテック・インターナショナル社、英EDFエナジー社、英不動産投資企業のトライタックス社は、ノッティンガムシャーの旧コッタム石炭火力発電所に小型モジュール炉(SMR)を導入し、高度なデータセンターを開発する計画。ホルテック社はプロジェクトコストを約110億ポンドと見積る。数千人の高スキルの建設雇用の創出と、地域社会への長期にわたる経済効果を見込む。米国のマイクロ炉開発企業のラスト・エナジー社は、港湾運営会社DPワールド社のロンドン・ゲートウェイ港とビジネスパーク拡張にマイクロ炉「PWR-20」による電力を供給。8,000万ポンドの民間投資による世界初となる港湾中心のマイクロ炉発電所を建設する計画。英国に本拠地を置く濃縮事業者のウレンコ社と米国のマイクロ炉開発企業のラディアント社は、ラディアント社製マイクロ炉「カレイドス」向けの高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)燃料供給で、約400万ポンド相当の契約を締結。ウレンコ社は、英政府との共同出資により、英国に先進燃料製造施設を建設しており、米国でも同様の施設の建設を検討中。米国の原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社と英国のエンジニアリング企業のKBR社は、テラパワー社製先進炉「Natrium」導入のために英国でサイト調査を行う予定。各ユニットで約1,600名の建設雇用と250名の恒久雇用を創出。エネルギー貯蔵と組み合わせた安全で信頼性の高い、柔軟な電力を供給。英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のE. ミリバンド大臣は、「米国との協力により、原子力の黄金時代の恩恵を享受し、クリーンな国産エネルギーで英国の家庭に電力を供給、高給の熟練職を創出し、光熱費を永久に引き下げることが可能になる」と指摘。英原子力産業協会(NIA)の調べによると、原子力産業分野では政府主導の投資によって今年すでに11,000人の新規雇用を創出しており、現在98,000人の記録的な雇用が確認されているという。C. ライト米エネルギー省(DOE)長官は、「原子力を活用して、増大するエネルギー需要を満たし、AI革命を推進するには、世界中の同盟国との強固な連携と民間セクターの革新者たちとの緊密な協力が必要。今回の商業提携は、両国の商業的アクセスを促進する枠組みを構築し、世界のエネルギー安全保障を強化、米国のエネルギー優位性を高め、大西洋を跨ぐ原子力サプライチェーンを確保するものだ」と語った。なお、今回の協定調印によって、一方の国で既に厳格な安全審査を通過した原子炉については、その審査結果を他国が自国の評価に活用して作業の重複を回避、原子炉設計審査を迅速化して、新規原子力発電所の建設がより迅速に進められるようになる。両国はまた、サイトの認可プロセスに入る新規プロジェクトの作業負荷を分担し、認可を迅速化するために緊密に連携するとしている。
19 Sep 2025
1181
欧州連合(EU)の一般裁判所(General Court=下級審)は9月10日、環境的に持続可能な経済活動のためのEUの分類システム(タクソノミー)に原子力と天然ガスを含める規則の廃止を訴える、オーストリアの訴えを棄却。原子力と天然ガスの経済活動は環境的に持続可能な投資対象とみなすことができるとの判決を下した。EUは2050年までに「気候中立」を目指しており、2020年6月にEU立法府(欧州議会および欧州連合理事会)は、気候変動の緩和や適応に役立ち、持続可能な投資を促進するための「タクソノミー規則」を採択した。EU立法府は、どの条件の下で経済活動が気候変動の緩和や適応に大きく寄与するか、また他の環境目的に著しい害を及ぼすか否かを判断する技術的審査基準を策定する権限を欧州委員会(EC)に委任した。ECは2021年6月、再生可能エネルギー分野の活動に関する技術的審査基準を定める委任規則を採択。さらに2022年3月、ECは前年の規則を改定し、原子力ならびに天然ガス分野の一定条件下の活動を気候変動の緩和や適応に大きく寄与する活動のカテゴリーに含める技術的審査基準を定める委任規則を採択した。オーストリアは、持続可能な投資スキームに原子力ならびに天然ガス分野の活動を含む委任規則の無効を求めて、2022年10月、ルクセンブルクにある一般裁判所にECを提訴していた。今回、一般裁判所は、同委任規則が採用したアプローチは供給の安全性を確保しつつ、段階的に温室効果ガス排出量を削減する漸進的アプローチであり、原子力ならびに天然ガス分野の経済活動が一定の条件下で気候変動の緩和と適応に実質的に寄与し得るという見解を是認。その理由に以下を挙げた。原子力および天然ガスを持続可能な投資制度に含めたことにより、ECはEU立法府から適切に付与された権限を超過したわけではない。ECは、原子力発電が温室効果ガス排出量をほぼゼロに抑えており、また十分な規模でエネルギー需要を継続的かつ安定的に賄う技術的・経済的に実現可能な低炭素代替手段(再生可能エネルギーなど)が現在存在しないことを考慮する正当な権限を有していた。ECは、原子力発電所の通常運転に伴うリスク、深刻な炉心事故、高レベル放射性廃棄物に関するリスクを十分に考慮。ECには既存の規制枠組みを超える防護水準を要求する義務はなかった。オーストリアが主張した干ばつや気候災害による原子力への悪影響についての議論は、受け入れるにはあまりに推測的であると判断された。さらに、他のエネルギー発電分野の経済活動と同様に、ECにはウラン鉱石の採掘・加工、ウランの精製・転換・濃縮、燃料集合体の製造や輸送といった上流や下流の活動、あるいは武力紛争、破壊工作、民生・軍事用途の悪用や拡散のリスクを考慮する義務はなかった。なお、本裁判において、オーストリアはルクセンブルクの支持を得ており、一方のECは、ブルガリア、チェコ、フランス、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランドの支持を得ていたという。一般裁判所の決定に対しては、2か月と10日以内に、司法裁判所(Court of Justice)に上訴できるが、上訴は法律の適用や解釈上の問題の扱いに限定されている。
18 Sep 2025
1243
国際原子力機関(IAEA)の第69回通常総会が9月15日から19日の日程で、オーストリアのウィーンで開催されている。IAEAが世界中で活動を展開していることを反映し、今年のIAEA総会には、155か国から3,100人以上が出席。非政府組織(NGO)からの参加者数は、2021年以降2倍以上に増加、政府間機関(IGO)からの参加者数も増加した。開会の冒頭にスピーチしたIAEAのR. グロッシー事務局長は、「今年の総会は、軍事紛争、テロリズム、核規範の崩壊、不平等の拡大が顕在化し、世界的な緊張が深刻な時期に開催されている。我々の決意が試されており、IAEAはこの挑戦に立ち向かう」と表明。加盟国に対し、国際平和の最重要基盤の一つである不拡散体制、NPTへのコミットを強く要請した。同事務局長はまた、IAEAが核兵器拡散のリスク、核戦争のリスクの軽減をはじめとし、原子力による電力供給、食料供給、がん治療への支援まで、独自の任務を通じた幅広い貢献について説明。かつて、原子力発電の利点と優れた安全実績が気候目標の達成に果たす役割について公の場で話すことすら躊躇されていたが、3年前に急遽、エネルギー安全保障が優先され、多くの国で原子力発電が議題となったと言及。同事務局長はこれを「リアリズムへの回帰」と表現し、2050年までに原子力発電設備容量が2.5倍に増加するとの見方を示した。グロッシー事務局長はその背景として、アフリカ、欧州、南北アメリカ、アジアにおける原子力の初導入や既設炉の増強への関心の高まりを挙げ、40か国近くが、初期調査の実施から初号機の建設までさまざまな開発段階にあり、さらに20か国以上が、将来のエネルギーミックスの一部として原子力を検討していると言及。IAEAのマイルストーン・アプローチは、新規導入においてゴールドスタンダードではあるが、原子力発電の開発には、新規導入国への支援、規制対応、資金調達を考慮する必要があり、IAEAが統合原子力インフラレビュー(INIR)ミッションの実施や、各国当局、規制当局、ステークホルダーに対するトレーニングを目的とした小型モジュール炉(SMR)スクールを開催している事例を紹介した。また、水素製造から工業用熱、海水淡水化から船舶推進など、原子力の非電力用途についても支援を継続し、特に海洋でのSMR利用についてはIAEAの新たなイニシアチブであるATLAS(海上での応用のための原子力技術ライセンス)を通じて、支援を強化していく方針を示した。規制対応については、SMRの世界展開に備え、原子力の調和および標準化イニシアチブ (NHSI)を立ち上げ、標準化された設計が、迅速かつ効率的に複数の国において認可され、かつ安全に導入されるために、各国間の規制と設計のアプローチを調和させる方法を追究していると説明した。また、資金調達の面においても、EUのタクソノミーのような先進国向けの強力な支援の枠組みだけでなく、開発途上国が取り残されないためにIAEAが開発銀行や国際金融機関への働き掛けを行ってきたと説明。世界銀行はすでに、エネルギーミックスに原子力の追加を積極的に検討している国々に資金調達が可能になる道を拓いたが、その他の開発銀行や国際金融機関が来年の総会までに世界銀行に追随することに期待を寄せた。一方で、現地における原子力の社会的許容こそ、原子力運用の最初のライセンスであると念押しした。これに続く各国代表からの一般討論演説では、日本から参加した城内実科学技術政策担当大臣が登壇。冒頭、広島と長崎に原爆が投下されてから80年を迎え、この悲劇を決して繰り返してはならないとの確固たる信念のもと、核兵器のない世界の実現に向けて国際的な取組みを主導していくと決意を表明。国際社会の分断は深まり、安全保障環境が困難な状況下において、IAEAの核不拡散及び原子力の平和利用における役割は、これまで以上に重要であり、日本がIAEAの取組みに全面的な支援を継続していくと語った。また、日本はIAEAの発電のみならず、農業や医療などの幅広い分野における原子力利用に係る取組みを支持し、IAEAと緊密に連携しながら、原子力利用を国内外で推進する方針を示した。今年2月に決定された第7次エネルギー基本計画に示されているように、安全を最優先に、脱炭素電源の一つとして原子力発電を最大限活用するとともに、国際協力による次世代原子炉や核融合エネルギーの研究開発を推進していくとした。ALPS処理水の海洋放出は、原子力規制委員会の関与のもと、14回にわたって計画的に安全に実施され、放出の安全性は、継続的な審査や近隣諸国を含む分析研究所や国際的な専門家による厳格なモニタリングを通じて、継続的に確認されていると紹介。福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組みについては、燃料デブリの試験的回収など、安全かつ着実な廃炉プロセスに向けて大きな進展が見られたとし、科学に基づく透明性の高い情報を国際社会に提供し、IAEAによるレビューとモニタリングに全面的に協力していくと語った。 ◇ ◇例年通りIAEA総会との併催で加盟国等による展示会も行われている。日本のブース展示では、「新しいエネルギー戦略のもとでの原子力発電」をテーマとし、革新軽水炉やSMRなど次世代革新炉の開発・設置にむけた取り組みを中心に、ウラン蓄電池研究開発や医療用RI利用アクションプログラムなども展示するとともに、試験的デブリ取り出しを開始した福島第一原子力発電所の廃炉進捗状況も紹介している。展示会初日には、日本政府代表の城内実科学技術政策担当大臣がブースのオープニングセレモニーに来訪。同大臣は挨拶の中で、日本は今後も世界に向けて、科学的かつ透明性高く情報発信を継続していくと訴えた。今回のブースでは、復興庁の協力を得て福島の情報も発信。日本原子力産業協会の増井理事長による乾杯では、福島県産の日本酒がブース来訪者に振舞われ、福島の復興を後押しする機会ともなった。
17 Sep 2025
1183
国際原子力機関(IAEA)はこのほど、G20エネルギー移行ワーキンググループ向けに「アフリカの原子力エネルギーの見通し(Outlook for Nuclear Energy in Africa)」を発表した。これは、G20議長国である南アフリカの要請に基づき作成されたもので、アフリカ諸国が直面する資金調達やエネルギー計画、インフラ開発の課題などに加え、アフリカのような、小規模電力系統や資本制約のある国々に適した選択肢として、小型モジュール炉(SMR)の導入可能性を強調している。報告書によると、アフリカ大陸では現在、約5億人が電力にアクセスできず、依然として化石燃料への依存度が高い。IAEAはこうした状況をふまえ、多くのアフリカ諸国がエネルギー安全保障の強化と温室効果ガス排出削減を同時に実現するための手段として、原子力発電に注目していると指摘。現在アフリカで商用炉を運転しているのは南アフリカのみだが、エジプトでは2028年の稼働をめざして4基が建設中。さらに、ガーナ、ナイジェリア、ケニアが原子力発電の導入計画を進めており、さらに10か国が検討段階にある。IAEAによると、世界で原子力導入を検討・準備している約55か国のうち、22か国がアフリカに集中している。IAEAは、2050年までにアフリカの総発電設備容量は大幅に増加すると予想。原子力発電設備容量については、高ケースシナリオでは2022年時点の原子力発電設備容量(190万kW)と比較して、2030年までに3倍、2050年までには10倍に拡大する可能性があり、その実現には1,000億ドル以上の投資が必要になると見込んでいる。一方、低ケースシナリオでも2030年までに2倍、2050年までには5倍に増加する可能性があるとしている。中でもSMRは、小規模グリッドや経済規模の小さいアフリカ諸国にとって、有望な選択肢とされる。その一方で、商業的に利用可能なリファレンス・プラントは現状、2023年12月に営業運転を開始した中国の高温ガス炉である華能山東石島湾原子力発電所(HTGR=HTR-PM, 21.1万kW)ならびに2020年5月に営業運転を開始したロシアの浮揚型原子力発電所アカデミック・ロモノソフ(PWR=KLT-40S, 3.5万kW×2基)と2つのプラントに限られていることから、IAEAは今後の技術進展が普及のカギとしている。また資金面では、世界銀行やアフリカ開発銀行など国際金融機関の関与が不可欠であり、過剰債務を回避するための革新的な金融手法の検討も課題と指摘した。IAEAはまた、アフリカ諸国が世界の主要なウラン供給国として国際市場で重要な役割を担っている点を強調。さらに、大陸唯一の原子力発電国である南アフリカの確立したサプライチェーンは、他国にとっても参考となるモデルになり得ると評価している。
17 Sep 2025
922
ポーランドの原子力プロジェクトをめぐるオピニオンリーダーたちが、このほど来日した。顔ぶれの多くは、かつて石炭で栄えた自治体の副市長クラスや議会関係者である。脱炭素とエネルギー安全保障の双方をにらみ、石炭火力の終幕と次の主役探しを同時に迫られる地域が、日本の原子力発電をめぐる非常時対応や廃止措置など、“現場”をその目で確かめに来た——その動機は切実だ。ポーランドは大型炉とSMRの“二正面作戦”を採る。大型炉はポモージェ県ルビアトボ=コパリノでAP1000×3基の建設計画が進み、8月末に県知事から準備作業許可を取得した。今秋から測量・フェンス設置・伐採・整地などの先行作業が順次始まる見込みで、2036~38年の段階的運転開始を見通すという。一方、SMRはGE日立製BWRX‑300を採用し、初号機建設サイトを化学コンビナートの街ブウォツワベクに決定。合弁会社OSGEが独占使用権を持ち、環境影響評価(EIA)と立地調査が進行している。今回来日したリーダーたちは、ベウハトフやコニンなどの石炭・褐炭地域が中心。これに中央政府のエネルギー省担当官が同行した形だ。一行は、日本原子力研究開発機構の「原子力緊急時支援・研修センター(NEAT)」(茨城県)でオフサイトセンターの運用や日本の緊急時システムについて見学した。福島第一サイトでは、工程管理や情報公開の透明性が、どのように社会的信頼を支えるのか、時間軸で追体験。玄海原子力発電所(佐賀県)では多重防護や特重施設、地震津波対策の考え方などを、福井県庁では原子力担当部署より、行政としての原子力との関わり方などを学んだ。4日間で日本各地を、駆け足で回ったことになる。ポーランドの石炭地域が他産業への移行を迫られているのは、欧州連合(EU)加盟後に強化されたEUの環境規制(LCPDからIED/BAT)への適合や欧州排出量取引制度(EU-ETS)の炭素価格上昇といった、規制および市場からの圧力に加え、主力であった褐炭資源の先細りが重なったためである。これに伴う雇用・地域経済の痛みを和らげる政策枠組みとしてJust Transition(公正な移行)が整備されてきた。地域の住民からは、期待と不安が入り混じった声があるという。現実的な移行が目前に迫る中、地域のリーダーたちが語った「次の10年」はきわめて実務的だ。第一に一貫した人材育成の道筋である。初等・中等から大学、工科系へと、地域の若者が段階的に学び、将来の担い手へと育つ道筋を用意する。「学校で論理的に説明すること」を重視し、テクノロジーや安全文化を丁寧に説明していく姿勢が強調された。チョルノービリ事故を知らない若い世代には、「感情的な賛否より、なぜ必要かを自分の言葉で理解してもらうことが効く」という。第二に既存の雇用や産業の連続性だ。鉱山や火力発電所の閉鎖が目前に迫る地域もあり、人口・雇用の大規模な減少への懸念は切実なようだ。20万人だった人口が、すでに5万人に激減している地域もあるという。だからこそ、石炭で培ったスキルを土台に、次の仕事を地元に残す(原子力の運転・建設・保全などへ職能を移す)という発想が中核になる。産業の維持の観点から、BWRX-300への期待が多く寄せられており、「SMRのサプライチェーンへ参画することで、既存の企業や人材の受け皿を広げていきたい」との声もあった。そして第三に、避難計画の策定など行政としての準備である。日本のシステムを学んだ上で、ポーランド版の緊急時システムをどう整えるか、引き続き検討していくという。また、特に日本に対し、施設運用や人材育成などの面で、実務的なセミナーやワークショップをポーランドで開催して欲しいとの要望が上がっていた。原子力産業新聞から「ポーランドの原子力プロジェクトにとっての最大の課題」を問われた、エネルギー省のZ.クバツキ原子力担当参事官は、「時間」と即答した。「許認可のプロセスがとにかく長い。ポーランドの場合、欧州委員会との調整も必要になる。調整を終えた後も着工から運開まで、ほぼ10年かかるだろう。時間が延びれば延びるほど、コストや制度面の前提が崩れやすくなる」。同氏は差額の清算で収入を安定させる仕組み、いわゆるCfDs(差金決済)にも触れ、「市場価格が高いときは事業者が払い戻し、低ければ差額を受け取るという設計は理解している。しかし、これが本格的に効果を発揮するのは運開後だろう。工期が長引けば長引くほど建設コストを吸収し切れなくなる」と懸念を示し、改めて「だからこそ“時間”が最大の課題だ」と強調した。
16 Sep 2025
892