英米 原子力パートナーシップを強化
19 Sep 2025
米国のD. トランプ大統領による英国への国賓訪問を機に、両国は9月18日、人工知能(AI)、民生用原子力、核融合、量子技術などの戦略的科学技術分野において連携を強化する技術協定に調印した。原子力分野では、先進炉、先進燃料、核融合の分野での連携を深め、核分裂および核融合のイノベーションの最前線に留まり続けることを目指すとしている。また、両国において原子力発電所の増設を推進し、クリーンエネルギー分野への数十億ポンドの民間投資を後押しすることになるという。
同協定では、協力の重点項目として以下を掲げている。
- 新たな市場への原子力展開に向けて安全かつ安心な基盤を構築するとともに、不拡散および安全保障プログラムに関する協力を強化する。
- 両国における先進炉の展開加速に向け、市場の障壁を特定・対処しつつ商業パートナーシップを促進する。
- 米原子力規制委員会(NRC)、英原子力規制庁(ONR)、英環境庁(EA)がライセンスの合理化と迅速化を図れるよう支援し、原子炉設計レビューを2年以内、サイトライセンスを1年以内に完了する。
- 両国における先進燃料の安全かつ信頼性の高いサプライチェーンを確保し、先進炉計画を支援する多様な燃料供給体制を確保する。また、2028年末までにロシア製燃料からの完全な脱却を目指す。
- 先進炉および先進燃料分野において世界的なリーダーシップを推進し、第三国への民生用原子力輸出の安全かつ確実な展開を支援する。
- 研究、開発、実験施設やデータの利用調整を促進し、AI技術と組み合わせて、コスト競争力のある商業用核融合発電に向けた道筋を構築する。
- 両国主導による核融合市場の形成を支援するために、調和のとれた責任あるイノベーションの促進政策と規制の開発を主導する。
- 民生用の海上用途を含む先進原子力の新たな応用機会を模索し、国際基準の確立や両国の領土間の海上輸送回廊の整備、検討を進める。また、防衛施設のエネルギー・レジリエンスも強化する。
協定の発効後、6か月以内に閣僚レベルの作業部会を設置、協力の優先順位の設定や、共同イニシアチブの実施を監督するとしている。
さらに、トランプ米大統領の訪英に先立つ9月15日には、「原子力の黄金時代」と称される両国企業間の複数の合意が発表された。英政府は、英ロールス・ロイス社と米BWXT社の既存の原子力分野における長い協力関係に続き、以下の新たな企業間の提携により、両国企業による市場へのアクセスが拡大されると強調している。
- 英国のエネルギー供給会社であるセントリカ社は、米国の先進炉開発企業のXエナジー社と提携して、イングランド北東部のハートルプールに最大12基の先進炉を建設。150万世帯への電力供給と最大2,500人の雇用創出を見込む。経済効果は少なくとも400億ポンド、そのうち120億ポンドがイングランド北東部に集中。
- 米ホルテック・インターナショナル社、英EDFエナジー社、英不動産投資企業のトライタックス社は、ノッティンガムシャーの旧コッタム石炭火力発電所に小型モジュール炉(SMR)を導入し、高度なデータセンターを開発する計画。ホルテック社はプロジェクトコストを約110億ポンドと見積る。数千人の高スキルの建設雇用の創出と、地域社会への長期にわたる経済効果を見込む。
- 米国のマイクロ開発企業のラスト・エナジー社は、港湾運営会社DPワールド社のロンドン・ゲートウェイ港とビジネスパーク拡張にマイクロ炉「PWR-20」による電力を供給。8,000万ポンドの民間投資による世界初となる港湾中心のマイクロ炉発電所を建設する計画。
- 英国に本拠地を置く濃縮事業者のウレンコ社と米国のマイクロ炉開発企業のラディアント社は、ラディアント社製マイクロ炉「カレイドス」向けの高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)燃料供給で、約400万ポンド相当の契約を締結。ウレンコ社は、英政府との共同出資により、英国に先進燃料製造施設を建設しており、米国でも同様の施設の建設を検討中。
- 米国の原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社と英国のエンジニアリング企業のKBR社は、テラパワー社製先進炉「Natrium」導入のために英国でサイト調査を行う予定。各ユニットで約1,600名の建設雇用と250名の恒久雇用を創出。エネルギー貯蔵と組み合わせた安全で信頼性の高い、柔軟な電力を供給。
英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のE. ミリバンド大臣は、「米国との協力により、原子力の黄金時代の恩恵を享受し、クリーンな国産エネルギーで英国の家庭に電力を供給、高給の熟練職を創出し、光熱費を永久に引き下げることが可能になる」と指摘。英原子力産業協会(NIA)の調べによると、原子力産業分野では政府主導の投資によって今年すでに11,000人の新規雇用を創出しており、現在98,000人の記録的な雇用が確認されているという。
C. ライト米エネルギー省(DOE)長官は、「原子力を活用して、増大するエネルギー需要を満たし、AI革命を推進するには、世界中の同盟国との強固な連携と民間セクターの革新者たちとの緊密な協力が必要。今回の商業提携は、両国の商業的アクセスを促進する枠組みを構築し、世界のエネルギー安全保障を強化、米国のエネルギー優位性を高め、大西洋を跨ぐ原子力サプライチェーンを確保するものだ」と語った。
なお、今回の協定調印によって、一方の国で既に厳格な安全審査を通過した原子炉については、その審査結果を他国が自国の評価に活用して作業の重複を回避、原子炉設計審査を迅速化して、新規原子力発電所の建設がより迅速に進められるようになる。両国はまた、サイトの認可プロセスに入る新規プロジェクトの作業負荷を分担し、認可を迅速化するために緊密に連携するとしている。