原子力産業新聞

海外NEWS

IAEA総会 世界的緊張の高まりに決意を表明

17 Sep 2025

木下雅仁/桜井久子

スピーチするグロッシー事務局長
© @rafaelmgrossi/ X

国際原子力機関(IAEA)の第69回通常総会915日から19日の日程で、オーストリアのウィーンで開催されている。

IAEAが世界中で活動を展開していることを反映し、今年のIAEA総会には、155か国から3,100人以上が出席。非政府組織(NGO)からの参加者数は、2021年以降2倍以上に増加、政府間機関(IGO)からの参加者数も増加した。

開会の冒頭にスピーチしたIAEAR. グロッシー事務局長は、「今年の総会は、軍事紛争、テロリズム、核規範の崩壊、不平等の拡大が顕在化し、世界的な緊張が深刻な時期に開催されている。我々の決意が試されており、IAEAはこの挑戦に立ち向かう」と表明。加盟国に対し、国際平和の最重要基盤の一つである不拡散体制、NPTへのコミットを強く要請した。

同事務局長はまた、IAEAが核兵器拡散のリスク、核戦争のリスクの軽減をはじめとし、原子力による電力供給、食料供給、がん治療への支援まで、独自の任務を通じた幅広い貢献について説明。かつて、原子力発電の利点と優れた安全実績が気候目標の達成に果たす役割について公の場で話すことすら躊躇されていたが、3年前に急遽、エネルギー安全保障が優先され、多くの国で原子力発電が議題となったと言及。同事務局長はこれを「リアリズムへの回帰」と表現し、2050年までに原子力発電設備容量が2.5倍に増加するとの見方を示した。

グロッシー事務局長はその背景として、アフリカ、欧州、南北アメリカ、アジアにおける原子力の初導入や既設炉の増強への関心の高まりを挙げ、40か国近くが、初期調査の実施から初号機の建設までさまざまな開発段階にあり、さらに20か国以上が、将来のエネルギーミックスの一部として原子力を検討していると言及。IAEAのマイルストーン・アプローチは、新規導入においてゴールドスタンダードではあるが、原子力発電の開発には、新規導入国への支援、規制対応、資金調達を考慮する必要があり、IAEAが統合原子力インフラレビュー(INIR)ミッションの実施や、各国当局、規制当局、ステークホルダーに対するトレーニングを目的とした小型モジュール炉(SMR)スクールを開催している事例を紹介した。また、水素製造から工業用熱、海水淡水化から船舶推進など、原子力の非電力用途についても支援を継続し、特に海洋でのSMR利用についてはIAEAの新たなイニシアチブであるATLAS(海上での応用のための原子力技術ライセンス)を通じて、支援を強化していく方針を示した。

規制対応については、SMRの世界展開に備え、原子力の調和および標準化イニシアチブ (NHSI)を立ち上げ、標準化された設計が、迅速かつ効率的に複数の国において認可され、かつ安全に導入されるために、各国間の規制と設計のアプローチを調和させる方法を追究していると説明した。

また、資金調達の面においても、EUのタクソノミーのような先進国向けの強力な支援の枠組みだけでなく、開発途上国が取り残されないためにIAEAが開発銀行や国際金融機関への働き掛けを行ってきたと説明。世界銀行はすでに、エネルギーミックスに原子力の追加を積極的に検討している国々に資金調達が可能になる道を拓いたが、その他の開発銀行や国際金融機関が来年の総会までに世界銀行に追随することに期待を寄せた。一方で、現地における原子力の社会的許容こそ、原子力運用の最初のライセンスであると念押しした。

これに続く各国代表からの一般討論演説では、日本から参加した城内実科学技術政策担当大臣が登壇。冒頭、広島と長崎に原爆が投下されてから80年を迎え、この悲劇を決して繰り返してはならないとの確固たる信念のもと、核兵器のない世界の実現に向けて国際的な取組みを主導していくと決意を表明。国際社会の分断は深まり、安全保障環境が困難な状況下において、IAEAの核不拡散及び原子力の平和利用における役割は、これまで以上に重要であり、日本がIAEAの取組みに全面的な支援を継続していくと語った。

また、日本はIAEAの発電のみならず、農業や医療などの幅広い分野における原子力利用に係る取組みを支持し、IAEAと緊密に連携しながら、原子力利用を国内外で推進する方針を示した。今年2月に決定された第7次エネルギー基本計画に示されているように、安全を最優先に、脱炭素電源の一つとして原子力発電を最大限活用するとともに、国際協力による次世代原子炉や核融合エネルギーの研究開発を推進していくとした。

ALPS処理水の海洋放出は、原子力規制委員会の関与のもと、14回にわたって計画的に安全に実施され、放出の安全性は、継続的な審査や近隣諸国を含む分析研究所や国際的な専門家による厳格なモニタリングを通じて、継続的に確認されていると紹介。福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組みについては、燃料デブリの試験的回収など、安全かつ着実な廃炉プロセスに向けて大きな進展が見られたとし、科学に基づく透明性の高い情報を国際社会に提供し、IAEAによるレビューとモニタリングに全面的に協力していくと語った。

                           ◇          ◇

例年通りIAEA総会との併催で加盟国等による展示会も行われている。日本のブース展示では、「新しいエネルギー戦略のもとでの原子力発電」をテーマとし、革新軽水炉やSMRなど次世代革新炉の開発・設置にむけた取り組みを中心に、ウラン蓄電池研究開発や医療用RI利用アクションプログラムなども展示するとともに、試験的デブリ取り出しを開始した福島第一原子力発電所の廃炉進捗状況も紹介している。展示会初日には、日本政府代表の城内実科学技術政策担当大臣がブースのオープニングセレモニーに来訪。同大臣は挨拶の中で、日本は今後も世界に向けて、科学的かつ透明性高く情報発信を継続していくと訴えた。

今回のブースでは、復興庁の協力を得て福島の情報も発信。日本原子力産業協会の増井理事長による乾杯では、福島県産の日本酒がブース来訪者に振舞われ、福島の復興を後押しする機会ともなった。

cooperation