EUの裁判所 ハンガリーの増設計画をめぐるECの国家補助承認を無効に
06 Oct 2025
欧州連合(EU)の司法裁判所(Court of Justice)は9月11日、ハンガリー政府によるパクシュ原子力発電所増設(パクシュⅡ)プロジェクトへの国家補助を承認した欧州委員会(EC)の決定を取り消した。
パクシュⅡプロジェクトは、2014年1月のロシアとハンガリー間の原子力平和利用の協力協定に基づき、2014年12月、ロシア国営原子力企業ロスアトム傘下のニジニノブゴロド・エンジニアリング・アトムエネルゴプロエクト(JSC NIAEP)社に発注された。同発電所サイトにVVER-1200を2基増設して、既存のVVER-440×4基を段階的にリプレースする計画で、ロシアは2014年3月の政府間融資協定により、長期の低金利融資で総工費の約8割に当たる約100億ユーロの国家融資を行い、ハンガリーは自国予算から追加で25億ユーロを拠出する。ECは2017年3月、ハンガリー政府による国営企業MVMパクシュIIへの投資補助を承認。MVMパクシュIIは、無償で増設2基の所有者兼運転者となり、その建設費用はハンガリー政府が全額負担することとなった。
ECによる国家補助承認を受け、ハンガリーの隣国であるオーストリアは2018年2月、一般裁判所(General Court=下級審)にECを提訴。MVMパクシュⅡがロシア企業と直接契約(競争入札なしの発注)し、公共調達に係わるEU指令に抵触しているにも係わらず、ハンガリー政府による補助は条件付きで域内市場と適合するとして国家補助を承認したことは違法であり、公共調達規則に基づき、国家補助の問題を検証すべきであると訴えた。これに対し、一般裁判所は2022年11月、国家補助審査に先行する直接契約が国家補助の目的と不可分に結びついているとは認められず、公共調達の規則違反を国家補助審査の枠組みで検証すべきではないとし、オーストリアの訴えを棄却した。
オーストリアはこれを不服として、2023年2月に司法裁判所に上訴。司法裁判所は、一般裁判所による判決を破棄、ECの承認決定を無効とした。司法裁判所は、一般裁判所が判断した内容とは異なり、ハンガリー政府による援助がEUの国家補助規則に適合しているか否かの確認に留まるだけでなく、ロシア企業への直接契約の行為は国家補助の審査に本質的に関連するため、公共調達の観点からも検証すべきであったと判断した。
司法裁判所の判決を受け、ハンガリーのP. シーヤールトー外務貿易相は9月11日、「司法裁判所はECに対して不利な判決を下したが、パクシュIIプロジェクトをいかなる形でも制限または遅らせるものではなく、ハンガリー政府はパクシュⅡプロジェクトが自国のエネルギー安全保障の将来の主要な柱と見なし続けている」と述べた。むしろ最近の数か月、同プロジェクトへの投資を加速させているとし、2030年代初めには、両機を送電網に接続し、ハンガリーのエネルギー安全保障において大きな一歩を踏み出すと強調した。同国のJ. ボーカEU問題担当相も、この判決では、直接契約が公共調達規則に準拠していないとはしておらず、ECは国家補助手続きの枠組みの中でそれを検討しなかったか、少なくともこの問題に関して正当であると説明しなかったと指摘。国家補助や公共調達の手続き上でも違反とされていないため、パクシュⅡプロジェクトへの投資を計画通りに継続することに法的障害はないとの認識を示した。
ハンガリーでは、旧ソ連時代に建設されたパクシュ発電所の4基(各VVER-440、出力約50万kWe)で総発電量の約5割を供給している。公式運転期間の30年を超過したため、運転期間を20年延長しつつ容量の大きい増設2基に徐々にリプレースしていく方針。シーヤールトー大臣は、同発電所の拡張はハンガリーの長期的なエネルギー供給を保証する重要要素であり、総発電量の約70%を供給できるとしている。パクシュⅡは2022年8月、増設プロジェクトの建設許可を国家原子力庁(HAEA)から取得。2023年7月以降、サイトでは建設の準備作業が進行している。HAEAからの承認を待ち、年内の初コンクリート打設を予定している。