原子力産業新聞
London Calling

gig #8

“Darkest before the dawn”

11 Jul 2022

米国で原子力発電プラントが次々に早期閉鎖されるのを、うんざりするほど目にする。だがこれは一見ネガティブなトレンドに見えるが、将来の原子力の急成長に向けた“種”を蒔いていると見ることもできる。

現時点で最後に閉鎖されたプラントは、ミシガン州のパリセード原子力発電所(PWR、85.7万kW)だ。50年の運転期間を経て、今年5月に閉鎖された。パリセードは最後に無停止で577日間も発電を続けたことからも、好調に稼働していたことがわかる。有効な運転認可を10年も残しての閉鎖となったが、プラントのオーナーであるエンタジー社は、たとえ連邦政府からの支援を受けられるとしても「もう十分」と判断したのである。

再生可能エネルギーへの高額の補助金が原因で、一握りの原子力発電プラントが、自由化されたエネルギー市場からハジキ出された。そして、原子力発電の面倒を好まない電力会社の手で安楽死させられた。パリセードはそのうちの一つだ。

閉鎖されたプラントは通常、ホルテック社やエナジー・ソリューション社のような廃止措置専門企業に売却され、この新しいオーナーが廃棄物と使用済み燃料を含むサイト全体を管理する。プラントの運転認可や、廃止措置のために積み立てられた基金も、新しいオーナーに移管される。そして、やるべき作業は明白だ。プラントを廃止措置するのだ。基金額よりも少ないコストで廃止措置を実施しさえすれば、残りの基金残高はマル儲けである。

この単純なビジネスモデルは、革新的な廃止措置メソッドと組み合わさって、大変な利益をもたらしうるのである。この利益がモチベーションとなり、より多くの原子力プラントの早期閉鎖につながったことは間違いないが、私は、それだけでは一連のプラント安楽死の加速を説明することはできないと考えている。

ホルテック社は廃止措置分野のエキスパートだ。米国のプラントに長年にわたって、使用済み燃料の乾式貯蔵システムや、関連サービスを供給してきた。パリセードの新しいオーナーとなったが、そのほかにもここ数年でピルグリム、オイスタークリーク、インディアンポイントの計3つの原子力発電サイトを同じように手に入れている。

ホルテック社には、「SMR-160」と呼ばれる小型原子炉の開発を手掛ける部門もある。この小型PWRはすでに米原子力規制委員会と申請前の折衝を開始しており、早ければ2025年にも「設計認証(DC)」を取得することを目指している。DC取得後、ホルテック社は初号機をわずか36か月で建設し、2028~29年頃にグリッドに接続させる考えだ。

おそらくもう誰もがお気付きだろう。旧いプラントの廃止措置を引き受けたホルテック社は、あるいはほかの廃止措置企業も、サイト全体のオーナーになる。そこはただのサイトではない。送電グリッドへの接続も容易で、運転経験豊富なスタッフたちが大勢いるサイトだ。そして新規原子力発電プラントの認可に必要なものは、採用する炉型のDCだけではない。サイト自体が原子力サイトに適しているかどうかを審査する「事前サイト許可(ESP)」も必要である。もちろん旧原子力サイトがなんの問題もなくESPを取得することは、容易に想像しうる。

つまり多くの点で旧原子力サイトは、新しい原子力発電所を立ち上げるのにパーフェクトな場所なのだ。新しくフレキシブルなテクノロジー、電気だけでなく水素などのプロダクト、そして本気で取り組む企業。この3者が揃った時、何が起こるだろうか?

すでにホルテック社は、オイスタークリーク・サイトにSMR-160初号機を建設する「可能性を模索している」と発言している。廃止措置作業が順調に進めば、ホルテック社は新規建設候補サイトのオーナーとなり、SMRテクノロジーのオーナーとなり、その健全なバランスシートを利用して、新規原子力発電所の建設に悠々と着手できるのである。

発電プラントの旧オーナーが原子力利用に積極的でなかったからといって、将来のオーナーが原子力に手を出さないというわけではない。となると、旧いプラントが早期に閉鎖されればされるほど、新しいプラントが花開く、という考え方だってアリではないかと思うのだ。

文:ジェレミー・ゴードン
訳:石井敬之

ジェレミー・ゴードン Jeremy Gordon

エネルギーを専門とするコミュニケーション・コンサルタント。コンサルティング・ファーム “Fluent in Energy” 代表。
“Nuclear Engineering International” 誌の副編集長を経て、2006年に世界原子力協会(WNA)へ加入。ニュースサービスである”World Nuclear News” を立ち上げ、原子力業界のトップメディアへ押し上げた。同時に、WNAのマネジメント・チームの一員として ”Harmony Programme” の立案などにも参画。
ウェストミンスター大学卒。ロンドン生まれ、ロンドン育ち。

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