原子力産業新聞
London Calling

gig #2

“new conversations”

16 Oct 2020

原子力発電は初期の頃から、ガチガチに構造化された産業だ。エリートが原子力発電政策を国策として位置づけ、大手電力会社がその潤沢な資金を原子力発電プラントに投じることがなければ、原子力発電が生まれることも発展することもなかったろう。しかしここ10年というもの、日本を見れば明らかなとおり、こうした構造自体が大きな要因となって原子力産業界が信頼を失っている。トップダウン構造のマネジメントが、原子力安全の確保においては非効率であり、一般の人々の不安に答えていないことが明らかになってしまったのだ。

その一方で、原子力発電プラントのオペレーターに対する一般の人々の信頼は失われていない。そしておそらくこの信頼感こそが、安全性以上に重要なものだ。

この信頼感のキモとなるものは、定められたタスクを確実に遂行するオペレーターの力量と、絶えず努力を怠らないオペレーターの姿勢である。人々はオペレーターのミスで多大な影響を被ることになるが、オペレーターのあたたかな人間性を感じることで安心するのだ。原子力産業のトップダウン構造は、そうした人間性への信頼という感情面での評価を難しくさせている。なにか代替策はないだろうか?

今私は、放射性廃棄物処分分野でのコミュニケーションから得られたノウハウを、人気の高い先進炉の立地に応用することで、ブレイクスルーをもたらすことができないかと考えている。それにより、“新たな対話”が可能になるのではなかろうか?

大手企業のトップダウンで立ち上げられた大規模プロジェクトに替わって、ボトムアップで立ち上げられた原子力プロジェクトが生まれたとしたらどうだろうか? 原子力発電の立地をコミュニティ自身が決め、要求するのだ。

これは、コミュニティがサイト選定プロセスに自ら名乗りを上げる、欧州での放射性廃棄物最終処分場のサイト選定プロセスと同じだ。名乗りを上げてから実際に着工されるまで、コミュニティはフェーズごとにそれ以上先へ進むかどうかを決めることが出来る。いつでもプロセスから離脱することが出来る。プロセス全体が公平で透明性を持っている。意思決定をするのは、よその町に住むごく少数の選ばれた公的代表者でも専門家でもなく、常にコミュニティ自身である。フィンランドのオルキルオト、スウェーデンのフォルスマルク、フランスのビュールといった、世界で最も進んだ使用済み燃料処分プロジェクトはすべて、この方式で運営され、いずれも操業開始へ向けて順調に進捗している。

そもそもの初めから、このアプローチはこれまでとまったくちがった対話を生み出してきた。コミュニティに「廃棄物処分場を作りたいのだが、ここに建設してもいいか?」とお願いする代わりに、「廃棄物を国内のどこかで処分するのだが、一緒に事業を考えてみないか?」と呼び掛けるわけだ。

昨今の、風力発電や太陽光発電の加速的な拡大には、何百という自治体所有の再生可能エネ・プロジェクトが大きく寄与している。その傾向はドイツでも日本でも、原子力発電の代替電源を作りたいというコミュニティ個々の願いによって加速している。ドイツでこうした動きは「エネルギー転換」の一環として、「エネルギー民主主義」と呼ばれている。

受け身の姿勢で、コミュニティの外から再生可能エネ・プロジェクトを持ち込まれるのでもなく、自分たちがプロジェクトの近隣自治体になるのでもない。コミュニティ自身が舵を握り、どんな施設を立地するか自分たちで決める。これはプライドの問題でもある。コミュニティ自身が、自分たちの社会に対する立地施設のインパクトを認識することは、公平であり、社会的弱者をないがしろにしないことにもつながる。現実にそうした発電プラントはコミュニティにより部分所有され、安い電気を供給するだけでなく、売電収入をももたらしている。

こうした展開はこれまで、原子力では不可能なことだった。原子力発電プラントはあまりにも巨大であり、建設するにはコストが高すぎる。しかしSMRを筆頭とした先進炉の登場により、原子力の未来が開けつつある。

先進炉は規模が小さく、より広範なコミュニティ、企業、投資家に訴求するリーズナブルな原子炉である。先進炉は安全性が高く、サイト外の緊急避難計画なしに、より広範な立地条件に対応が可能である。先進炉は柔軟性が高く、電気以外にも熱/水素/脱塩水/エネルギー貯蔵など、再生可能エネを補うことが出来る。先進炉はモジュール式のためシリーズ建設が容易で、初号機からの収入で2号機や3号機などの建設費用を補填することもできる。

米国での新しい取り組みである“Good Energy Collective”は、先進炉を用いて、原子力についての対話を今ふたたび始めようとしている。彼らは原子力政策を地元コミュニティの人々のニーズにフィットさせることで、コミュニティにとって公平性を欠いてきた過去の原子力立地の歴史と、訣別しようとしている。疑いの目で見られているトップダウン式の政策決定ではなく、コミュニティ側の意思決定を中心にしようという試みだ。

Good Energy Collectiveを立ち上げたジェシカ・ラバリングスージー・ホッブス・ベイカーは、先進炉の立地を希望する自治体を募集するアプローチを作り上げようとしている。その立地プロジェクトはあらゆる人々にとってフェアなのか? それは家族にとって良いことか? 高齢者にとって良いことか? 弱者にとってフェアなのか? 低所得層にとってフェアなのか? そうした立地コミュニティのニーズに合ったサービスを先進炉が提供することで、オープンでフェアで社会全体に便益がもたらされることが示せれば、他のコミュニティからの関心も間違いなく高まるだろう。原子力産業界が誠実に取り組めば、グローバル・レベルから個人レベル、国家レベルからローカル・レベルまで幅広く、クリーンな未来を作り出すエネルギー源についての対話が成立するようになるのだ。

原子力テクノロジーのパズルで足りなかったピースが先進炉であるならば、原子力の意思決定において足りなかったピースは、ボトムアップの視点かもしれない。

文:ジェレミー・ゴードン
訳:石井敬之

ジェレミー・ゴードン Jeremy Gordon

エネルギーを専門とするコミュニケーション・コンサルタント。コンサルティング・ファーム “Fluent in Energy” 代表。
“Nuclear Engineering International” 誌の副編集長を経て、2006年に世界原子力協会(WNA)へ加入。ニュースサービスである”World Nuclear News” を立ち上げ、原子力業界のトップメディアへ押し上げた。同時に、WNAのマネジメント・チームの一員として ”Harmony Programme” の立案などにも参画。
ウェストミンスター大学卒。ロンドン生まれ、ロンドン育ち。

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