原子力産業新聞
London Calling

gig #4

“Will the EU put science
ahead of politics?”

18 May 2021

気候変動問題を語るとき、世界の活動家の間で、「follow the science(サイエンスに従おう)」がスローガンとなりつつある。

サイエンス(科学)をポリティクス(政治)から切り離すこと、つまり忖度なく科学的事実に従って決断することは、痛みを伴うものだ。ことに原子力が絡むとなおさらだ。だが欧州連合(EU)は正しい決断を下す機会を迎えようとしている。

気候変動に対するEU加盟27か国のスタンスを調整することは、もとより至難のワザであり、極めて政治的なモノなのだが、欧州委員会(EC)は「持続可能な活動に関するタクソノミー(分類体系)」を打ち出して、それを見事にやってのけた。この決定版とも言える「持続可能であると考えられる活動リスト」に基づいて、EU域内の官民のファイナンスが、リストに掲載された活動に投資され、リストに載らない活動には投資されなくなるのである。

これは原子力にとって、新たな資金が流れ込むことを意味し、新規建設のコストが大幅に削減されることになる。だが当然ながらタクソノミー周辺には巨額のマネーが渦巻いていることから、無数の利害関係者が利潤を求めて激闘を繰り広げているのが現実だ。実際に、本来ならばあらゆるエネルギー源が検討されるべきところ、一部加盟国や活動家がロビー活動を繰り広げ、原子力をタクソノミーのリストから除外すべく奮闘した。その結果、「原子力は環境に重大な害をもたらすか、否か?」がまことしやかに問われることになってしまった。

タクソノミーを取りまとめた専門家グループは当初、「原子力は低炭素電源である」とサクっと結論づけたのだが、一部の加盟国と環境団体がそれに噛みついた。「原子力は放射性廃棄物を長期にわたって管理しなければならないではないか。持続可能ではない!」すなわち、数千年というタイムスケールにおいては、放射性廃棄物が重大な環境影響をもたらさないとは断言できない、というわけだ。そうした強力な外圧を受け、前述の専門家グループは回答を出すことなく、EUの独立した科学面での諮問機関である「共同研究センター(JRC)」に丸投げした。

ご存知の通り、最も深刻な放射性廃棄物は使用済み燃料である。使用済み燃料の最終処分策は確実に存在するが、今日の段階で最終処分場が現実に存在していないが故に、将来の安全を保障することができない。だが今日まで65年間、誰一人傷つけることなく安全に管理されてきた実績がある。バックエンド分野はまだまだ改善の余地があることは認めるが、EUの原子力反対派が言うように「いずれ必ず事故が起きる!」というものではない。

彼らが理屈の上での将来のリスクを振りかざし、現在進行形の大気汚染や気候変動に原子力で立ち向かうことを妨げるというのは、実に滑稽だ。

そういったわけでJRCは、原子力の持続可能性に関するあらゆる疑問点を検証した結果、「原子力が健康や環境に、タクソノミーに掲載された他電源よりも悪影響があるとの科学的根拠はなかった」と結論づけた。EU最高の科学的権威による385ページに及ぶ報告書は、原子力はエネルギー分野の課題解決の一助であるとの決定的な回答となった。「原子力は風力や太陽光と同様に持続可能」と公式に認められたのである。

では、原子力が政策面でのサポートを得られるようになったのかというと、ビミョーなところだ。

ECは常に原子力を他電源とは切り離して考えており、JRCの結論に従うとは一言も言明していない。風力/太陽光/水力/地熱といった他のクリーンエネルギー源は、4月にまとめてタクソノミーに盛り込まれたが、原子力については6月に決定される予定だ。ECがなんだかんだと条件や但し書を盛り込んで、原子力を無力化させるのではないかと不安視する向きもある。

今後数週間は(EU本部のある)ブリュッセル界隈が騒がしくなることは間違いない。原子力の敵対勢力はそれこそ死に物狂いで、JRCの誤りを喧伝し、ゴールポストを動かし、政治家や当局に圧力を掛けることだろう。しかし同時に、決定の公正さ、テクノロジーの中立性、イデオロギーよりもサイエンスの遵守を求める声も大きくなっている。ポーランド、チェコ、スロベニア、ブルガリア、ハンガリー、フランス(マクロン大統領は徐々に原子力支持に戻りつつある)などだ。彼らにとってJRCの報告書はまさに強力な援軍なのだ。

ヨーロッパで最も著名であろう環境運動家であるグレタ・トゥーンベリは、気候変動に関し各国のリーダーたちに「follow the science」と威張ってきたが、これまでのところ今回の議論には参加していない。世界的にも十分注目に値するテーマだと思うが、彼女と彼女の取り巻きたちは常日頃、原子力に触れることに慎重だ。彼女の支持者たちの意見を割ってしまうとわかっているからだ。

いずれにせよ、JRCのおかげで「原子力は気候変動解決の一部」との科学的見解が明らかになった。原子力は風力や太陽光と同様に持続可能であり、推進することに問題は皆無なのだ。ヨーロッパのサイエンス・コミュニティは、原子力を受け入れる準備ができた。さぁ次は、政治コミュニティや環境コミュニティが試される番だ。果たしてタクソノミーの行方は?

文:ジェレミー・ゴードン
訳:石井敬之

ジェレミー・ゴードン Jeremy Gordon

エネルギーを専門とするコミュニケーション・コンサルタント。コンサルティング・ファーム “Fluent in Energy” 代表。
“Nuclear Engineering International” 誌の副編集長を経て、2006年に世界原子力協会(WNA)へ加入。ニュースサービスである”World Nuclear News” を立ち上げ、原子力業界のトップメディアへ押し上げた。同時に、WNAのマネジメント・チームの一員として ”Harmony Programme” の立案などにも参画。
ウェストミンスター大学卒。ロンドン生まれ、ロンドン育ち。

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