原子力産業新聞

ラドラボふたたび!

遊べば分かるこの『ラドラボ』の面白さ、奥深さは、どうやって生まれたのだろうか?
このゲームを生んだ京都へ飛び、原案者の角山(ツノヤマ)先生と、ゲームデザイナーの吉田昌乘(マサノリ)さんにお会いした。

第2部ラドラボを作った人たち

  • 吉田昌乗さん
  • 角山先生

二人の出会い

福島第一事故から1年半くらい経ってから、ボクはこういう(放射線教育)活動を始めたから。2013年頃だったかなぁ。放射線というとっつきにくいものを身近に感じてもらうにはゲームを出せばいいと、前々から考えていたんです。自分でプロトタイプは作っていたんだけど、これを「どうやれば世に出せるのかなぁ」とボヤいてたんですよ。するとある方が「いい若いコがいるのよ」と紹介してくれて(笑) それが吉田さんで、お会いしたらホンマに若かったから驚いた。

僕は24歳でした。その時に角山先生から頂いたコンセプト原案があって。これなんですが。

え、そんなのまだ持っててくれたの!? そんなんオボえてないわ。恐縮です(笑)

RadE(ラドイー)というタイトルで、原型はもう角山先生の原案の中で完成されてました。

いやもう、こんなダッサいカードを自作して、子供と遊んでみたりしてた(笑)

かなり作り込まれてたんですね(笑)

子供がこういうカードゲームにハマりやすいのは知ってたから。

4種類のうちのどれかの放射線を出して、それをどれかで遮蔽するというコンセプトは、すでにこの段階でできてました。

「学習できるように」「事実になるべく即して」と考えて修復効果とかも入れてみたら「意外とこれゲームになるやん」と(笑)

ゲームとして世に出すぞ

逆に、角山先生の原案から変更した点とかは、あったのですか?

原案を見たときに吉田さんが「死ぬっていうのはよくない」とおっしゃったんです。細胞が死ぬとかいうのは、世の中のお母さんたちからしたらよくないんじゃないか、と。

攻撃と防御、と口では言ってしまうのですが、ゲームとして何かしら「いいわけ」が必要なんじゃないかと思いました。互いに放射線を「撃ち合う」となるとちょっと世の中のお母さん的にマズいんじゃないかと思いまして。

今思えば、ちょっと過激なゲームだったのよね。

もちろん本来カードゲームというものはそういうもので、攻撃と防御でお互いのライフポイントを削り合うのが基本ルールですから(笑) ですが放射線を題材にそれをやってしまうと、反発が来るだろうなと考えました。

ボクの世界では「互いに殺し合う」と言っても「人を殺す」のではなく「細胞を殺す」のだからいいだろう、という感覚でいたんだけど、たしかに言葉としては過激だなと思ってね。今にして思えば。そういう感じで吉田さんが「世の中向けに」全部正していってくれて助かりました。それとゲームバランスが悪いところをすぐに見抜いてね、ゲーム性が高まるように直してくれた。アナログゲームのプロなんで、やってて面白いものにしてくれるんですよね。

いえ、先生の原案がゲームとしてダメというわけではなく、あれはあれで面白かったのですが、運の要素が強かったんですね。ランダムでカードをめくり、たまたま適したカードがめくれたら防御ができる、といった。僕としては、もう少し自分の意志が反映された方が、ゲームとして奥深くなると思いました。自分が持っているカードの中から自分が選んで出す、といった形にした方が良いんじゃないかなと。そういう風に改良していきました。

それでラミネート加工してプロトタイプを作ってくれたので、それを高校生たちに実際に遊んでもらったんです。それで意外と高校生でも遊べるという感触が得られて。

この時はまだキャラクターはできていなかったのですが

まだダサいデザインのまま(笑)

少しお勉強っぽい感じですよね。コレはコレでボクは好きだったんですが。

理科教材や、コレじゃ(笑)

この時にほぼ内容は完成?

ほぼ完成しています。遮蔽カード「真空」をやめたのと、細胞カードの枚数を9枚ずつの18枚では多いと思ったので、5枚ずつの10枚にしたくらいかな。そのほかゲームバランスの調整で枚数を減らしたり。

けっこうイジってますね(笑)

でもそれでガラっと変わったんですよ。ゲームとして完成度が上がった。やっぱりプロの仕事は違うね。

わかりやすく「強い」「弱い」という言い方をさせてもらうと、強いカードを少なくして弱いカードは多め。将棋で言うと「歩」が多いみたいにバランスを良くしました。

中性子、強すぎますもんね

中性子の影響力もエネルギーによるから、そこをどう表現しようかなと。2種類の中性子カードを作ればいいかなと。

そうしてブラッシュアップして出来たのがこれです。もう少しとっつきやすくしようと、それぞれの放射線をキャラクター化しました。「ニュトロ」は強さの違うのが2種類。遮蔽のカードは4種類。回復もあります。このゲームはすべて、「ラボの中での実験の話」というていで、キャラクターを出してそれを防げるのはどれかな、と考えて出し合うものです。防げないとサイボールという――細胞なんですが(笑)――サイボールの電気が消えちゃう。5枚のサイボールが全部消えたらおしまいです。カードゲーム初心者の方にもとっつきやすいゲームになっています。

小学校4年5年ぐらいだったらすぐに覚えちゃうよ。

アルファ線、いやアルファスは、突破1のくせにパワーが3なんですね!?

枚数のバランスというのがそういうところで、強いニュトロは4枚しか入っていないんです。アルファスは10枚入っています。ですからニュトロ頼みでは必ずしも勝てません。アルファス相手にウォータフォールを出すのはもったいないのですが、見逃すとダメージが大きいです。これがバランスです。

放射線加重係数って覚えてる?覚えてない? 吸収線量グレイから等価線量シーベルトを計算するときに、「放射線加重係数」を掛けることに国際的に決められてるんです。さまざまな動物実験から、放射線が体にあたったときに何線かによって影響が出やすい場合とそうでもない場合が知られていて。たとえば検査で使うX線やガンマ線はカラダを突き抜けていくので、カラダにエネルギーを少ししか落とさない。ところがアルファ線は紙一枚で止まっちゃう、ということは短距離で大きなエネルギーをドカっと落としていくんです。がん治療でBNCTってあるでしょ? あれはホウ素に中性子をあててアルファ線を出させてる。大阪大学がやってる「短寿命アルファ核種」もがん治療に使うし。みんなアルファ線でがんをツブそうとしてるんです。アルファ線は簡単にブロックできるけど、体内では影響大きいんですよ。このゲームは、放射線のプロから見ても間違いないってところは守ってもらっています。

ゲームですのでまったく正確というわけではないのですが、強い弱いはちゃんと合ってるようにしています(笑) もちろん解説書には詳しい説明も掲載しています。

福島県郡山市で開いたイベントで、富岡町から避難している子供たちに遊んでもらった時には、すぐにゲームを覚えてくれて、さんざん遊んだ後に「アルファスってアルファ線のことなんだけど、何で止まる?」と質問すると一瞬で「紙!」と即答する。こういう教材ゲームというのはそれが大事です。遊んでいるうちに感覚で覚えちゃう。座学で詰め込み教育やっても、そんなものすぐ忘れちゃうから。

それで遮蔽カードはへたにキャラクターにしない方が良いと思ったんです(笑) 紙だったりプラだったり簡単に想像できるように。

そういえば「ラドラボをスマホゲームに」って提案したら、頑なに拒否された(笑)

ボクはやってもいいと思いましたが、(タンサン株式会社)代表の朝戸が(笑)

朝戸さんに「相手の顔が見えてやるのが楽しいんだ!」って言われて、たしかにそうやなって。「相手の出方の読み合い」というのもあるし(笑)

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