原子力産業新聞

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インタビュー

芥川 一則 アクタガワ・カズノリ 福島工業高等専門学校 ビジネスコミュニケーション学科教授

芥川 一則アクタガワ・カズノリ

福島工業高等専門学校
ビジネスコミュニケーション学科 教授

1962年福島県生まれ。立命館大学理工学部土木工学科卒業後、会津坂下町役場に就職し都市計画を担当、その後福島県庁に就職。その間福島県立図書館の電算化を担当するとともに、福島大学大学院経済学研究科修士課程終了、東北大学情報科学研究科人間情報科学専攻に在学中に福島工業高等専門学校建設環境工学科助手として採用される。同コミュニケーション情報学科助教授、等を経て、2016年4月より同ビジネスコミュケーション学科教授。専門は、都市経済学、地域経済学など。副校長(研究・地域連携担当)、地域環境テクノセンター長、ビジネスコミュニケーション学科長も務める。

福島の問題は30年後の日本の地方都市の課題だ!

福島県浜通りの復興、将来の地方都市の課題解決に取り組んでいる福島高専の芥川一則教授に、この10年の取り組みと将来を見据えた課題への取り組みなどについてお話をうかがった。芥川教授の専門は社会科学。「福島第一原子力発電所事故によって福島県が抱えた問題は、日本の30年後の地方都市の課題」とし、「他人事でなく自らの問題として考えてほしい」と話す。また同氏は草の根の立場で復興に取り組む重要性を強調するとともに、国内外の人々に対し「福島で問題の解を見つけられれば、皆さんの未来も明るくなると思うので、一緒に考えましょう」と呼びかけている。

── 事故後10年が経ちました。どうお感じになっていらっしゃいますか?
事故直後の困難な時期を経て、ご苦労のあった点、また手ごたえをお感じなっている点なども教えてください。

芥川 もう10年、まだ10年というのが正直なところです。生活自体は平穏に戻ってきています。しかし、福島第一原子力発電所の事故によって福島県が抱えた問題は、日本の30年後の地方都市の課題なのだと私は思っています。そうした問題にどのような施策を打てば良いかということをこれから考えていく必要があると思っていますが、草の根の意見が聞かれていないということをすごく感じています。
やはりオーソリティ(権威)の方が提案されることには予算がつくのですが、地元から手を上げても難しい。私は一回も国などから補助金をもらったことはありません。例えば復興支援バスの運行に関わりましたが、その事業自体は各自治体の皆さんが共同で申請して事業者さんがバスを運行する資金を調達しました。復興支援バスは1市5町村がまとまってバスを運行させたわけです。大事なのは住民の方々の信頼をいかに得るか、ということでした。
今回の震災で感じたことは、ある意味で「権威の失墜」だと思います。つまり権威ある方々が「原子力は絶対安全です。事故はありません」と言っていたことが、もろくも崩れてしまったわけです。地元の人たちは何を信じていいかわからなくなってしまった。
福島県の前知事はメディアの前で「私は東京電力にだまされた」と言い放ちました。それを聞いた時、私は大変な違和感を感じました。「こんな言い訳をしている人たちには頼れない、復興は草の根からやる必要がある」と強く感じました。
確かに平穏な生活に戻りました。しかし、まだまだこれから産業を起こさなければいけない。やはり、原子力産業というのは非常に大きな産業であり、地方都市が存続していくだけの事業規模と利益があったのです。それに代わるものを考えていく必要があり、私はこれまでいくつか提案してきましたし、これからも提案していきたいと考えています。 震災直後のことですが、住民の皆さんはやはり外部被ばくを心配されていました。浜通り地域は自給自足の生活をしている農家さんが多いものですから、夏になって収穫した作物の放射線測定をどうするかということになりました。サーベイメータで放射線を測定する必要がありますが、ちょうど2011年5月に簡易の食品モニタが発売になるという報道を目にしました。1台450万円程と高額でした。妻に「測定器を買いたい」と相談したのですが、烈火のごとく怒られました(笑)
そんな話が広野町を通じて東京電力さんの耳に届いたようで、測定器をご提供いただきました。2011年の7月21日に最初に100台が到着したことを記憶しています。国にお願いしても予算の都合で中々迅速には行きませんが、早いタイミングで手に入れることができました。
測定器は学校ではなく私個人で管理し、それを県内の町村の方々に貸し出しました。ほぼフル稼働です。約8,000件の測定データが記録として残っています。早く対応できたのは自分で主体的に行動した結果だと思いますし、草の根でやることが大事だという事例のひとつだと思っています。
もうひとつお話ししますと、事故の後にいわき市の状況を見て、これからこの地域で何が困るだろうかと考えた際のことです。当時、校舎が壊れた学校では近隣の大学を借りて授業をしていましたから、私は子供たちの通学にバスが必要になるだろうと思ったわけです。地元のバス会社は当時営業できませんから、バスが富岡町と南相馬町に置きっぱなしでした。そこで私は「必ず必要になるから」とバス会社の経営トップを説得し、バスを取りに行ったことがありました。線量が高い場所なので経営者が従業員の健康を心配されるのは当然のことでしたが、私は長い時間いなければ問題のない線量レベルだとわかっておりましたので、線量計を携えて従業員の方たちとバスを取りに行きました。
そのバス会社さんとは今でもお付き合いが続いています。脱炭素社会への対応の一環として2年前に水素バスを導入されましたが、この先どのように水素社会を展開するかという課題について一緒に考える関係です。

── 教育の現場からこの10年を、どうお感じになりましたか?

芥川 事故後、全国の高専とフランスの工科大学で、原子力に関するアンケート調査を実施したことがあります。 震災によって、若者にどういう意識の変化があるかを聞いたものです。質問項目は、原子力の必要性や危険性、今の技術水準が大丈夫なのか、などです。フランスは原子力先進国ですから学生の意識の変化に関心がありました。そこで、留学している学生を通じて調査をしました。
国内では東日本と西日本の高専生を対象としましたが、その結果、福島における意識と西日本での意識はほとんど変わらないことがわかりました。そこで感じたのは、教育の効果です。つまり知識があれば正しく恐れるわけです。高専という教育機関では、知識をきちんと教えています。ですから両者の認識に変わりはなく、不安に思う人数も変わらなければ、安全だと思う人数も変わらなかったのです。
この調査結果は日本原子力学会で発表しましたが、ほとんど注目されませんでした。当時、廃炉の技術に関心が向いていたためです。30年、40年とかかる廃炉を支える若い世代の考え方は大事だと思うのですが・・・
震災当時の2011年に福島高専では、他県に転校したい学生がいれば対応しました。しかし約1,000人の本科生がおりましたが、実際に他県に転向したのは2人だけでした。こうしたところに、高専の学生たちの姿勢が表れているように思います。

── 芥川先生の「ビジネスコミュケーション学科」では、どのような人材を育てていらっしゃるのですか?

芥川 「ビジネスコミュニケーション学科」は、高専にありながら文系の学科です。社会経済の仕組みに広く関心を持ち、コミュニケーション能力を身につけてグローバルに活躍する人材や、情報リテラシーを身につけて高度情報化社会で活躍する人材を育成しています。さらに地球環境に配慮し持続可能な社会の発展に貢献しようとする人材を育てたいと考えています。ちなみに、SDGs(持続可能な開発目標)にはもう5年前から取り組んでいます。
具体的には、グローバルにコミュニケーション能力を持つビジネス・スペシャリスト、自己実現が出来るビジネス・スペシャリスト、論理的思考に優れたビジネス・スペシャリスト、長期的な視野をもち、持続可能な社会の実現に貢献するビジネス・スペシャリストの育成をめざしています。
クラスは40人という少人数教育で、英語で英語を学ぶ授業やプレゼンテーションの授業など、文系学科の特徴と言えるでしょう。また数学的思考を養い、最後はセミナーという形で自分たちで議論し、社会的課題をどう解決するかを話し合う授業を行っています。
英語、経営、数理、人文など幅広い科目を学んだうえで、上に行くに従って専門科目を選び卒業研究に取り組み、そのなかで専門性を身につけていきます。進級するのは大変です。赤点の水準は60点ですから。5年で卒業する生徒は全体の約8割です。また発展途上国へのインターンシップも実施しています。直近では国際機関を訪問するジュネーブ合宿を実施し、11の国際機関を訪問して議論してきました。参加した生徒は福島県が世界的に注目されていることや、世界中の人々と問題を共有することが重要だと感想を述べていました。
卒業後の進路は大学に編入する人、就職する人が半々です。高専では地元企業の説明会を就職前に実施しますが、1年生から5年生まで参加できます。早い時期から人事担当者の方と就職とはどういうことか等について話を聞くことができるわけです。
学生が就職した企業さんからはプレゼン能力が高いとの評価もいただいています。

── 復興はまだ道半ばにあり、とくに人口減の問題が今後の主要な課題になると思いますが、町づくりや交通インフラの整備など、今後どのような取り組みをお考えでしょうか。

芥川 今後の課題として私が取り組んでいることについて申し上げると、ひとつは外国人労働者を呼び込むことです。人口減少局面のなかで今、必要になってくるのは外国の方です。技能実習生の方を入れるにあたって、いわき市などに外国人労働者の方とどのようにコミュニケーションをとるかという委員会ができまして、私も委員として検討に加わっています。
また原子力の医学利用として、福島において放射性同位元素(RI)内用療法にも取り組みたいと思っています。東京大学のアイソトープ総合センターで進めておられる、期待のがん治療法です。日本は核医学に用いる放射性核種を海外の老朽化した原子炉に依存している現状があり、核医学の分野で立ち遅れている面があるので、私はいわき市に特区を設けて、その状況を変えようという提案をしています。RI内用療法は小型の加速器で患者さんのがんの部位にあわせてその場でRIを作って投与し、がん細胞をピンポイントで治療するため、副作用が少なく、働きながら治療ができる優れた技術です。
福島高専に施設を設けてラジオケミストなどの人材を育成することは、原子力利用の新たな取り組みとして医療分野で貢献する人材を、福島を拠点に育てるという意味で非常に意義があると考えています。産業界からのご協力をいただきたいと考えています。
そしてもうひとつ。私が取り組んでいるのは田んぼの作業に用いる農機を完全に自動化するという技術開発です。これから人口減少になれば、農作業をする人がいなくなり、災害の発生も懸念されます。田んぼは保水能力が高くてダムの役割があります。田んぼがなくなると水害になりやすいので、いかに田んぼを維持するかが大切です。
また日本では、どうしてもお米というとブランディングの観点から、より高みを目指す傾向にありますよね。ですが私の米国留学時代の経験から言えるのですが、日本のお米って、ブランド米じゃなくても十分においしいんです。問題は価格が高いことで、これさえクリアされれば黙っていても売れるはずです。そのためには耕作の人件費を削り、自動化することです。
地元の企業さんが一緒にやってくれるということでやり始めたのですが、3次元地図をベースに最適なルートを積算し、運行制御するまでを自動化する要素技術を現在、開発中です。私の実家が農家だったこともあり、私自身多くの農作業を体験してきましたが、一番大事なことは正確な地図を作ることだと身に染みています。地図が正確でないとまったく機能しません。課題としては運行制御の技術の確立がありますが、産業化をめざして取り組んでいきます。
一連の技術が完成したところで、まずは法規制面でのハードルが低いゴルフ場の芝刈り機に応用し、実用化することを考えています。全国には約2,200のゴルフ場があり、やはり芝を刈る人がいないという問題に悩まされているのです。
そして、ゆくゆくは日本版の衛星利用測位システムを担う準天頂衛星「みちびき」による情報を連動させて、ガレージから田んぼでの作業を行う農機の完全自動化を実現したいと思っています。このような完全自動化の取り組みは他にありません。
私は市場を見て、既存の技術を組み合わせることで実現できると考えていますので、これから南相馬市の福島ロボットテストフィールドで自動運転の実証試験を行う予定です。この実験に注目した企業さんが、福島に集まってくる可能性を高めるねらいもあります。
農業人口の減少はすべての地方都市で起こりうる問題です。これは日本の国土荒廃という問題につながることですから、それを止める意味でも多くの企業さんの参加を呼びかけたいと思っています。

── 最後に、福島県を拠点として魅力ある町づくり、人づくりに取り組むお立場から、国内および海外の人たちに何かメッセージをお願いします。

芥川 冒頭にも申し上げましたが、いま福島が抱えている問題は、日本の地方都市における30年後の課題です。それを皆さん、他人事と思わずに自分たちの未来がそこにあると考えて一緒に考えてもらえませんか、というのが私からのメッセージです。
福島の問題は、あなた方の将来の課題なので、福島で問題の解を見つけられれば、皆さんの未来も明るくなると思うので一緒に考えませんか、というのが私からのお願いです。

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