原子力産業新聞

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インタビュー

田中 真 タナカ・マコト 日本原子力研究開発機構 廃炉環境国際共同研究センター(CLADS)研究推進室長

田中 真タナカ・マコト

日本原子力研究開発機構
廃炉環境国際共同研究センター(CLADS)
研究推進室長

1970年北海道生まれ。1993 年 4 月に動力炉・核燃料開発事業団(当時)入所。2011年6月に日本原子力研究開発機構福島支援本部復旧支援部(当時)、2020年4月より廃炉環境国際共同研究センター研究推進室長。

原子力事故で生じたさまざまな問題を解決し、福島を復興させ、そこに暮らす人々が幸せになる。こうした願いを実現するために、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)が大きな役割を果たしている。見えない放射性物質を処理するためには、原子力の知見や現場で応用する技術が必要で、それを提供しているのだ。浜通りに設置されたJAEAの研究施設では、放射線の可視化、廃炉技術などで、世界最先端の研究が行われている。
JAEAは、国立研究開発法人として日本唯一の総合的な公的原子力研究機関だ。その力を用い、事故直後から福島の復興に協力している。
JAEAは、楢葉遠隔技術開発センターを楢葉町に、廃炉環境国際共同研究センターを富岡町、三春町、南相馬市に置き、福島県や国立環境研究所など国の諸機関と協力する福島環境安全センターを三春町と南相馬市に置き、大熊町に大熊分析・研究センターを建設中だ。福島で総勢330人の従業員が働く。
楢葉の施設では、原子炉のモックアップ(実物大模型)、ロボット試験用水槽、VR(バーチャルリアリティ)設備などを置き、廃炉のための設備の検証、作業員の訓練や研究を行う。

三春町の施設では、環境と放射性物質の関係を研究している。居住地、農地、森林などに広がった放射性物質の動きを測定し、自然環境への影響を分析し、除染や放射線防護に役立てる。建設中の大熊分析・研究センターは福島第一原子力発電所の敷地内にあり、現在富岡町の施設で行なっている研究の一部を移し、放射性物質や、福島第一の原子炉解体工事で発生する放射性物質、廃棄物を分析する予定だ。
そして富岡町に、廃炉環境国際研究共同センター(CLADS)を置き、2017年4月から運用している。ここが廃炉技術の研究拠点になっている。
CLADS研究推進室長を務める、田中真さんに話を聞いた。

── 田中さんの仕事の内容を教えてください。

田中 JAEAとCLADSの福島における研究の管理、海外や国内の諸機関との調整を主に行なっています。私は機械工学を大学で専攻していましたが、機械は福島の復興に関わる研究のどの場面でも使われますから、さまざまな研究の支援に回っています。
私の仕事は、東京電力や廃炉に取り組む関係企業、除染や生活環境の回復のために福島復興のための問題に取り組む方々や関係機関と、解決のための技術や情報を持つ企業や研究機関、そしてJAEAの研究の各グループをつなげる「通訳」のようなものです。現場で必要とされる物や技術をうかがい、企業、JAEA内や国内外の関係機関に伝えます。逆に、アイデアを現場に伝えることもします。現場で作業をする人たちが将来困らないように、JAEAが先回りして問題を解決、対応策を準備することを心がけています。

── 国内外の大学、研究機関への公募事業も担当されているのですか?

田中 そうです。福島復興に「国内外の叡智を集める」方針は政府も東電もJAEAも繰り返してきました。ここでの研究の取り組みは、世界で類例のないものが多く、国際的に注目されています。海外から研究員も招いています。日本ではできないような実験を海外の施設で実施することもありますし、福島第一の廃炉で使われる遠隔操作装置の一部は英国製なども導入されています。JAEAでは文部科学省から公募事業を引き継ぎ、「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」として実施していて、毎年、数多くの国内外の研究機関が応募し、福島第一の廃炉を達成するために様々なアイデアを持ち寄り、連携して研究に取り組んでいます。研究成果は世界に公開していて、得られた成果が、世界の原子力の安全や発展に役立つことを期待しています。

── CLADSでの放射線源の可視化、事故の再現、放射性物質の研究で苦労した点は?

田中 放射線源の可視化は、既存の技術を組み合わせたものではありますが、これまでにない新しい放射線イメージング技術です。従来のものは遮へいが必要で重量も重く大型でしたが、それを小型にしたことが大きな特徴です。小型化によって運搬が容易になったことで、どんな場所でも使えます。特に今後、廃炉作業では原子炉建屋の作業が増えます。そこで活用すれば、作業の安全につながるでしょう。
福島第一事故は、事故を起こした各原子炉で状況が少しずつ異なることがわかってきました。事故の再現を特殊な装置で状況を変えて行えるようになりなりました。
放射性物質の中には発生するエネルギーが低く、検知しづらいものがあります。そうしたものも把握するために、いろいろな測定方法を開発しています。
ここでの研究は、福島の廃炉作業と密接に結びついています。2022年末には原子炉から燃料デブリの取り出し作業が始まる予定です。研究成果に磨きをかけ、現場に応用することで、作業員の皆さんが、安全に作業できる環境作りを支えます。廃炉作業が始まると、現実に研究を照らし合わせ、さらに研究を深められるでしょう。

── 研究者にとって自分の研究が実用化され、地域に貢献するのが見えることは珍しいのではないでしょうか?

田中 そう思います。ここでは福島の生活環境の回復や1Fの廃炉作業と研究が繋がっています。JAEAも職員がここ福島に住み、地域社会の皆さんに成果を発表しています。このCLADSの隣に富岡町学びの森という複合施設があります。そこで(2020年)12月5日に「廃炉と環境回復 十年の歩み」という研究発表会をしました。地元の方を中心に150人ほどの方に集まっていただきました。関心が高く、喜んでいただき、私たちも大変うれしかったです。今後も毎年一回、研究の発表会を行う予定です。

── 事故から約10年が経過し、風化は感じられますか?

田中 研究で関係のある大学の先生の話を聞くと、廃炉関係、原子力関係への学生の関心が低下していると聞いたことがあります。時間の経過による関心の薄れかもしれません。
しかし、ここJAEA内部では、それは感じません。廃炉では世界に類例の少ない研究、最先端の研究を行ない、研究者はそれにやりがいを抱いています。さらに福島復興は国家プロジェクトであり、多くの人に期待されています。国の支援も充実していますので、研究予算を獲得するチャンスでもあります。
JAEAで働く多くの者が、福島第一原子力発電所での事故の第一報を聞いた時、「今こそ私たちの組織の持つ力を役立てる時だ」と思いました。自分とJAEAが持つ力を使い、福島の復興に役立ちたいという思いが、自然と湧き上がってきました。研究が世の中の役に立つということは、モチベーションを大きく高めるのです。
原子力関係者の方、そして知識を持つ方は、ぜひ一緒に、福島復興を技術面から支える私たちの取り組みに、ご協力いただきたいと思います。

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