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QST・住友重機、重粒子線治療の高性能化を図るマルチイオン源を開発

27 May 2022

高度な粒子線がん治療を実現するマルチイオン源(QST発表資料より引用)

量子科学技術研究開発機構(QST)は、1994年に臨床試験を開始した重粒子線治療装置「HIMAC」(千葉市、放射線医学研究所内)の治療実績を踏まえ、より小型化・高性能化した次世代治療装置「量子メス」の開発に取り組んでいる。

「量子メス」開発プロジェクトでは、既存の建物にも設置できるよう超電導技術とレーザー加速技術を応用し装置の小型化を図るほか、現在は照射する粒子は炭素イオンのみだが、ネオン、酸素、ヘリウムといった複数の粒子によるマルチイオン照射を導入することにより難治性がんに対する治療成績の向上を標榜。このほどQSTは住友重機械工業と共同で、そのキーテクノロジーとなるマルチイオン源の開発に成功。両者は5月23日、放医研にて報道関係者に対し同装置を公開するとともに、今後の「量子メス」実証機開発に向けた計画を披露した。〈QST発表資料は こちら

マルチイオン照射の線量分布と生物効果(QST発表資料より引用)

QSTが「戦略がん」と位置付け克服を目指しているすい臓がんでは、周辺に重要臓器があることから、現在の炭素イオンを用いた重粒子線治療では腫瘍部分にまんべんなく強い生物効果を与えることが難しい。そのため、腫瘍の中心部分には炭素イオンよりも生物効果の高い酸素イオンを、その周辺には現在の炭素イオンを、正常組織近傍には炭素イオンよりも生物効果が低いヘリウムイオンを照射するといったマルチイオン照射の技術開発が求められていた。今回のマルチイオン源開発について、QST量子メスプロジェクトマネージャーの白井敏之氏は、「がんの状態に合わせヘリウムからネオンまで様々なイオンを使い分けるもの。住友重機の持つ永久磁石などの工学的技術、QSTの持つプラズマ制御技術を合わせ実現した」と説明。マルチイオン源などの新技術を導入した重粒子線治療装置は、「量子メス」開発プロジェクトで、第4世代装置と位置付けられており、「HIMAC」の6分の1程度の小型化(45m×34m)により世界的な普及が期待される。このほど完成したマルチイオン源は「HIMAC」に設置・接続。QSTでは今後臨床研究を行った上で、2026年度に第4世代装置としての治療開始を目指している。

会見に臨むQST・平野理事長(左から3人目)、住友重機・下村社長(同4人目)

同日の記者会見で、QSTの平野俊夫理事長は、重粒子線治療について、「HIMAC」による14,000人を超えるこれまでの治療実績から、「深部のがんでも切らずにピンポイントで治療できる正に体に優しいQOL(生活の質)を維持する治療方法。健康長寿社会の実現に大きな力を発揮する」と強調。2022年度からは新たに5部位(大型肝細胞がん、肝内胆管がん、局所進行すいがん、大腸がん術後局所再発、局所進行子宮けい部腺がん)が公的医療保険の対象として追加されたことや、海外における日本製装置の活躍にも触れた上で、「量子メス」の早期実用化を目指し、このほど開発されたマルチイオン源を備えた実証機を設置する専用建屋の建設(放医研内)を2023年より開始すると発表した。

また、住友重機の下村真司社長は、「HIMAC」開発初期からの参画経緯を振り返った上で、「『量子メス』は重粒子線治療の効果を高めることが大きな目標の一つ。その柱となるのが今回開発されたマルチイオン源。今後もQSTとさらなる強固な協力関係を築き技術課題に挑み続ける」と、同社の技術力発揮に意気込みを示した。

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