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放射線リスクでリテラシーの重要性示す 京大他

20 Mar 2023

不安と批判的思考態度がリスクリテラシーと被災地産食品回避態度に及ぼす仮説的モデル(京大他発表資料より引用)

京都大学、大阪大学他による研究グループは3月14日、東日本大震災の被災県・首都圏と関西圏の市民を対象に、心理学の観点から実施した食品の放射線リスクに関する調査結果を発表した。9年間にわたり約1,800人の市民に協力を得て、10回の継続的調査を行い得られたもの。〈京大他発表資料は こちら

それによると、食品の放射線リスクに対する態度について、

  • 放射能不安、積極的な情報探索行動、被災地産食品の回避は、時間経過とともに減少する
  • 積極的な情報探索行動や放射線に関する知識は、被災地が他の地域より高い
  • 被災地産の食品を避ける行動は、被災県では関西圏より少ない

――傾向があることがわかった。

 調査対象は、被災県(福島・宮城・岩手)、首都圏(東京・埼玉・神奈川)、関西圏(京都・大阪・兵庫)の20~50代の既婚者、各584人、計1,752人(男女各876人)。1回目の調査は発災から半年後の2011年9月にオンラインで実施。2回目以降は、毎年2~3月に同じ回答者に回答を依頼。

 同調査では、被災地産の食品を回避する市民の態度について、

  1. 放射能に対する不安に基づく、経験的で直感的な判断をする「経験的思考プロセス」
  2. 批判的思考態度やリスクリテラシーなどに基づいて、論理的・分析的な判断をする「分析的思考プロセス」

――の2つのプロセスを仮定。被災からの時間経過と被災地からの距離についても焦点を当てた。

2つの思考プロセスによる影響に関し、研究グループでは今回、9年間の調査を検証。「不安は、積極的な情報収集を強く促進し、行政の情報に関する信頼度を低下させ、積極的な情報収集は、被災地産の食品回避を強く促進していた」、その一方で、「批判的思考態度は、報道の受け手のメディアリテラシーを高め、メディアリテラシーは、被災地産食品の回避を抑制していた」などと考察した。

さらに、研究グループでは、「震災直後は、市民の放射線による健康への影響に不安が高まったことが、『経験的思考』による感情的・直観的判断プロセスを通して、積極的な情報探索と被災地産食品の回避行動を促進した」、その一方で、「『分析的思考』という論理的判断プロセスが、批判的思考態度を促進し、リスクリテラシーを喚起したことで、被災地産食品の回避を抑制した」と分析。調査結果を踏まえ、「日本国民の放射線リスクに対する反応の長期的な変化を解明する手がかりになる」とコメントしている。

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